29.ポーランドの金融市場と司法-金投資運用会社の事件に見るその一断面-小森田 秋夫

ポーランド国旗

概要

2012年夏、ポーランドでは高利を保証すると称して顧客を集めていた金投資運用会社のA社が摘発され、社長とその妻が逮捕される事件が発生した。この事件は、ポーランドにおける「パラバンク」や「金融ピラミッド」なる存在をクローズアップさせ、この種の金融活動に関する法とその執行に携わる検察機 関などの問題点を浮き彫りにした。
2012年の夏、ポーランドでは金への投資によって高率の利益を保証すると称して顧客を集めていた金投資運用会社のA社が摘発され、社長とその妻が逮捕されるという事件が発生した。このA社事件は、今日のポーランドにおける金融市場の一角を占める「パラバンク」あるいは「金融ピラミッド」なる存在を にわかにクローズアップさせた。それと同時に、この種の不透明な金融活動に関わる法とその執行に携わる国家の諸機関、とりわけ検察機関が抱える問題点を浮き彫りにした。

被疑事実と被害状

2012年7月末、A社に属する格安航空会社B社が資金不足に陥って運航を停止し、破産の申し立てを行ったことが発覚した。A社は2009年に設立され、金への投資による年率10%を超える利回りをうたい顧客を集めていた。顧客は資金を払い込んで金の所有者となるが、金はA社が保管し運用して利益を上げる、というビジネスモデルを掲げていたが、実際には顧客への支払いは新たな顧客からの払い込みによって賄われており、結局は破綻していたことが明らかとなる。

2012年8月の初めごろから、支払い期限がきたのに履行されていないとして、詐欺の容疑について顧客からの訴えが検察庁に寄せられ始めた。A社は当初、経営は良好で顧客の資金は安全であるとしていたが、8月9日になってついに経営破綻を認め、清算手続きに入ると宣言するに至った。この時点で、A社のあるグダニスク管区の検察庁には50件以上の告訴が寄せられており、同管区検察庁の特別チームが活動を開始していた。

同年8月16日、特務警察の一つである国内安全庁(ABW)がA社の事務所と社長夫妻のアパートを捜索し、金などを押収した。翌17日には、グダニスク管区検察庁が、5時間にわたって社長の事情聴取を行った。検察庁は出国禁止措置を取った上でいったん家に帰したが、8月29日になって彼を逮捕し、翌30日に裁判所は3カ月の勾留を決定した(その後、勾留期間は延長されている)。

最終的に社長に対してかけられた容疑は、(1)多額の資産についての詐欺、(2)外貨交換業務における登録なしの外貨売買および外貨売買の仲介、(3)文書偽造、(4)信用供与、貸し付け、その他の方法によるリスクの負荷を目的とする他人の金銭の蓄積、(5)しかるべき登記裁判所への財務報告書または業務報告書の不提出、だった。被害者は1万6000人、被害額は6億8000万ズロチ(約200億円)に上るとされている。裁判所は9月20日、A社の破産を決定した。 

事件に対する政府や議会の対応は早かった。A社の事務所と社長夫妻のアパートが捜索されたのと同じ2012年8月16日、財務大臣、国立銀行総裁、金融監督 委員会(KNF)委員長、銀行保証基金理事長代理の4者による金融安定委員会が、トゥスク首相も出席して開催され、これら4者と司法大臣、検事総長、競争・消費者保護庁(UOKK)、市民の権利弁務官(オンブズマン)の代表によって構成される作業グループの設置が決定された。同年8月30日には、国会 本会議において集中審議が実施され、首相、財務相、司法相、検事総長による報告を受けて、8時間に及ぶ質疑が行われた。

それから半年後の 2013年3月、A社事件についての報告書が金融安定委員会に提出され、採択された。44ページに及ぶこの報告書は、検察、裁判所、KNF、UOKK、国立銀行、財務省および税務機関、そして金融安定委員会の本事件に関わる行動と対応を整理したものだった。

「金融ピラミッド」と「パラバンク」

A社事件の核心は、法的には上記の容疑(1)と(4)である。これらの点をめぐり、A社は「パラバンク」であるとか、A社が行っていたのは「金融ピラミッド」であるなどといわれている。

「金融ピラミッド」とは何か? A社事件が発覚する前の2011年12月にKNFが公表した解説的情報によれば「ピラミッドとは、その純粋な形においては、当該人物の利益が、その構造の下位に位置する者の支払いに依存するような構造である。従ってピラミッドの活動は、参加者に対する利益の約束が、何よりも現実の投資サービスの供与ではなく、新しい者をこのような構造に勧誘することに対して与えられるというこ
とにある」「以前にこのような構造に加わった者に対する支払いを保障するために、絶えず新たな参加者が加わることが必要だということは、それが持続不可能であり、結局は破綻せざるを得ない、ということを意味している」(M .P achucki, P iram idy i inne oszustw a na rynku finansow ym , Kom isja N adzoru Finansow ego, W arszaw a 2011)。ピラミッドとは、狭義のネズミ講である無限連鎖講に該当し、それを金融市場において体現したのが、金融ピラミッドにほかならない。

それでは、A社は金融ピラミッドだったのか? UOKK長官によれば、A社は不正市場実務防止法で禁じられている金融ピラミッドではなかった。金融ピラミッドとは、日常用語としては、従来の顧客に対 する利益が新たな顧客の支払いによって賄われるというものだが、法によって禁じられている金融ピラミッドとは、利益を得るために例えば知人を同様の投資に 勧誘することが必要であるというものだが、A社はそうではなかったというのである。確かにA社のビジネスモデルは純粋な形における金融ピラミッドではなかったようである。

一方、パラバンクとは何か? パラバンクとは一般に、銀行業務に対する認可を受けることなく、従ってKN Fの監督を受けることなく、銀行と類似の業務を行う金融機関のことを指す。現在、ポーランドには、少なくとも数十のパラバンクと数百の貸付会社があり、これらは何の登録も必要とすることなく業務を行っているという。従って、それらの活動の規模についての正確なデータは存在しないが、貸付会社の貸付額は年に20億~30億ズロチ(約600億~900億不明である。

確かなことは、ここ数年、これらの金融業者の人気が上昇していることである。 その背景には、銀行の引き締め政策がある。KN Fの勧告に基づき、家計の50%をローンの支払いに充てている者には信用供与を行わないという方針を取った 結果、最近2年間で150万枚(発行数の10分の1以上)のクレジットカードが消費者から取り上げられている。その結果、条件の緩やかな貸付会社やパラバンクに顧客が流れているのである。

パラバンクと貸付会社はどう違うのか? 銀行法171条1項は「許可なく信用供与、貸し付け、またはその他の方法によるリスクの負荷を目的として、他の自然人、法人または法人格を持たない組織単位の資金を集める業務を行う者は、500万ズロチ以下の罰金および3年以下の自由剥奪に処す」と定めている。しかし、裁判所は銀行法171条を適用したことが一度もない。それは法律が不明確なせいなのか? それとも法の執行の問題なのか?

KNF委員長によれば、他人の金を集め、それを投資 などに回してリスクにさらす活動を行うパラバンクと、自分の金で貸し付けを行っている貸付会社とは区別しなければならない。前者は銀行法171条に違反する非合法な活動であるが、後者は法的には問題ない。KN Fの役割は、非合法なパラバンクの疑いのある会社を「警告リスト」で公表して注意を喚起したり、A社のように検察機関に告発したりすることである。あとは検察の判断次第である。つまり、銀行法171条は明確であり、問題は不明確な法律にあるのかその執行にあるのかと問われれば、執行にあるのではないかというのがKN F委員長の示した見解だった(もっとも、貸付会社の自己資金の出所はどこなのかは、別途 問われ得るだろう)。

司法の対応と改善策

確かにA社事件をめぐって、KNFは基本的には正常に機能したと評価されたのに対し、批判を受けたのは検察機関だった。KNFは2009年12月、A社の社長による銀行法171条1項違反を告発する文書を、グダニスクの地区検察庁に送っている。しかし検察庁は、さほど詳しい捜査をしないまま事件を打ち切った。KNFの抗告を受けた裁判所によって手続きの再開が命じられたものの、同社長を参考人として事情聴取したにとどまり、その主張を裏付ける捜査は行っていなかった。また、鑑定人から鑑定を得るのに手間取って手続きを停止するなど、素早いとは言い難い対応だった。財務報告書の不提出に対する追及も甘かった(検事総長は、問題の検察官に対して懲戒手続きを行い、上司である地区検事の監督責任を問い、いち早く解任している)。

この事件によって検察の抱える問題が浮き彫りにされたのと比べると、裁判所に対する批判は少なかった。しかし、まったく問題がないわけではない。A社の社長がかつて経済活動に関わって6件もの有罪判決を受け、いずれも執行猶予となっていたことが明るみになったからである。ここから、執行猶予中の行いを監督すべき保護観察官が適切に職務執行を行っていたのか、またA社を会社登記する際、その社長がすで
に6件の有罪判決を受けていたことを理由に当該会社の登記を 拒否することはできなかったのか、という点が問われたのである。登記は、全国裁判登記所の裁判官の役割である。

以上のように多岐にわたる問題を明るみにしたA社事件を踏まえ、冒頭で述べた金融安定委員会報告書は、さまざまな改善策を列挙している。主なものを以下に箇条書きする。

  1. 自己資金によって貸付業務を行う主体に対し、U O KiKに登録することを義務付ける。
  2. 消費者の集団的利益を侵害する実務についての手続きが終了する以前に、有害な内容の広告を流布することを一時的に禁止する権限をU O KiKに付与するという法改正を行う。また、重大な金銭的損失を消費者に与える可能性のある会社実務について公に警告する権限をUOKK 長官に付与するという法改正を行う。
  3. 金融機関の顧客がそれらの活動についての情報を得ることのできる無料電話サービスをKN Fに開設する(2012年10月から実施済み)。
  4. 全国裁判登記所における登記の際、全国刑事登録所における記録が自動的に照会される仕組みとする(2012年12月に法改正済み)。
  5. 財務報告書の提出を求める手続きを遅くとも翌会計年度の9月に開始し、年末までに終了させる。財務報告書の提出状況についての情報が、全国裁判登記所に自動的に伝わるようにするための法改正を行う。
  6. パラバンク活動を行っている銀行セクター以外の主体に対して情報を求める権限、および許可なく免許の必要な活動を行っている疑いのある主体に対する調査手続きを行う権限をKN Fに付与するという法改正、KNFが検察庁に告発する際に職業上の秘密をなす情報にアクセスすることを可能にするという法改正を行う。
  7. 無許可の銀行業務の実施に対する刑罰を厳しくする。
  8. パラバンクに関わる事件については、これまでのように地区検察庁ではなく、一級上の管区検察庁の組織犯罪問題部が扱うこととし、それをさらに一級上の控訴検察庁が監督する。この種の事件については、最高検察庁準備手続き局に直ちに通知する。
  9. パラバンクを含む金融市場における主体の事件を扱う検察官・裁判官の研修を継続・強化する。
  10. 刑事執行の領域における保護観察官の職務・権限を、単一の法令において定め(2013年2月に司法大臣決定を制定済み)、保護観察における民間保護司の役割を制限して職業的保護官の役割を高めるなど、態勢を強化する。

国家による規制と自己責任との間

A社事件が発覚したときの世間の反応の一つは「全ての企業家たちが聞いたこともないような数のコントロールや圧倒的な官僚制に不平を言っている国家において、A社の社長はヘビのように敏しょうにすり抜けたが、それがどうして可能だったのか」というものだった。そしてこれまで見たように、問題は規制する法律にあるのか、それともそれが適切に執行されていないことにあるのかという問いが提起され、さらに、消費者を保護するために規制をいっそう強化すべきなのか、それとも消費者自身がそれぞれリスクを自覚しつつ自己責任を 持って振る舞うべきなのか、との問いが連ねられた。

ある論者は、次のように論じている。

「(A社を筆頭とする)幾つかのパラバンクの最近の事件の後、不誠実と闘うための追加的な規定や規制が必要だという声が、とりわけ政治家たちから上げられた。これは、100%効果的なネズミ退治の毒を考え出すようなものではないか。家主が家の周りにそれをまくと、ネズミはすっかり消えた。だが、何年かたって初めて、ついでにウサギやビーバーやキツネなど他の動物たちも消えていたことが分かった。毒が水を汚したためだが、誰もそれを予見できなかったということになるのではないか」多くのエコノミストの声は、新たな規制に警戒し、問題の核心はすでに存在する規制を有効に生かすことのできない「役人たちの怠惰と愚かさ」にあるのではないかというものだった。このような診断の適否、また前述したようなさまざまな対策の行方と実効性については、さらに観察を続ける必要があるだろう。

[執筆者]小森田 秋夫(神奈川大学教授、ユーラシア研究所所長)

※この記事は、2013年10月23日付で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205


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