6.TPP交渉と日EU間経済連携協定 -庄司 克宏、関根 豪政

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概要
2011年11月に野田首相がTPPの交渉参加に向けた協議の開始を表明したことにより、TPPに対する注目が高まっている。しかし、同時並行的に進められている日EU間経済連携協定(日EU間EPA)も日本の貿易(経済)政策において重要な協定であることは疑いようがない。
本稿では、両協定の比較 を通じて日EU間EPAの課題を明らかにしたい。

日EU間EPAとTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の並行的展開

まずは、図1を参照いただきたい。これは、日本のFTA/EPA(自由貿易協定/経済連携協定)の取り組み状況を示したものである。

表1 日EU間EPAおよびTPPの動向

表1 日EU間EPAおよびTPPの動向

出所:経済産業省「通商白書2011」(253ページ)

この図からも分かるように、日EU間EPAとTPPは、日本にとってはほぼ同時期に交渉の俎上(そじょう)に載せられた協定であり、同世代(第2世代、渡邊 頼純氏「TPP参加という決断」、111ページ参照)の協定である。しかし実際には、両者の進度には大きな違いがある。その大きな理由は、日EU間EPA がゼロからのスタートに近いのに対して、TPPにおいてはすでに「P4」と呼ばれる協定が存在しており、また、日本の協議開始表明以前から交渉が進められている点にある(表1参照)。P4とは、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールの4カ国間の自由貿易協定であり、TPPはこれらの枠組みに他の 国々が参加する形で展開してきている。

表1 日EU間EPAおよびTPPの動向
  日EU間EPA TPP
2005年6月   P4の署名(2006年5月発効)
2007年6月 経団連・第一次提言書  
2008年9月   アメリカが参加表明(2009年11月にオバマ大統領正式表明)
2008年11月   オーストラリア、ペルー、ベトナムが参加表明
2009年4月 経団連・第二次提言書  
2009年5月 日EU定期首脳会議(EPA交渉を促進する旨を提示)  
2010年3月   8カ国による交渉が開始(以降、2012年1月までで計10回の会合が完了)
2010年4月 共同検討作業の開始宣言(7月開始)  
2010年10月   マレーシアが参加(P9)、菅首相(当時)が参加の意向を表明
2011年5月 日EU 定期首脳協議(スコーピング開始の合意)  
2011年11月   「TPPの輪郭」発表、野田首相が交渉参加に向けた関係国との協議の開始を表明

出所:関根豪政作成

また、日EU間EPAはゼロからのスタートに近い上に、なかなか議論が具体化していない状況にある。2012年1月現在で、交渉の範囲と程度を決める「スコーピング」の作業中にある。加えて、今後も同協定の交渉がスムーズにいくかは予断を許さない。その要因は種々考えられるが、障壁の一つは、日本がEU(欧州連合)に対して関税の引き下げを要求しているのに対し、EUは日本に非関税障壁の削減を要求している点にある。両者の要望が異なっている(非対 称的なゲーム)ために相互利益の均衡が見えづらく、交渉が難航する可能性がある。とはいえ、ファンロンパイEU大統領およびバローゾ委員長は2011年5月の日EU定期首脳協議以降、日EU間EPA交渉の重要性を強調する見解を示しており、協定の締結に向けた機運が高まってきているのは事実である。

2. 日EU間EPAの位置付けの不透明さ

日本の観点から日EU間EPAとTPPを考える場合、課題として、両者が連動していない点が指摘できる。例えば、韓国はアメリカ、EU、インドなどと立て続けにFTAの締結を図ってきたが、この根底にあるのは「大 陸別橋頭堡(ほ)」戦略と「同時多発的推進」戦略である(詳しくは奥田聡氏「韓国のFTA-10年の歩みと第三国への影響-」56ページ以下参照)。韓国はこの両戦略を基礎に、アメリカとEUとでほぼ並行的に交渉を行ったところ、アメリカとのFTAに焦燥したEUが積極的な姿勢を見せたと指摘されている (奥田聡氏「韓国のFTA-10年の歩みと第三国への影響-」149ページ参照)。

日本も、TPPと日EU間EPAとが同時並行的に展開 しているが、両者の展開の根底にあるビジョンは明らかではない。また、日EU間EPAについても、全体的な視点からの位置付けは不透明である。TPPがア ジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の礎となることを目指しており、日本がその実現へのリーダーシップを発揮すべき旨が示されているのと対照的である(閣 議決定「包括的経済連携に関する基本方針」(2010年)参照)。

もっとも、EU側の対日FTAの戦略も不透明である。EUも、対アジアの貿易政 策としてはASEAN(東南アジア諸国連合)や韓国を優先してきており(例:European Commission(2006)参照)、日本に関しては最近まで慎重であった。日本がTPPとの重要な窓口となり得ることも踏まえると、EUにとっても 大局的な見地から貿易政策を再考する段階にあるといえよう。

3. 21世紀型FTAとしてのTPP

TPPの特徴としては、次の二つの点が挙げられる。第一は、参加 国の拡大の可能性である。もともと、TPPが基礎とするP4は、後に初期加盟国以外の国が協定に加盟することを認めるオープン・アクセッション条項(第 20.6条)と呼ばれる条項を設けていた。つまり、単なる二国間・複数国間の協定ではなく、より発展的で広域的な協定を志向していたのである。アメリカなどの経済大国が参加したことにより、TPPはその狙い通りの広域的自由貿易協定へと展開しつつある。

第二は、参加の拡大を図りつつ、質の高い自由 化を目指している点である。これは、自由化率(関税撤廃率)の高さに加え、広範なルールの設定をもくろんでいることも指摘できる。これらの面から、TPPは「21世紀型」のFTAを掲げている(Outlines of the Trans-Pacific Partnership Agreement(2011)参照)。

4. 日EU間EPAはどのような協定とすべきか

21世紀型の協定を目指すTPPに対して、日EU間EPAは何らかの発展性を含むものであろうか。あるいは、質の高いFTAの実現は可能であろうか。それとも従来型のFTAにとどまるのであろうか。

この点については、日EU間EPAが従来型の貿易協定を超えた先進的な協定となることが期待される。日本とEUは、貿易上の問題にとどまらず、広く多くの価 値(民主主義、法の支配、人権など)を共有する。そのため、両者の間にはより広範で親密な協力体制(ノーマティブ・パートナーシップ)を構築する素地があるといえる(具体的な協定モデルの検討については、庄司克宏氏「日EU間FTAと相互承認原則-トランス・タスマン・モデルの可能性「貿易と関税」58巻 10号26ページ以下を参照)。日EU間FPAは「経済統合協定(EIA)」とも称されており、それは同協定への期待を表しているといえよう。日本がEUとの間でどのような協定を実現できるかは、TPPを含めたFTAの全体的な視点からも注目される。

参考文献
奥田聡(2010)『韓国のFTA-10年の歩みと第三国への影響』(アジア経済研究所)
経済産業省(2011)『通商白書2011』
 http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2011/2011honbun_p/index.html
ジェトロセンサー2011年10月号「臨時報告 EU・韓国FTAの衝撃」収録各文献
庄司克宏(2010)「日EU間FTAと相互承認原則-トランス・タスマン・モデルの可能性-」『貿易と関税』58巻10号26頁以下
中川淳司(2010-2011)「TPPで日本はどう変わるか?」『貿易と関税』59巻7号以下

[執筆者](庄司 克宏(慶應義塾大学大学院教授)、関根 豪政(慶應義塾大学大学院助教、立正大学非常勤講師)

(※この記事は、三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2012年2月8日付で掲載されたものです)

渡邊頼純(2011)『TPP参加という決断』(ウエッジ)
European Commission (2006) “Global Europe: Competing in the World”
http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2006/october/tradoc_130376.pdf
European Commission (2010) “Trade, Growth and World Affairs: Trade Policy as a Core Component of the EU’s 2020 Strategy”, COM(2010)612
M. K. Lewis (2010) “TPP & Selected Aspects of the P4 Exchange”, The Trans-Pacific Partnership Digest,
http://tppdigest.org/index.php?view=article&catid=42%3Athe-discussion-papers&id=99%3Atpp-and-p4-legal-texts&format=pdf&option=com_content&Itemid=55
Remarks by Herman Van Rompuy, President of the European Council following the EU-Japan Summit (2011)
Remarks following the EU-Japan Summit, Jose Manuel Durao Barroso President of the European Commission (2011)


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