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「最果ての地」=ヤマルの開発に挑む日本企業-加藤資一

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概要

北極海に面するロシアのヤマル半島は現地語で「最果ての地」を意味する。それほど厳しい自然環境の中で資源開発を進めるには、数多くの課題を克服していかねばならない。対ロシア経済制裁下にあっても、ヤマルの資源開発に多数の日本企業が協力し、極寒の地におけるプラント建設に挑み着実な成果を上げ、日ロ経済協力を支えている。

はじめに

YAMAL=Ya(世界)+Mal(終わり)=現地語で「最果ての地」という意味である。北緯71度、年間平均気温マイナス11度で冬期気温はマイナス約60度となる北極圏の村が、とても熱くなってきた。この地は北極海資源開発のフロンティアとなりつつある。2017年12月8日、この地をプーチン大統領が訪れた。ここに建設された大型液化天然ガス(LNG)生産プラントの製品出荷を記念する式典に参加するためだ。出資者のトップのみならず、ロシア連邦政府からはエネルギー大臣、経済発展大臣、産業貿易大臣、また国営ガスプロムの社長も駆け付けた。

ヤマル半島には世界の天然ガス埋蔵量の20%超が埋蔵されているといわれており、今後数十年にわたりロシアの主要天然ガス生産地域として、国内エネルギー需要への対応、輸出による外貨獲得の両面で柱になっていくと目されている。同地域における初のLNGプラント建設案件で、ロシアはもとより世界中から高い注目を浴びており、納期達成に関する顧客からのプレッシャーは想像を絶するものであった。

式典でのプーチン大統領のメッセージのポイントは、次の通りである。
1) 本件は北極圏における初のLNG案件
2) ロシアのみならず世界のエネルギー市場にとっても深い意義
3) 北極海航路の利用確率
4) 雇用創出および熟練工の育成
5) 最初は本件に懐疑的な人たちがいたが、リスクをとってプロジェクトを開始し成功に至ったことへの賞賛
6) 残りの生産設備の早期完成の祈願
7) 出資、融資、技術・設備供給などに協力してくれた全ての外国の友人、パートナーへの感謝

(1)ヤマルLNGプロジェクトとは?

このプロジェクトは北極圏資源開発のフロンティアプロジェクトという意味で戦略的案件とロシア政府が位置付けており、政府が本プロジェクト用のインフラ整備面で支援を行った(空港、港湾の建設など)。

プロジェクトを手掛けるのはロシアの民間企業で、主に天然ガスと液体炭化水素の探鉱・生産・精製・販売を手掛けるロシアの独立系のノバテク(NOVATEK)である。フランスの石油大手トタル(Total)や中国石油天然ガス集団(CNPC)がプロジェクト会社のヤマルLNG(Yamal LNG)に出資し運営を行っている。権益はノバテクが50.1%、トタルが20%、CNPCが20%、中国政府のシルクロード基金(Silk Road Fund)が9.9%を保有する。プロジェクトの総投資額は270億ドル(約3兆1000億円)。生産設備は3系列(550万トン/年×3)あり、2017年から順次稼働させて、2019年の年初までに1,650万トンとなる計画である。

本件は2009年9月に計画発表、2013年12月に最終投資決定されたが、資金調達により困難に見舞われた。2014年の欧米などによる対ロシア経済制裁の一環としてノバテクを制裁対象にしたことから、西側諸国の金融機関からの借り入れが事実上不可能になった。最終的には中国の出資者が乗り出して、中国から資金を引き出すことで資金問題を解決するといった一幕もあった。

(2)日本の関与

特筆すべきは、このプロジェクトに複数の日本企業などが極めて重要な役割を果たしていることである。
1) プラント建設:日揮、千代田化工建設
プラント建設大手である日揮は千代田化工建設およびフランスのテクニップFMCと組んでLNG生産設備の設計・調達・建設(EPC)を請け負って、現在遂行中である。日本の2社は世界のLNGプラント建設における双璧であり、今回は永久凍土、ツンドラ、極夜、白夜という極めて厳しい気候条件の遠隔地における建設に挑み、第1系列を完成させ稼働させた。
2) 制御システムおよび安全計装システム供給:横河電機
横河電機の子会社であるヨコガワ・ヨーロッパ・ソリューションズ、は本プロジェクト向けに制御システムと安全計装システムを納入した。同社のロシアでの最大の納入実績はサハリン2で、原油・天然ガス採掘から出荷設備に至るほぼ全工程に計装設備を納入したが、今回はそれを上回る規模のものとなった。
3) ファイナンス:国際協力銀行(JBIC)
JBICは融資金額2億ユーロのプロジェクトファイナンス・ベースのバイヤーズ・クレジット(外国直接融資)の貸し付けを行った。これはLNGプラントのEPCに係る契約資金の一部を融資したもので、2016年5月の日ロ首脳会談で安倍総理大臣がプーチン大統領に提示した8項目の協力プランの具体化につながるものである。
4) LNG輸送サービス:商船三井(MOL)
MOLは、3隻のARC7型の砕氷型LNG船と4隻の通常のLNG船の7隻を投入して、現場からのLNG輸送サービスを行う。ARC7型船は、北極海の氷を割って進むという従来のLNG船にはなかった特別な機能を持った船。夏は北極海を抜けてベーリング海峡からLNGを運び、冬は北極海の氷が厚くなるので欧州を経由する。
5) 気象情報提供サービス:ウェザーニューズ
ウェザーニューズは日本の会社で気象情報提供サービスを行っている。同社は北極海における海氷情報を提供していた。それを基にプラント建設用の設備類、機材類の現場までの輸送計画を立てていた。
6) カムチャツカにおけるLNG積み替えターミナル事業:丸紅、商船三井
これは2017年12月にノバテクと検討に関する覚書が調印された。北極海経由で輸送してきたLNGをカムチャツカ半島にて積み替えて、日本を含むアジアの各地域に持っていくという構想である。コスト高のARC7船から通常のLNG船に積み替えることにより輸送コスト削減を行うという狙いもある。

出所:http://www.novatek.ru/common/tool/stat.php?doc=/common/upload/doc/IR_December_2014_UBS.pdf(石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)提供)

(3)北極圏におけるプラント建設

2013年4月のEPC契約発効から実に57カ月という短期間でヤマルLNGプラント第1系列からの製品出荷を達成したことは、特筆すべきことである。極寒の地におけるプラント建設という非常に厳しい条件を考慮・検討の末、さまざまなチャレンジが行われた。主なものは、モジュール工法の全面適用、アジア各国における複数のモジュールヤードの活用、北極海航路でのモジュール輸送、北極圏の極寒地における建設などである。そのような中で予定通りに第1系列からの製品出荷を達成できたことは、非常に大きな意義を持つ。

モジュール工法とは、建設現場に資材を運び込んで一から組み立てるのではなく、別の場所に備えるヤードで「モジュール」(関連する機能単位に分割された複数の装置からなるプラント設備)にしてから大型船で現地に運ぶ工法である。モジュールの総数は約152基、総重量48万トンを運んだ。
建設現場ではピーク時で1,200人以上の3社のジョイントベンチャー(JV)スタッフ、1万8000人のサブコントラクター(サブコン)の労働者が業務に従事している。日揮にとって北極圏極寒地域での建設は初めてであり、また客先・サブコンに加え、JVパートナーにおいて仕事の進め方に関するスタンスも異なり、スーパーバイザーもほとんどが当社の工事を初めて経験するスタッフである。そのような背景もあり、苦労しながらOne team spiritで、安全に、かつ種々の問題を解決しながら日々の業務にまい進している。

今後も複数のLNGプロジェクトが計画されている北極圏における建設業務の経験は意義が大きい。「ロシア」「極寒地」「モジュール」「JV」といった各要素、あるいはその組み合わせに対応するための礎となる。

(4)将来への期待と課題

既に動き始めたのはヤマルLNGプロジェクトの第2弾ともいえるARCTIC LNG-2案件で、これは8項目の協力案件の一つでもある。ノバテクのミヘルソン最高経営責任者(CEO)は日本との協力を望んでおり、日本企業に対して秋波を送っている。「出資」「融資」「オフテイク(製品引き取り)」「製品輸送」「プラント建設」「プラント建設」「積み替えターミナル事業」とさまざまな分野での参画が考えられる。

日本企業が具体的にどのような形で本件に参画できるか、できないのか、もう少し時間が経過して、日本企業を含めて出資する外国企業が決まってくれば、方向性が見えてくると期待している。ヤマルLNGプロジェクトにおける知見、経験をうまく活用して、次なるビジネスにつながることを願いたい。そのためには、ヤマルLNGプラントが北極圏の厳しい環境下で安定して順調に操業できることが実証され、またLNGの主要輸送ルートとしての北極海航路が開発されることが必要だ。

最後に、中国は北極政策に関する白書を発表し、北極海でも影響力拡大を目指す姿勢を明確にした。北極海を通る航路を「氷上シルクロード」と呼び、開発と利用を進める構想を強調した。一方、日本でも北極圏資源開発、北極海航路など北極に関するシンポジウムが最近頻繁に開催されており、日本における北極に対する関心は高まっているが出遅れ感も否めない。日本政府が北極戦略を強化することを切に望みたい。

付記:本稿に示された見解は著者個人のものであり、所属機関の公的な立場または見解を示すものではない。

[執筆者]加藤 資一(日揮株式会社営業本部本部長スタッフ)

※この記事は、2018年4月5日付けで三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ロシアの住宅団地再生に日本の経験は生かせるか-道上真有

ロシア国旗

概要

モスクワ市で始まった5階建て集合住宅の大規模リノベーションは、今後ロシア各地で必要となる事業である。しかし、その費用を地方政府予算で賄えるかどうか、連邦政府予算による支援ができるかどうかが課題である。日本の住宅団地再生も参考例の一つとして取り上げられているが、住民の合意形成や民間資金の調達方法も含めた協力が有効となるであろう。 » Read more..

ポーランドにおけるLPG車ビジネスとEVビジネスとの「すみ分け」-家本博一

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概要

世界的な自動車燃費規制強化が進む中、西欧地域では電気自動車(EV)の開発・製造競争が激化し、これを受けて蓄電池の開発・製造も激しさを増している。他方、西欧地域に比して所得水準の低い中東欧およびその周辺地域では、特に価格面での比較優位に基づき液化石油ガス(LPG)車の販売が増加しつつある。近未来には、これら両地域でEVとLPG車の「すみ分け」が進行すると考えられる。 » Read more..

経済制裁下のロシアの世論-鈴木義一

russia

概要

原油価格下落による不況の中で発動された対ロシア経済制裁は、人々の消費活動の縮小という影響をもたらした。耐久消費財ばかりでなく、食費、教育費、医療費などあらゆる分野が節約対象となっている。だが世論調査を見る限り「制裁に関わりなく自らの政策を継続する」べきだとの回答は70%に達している。今のところ経済制裁は、ロシアの政治路線を転換させるという点では効果を上げていない。
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ITを利用したロシアのサービス産業-菅原信夫

ロシア国旗

概要

無料でタクシーの配車アプリをインストールしてくれるGettの普及や、ロシアのマクドナルドで広く導入されているセルフオーダーキオスク。そしてソ連時代から身に付いているキーボードリテラシーの伝統。これらを見ると、ロシアのITにおける先進性を肌身で感じられる。何にでも挑戦し、同国の技術を自分のものにする意欲でトライすれば、その先進性を十分に取り入れることができるだろう。

はじめに

2017年もあとわずかの日数を残し、終わろうとしている。世界はトランプ米大統領の誕生に沸き、国の大小にかかわらず個性的なリーダーが輩出された年であったが、彼らが歯に衣(きぬ)着せぬ言論(時にはツイートだが)をリードするのは、まさに同年の特徴であった。

これまで、ある意味で世界を驚かせ続けてきたロシアのプーチン大統領は、相対的に目立たぬ存在となり、マスコミが取り上げるロシアの話題もずいぶんと減ってしまった印象もある。では、ロシア発として取り上げるべき話題は本当にないのだろうか。筆者が2017年、7回にわたりロシアを訪問した体験の中から、幾つか記憶に残るものを紹介したいと思う。

エピソード1:タクシー配車アプリGett

東京から10時間の空の旅を終えて、モスクワ・ドモジェドボ国際空港の国際線到着ロビーに降り立つと、目の前に二つのカウンターが並んでいる。一つは携帯電話「メガフォン」のSIMカードを販売しているカウンター。ロシアで現地の携帯電話を利用する旅行者には大変便利なサービスである。ロシアでは、SIMは利用者と電話会社が契約を結び、電話番号と利用者をひも付けした上でなければ使うことが許されていない。

滞在期間が限定されている外国人旅行者は、その期間内でのSIMの利用は許可されるが、期間終了後は携帯電話番号が無効となり、利用することができなくなる。また、パスポートのデータの他に滞在するホテルの住所を登録する必要もある。いろいろと面倒な手続きがあるため、筆者は弊社モスクワオフィスのスタッフに依頼してSIMを購入しているが、空港にあるカウンターで購入すると、販売代理店が自分のデータを提供・登録してくれる。従って、旅行者は自身のデータを電話会社に渡す必要がない。また、SIMの利用期間も彼らのロシアのパスポートを利用するため無期限となる。ある意味では、電話会社に対する虚偽申告ともいえるが、こんなSIMの販売方法は鉄道の駅に行けばいくらでもある。それを空港でやるから目立つものの、かなり昔から行われている販売方法である。

さて、本稿で紹介しようと思っているのは、このSIMのカウンターではない。その隣にあるタクシーの配車アプリケーション(アプリ)サービスを手掛けるGettのカウンターである。タクシーカウンターと書かれているから、そこでタクシーを頼めるのかと思いきや、このカウンターには2人の大学生らしき若者が黄色のベストを着て立っている。それ以外は何もない。

タクシーを呼びたいとそのスタッフに言うと、スマートフォン(スマホ)を貸してくれと言われる。そしてスマホを貸すと、すごいスピードでGettタクシーのアプリを当方のスマホにインストールしてくれる。そして、こちらに行き先を聞き、アプリを入れたばかりのスマホに書き込み1、2分待つと、画面には指定されたタクシーのデータが出てくる。スタッフは早速ドライバーに電話をして、3番到着ロビーのエントランスにあるGettのカウンターに行くよう指示。しばらく待つとタクシーのドライバーが現れて、われわれ旅行者に引き合わせて、スタッフの仕事は終了する。

このサービスは無償で行われ、またスマホが日本語でセットされていようが英語でセットされていようが、お構いなしである。自国語のスマホを操る、そのスピードで外国語のスマホにGettタクシーのアプリをインストールしてしまう。このあたりがロシア人のITレベルの高さだと、妙に納得してしまうから不思議だ。

ところで、このGettタクシーだが、本社はイスラエルにある。現在はイスラエル、ロシア、英国、米国でサービスを提供しているが、どの国でも車両を所有してのタクシー事業は行っていない。あくまでもこのアプリの販売拡大が同社の商売であり、すでにライセンスを持って稼働しているタクシーにこのアプリとの提携の話を持ち込み、契約車両を増やしている。このタイプのビジネスの最大のポイントは、アプリをインストールしたスマホを持つ利用者をいかに増やすかという点にある。このため、利用者が到着する空港のロビーの一角にカウンターやスタンドを設けて、無償で利用者のスマホにアプリをインストールしているというわけだ。ロシアでは米国のUberや、ロシアのYandex.Taxiなど数種類のタクシー配車アプリが並列で利用されているが、その最後尾に現れたのがGettである。その勝算やいかに?

2017年、筆者はモスクワ以外にエカテリンブルク、チェリャビンスク、ウラジオストク、ウラル、シベリア、ロシア極東地域に出張したが、どの都市でもYandex.Taxiのアプリは有用であった。アプリでタクシーを呼ぶときに感じる不安(広い場所でタクシーがどこに到着するか分からないなど)も、最近はドライバーの電話番号がアプリ上に表示されドライバーに電話して確かめることができるので問題はない。

例外もたくさんあるが、アプリを通じて客を乗せるタクシーのドライバーは、概して会話もしっかり絡み合う。レストランでも劇場でも、帰宅時間に合わせてタクシーを呼ぶことができるアプリは本当に便利で、自分がまさに町の常連のような気持ちになる。こうしたアプリは日本にももちろんあるが、いまだタクシー側も客側も慣れていない印象は否めない。いつになれば、日本でもロシア並みのサービスが受けられるのだろうか。

エピソード2:マクドナルドのセルフオーダーキオスク

日本では一時低迷したマクドナルドの人気がちょっと戻ってきた、ということであるが、ロシアのような長い行列は見ない。それほどに、マクドナルドはロシアで人気のあるファストフード店だ。2年ほど前だったか、久々にモスクワにあるマクドナルドの店舗をのぞいてみた。午後3時ごろ、一番空いている時間帯のはずだが、カウンターの行列は結構長い。しばらく見ていると「商品お渡し口」と書かれたカウンターが1カ所あって、そこでは銀行の窓口のように番号で客に注文品が出来上がったことを知らせるようになっている。この番号は注文を完了した時点で自動的に発行されるが、その注文はセルフオーダーキオスクと呼ばれる超大型タッチパネルに入力することで、全く店員の助力なしに注文を完了することができる。

また、支払いは現金、カード共にタッチパネルの下についている支払機で完了できる。そのため、注文品の受け渡し口では商品を受け取るだけの作業で、ここにはほとんど客の行列はできない。非常に合理的なシステムで、また言語を自由に選べることから、観光客の多い都市を中心にセルフオーダーキオスクを整備していると、マクドナルドはPRしている。

マクドナルドのウェブサイトでセルフオーダーキオスクの歴史を見ると、最初に導入されたのは米国、フランスで2015年、ロシアでもほぼ同時期に導入され、現在ではロシア全体の3分の2の店舗で導入が完了しているそうである。いかにロシア人の多くがこのようなシステムに慣れているか、そしてその習熟度は世界的に見てもトップレベルにあることが分かる。ちなみに、従来通りの行列に並んでいる人は高齢者や移民(中央アジアなどからの)が多い。一方、セルフオーダーキオスクの前に立つ客は学生風のロシア人が多い、という印象を持った。

日本では、マクドナルド大森駅北口店に全国で初めてのセルフオーダーキオスクが導入されたという記事があったが、現在はどうなのだろう。日本の場合、タッチパネルの操作に慣れていない客のために常時スタッフがスタンバイしている必要がある。従って、スタッフの省力化という目的がどこまで達成できるか、疑問は残る。

<エピソード3:キーボードリテラシーの伝統

幅広い年齢層のロシア人が今回紹介したようなIT技術を使いこなせる背景として、キーボードリテラシーの存在がよく指摘される。ソ連時代から、オフィスで働く人はタイプライターの使用を強制され、1本指打法でも構わないからタイプを一定時間内に仕上げることを要請された。現在でも高齢者がものすごいスピードで左右の人さし指1本を交互に動かしてキーボードを打っている場面に出くわすことがあるが、この伝統が若い人のキーボードリテラシーに続いていると考えられる。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用して、友人との会話を楽しむロシアの高齢者の数は日本の比ではない。これも若いうちに身に付けたキーボードリテラシーのおかげだろう。

筆者の妻がモスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学(ISAA)に聴講生として通っていたとき、教えてくれたことがあった。それは、学生たちがノートを持たず、iPad1枚をバッグに入れて登校し、先生の講義内容をとにかく全てそのiPadに記録してしまうのだそうだ。欠席しても、友人からその時の記録を転送してもらって終わり。試験もiPadに記録した答案を校舎内に張り巡らされたWi-Fiを利用してアップロードして終わり。とにかく何をするのもiPadから、という生活だというのだ。「日本は遅れている」というのが彼女の感想であった。

おわりに

日本人がロシアで快適な生活を送るためには、ITリテラシーが不可欠になっている。また、端末を使いこなすための最小限のロシア語能力が必要となる。それは決して難しいことではなく、日本でロシア語を勉強した人ならほぼ問題なく、その要求レベルに達することができる。最大の障害は、ロシアを「遅れた国」と見る意識だろう。逆に、何にでも挑戦し、ロシアの技術を自分のものにする意欲でトライすれば、ロシアの先進性を十分に取り入れることができるだろう。これからロシアに向かう人々には、ぜひそのような心構えでロシアでの生活を楽しんでいただきたい。

[執筆者]菅原 信夫(有限会社スガハラアソシエーツ代表取締役)

※この記事は、2017年12月21日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

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