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新段階に入る極東開発 -伏田 寛範

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概要 2015年は、ロシア極東開発の転機であった。新経済特区

ITを利用したロシアのサービス産業-菅原信夫

ロシア国旗

概要

無料でタクシーの配車アプリをインストールしてくれるGettの普及や、ロシアのマクドナルドで広く導入されているセルフオーダーキオスク。そしてソ連時代から身に付いているキーボードリテラシーの伝統。これらを見ると、ロシアのITにおける先進性を肌身で感じられる。何にでも挑戦し、同国の技術を自分のものにする意欲でトライすれば、その先進性を十分に取り入れることができるだろう。

はじめに

2017年もあとわずかの日数を残し、終わろうとしている。世界はトランプ米大統領の誕生に沸き、国の大小にかかわらず個性的なリーダーが輩出された年であったが、彼らが歯に衣(きぬ)着せぬ言論(時にはツイートだが)をリードするのは、まさに同年の特徴であった。

これまで、ある意味で世界を驚かせ続けてきたロシアのプーチン大統領は、相対的に目立たぬ存在となり、マスコミが取り上げるロシアの話題もずいぶんと減ってしまった印象もある。では、ロシア発として取り上げるべき話題は本当にないのだろうか。筆者が2017年、7回にわたりロシアを訪問した体験の中から、幾つか記憶に残るものを紹介したいと思う。

エピソード1:タクシー配車アプリGett

東京から10時間の空の旅を終えて、モスクワ・ドモジェドボ国際空港の国際線到着ロビーに降り立つと、目の前に二つのカウンターが並んでいる。一つは携帯電話「メガフォン」のSIMカードを販売しているカウンター。ロシアで現地の携帯電話を利用する旅行者には大変便利なサービスである。ロシアでは、SIMは利用者と電話会社が契約を結び、電話番号と利用者をひも付けした上でなければ使うことが許されていない。

滞在期間が限定されている外国人旅行者は、その期間内でのSIMの利用は許可されるが、期間終了後は携帯電話番号が無効となり、利用することができなくなる。また、パスポートのデータの他に滞在するホテルの住所を登録する必要もある。いろいろと面倒な手続きがあるため、筆者は弊社モスクワオフィスのスタッフに依頼してSIMを購入しているが、空港にあるカウンターで購入すると、販売代理店が自分のデータを提供・登録してくれる。従って、旅行者は自身のデータを電話会社に渡す必要がない。また、SIMの利用期間も彼らのロシアのパスポートを利用するため無期限となる。ある意味では、電話会社に対する虚偽申告ともいえるが、こんなSIMの販売方法は鉄道の駅に行けばいくらでもある。それを空港でやるから目立つものの、かなり昔から行われている販売方法である。

さて、本稿で紹介しようと思っているのは、このSIMのカウンターではない。その隣にあるタクシーの配車アプリケーション(アプリ)サービスを手掛けるGettのカウンターである。タクシーカウンターと書かれているから、そこでタクシーを頼めるのかと思いきや、このカウンターには2人の大学生らしき若者が黄色のベストを着て立っている。それ以外は何もない。

タクシーを呼びたいとそのスタッフに言うと、スマートフォン(スマホ)を貸してくれと言われる。そしてスマホを貸すと、すごいスピードでGettタクシーのアプリを当方のスマホにインストールしてくれる。そして、こちらに行き先を聞き、アプリを入れたばかりのスマホに書き込み1、2分待つと、画面には指定されたタクシーのデータが出てくる。スタッフは早速ドライバーに電話をして、3番到着ロビーのエントランスにあるGettのカウンターに行くよう指示。しばらく待つとタクシーのドライバーが現れて、われわれ旅行者に引き合わせて、スタッフの仕事は終了する。

このサービスは無償で行われ、またスマホが日本語でセットされていようが英語でセットされていようが、お構いなしである。自国語のスマホを操る、そのスピードで外国語のスマホにGettタクシーのアプリをインストールしてしまう。このあたりがロシア人のITレベルの高さだと、妙に納得してしまうから不思議だ。

ところで、このGettタクシーだが、本社はイスラエルにある。現在はイスラエル、ロシア、英国、米国でサービスを提供しているが、どの国でも車両を所有してのタクシー事業は行っていない。あくまでもこのアプリの販売拡大が同社の商売であり、すでにライセンスを持って稼働しているタクシーにこのアプリとの提携の話を持ち込み、契約車両を増やしている。このタイプのビジネスの最大のポイントは、アプリをインストールしたスマホを持つ利用者をいかに増やすかという点にある。このため、利用者が到着する空港のロビーの一角にカウンターやスタンドを設けて、無償で利用者のスマホにアプリをインストールしているというわけだ。ロシアでは米国のUberや、ロシアのYandex.Taxiなど数種類のタクシー配車アプリが並列で利用されているが、その最後尾に現れたのがGettである。その勝算やいかに?

2017年、筆者はモスクワ以外にエカテリンブルク、チェリャビンスク、ウラジオストク、ウラル、シベリア、ロシア極東地域に出張したが、どの都市でもYandex.Taxiのアプリは有用であった。アプリでタクシーを呼ぶときに感じる不安(広い場所でタクシーがどこに到着するか分からないなど)も、最近はドライバーの電話番号がアプリ上に表示されドライバーに電話して確かめることができるので問題はない。

例外もたくさんあるが、アプリを通じて客を乗せるタクシーのドライバーは、概して会話もしっかり絡み合う。レストランでも劇場でも、帰宅時間に合わせてタクシーを呼ぶことができるアプリは本当に便利で、自分がまさに町の常連のような気持ちになる。こうしたアプリは日本にももちろんあるが、いまだタクシー側も客側も慣れていない印象は否めない。いつになれば、日本でもロシア並みのサービスが受けられるのだろうか。

エピソード2:マクドナルドのセルフオーダーキオスク

日本では一時低迷したマクドナルドの人気がちょっと戻ってきた、ということであるが、ロシアのような長い行列は見ない。それほどに、マクドナルドはロシアで人気のあるファストフード店だ。2年ほど前だったか、久々にモスクワにあるマクドナルドの店舗をのぞいてみた。午後3時ごろ、一番空いている時間帯のはずだが、カウンターの行列は結構長い。しばらく見ていると「商品お渡し口」と書かれたカウンターが1カ所あって、そこでは銀行の窓口のように番号で客に注文品が出来上がったことを知らせるようになっている。この番号は注文を完了した時点で自動的に発行されるが、その注文はセルフオーダーキオスクと呼ばれる超大型タッチパネルに入力することで、全く店員の助力なしに注文を完了することができる。

また、支払いは現金、カード共にタッチパネルの下についている支払機で完了できる。そのため、注文品の受け渡し口では商品を受け取るだけの作業で、ここにはほとんど客の行列はできない。非常に合理的なシステムで、また言語を自由に選べることから、観光客の多い都市を中心にセルフオーダーキオスクを整備していると、マクドナルドはPRしている。

マクドナルドのウェブサイトでセルフオーダーキオスクの歴史を見ると、最初に導入されたのは米国、フランスで2015年、ロシアでもほぼ同時期に導入され、現在ではロシア全体の3分の2の店舗で導入が完了しているそうである。いかにロシア人の多くがこのようなシステムに慣れているか、そしてその習熟度は世界的に見てもトップレベルにあることが分かる。ちなみに、従来通りの行列に並んでいる人は高齢者や移民(中央アジアなどからの)が多い。一方、セルフオーダーキオスクの前に立つ客は学生風のロシア人が多い、という印象を持った。

日本では、マクドナルド大森駅北口店に全国で初めてのセルフオーダーキオスクが導入されたという記事があったが、現在はどうなのだろう。日本の場合、タッチパネルの操作に慣れていない客のために常時スタッフがスタンバイしている必要がある。従って、スタッフの省力化という目的がどこまで達成できるか、疑問は残る。

<エピソード3:キーボードリテラシーの伝統

幅広い年齢層のロシア人が今回紹介したようなIT技術を使いこなせる背景として、キーボードリテラシーの存在がよく指摘される。ソ連時代から、オフィスで働く人はタイプライターの使用を強制され、1本指打法でも構わないからタイプを一定時間内に仕上げることを要請された。現在でも高齢者がものすごいスピードで左右の人さし指1本を交互に動かしてキーボードを打っている場面に出くわすことがあるが、この伝統が若い人のキーボードリテラシーに続いていると考えられる。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用して、友人との会話を楽しむロシアの高齢者の数は日本の比ではない。これも若いうちに身に付けたキーボードリテラシーのおかげだろう。

筆者の妻がモスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学(ISAA)に聴講生として通っていたとき、教えてくれたことがあった。それは、学生たちがノートを持たず、iPad1枚をバッグに入れて登校し、先生の講義内容をとにかく全てそのiPadに記録してしまうのだそうだ。欠席しても、友人からその時の記録を転送してもらって終わり。試験もiPadに記録した答案を校舎内に張り巡らされたWi-Fiを利用してアップロードして終わり。とにかく何をするのもiPadから、という生活だというのだ。「日本は遅れている」というのが彼女の感想であった。

おわりに

日本人がロシアで快適な生活を送るためには、ITリテラシーが不可欠になっている。また、端末を使いこなすための最小限のロシア語能力が必要となる。それは決して難しいことではなく、日本でロシア語を勉強した人ならほぼ問題なく、その要求レベルに達することができる。最大の障害は、ロシアを「遅れた国」と見る意識だろう。逆に、何にでも挑戦し、ロシアの技術を自分のものにする意欲でトライすれば、ロシアの先進性を十分に取り入れることができるだろう。これからロシアに向かう人々には、ぜひそのような心構えでロシアでの生活を楽しんでいただきたい。

[執筆者]菅原 信夫(有限会社スガハラアソシエーツ代表取締役)

※この記事は、2017年12月21日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

EUカナダ包括的経済貿易協定に見るEUのFTAへの投資裁判所導入の際の問題点-東 史彦

EU

概要

州連合(EU)によるEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)の署名にベルギーのワロン地域が反対を表明し、成立が危ぶまれた。本稿では、この事例からEUの自由貿易協定(FTA)の問題点を確認。またCETAに規定された投資裁判所制度(ICS)の問題点を指摘し、日EU経済連携協定(日EU・EPA)への示唆を探る。

要旨

先般、欧州連合(EU)によるEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)の署名にベルギーのワロン地域が反対を表明し、成立が危ぶまれた。本稿では、このCETAの事例からEUの自由貿易協定(FTA)の問題点を確認し、日EU経済連携協定(日EU・EPA)への示唆を探る。具体的には、まずCETA交渉から批准までの経緯に見える問題点を確認し、次にCETAに規定された投資裁判所制度(ICS)の問題点を指摘し、最後に日EU・EPAにとっての示唆を探る。

 CETA締結の経緯

(1) CETAへのICSの導入
CETA交渉は2009年5月に開始され、同年6月には内容と一般的な方針について合意に至った。同年12月には、リスボン条約によりEU基本条約が改正され、新たにEU機能条約(TFEU)第207条に対外直接投資などがEUの排他的権限である共通通商政策として明示された。これにより、コミッション(欧州委員会)は、投資保護もEUの排他的権限との立場を取った。投資保護を含むCETAがEUの排他的権限事項の範囲内の協定であれば、EUが単独で締結することができる。しかし加盟国は、投資家対国家の紛争解決(ISDS)を含む多くの二国間投資協定を擁している中で、CETAの投資保護は加盟国の権限に関わるため、加盟国と共同で締結される(混合協定)必要があるとの立場を取った。

2014年に、コミッションは、CETAの投資保護およびISDSへの批判が高まってきたため、公開諮問を行った。諮問は主に、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉におけるISDSに関するものだったが、CETA交渉における進展状況も参照された。諮問の結果は、大半がISDSへの反対を示すものだった。そこで2015年末には、TTIP以降のISDSに代わるものとして、CETAの投資章が修正され、私的仲裁に代わる裁判所システムとして、ICSが導入された(CETA第8章F節)。

(2) CETA署名と暫定適用
2016年7月5日、コミッションは、CETA署名を理事会に提案した。このときコミッションは一部加盟国の要求を考慮し、CETAを混合協定として提案したが、理事会および欧州議会の可決の後、ICSを含む投資保護などを除いた一部は暫定適用されるとの条件を付けた(CETA第30.7条)。ここで「暫定適用」とは、CETA全体を仮適用するということではなく、CETAの一部の適用を先行して開始することを意味する。

しかし2017年10月14日には、ベルギー・ワロン地域議会がCETAを拒否し、理事会での署名が滞った。ベルギーでは、連邦政府の署名には連邦およびその構成体議会による権限委任が必要となっているが、ベルギー・ワロン地域議会は、ICSとそれによるEUの食品、健康、環境、社会基準の劣化などの懸念を主な理由に、連邦政府の署名に反対していた。しかし、これに対しコミッションがワロン地域の主張を盛り込み、共同解釈指針を修正した。ワロン地域議会もそれを受け入れ、同年10月27日、ベルギー全議会がCETAを承認することとなり、同月30日にEUおよびカナダによるCETAの署名が実現した。

2017年2月15日には、欧州議会がCETAに同意を与え、その結果、同年9月21日に、CETAは暫定的に適用が開始されている。

(3) CETAの全体適用の見通し
ICSなどの投資保護を含むCETA全体の適用には、ワロン地域を含む各加盟国議会による承認が必要である。その中で14の加盟国で国民投票の可能性があり、先行きは不透明である。また2017年9月6日には、ベルギーがEU司法裁判所にCETAのICSのEU法適合性について意見を要請していることも、不安定要素である。

現時点では、ラトビア、デンマーク、マルタ、スペイン、クロアチア、チェコ、ポルトガルが批准を済ませているという状況にある。

CETAの暫定適用の終了に関する理事会の声明によれば、加盟国が批准しない旨を通告した場合、CETAの暫定適用は全加盟国の批准を前提としているため、暫定適用も終了することとなる。
2 CETAのICSの問題点

(1) 当初のISDS
当初、CETAは、投資紛争解決国際センター(ICSID)の手続きを採用していた。すなわち、3人の独立の仲裁人が選任され、そのうち投資家および政府により1人ずつ、議長を務める残りの1人は両当事者の合意により選ばれる。合意に至らない場合は、指名された仲裁人または指名機関により指名される。上訴はない。

こうしたISDSの導入に対して、制度上の独立性、手続きの公正、および当事者の平等の問題などに関して批判が上がった。すなわち、ICSIDの仲裁制度には公的な司法機関に備わる手続き的保障がないというもの、ISDSは公正かつ透明でバランスの取れた手続きとしては不十分というもの、多国籍企業がその財力を使って私的な仲裁に不当な影響を与えるというもの、米国の多国籍企業がカナダ子会社を通じてEU加盟国を訴えるといったものなどである。

(2) ICSへの変更
そこでCETAには、常設の裁判所としてICSを設けることとなった。ICSは、15人の裁判官により構成され、そのうち5人ずつがEU・カナダから、それ以外の5人はその他の国から、CETA合同委員会により、候補者名簿から指名される。裁判官は、高度の専門性および独立性を有する者に資格が認められる。事案は構成員からEU、カナダ、第三国により1人ずつ無作為に選ばれた3人の裁判官のパネルにより審理される。選任手続きは、裁判所所長が輪番制でパネルメンバーを指名する。また、ICSは上訴審の手続きを設けた。上訴の審理は、無作為に選ばれた3人で行われる。上訴審は、第1審の判断を、法律の解釈および適用の誤り、ならびに国内法の評価を含む事実の評価の明らかな誤りに基づいて、変更および破棄できる(CETA第8章F節)。

ISDSからICSへの変更の意義は、仲裁人選定の際の当事者の自律性がなくなり、国が指名し無作為に選ばれる裁判官による審理のため独立性が担保されることや、第三国裁判官が裁判所長としてパネルを選定し、第三国裁判官がパネルの議長を務めることによって、投資家の影響が排除されることなどが挙げられる。しかし批判も絶えず、それには、裁判所倫理規範がICS裁判官の他事案兼務を禁止していないこと、影響を受ける第三者の立場が守られないこと、そして特に、ICSはEU法およびEU司法裁判所の権限と両立しないのではないか、といったものがある。

(3) CETAのICSの合憲性に関するフランス憲法院の判断
中でも、具体的な論点の一つとして、次の問題が提起されている。
CETAの投資章の規定によれば、一方当事者の投資家は他方当事者が義務違反を行ったという申し立てをICSに行うことができ(CETA第8.18条)、一方当事者の事業者とは、その当事者の法により組織され、その当事者の自然人または法人により直接または間接に所有または支配されるものをいう(CETA第 8.1条)。

これらの規定によれば、EU加盟国を相手取り、ICSに申し立てを行えるのはカナダの投資家であり、カナダの投資家であることの判断は、カナダの自然人または法人により直接または間接に所有または支配されている必要があるということを意味する。この点が「…加盟国の法律に基づいて設立され、かつ定款上の本店、管理の中心、または主たる営業所を連合内に有する会社は、…加盟国の国民たる自然人と同じ待遇を受ける」として、EU内に定款上の本店を連合内に有する会社、管理の中心を連合内に有する会社、または主たる営業所を連合内に有する会社を区別していない、TFEU第54条に違反する可能性があるとの指摘がある。

類似の問題は、実際に、2017年7月31日のCETAの合憲性に関するフランス憲法院の判断(Cour Constitutionnelle, Décision n° 2017-749 DC du 31 juillet 2017)において扱われた。フランス憲法院は、フランスとカナダの投資家の異なる扱いは、フランス憲法上の平等原則には反しないと判断した。その根拠として、第一に、フランスの投資家がカナダで、カナダの投資家がフランスで保護されるという、相互互恵的な枠組みが創設されていること、第二に、カナダによるフランスへの投資を呼び込むことができることが挙げられている(第35~39段)。

(4) CETAのICSのEU法適合性に関するEU司法裁判所の意見
しかしさらに、2017年9月6日に、ワロン地域を抱えるベルギーは、CETAのICSがEU法に適合するかについて、EU司法裁判所に意見を要請した。ベルギーは、ICSが、EU司法裁判所によるEU法の排他的権限に適合するか、EU法の平等原則、実効性の要件、および裁判を受ける権利と適合するかといった問題や、裁判所・上訴審の裁判官の報酬・指名・解任の条件、国際仲裁における利益相反に関する国際法曹協会のガイドラインおよび裁判所・上訴審の裁判官の行動規範、ならびに裁判所・上訴審の裁判官の投資紛争に関する外部の専門職活動との関係で、ICSは独立・公平の裁判所で裁判を受ける権利と適合するのか、といった論点について問題を提起している。こうした点についてEU司法裁判所がどのように判断するか、引き続き注視する必要がある。

また、2017年9月19日、EU司法裁判所のアヴォカ・ジェネラル氏(EU司法裁判所による判断の前段階で法的拘束力のない意見を発出する任務を負う)は、EU域内の二国間投資協定におけるISDSは、EU法に反しないとの意見を示した(Advocate General Opinion Case C-284/16, EU:C:2017:699)。EU域内の二国間投資協定におけるISDSについてEU司法裁判所がアヴォカ・ジェネラル氏の意見を採用したとしても、CETAのように、EUと第三国との間のISDSおよびICSのEU法との適合性については、異なる判断が下される可能性が残る。

3 日EU・EPAにとっての示唆
以上のCETAの考察から明らかとなるEUのFTAへのICS導入の際の問題点は、次の点である。

まず、ICSを含むEUのFTAは混合協定としてその全体適用には加盟国による批准が必要となるため、一加盟国でも批准を拒否した場合、全体適用が不可能となるのみならず、暫定適用も終了となる点である。また、CETAに規定されたICSは、EU司法裁判所の判断によっては、EU法に適合しないと判断される可能性が残っている点である。

投資章は日EU・EPAにおいても導入される予定であり、ISDSについては日EU間で協議が続けられている状況だが、CETA締結に際して生じているものと同様の問題を避けるためには、投資保護およびISDSまたはICSについては、可能であれば、別個の協定を締結するなどの方策も検討が必要かと考えられる。EUシンガポール自由貿易協定(EUSFTA)の締結権限に関するアヴォカ・ジェネラル氏の意見においては、EUSFTAの権限の種類に基づいて別々の協定を締結するという選択肢が、政治的な決断に基づくものとして提示されている(Advocate General Opinion in Opinion procedure 2/15, EU:C:2016:992, para. 567)。

p class=”auth”> [執筆者][執筆者]東 史彦(長崎大学多文化社会学部准教授)

※この記事は、2017年12月7日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

対ロシア経済制裁は効いたのか?-久保庭 眞彰

russia

概要

ウクライナ危機を契機に導入された経済制裁がロシアの経済低迷を招いているという言説がある。だが、ロシア経済低迷の主因は油価下落であり、金融制裁も、ルーブル下落の影響も小さくビジネス環境も改善しており、今のところ制裁に目に見える効果は見られない。しかし世界経済との関連の中で近代化を図るという点から見ると、北大西洋条約機構(NATO)と軍事的に対峙(たいじ)している状況が続くことは望ましくない。
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多国籍生産ネットワークの中で進化し続ける日系企業-チェコの事例-池本修一

チェコ

概要

チェコは伝統的工業国、熟練工の存在、欧州連合(EU)加盟、低い労働コストなどを背景に多くの日系企業が進出している。だがそれは単なる日系企業の進出にとどまらず、トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)の事例に見られるように、日系企業が系列を超えて多国籍生産ネットワークの中で進化し続けていることを示している。

はじめに

チェコは、第2次世界大戦前から欧州における機械工業の中心地域の一つであり、社会主義経済体制下でもその伝統を受け継いでいた。しかし基礎学力の高い労働者が存在していても、社会主義経済下での技術水準は欧米諸国に大きく水をあけられ、おのずと日本や欧米からの対外直接投資への期待が高まった。1998年に産業政策を重視する社民党政権誕生による政策転換(国有企業の外資への売却、対外直接投資の誘致政策導入)によって、2000年前後から製造業のグリーンフィールド投資を中心に対外直接投資ブームが到来した。
チェコにおける外国直接投資が増加した背景をまとめると以下のようになる。(1)伝統的な工業国であること、(2)多くの熟練工、マネジャーの存在、(3)西欧諸国への隣接という地理的優位性、(4)比較的整備されたインフラ、(5)西欧に比較して低い労働コスト、(6)投資インセンティブの導入、(7)欧州連合(EU)加盟による関税など障壁の撤廃などである。チェコの日系企業は、2001年のトヨタ自動車(以下、トヨタ)の進出を頂点に、製造業全体では98社、自動車産業では20社以上が操業を続けている(2016年末現在)。とりわけトヨタ系日系企業のチェコへの進出は、2001年のトヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル・チェコ(TPCA)進出前後から一気にその数が増え、特にTPCAが総投資額8億5000万ドル、雇用者3,000人、デンソーが同2億5400万ドル、雇用者950人と大型投資であった。

トヨタは1998年にフランスに進出し、現地でのデザインを採用してヤリス(日本名ヴィッツ)の開発・製造を開始した。次にヤリスより一回り小さな1,000ccコンパクトカーの開発・製造を目指し、労働コストの高い西欧先進国以外で、EU加盟を予定している中欧地域に生産拠点を置く計画を打ち出した。同時に欧州市場では、当初10万台程度の生産以上は見込めず、トヨタ単独での進出は困難と判断していた。さらにEUの二酸化炭素排出基準が日本の基準よりも厳しく、この分野での技術開発のためにもトヨタは欧州でのパートナーを探していた。こうした背景から、トヨタはフランスの自動車メーカーであるPSAプジョー・シトロエン(以下、プジョー)と対等比率(トヨタ50%、プジョー50%)での資本提携の下で、チェコのコリーン市(Kolin)にTPCAを設立したといわれている。

TPCAと系列企業

よく知られているように、トヨタの特色である生産方式はトヨタ生産方式(TPS)と呼ばれ、その柱の一つが、効率化のために在庫を極力なくすためのジャスト・イン・タイム(JIT)方式である。つまり在庫を極力なくすためには、自動車組立工場の周辺に部品調達工場を集積する必要がある。こうしたことからトヨタが外国に進出する際には、トヨタ関連の主要な部品メーカーを引き連れるのが慣例となっている。1998年のフランス進出、2001年のチェコ進出でも同様の傾向が見て取れる。
しかしチェコのTPCAで計画された生産台数が10万台ということで、部品メーカーにとって、原則としてトヨタ向けの生産だけでは採算が取れないとのジレンマがあった。そのためトヨタのみに部品供給を依存しているメーカーのチェコ進出は現実的に難しく、すでにドイツやフランスなどの他の自動車メーカーとの取引があるような、部品供給先が安定的かつ複数ある部品メーカーがチェコやポーランドに進出してきたと考えられる。
TPCAにはトヨタの他の外国生産工場と異なった事情が存在した。それはプジョーとの対等な資本関係である。TPCAではトヨタが生産現場を担当し、プジョーが財務部門と部品調達を担当することとなった。これが従来と異なり中欧地域におけるトヨタ関連企業との取引関係に影響を及ぼすことになる。
トヨタ生産方式の原則の一つには、関連部品メーカーとの長期的関係があり、部品メーカーと一体となって製品開発を行ってきた伝統がある。しかしプジョーの部品調達は、短期でかつコスト(価格)重視の厳格な基準があるため、従来の取引慣行と異なる関係に直面した。そのため、チェコに進出したトヨタ系企業の中にはTPCAとの取引がほとんどないか皆無の企業が存在した。
トヨタ関係者への聞き取り調査によると、一般の海外工場の場合は、部品調達の約3分の2はトヨタグループから納入されるという。他方、TPCAの場合はプジョーとの役割分担が大きく影響しているため、トヨタグループからの調達は50%を切っているという。部品数、取引額によって異なるであろうが、いずれにしてもTPCAの場合は、通常のトヨタ生産ネットワークの枠を超えた生産ネットワークが築かれているのは間違いない。
『週刊東洋経済』2017年4月29日・5月6日合併号のトヨタ特集によれば、TPCAだけでなく2015年生産のカローラに搭載された衝突回避支援システムがデンソー製ではなくドイツのコンチネンタル製であることはデンソーショックとして広く知られており、トヨタグループ(系列)内の事業再編が加速している。逆にトヨタ系企業も、TPCAなど欧州のトヨタだけに頼らずに欧州の自動車企業との関係強化を構築している。つまりトヨタとの良好な関係を維持しながらも新たな調達先を開拓するという、グローバル化・脱ケイレツ化を推進せざるを得ないのである。

新たな生産ネットワーク

企業訪問したA社ではTPCAとの関係だけでなく、ドイツの部品メーカーと協力関係にあると説明してくれた。このドイツ部品メーカーは、フォルクスワーゲン(VW)、シュコダ、BMW、アウディに部品を供給している商社部門があり、積極的に営業活動をして工場ごとに部品供給メーカーを取りまとめる(まるでメインバンクのように)取引企業を決めている点である。このような企業をSPP(single plat production system)と呼び、他の下請け企業を選別し指名する役割を担っている。BMWも同じシステムを採用していて、例えばB社をSPPに指名して、B社が主導して他の部品メーカーを指名する。A社はこうしてTPCAだけでなく、B社の指名によりドイツ部品メーカーの生産ネットワークに参加している。週刊東洋経済のトヨタ特集にあるドイツモデルと恐らく同様のモデルと思われるが、メガサプライヤーとしての中核部品メーカーが中心となって、車両メーカーと部品メーカーを主体的に中継ぎする水平分業の構図が見て取れる。垂直統合のトヨタモデルと対照的である。

おわりに

トヨタはチェコでのTPCAの設立により、従来の系列以外の生産ネットワーク構築と、プジョーとの提携を通してプジョーの生産システム、経営システムを学んでいる。あるいは、もうすでに学び終えているのかもしれない。前述の週刊東洋経済のトヨタ特集では、トヨタがカローラの搭載衝突回避支援システムを系列企業でなくドイツ系企業から調達したことを論じているが、欧州ではすでに2000年初めにこうした新たな調達ネットワークが構築されている。このように、日系企業は系列を超えた、文字通り多国籍の生産ネットワークの中で進化し続けているのである。

主要参考文献
池本修一・岩崎一郎・杉浦史和編著(2008年)『グローバリゼーションと体制移行の経済学』文眞堂
池本修一・田中宏編著(2014年)『欧州新興市場国への日系企業の進出』文眞堂
『週刊東洋経済』2017年4月29日・5月6日合併号 東洋経済新報社

[執筆者]池本 修一(日本大学経済学部教授)

※この記事は、2017年10月3日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ロシアの現金主義-菅原信夫

ロシア国旗

概要

近年、ロシアではデビットカードが急速に普及している。だが、依然として現金需要が旺盛である。ロシア的なチップの存在、銀行振り込みと現金の組み合わせによる税金の負担軽減など、現金が経済の潤滑油として大きな役割を果たしているからである。 » Read more..

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