25.ロシア大陸棚石油・ガス開発と日本 篠原 建仁

ロシア国旗

概説

2011年以降、ロシアの周辺海域に広がるロシア大陸棚(1)での石油・ガス開発に国際的なエネルギー企業が相次いで参入している。2013年5月には、国際石油開発帝石が日本企業として初めてロシア最大の国営石油会社であるロスネフチと協力協定(Cooperation Agreement)を締結し、日本に近いオホーツク海北部大陸棚に位置するマガダン2および3両鉱区に関する排他的交渉権を確保した。日本企業が今後もロシア大陸棚開発へ参入するためには、氷海での探鉱・開発・生産技術や操業経験の蓄積のみならず、公的融資や政府レベルでのロシア側への働き掛けといった日本政府のサポートが重要である。

はじめに

今、ロシアの周辺海域に広がるロシア大陸棚1の膨大な石油・ガス資源に対し、世界の主要エネルギー企業が熱い視線を注いでいる。1990年代半ばにサハリン1およびサハリン2両プロジェクトが実現した後、ロシア大陸棚における石油・ガス開発は、しばらく動きが見られなかった。しかし、地球温暖化の影響による北極海の海氷面積の減少に伴い、2000年代に入り、世界は「残されたフロンティア」である北極圏の資源をにわかに注目し始めた。

このような状況の中、ロシア政府はロシア大陸棚の石油・ガス資源開発を加速すべく、2011年以降、条件付きで外資参入を認めると共に、2012年4月に政令443-r号をもって、大陸棚開発に関わる優遇税制の骨子を固めた。その結果、米国のエクソンモービル、イタリア政府持ち株会社のエニ、ノルウェー政府傘下のスタットオイルが相次いでロスネフチと提携し、ロシア大陸棚開発へ参入した。

(1)ロシア大陸棚は通常、北極海に接するバレンツ海、ペチョラ海、カラ海、ラプテフ海、東シベリア海およびチュコト海から、米国アラスカ州との間に位置するベーリング海峡、日本に近いオホーツク海に加え、黒海やカスピ海もロシア大陸棚に含む。しかし、本稿は外資の関心が高い、北極海に接する諸海域およびオホーツク海のみを対象とする。

さらに2013年5月、筆者の勤務する国際石油開発帝石も日本企業として初めてロスネフチと協力協定を締結し、オホーツク海北部マガダン2および3鉱区に関する排他的交渉権を確保した(図1を参照)。両鉱区への正式な参入ではないものの、日本企業としてサハリン1およびサハリン2以降、約20年ぶりのロシアとの契約になった。現在もBP(英国)やロイヤル・ダッチ・シェル(オランダ、英国)、さらに中国やインド、ベトナムなどの石油会社がロシア大陸棚への参入を検討あるいは交渉しているといわれる。

マガダン2及び3鉱区

石油・ガス開発から見たロシア大陸棚

国際法上の大陸棚は、1982年に採択された国連海洋法条約によれば、領海(海岸の基線から12カイリ≒約22キロメートル)から200カイリ(約370キロメートル。1カイリ=1,852メートル)までの海底およびその下の部分を指し、同条約は沿岸国に、大陸棚での資源開発の根拠も与えている。

ロシア大陸棚の面積は約270万平方キロメートル(2)と、北極圏の全大陸棚面積の約39%を占めている。ロシア大陸棚の特徴は、(1)気象・海象条件の厳しさ、(2)生産した石油・ガスを輸送するインフラが存在しないことである。(1)に関し、バレンツ海北部の最低気温はマイナス35度、最大風速は36m/秒、カラ海はマイナス50度、最大風速は40m/秒に達する。大陸棚海域の多くは半年以上、海氷に閉ざされ、氷の厚さは2メートル近くに達することもあるため、その間は海上での探鉱や掘削作業は困難になる。海氷は、原油流出事故が発生した際、流出した原油の回収を困難にする。ロシア大陸棚における石油・ガス開発は、新たな油回収技術の開発や、通常の海域以上の環境に対する慎重さと配慮が必要になる。

(2)ロシアのマスコミは、600万~620万平方キロメートルという数字を使うことが多い。根拠は不明である。

(2)の輸送インフラの問題に関し、石油・ガスいずれも北極海に面したロシア大陸棚東部、すなわちラプテフ海、東シベリア海、チュコト海およびオホーツク海周辺に輸送するためのパイプラインや鉄道が存在しない。現在、ロシア政府は北極海航路の整備を通じ、ロシア大陸棚のインフラ不足に対応しようとしている。

ロシア大陸棚の埋蔵量に関して、ロシア政府および関係機関は、(1)ロシア大陸棚に原油換算で約763億トンの石油・ガスが存在、(2)うち埋蔵量として認定できるのは96億トン(約13%)、(3)埋蔵量のうち84%はガス、原油は13%未満と考えている。

海域別では、カラ海およびバレンツ海の埋蔵量が大きい。特にバレンツ海は開氷期間が長く、ラプテフ海以東の大陸棚に比べ探鉱が進み、埋蔵量が発見されていることもその背景にある。カラ海では2014年以降、エクソンモービルがロスネフチと試掘を開始予定である。ラプテフ海以東の諸海域でも、今後探鉱が進めばさらなる埋蔵量が発見される可能性がある。

大陸棚予想生産量

図2大陸棚予想生産量(西部:バレンツ海、カラ海およびペチョラ海)(単位:100万トン)

(出典)ロシア政府系機関作成資料

現時点でサハリン1およびサハリン2両プロジェクト以外に、ロシア大陸棚で石油・ガスを生産しているプロジェクトはない。しかし2013年中に、いずれもロシアのガスプロムが権益を保有するペチョラ海のプリラズノムノエ油田およびサハリン島中部東岸沖のサハリン3プロジェクトのキリンスキー・ガス・コンデンセート田が生産開始を予定している。
ロシア大陸棚の予想生産量に関し、図2によれば、まずペチョラ海での生産が開始し、2027年あたりで同海域の生産がピークを越えた直後にカラ海での生産が開始、続いてバレンツ海での生産が開始され、2040年にかけて生産量は増加していくと予想されている。

ロシア政府の主要政策とキープレーヤー

ロシア政府の大陸棚石油・ガス開発政策で重要なものとしては、2008年4月の地下資源法改正および2012年4月のロシア政府政令443-r号である。

前者は事実上、ロスネフチおよびガスプロムというロシア国営企業2社のみが、ロシア大陸棚鉱区のライセンス所有者となれるようにしたことで、大陸棚での探鉱・開発を上記両社および両社との合弁企業に限定する一方、後者は大陸棚鉱区を4カテゴリーに分け、オンショアで生産者の大きな負担となっている石油輸出税や資源抽出税の免減税を含む、大胆な税負担軽減措置を打ち出したことで、本政令公布後、エニやスタットオイルなど、外資による上記2社との合弁事業を通じた大陸棚進出が加速した。

キープレーヤーであるロスネフチとガスプロムは、2013年7月時点でロシア大陸棚において、それぞれ43鉱区および26鉱区のライセンスを有している。両社は特に2012年以降、北極海に面したロシア大陸棚の鉱区の争奪戦を繰り広げてきたが、ロシアの民間企業や外資の直接参入は不要との見解で常に一致している。

ロスネフチは、本稿が対象としない黒海やカスピ海などを除くロシア大陸棚で、合計で日量2,520億バレル(以下、B/D)相当の埋蔵量を見込んでいる(3)。2012年の日本の石油・ガス消費量を全て石油換算すると24億9000万B/D相当になり、日本の消費量の約100年分に相当する(4)

一方、ガスプロムは、バレンツ海沖の巨大ガス田シュトックマンの開発で外資との連携についてロスネフチよりも先行していた。しかし、バレンツ海の厳しい海象条件や技術的な難しさから予想コストが急増した上、当初生産したガスを液化天然ガス(LNG)にして販売する予定だった米国が、シェールガス革命によりLNGを必要としなくなったことが痛手となった。現在、同プロジェクトは事実上凍結され、ガスプロムはシェルとロシア大陸棚での協力を検討している。

3ロスネフチのウェブサイトhttp://www.rosneft.com/attach/0/10/46/prez_runie.pdfより。なお、筆者の知る限り、ガスプロムは同様の資料を公表していない。
4BP統計2013によると、2012年の日本の原油消費量は471万3000B/D、ガスは年間1,167億立方メートルである。ガスを同統計の換算式(10億立方メートル=660万B/D相当)で換算の上、石油とガスを合計すると、471万3000B/D×365日+1,167億立方メートル÷10億立方メートル×660万B/D≒24億9000万B/Dとなる。

ロシア大陸棚開発に重要な日本政府のサポート

ロシア大陸棚における石油・ガス開発に関し、ロシア政府によるロスネフチおよびガスプロムの2大国営企業優遇政策は当面続くと思われるが、そのような政策がロシア大陸棚の開発促進につながるかどうかは、中長期的な観点から評価する必要がある。

日本としてロシア大陸棚の石油・ガス開発に参加する際、技術面では、氷海での探鉱・開発・生産技術や操業経験の蓄積が急務であろう。ソフト面では、巨額な探鉱投資や開発段階以降の資金需要への公的融資、政府レベルでのロシア側への働き掛けといった日本政府のサポートが重要である。日本による北極海航路の利用促進や、日本に近いオホーツク海沿岸部の地域開発や産業振興に関するグランドデザインをロシアと共同で策定することも、間接的にロシア大陸棚開発を促進すると考える。

[執筆者]篠原 建仁(国際石油開発帝石株式会社 ユーラシア・中東事業本部 コーディネーター)
※本稿は、著者個人の考えであり、著者が勤務する組織の考えを代表するものではない。

※この記事は、2013年8月5日付で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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