18.ロシアの再生可能エネルギー -片山博文-

ロシア国旗

概要

化石燃料大国・ロシアにおいて、再生可能エネルギーが総発電量に占める割合は1%に満たないが、広大な国土を有するロシアは再生可能エネルギーの宝庫であり、潜在的国内需要も大きい。再生可能エネルギーの開発は、ロシアにとって経済の「近代化」にもつながる重要な課題である。

1.再生可能エネルギーの潜在的需要

2008年現在、ロシアの総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は0.9%であり、そのほとんどが小水力とバイオマスである。しかしロシアは、再生可能エネルギーの潜在的市場として有力である。

第一に、ロシアはエネルギーの輸出大国ではあるが、地域別に見るとほとんどの地域がエネルギー不足であり、西シベリアなど少数のエネルギー豊富な地域からエ ネルギー供給を賄っている。特に生産地から離れた地域の燃料輸送コストは、著しく地方財政を圧迫する大きな要因となっている。

第二に、ロシアではおよそ2,200万~2,500万人の遠隔地住民が、中央送電網に接続されていない。その半数近くが、ディーゼル燃料やガソリンを用いたスタンドアローン型の発電機によって電力供給を受けているが、燃料コストが大きな負担となっている。

第三に、ロシアで広く普及している別荘(ダーチャ)地も、再生可能エネルギーの有力な市場になり得る。およそ2,200万世帯が私有地付きダーチャを所有しているが、うち500万世帯が送電網に未接続であるという。

第四に、地域の暖房や温水などの熱供給である。寒冷地の多いロシアでは、熱供給が最終エネルギー消費の半分以上を占めており、再生可能エネルギーの活用は大きな潜在力を持つ。しかし、熱供給に占める再生可能エネルギーの割合は現状では4%程度と推測され、国内のおよそ6万6000の熱供給施設のうち、再生可 能エネルギー(主に木材)を利用している施設は1,600にすぎない。

このように、ロシアの再生可能エネルギー市場には大きなポテンシャルがある。広大な国土と自然を持つロシアは、ローカルな分散型の再生可能エネルギーの活用に適している。

2.近年の政策動向

ロシア政府は、2000年代後半から再生可能エネルギーの発展にかなりの重点を置くようになり、制度の整備に取り組んできた。近年の重要な政策としては、以下の点が挙げられる。

第一に、再生可能エネルギーによる電力の生産・消費量の数値目標として、2015年までに2.5%、2020年までに4.5%という数字を掲げている。これは今後22ギガワット(GW)程度の出力の新規設備の建設が必要であることを意味している。

第二に、目標達成のために、再生可能エネルギーが化石燃料に対する競争力を獲得するまで、また投資資金引き入れに必要なテンポを達成するために、連邦の予算立法で支援することがうたわれている。

第三に、電力買い取り制度の導入である。これは一般に「電力プレミアム・スキーム」と呼ばれているものであり、固定枠制に電力プレミアム価格制度を組みわせたものである。それによれば、まず再生可能エネルギー発電事業者の認証を行い、その発電施設において生産された電力の価格が、卸売市場の均衡価格に割増金 (プレミアム価格)を付加することによって定められる。割増金の決定は、取引可能なグリーン電力証書によって行われる。発電事業者の認証とグリーン電力証 書の発行は「電力・出力の卸売・小売取引の効率的システムの組織化に関する市場会議」が行う。

現在のところ、要員やノウハウの不足のため に認証作業などの制度化が遅れているようであるが、再生可能エネルギーを推進するための制度的枠組みは一応整えられた。以下では、ロシアにおける再生可能 エネルギーの三つの重要分野である太陽光発電、風力発電、バイオマスについて、業界の状況を比較する。

3.太陽光発電

もともとソ連の太陽光発電技術は、宇宙開発の関連で世界をリードする水準にあったが、ソ 連崩壊によって関連業界は大きな打撃を受けた。近年、新たにクラスターが形成されつつあり、そこで大きな役割を果たしているのが国策投資会社ロスナノであ る。ロスナノは、太陽光発電を重点投資分野の一つに位置付け、企業投資やメガソーラー建設を推し進めている。表1は、太陽光発電の業界団体、ロシア太陽エ ネルギー協会の会員企業の一覧である。以下、主要な企業について見てみよう。

(1)原料供給
太陽電池セルの主要原料であるシリコン生産は、ロシア太陽光発電産業があまり得意でない部分であった。ソ連崩壊以前に国内で唯一シリコン生産を行っていたのは、モスクワ州ポドリスク市にあるポドリスク化学冶金(やきん)工場(単結晶シリコン生産)である。

現在、この分野の中心企業はニトルである。ニトルは1998年イルクーツクに創立された企業で、当初は化学・石油化学製品の販売を手掛けていたが、2005年から多結晶シリコンの生産を開始し、2008年には年産5,000トンのプラント建設を開始。2011年には2,400トンの多結晶シリコンを生産し、2012年には年産5,000トンの多結晶シリコン生産を計画している。2008年には国際金融公社(IFC)と中国最大の太陽電池産業サンテックパワー がニトルの株式を取得、2009年にはロスナノが45億ルーブルを出資し、2011年にはズベルバンクが資本参加している。

(2)セル・モジュール製造
ロシアにおけるセル・モジュール製造は、クラスノダール地方、リャザン州、モスクワ市・モスクワ州の3地域に集中している。クラスノダール地方の中心企業は1992年に設立されたソーラー・ウインドである。これはソ連時代からの宇宙開発研究者たちが起業したもので、変換効率が20~22%と高い両面モジュールの生産を特徴としている。

近年における同分野の大きな 動きは、2009年のヘーヴェル設立である。これはロスナノと新興財閥レノヴァ・グループとの合弁会社で、ロシアにおける薄膜型太陽電池モジュールの生産を発展させる目的で設立された。ロスナノが49%、レノヴァ・グループが51%を出資する。年産130メガワット(MW)の工場をチュバシ共和国のノヴォ チェボクサルスクに建設し、2011年から生産を開始している。技術的には、薄膜型モジュール製造で世界のトップレベルにあるスイスのエリコン・ソーラーの生産技術工程を用いている。

(3)その他
インテグレーターのうち、サニー・ストリームは「ナノテクノロジーを利用する新世代太陽電 池の大量生産の組織化」プロジェクトを実現するためにロスナノの提案によって設立された企業である。ロシア太陽エネルギー協会の外資系会員企業は、イン バーターなどを供給する周辺機器メーカーのダンフォス(デンマーク)、エルテック・バレア(ノルウェー)のみである。その他、ヨッフェ物理技術研究所など ソ連時代からの研究所が非シリコン系や集光型太陽電池を研究している。

クラスノダール地方を中心とする北カフカスでは、地域クラスター形成が進められている。クラスノダール地方政府は2006年にエネルギー効率プログラムを開始、太陽光発電の域内普及を目指しており、クラスノダール市北東 部のウスチ・ラビンスク中央病院は300の太陽光パネルを設置しているという。また同地方では、国内最大級の太陽熱プラントが建設される予定である。

さらに北カフカスの他地域でも、スタヴロポリ地方で多結晶シリコン生産、カバルディノ・バルカリア共和国で単結晶シリコン生産、カラチャイ・チェルケシア共 和国とダゲスタン共和国でセル・モジュール生産が計画されるなど、地方政府・企業が官民共同で独自の「シリコンバレー」形成を目指している。

表1 ロシア太陽エネルギー協会の会員企業
原料供給 <ニトル(イルクーツク)、ソーラーシリコン(モスクワ)、クヴァル(モスクワ)
モジュール製造 ヘーヴェル(モスクワ)、ノーヴィエ・エネルゲチーチェスキェ・テフノロギィ(モスクワ)、テレコム-CTB(モスク ワ・ゼレノグラード)、リャザン金属セラミックス工場(リャザン州)、ヴィエコ(モスクワ)、ソーラー・ウインド(クラスノダール)、サンウェイズ(モスクワ)
インテグレーター エネルギー・プロジェクト(モスクワ)、サニー・ストリーム(サンクトペテルブルク)、国際プログラム・サンストリーム(モスクワ)
その他 エルテック・バレア(インバーター、サンクトペテルブルク)、AEergy(コンサルティング、モスクワ)、エコ移住リュビンカ(モスクワ)、コーポレーション22(太陽光発電装置、サンクトペテルブルク)、ダンフォス(インバーター、モスクワ)
研究機関 ヨッフェ物理技術研究所(サンクトペテルブルク)、ロシア科学アカデミー高温統合研究所(モスクワ)

出所:ロシア太陽エネルギー協会ウェブサイト(http://pvrussia.ru/?page_id=96)を基に筆
者作成

4.風力発電

ロシアにおける風力発電は、将来的に最も魅力的な分野の一つである。ロシアは世界 最大の風力資源を持ち、国の電力の3割を風力で賄えるという試算もある。特にムルマンスク州やレニングラード州などの北西部、ロシア南部、シベリア、極東は有望である。ロシア風力産業協会は、先述の2020年までの再生可能エネルギー目標22GWの内訳を、バイオマス7.9GW、風力7GW、小水力4.8GWなどと見込んでいる。また、ある欧州関係者の分析では、2020年までに100億ユーロの投資が見込まれている。

表2は、風力 産業の業界団体であるロシア風力産業協会の会員企業であるが、太陽光発電業界と異なり、かなりの数の欧州企業が入り込んでいることが分かる。サンクトペテ ルブルクをはじめ、モスクワ以外のロシア欧州部の企業も目に付く。また、ロシアのエネルギー関連企業では、石油大手のルクオイル、水力発電大手のロスハイ ドロ、原子力のロスアトムも風力発電に取り組んでいる。近年の大きな動きとしては、2010年7月にシーメンスがロスハイドロおよび国営企業のロステクノ ロジーとロシア国内における風力発電所建設のための合弁会社を設立し、2015年までに少なくとも出力1,250MWの風力発電所を設置すると発表したことが挙げられる。

その他、ロスハイドロによる19億ルーブルを投じての発電所建設(沿海地方)およびウインドパーク(ヴォルゴグラード 州)の建設計画、ロシア企業Ventusによる3カ所のウインドパーク建設計画(投資額2億5000万ユーロ、オレンブルグ州)、ロスアトムの子会社アト ムエネルゴマシュによるウインドパーク建設計画(投資額450億ルーブル、アドィゲア共和国)などがある。

ただ全体としては、その大きな ポテンシャルにもかかわらず発展のテンポは遅い。その要因の一つとして指摘されているのが、高額の建設投資である。
ロシアの再生可能エネルギーコンサル ティング会社のAEnergyによれば、出力1キロワット(kW)当たりのコストが従来燃料の発電所では300~600ドルであるのに対して、風力は同 1,100~1,800ドルである(太陽光は同3,000~6,000ドル)。そのため、政府の補助金やさらなる支援策が必要であるといわれている。

表2 ロシア風力産業協会の会員企業
  国内企業・団体 海外企業・団体
メーカー OAOアヴァンギャルド(合成素材・プラスチック・ゴム生産、スモレンスク州サフォノヴォ市)、ZAOエネルゴテフマ シュ(建設・水力工学建設、水力・風力施設、ヴォルゴグラード州)、ネフスカヤ・インジェネールナヤ・カンパニア(通信・遠距離通信、サンク
トペテルブル ク)、OAOユゴヴォストーク・エレクトロセツストロイ(高圧電線建設、ヴォルゴグラード)、OOOプロムィシュレンナヤ・エレクトロニカ社(風力発電機 のコントローラ・蓄電バッテリー・インバーターなど、トムスク)、オプティライト(太陽・風力設備の開発・生産、サンクトペテルブルク)、ギドロヴリカ・ テフノロギィ・インジィニリング(風力発電所のhydraulic driveなど、モスクワ)、OOOチュリガンスキー電気機械
工場(500kWまでの風力タービンの製造・修理、オレンブルグ)、ネルスヴィック・ノルス ク・ハイドロ(風力タワー・プロペラ製造)、OOOマイコップ・ギア・プラント(工学製品、アドィケア共和国)、PSM(ディーゼル発電機の設計・製造、 ウインドファーム設備の供給、ヤロスラヴリ)
Vestas Central Europe(風力発電用技術の開発・製造・販売・メンテナンス、ドイツ・ハンブルク)、LAP GmbH Laser Applikationen(レーザー計測システム、ドイツ)、
Gamesa(風力タービンの設計・製造・開発、ウインドファームの設置・メンテナンス、 スペイン)
デベロッパー、コンサルティング、行政、業界団体 ヴェーチェルNo.5(ウインドファーム・プロジェクトの開発、サンクトペテルブルク)、沿海地方ボリショイ・カーメ ニ市役所住宅・公益事業部、全ロシア科学調査景気研究所(商品市場調査・出版・経営コンサルティング・教育、モスクワ)、OOOヴェント・ルス(モスク ワ)、ロシア産業家・企業家連盟エネルギー政策・エネルギー効率委員会(モスクワ)、陳列館エレクトリフィカーツィヤ(モスクワ)、OAOサハエネルゴ (ディーゼル発電所サービス、サハ(ヤクーチア)共和国ヤクーツク市)、ENARGO(分散型再生可能エネルギーのパッケージ・ソリューションの開発・実 施、サンクトペテルブルク)、ZAOヴェトロゲネリルユシャヤ社(ウインドファームの投資・建設・運営、モスクワ)、ムルマンスク地域NGOベローナ・ム ルマンスク(核と放射能の安全・エネルギー問題、ムルマンスク) デンマーク・サンクトペテルブルク総領事館、Cursor Oyコトカ・ハミナ地域開発会社(ロシアビジネス支援、フィンランド)、Krim-Irey-ProjectLLC(風力発電所の総合プロジェクト開発、ウクライナ・クリミア自治共和国シンフェロポリ市)、Windlife Energy BV(風力デベロッパー、オランダ)、CUBE EngineeringGmbH(再生可能エネルギーのコンサルティング、エンジニアリングサービス、ドイツ・カッセル)、MerventoOy(風力発電所建設のシステム・インテグレータ、フィンランド)、SqurrEnergy Ltd(再生可能エネルギーのコンサルティング、イギリス・グラスゴー)、Thomassen&Fischer(法サービス、デンマーク)、 Lahmeyer International GmbH(エンジニアリング・コンサルティング、ドイツ)
研究機関 サンクトペテルブルク国立技術大学再生可能エネルギー源・水力工学部、モスクワ国立大学地理学部再生可能エネルギー源調査室、サンクトペテルブルク国立農業大学  

出所:ロシア風力産業協会ウェブサイト(http://rawi.ru/en/about-rawi/our-members.php)を基に筆者作成

5.バイオマス

バイオマスは風力と並んで最も有望な再生可能エネルギーであり、その特徴は、一連の自治体が熱心に取り組んでいることである。ロシア政府も2012年
4月に採択した国のバイオテクノロジー発展プログラム「バイオ2020」の中で「バイオエネルギー」を重点分野の一つに位置付けており、特に廃棄物からのバイオガス、木材資源、自動車用バイオ燃料に関心を寄せている。バイオマスの事例は 枚挙にいとまがないが、以下、幾つか紹介する。

バイオガス生産に最も力を入れている地域の一つはベルゴロド州である。同州の食肉加工工場 の廃棄物を利用したバイオガス生産プラントが、同種施設と
してロシアで初の再生可能エネルギー施設の認証を受けている。ベルゴロド州は2015年までに国 内代替エネルギーの4分の1を域内で生産することを目標に掲げ、56のバイオガスステーションを建設する予定である。

また、2012年9月には州内の企業がドイツ企業EnviTec Biogas AGとバイオガス生産に関する長期協力に合意している。この他企業では、ビオガスエネル
ゴストロイが50カ所以上のバイオガスステーション建設(主に厩肥(きゅうひ)を利用)を計画している。

木材グラニュール(ペレット)は、ロシア北西部とバイオマス需要の増大する北欧諸国との間で地域市場が形成されている。2011年、ロシアにおける木材
グラ ニュールの生産量は100万トンであり、うち国内消費は17万トン、残りが輸出されているとみられる。木材グラニュールはアルハンゲリスク州、ヴォログダ州、ノヴゴロド州、カレリア共和国、レニングラード州などで生産され、サンクトペテルブルク、ウスチ・ルガ、ヴィボルグ、ペトロザヴォーツク、アルハンゲリスクなどの港を通じて輸出され、スウェーデン、フィンランド、オランダ、デンマークなどのエネルギー・コンツェルンや商社が購入している。価格は地域差 があるが、1トン当たり120~150ユーロとのことである。

自動車用バイオ燃料は、食糧価格の動向に大きく依存する。 2006~2008年にかけて、ロシアにはロストフ州、クラスノダール地方、アルタイ地方などで25のバイオ燃料生産計画があったが、2008年の食糧価 格高騰によってそのほとんどが中止され、うち実際にバイオエタノールの生産にこぎ着けたのはオムスク州の工場「チタン」のみであった。しかし2012年8 月には、ロシア最大の植物油生産企業であるユグ・ルシが、ロストフ州の工場に菜種・亜麻を用いたバイオ燃料生産(日産1,000トン)のため2億ドルを投 資することを公表した。また同時期、ペンザ州がルフトハンザドイツ航空、その他欧州企業と菜種油による航空燃料用ケロシンの生産を協議している。

おわりに

このようにロシアでは近年、経済の「近代化」を推し進めたい国家と、エネルギー面での自立を実現したい地方の意図が主要な推進力となって、再生可能
エネルギーのルネサンスが訪れつつある。今後、制度の早期整備と、より一層の政策支援が望まれる。


参考文献
片山博文「ロシアにおける再生可能エネルギーの現状と課題―太陽光発電産業を中心に―」
(『ロシア・ユーラシアの経済と社会』(2012年10月号(No.962)、ユーラシア研究所)
ロシア太陽エネルギー協会(http://pvrussia.ru/)、ロシア風力産業協会(http://rawi.ru/ru/main.php)、ロシアバイオ燃料協会(http://biofuels.ru/)ウェブサイト
経済協力開発機構(OECD)/国際エネルギー機関(IEA)(2003)RENEWABLES in
RUSSIA:From Opportunity to Reality
2012年2月21日付Russian-American Business magazine
http://russianamericanbusiness.org/web_CURRENT/articles/898/1/Wind-power-undeveloped-despite-huge-potential/print/898

[執筆者]片山 博文(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)

※この記事は、三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2013年1月9日付で掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205


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