15.ロシア極東ビジネス最新事情 -安木新一郎

ロシア国旗

概要

今年(2012年)9月にAPECサミットが開催されたロシア沿海地方の中心都市ウラジオストクでは再開発が進み、1.造船所、2.LNGプラント、3.自動車組み立て工場など、日本との関係抜きには語れない投資案件がクローズ・アップされている。
 
 

ウラジオストク周辺地図

ウラジオストク周辺地図

出所:
WORLDMapFinder(http://www.worldmapfinder.com/Map_Earth.php?ID=/Jp/Europe/Russia/Vladivostok)および「ニジェゴローツキー・ドヴォール」(http://dvor.jp/minimaps.htm)より筆者作成。

1.APECサミット後のウラジオストク

今年(2012年)9月8日~9日に、ロシア極東のウラジオストク・ルースキー島でAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が開催された。プーチン大統領が2007年にウラジオストクでのAPECサミット開催を表明してから2012年までの間に、ロシア連邦政府は6,800億ルーブル(1.8兆円)を投入してウラジオストク周辺のインフラ整備を行なってきた。

現時点でロシアにとってウラジオストクを再開発することには、1.ロシアの主要輸出品である原油・天然ガスの輸出先の多角化を進めるため、日本をはじめとするアジア太平洋地域の市場を開拓する、2.外資導入により技術移転と雇用確保を図るという主に2つの目的があると考えられる。

以下では、今後のウラジオストク再開発を占う上で重要だと考えられる造船、石油・天然ガス、自動車の3つの分野に焦点を当ててみたい。

なお、ロシア極東全体のビジネス環境については、本稿脚注2に挙げた堀内・齋藤・濵野編著(2012)『ロシア極東ハンドブック』を参照していただきたい。

2.軍需に依存しない造船業

ウラジオストクはソ連崩壊直前の1991年まで「閉鎖都市」であった。閉鎖都市とは、外国人だけでなくロシア人ですら許可なくしては出入りできない地域で、おもに軍事施設や原子力関連施設が立地している。現在でもウラジオストクはロシア太平洋艦隊司令部があり、多くの軍人とその家族が暮らす軍の町である。

ウラジオストク周辺にはいまだに閉鎖都市が2カ所存在する。ウラジオストクからナホトカに向かって車で1時間半ほど行った所に、フォーキノという一見どこにでもあるロシアの田舎町があるが、このフォーキノが閉鎖都市である。また、フォーキノの手前にヴォリショイ・カーメニ(「大石」の意)という港町があるが、これもまた閉鎖都市である。フォーキノには海軍基地と船舶修理工場が、ヴォリショイ・カーメニには原子力潜水艦基地がある。

筆者がウラジオストクで勤務していた2008年に 、複数の日本企業関係者に対し、ロシア極東の港を買わないかという打診があり、この港の中にフォーキノやヴォリショイ・カーメニが含まれていたが、外国人が滅多に立ち入ることのできない閉鎖都市に投資する企業があるのだろうかと不思議に思っていた。

ところが現在、ロシアの「統一造船会社」は韓国の大宇造船海洋と提携し、ヴォリショイ・カーメニのズヴェズダ船舶修理工場を基盤に「ズヴェズダDSME」造船所を新設する計画をもっている。また、「統一造船会社」は中国・シンガポール合弁の煙台ラッフルズと提携してフォーキノに「ヴォストク・ラッフルズ」造船所を建設するとしている 。
ウラジオストク周辺には海軍用の船舶修理工場が点在していたが、こうした工場を国営企業「統一造船会社」の傘下に置き、国家の信用を背景に外資導入を行なうことで、軍需に依存しない造船業の発展を目指していると考えられる。

実はAPECサミット会場が設置されたルースキー島も軍用地が大部分を占めており、軍が自らの権益を手渡さない限りサミット開催は難しいだろうと言われていた。しかしながら、プーチン大統領は軍の既得権益をもろともせず、日本海岸の再開発を推し進めているように見える。

3.LNG生産・輸出拠点

閉鎖都市であるヴォリショイ・カーメニでは液化天然ガス(LNG)輸送船、フォーキノでは石油・天然ガス採掘プラットフォームやLNG工場用設備などの建造が計画されている。すなわち、ウラジオストク周辺の港湾の再開発は、ロシアの主要輸出産品である原油・天然ガスに関連したものであることがわかる。

これまでロシアは欧州や旧ソ連諸国向けに陸上パイプラインを使って原油・天然ガスを輸出してきたが、1.MD(ミサイル防衛)問題をめぐる欧米との対立、2.既存油田ガス田の枯渇、3.欧州向けパイプラインの通過国であるウクライナおよびベラルーシとの間の政治的対立など、さまざまなリスクを抱えている。

こうした中、原油・天然ガス輸出先として日本をはじめとするアジア太平洋諸国の市場を開拓することがリスク回避につながり、そのためアジア太平洋地域に近接する東シベリアや極東における新規油田ガス田の開発、パイプライン敷設、積出港の建設が急務となっているのである。

特に、ロシアはLNG輸出に力を入れようとしている。

1991年のソ連解体後、樺太(サハリン)北東部沿岸に存在する石油および天然ガス鉱区と関連する陸上施設の開発プロジェクトである「サハリンプロジェクト」が始動した。その内、サハリン2は、ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事の3社が出資したサハリン・エナジー社をオペレーターとする開発プロジェクトで、2007年4月にガスプロム社がサハリン・エナジー社の株式の50%+1株を取得して筆頭株主となった。

このサハリン2の枠内で、樺太南部のプリゴロドノエにロシア初のLNGプラントが建設された。2009年2月18日に日露両首脳が出席する中で稼動式典が行われ、3月29日にはLNGの出荷が始まった。すなわち、ガスプロム社はサハリン・エナジー社の株式を取得することでLNG生産・輸出の経験を積むこととなった。
class=”contentText”>この樺太産ガスはパイプラインで大陸部のハバロフスク、ウラジオストクへと輸送される。また、東シベリアのチャヤンダ・ガス田などからもウラジオストク方面へガス・パイプラインを敷設し、ロシア極東のガス化を進める。と同時に、フォーキノにLNGプラントと積出港を建設する計画である。

メドヴェージェフ政権期には、ウラジオストクから北朝鮮を経て韓国に延びる陸上パイプラインの計画が持ち上がったが、プーチン氏が大統領に復帰して以降、LNGプラント計画が優先されるものと見られている 。

フォーキノにおけるLNGプラント建設は日本との共同事業となる予定であり、中東情勢が不安定な今、日露エネルギー関係の強化は日本にとっても有益だと思われる。

4.「中古車の都」からの脱却

ウラジオストクに行くと街を走る車のほとんどが日本車、それも中古車であることに気付く。ウラジオストクは日本製中古車輸入の一大拠点であり、今でも年間10万台弱が日本からロシアに輸出されているが、ロシア連邦政府はロシア国内メーカーを守るため中古車輸入規制を実施している。

中古車輸入規制によりウラジオストクでは失業者の増加が心配されたが、ロシア連邦政府は自動車組み立て工場をウラジオストクに建設することで雇用維持を図っている。

ロシア連邦政府は外国自動車メーカーとの合弁事業を進めるために「ソラリス」社を創設し、2012年9月6日にマツダとソラリスの合弁組み立て工場の開所式典が行われた。APECサミットの2日前に行われた式典にはプーチン大統領も出席し、ウラジオストクにおける自動車産業育成にかける意気込みが感じられた。

ウラジオストクで製造された自動車の販売先は、おもにロシアの欧州部となるが、ロシア連邦政府はシベリア鉄道による輸送費を政府が負担するとしている。また、ロシア極東の企業へのさまざまな免税・減税措置の導入も検討課題となっている 。

今後は、トヨタも同じソラリス工場でランドクルーザーを組み立てる予定である 。ウラジオストクへの投資はロシア連邦政府との協力関係を築く上で重要であり、成長が続くロシアの自動車市場に参入する日本のメーカーにとって不可欠なものになりつつあると言えるだろう。
 
 

中古車輸入規制措置が計画・発表されるたび、ウラジオストクでは規制反対デモが行われ、その際、数百台の乗用車が所々に日章旗を掲げて街中を行進するのを見るにつけ、世界中にこんなに親日的な地域が他にあるだろうかと自問したことを思い出す。

中古車だけでなく、LNGや自動車組み立てなど、様々な分野で日本とウラジオストクとの関係が強化されることで、この親日的な街がますます発展することを期待している。

引用文献
安木新一郎(2009)『ロシア極東ビジネス事情』、ユーラシア・ブックレットNo.138、東洋書店。
安達祐子(2012)「製造業」、堀内賢志・齋藤大輔・濵野剛編著(2012)『ロシア極東ハンドブック』、東洋書店、pp.80-88。
Reuters, 8 September, 2012.
The Moscow Times, 19 September, 2012.
『日本経済新聞』、2012年9月5日付。

[執筆者]安木新一郎(大阪国際大学講師・元在ウラジオストク日本国総領事館専門調査員)

※この記事は、三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2012年10月18付で掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205


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