30.ロシアの消費者金融ブームの行方-中村 靖

ロシア国旗

概要

ロシアで消費者金融ブームが起きている。経済の先行きに対する期待が家計消費ブームをもたらしているところに、未発達だった消費者金融がようやく 整ってきたことが背景にある。しかし、貸し手も借り手も、監督当局も経験が浅いため、このブームをコントロールできるか危うさが残る。消費者金融ブームの 行方は、ロシア経済の成長の分かれ目となるといえるだろう。

家計貸し付けブーム

ロシアの消費者向け貸し付け、とりわけクレジットカード・ローンなどの無担保貸し付けの急増が話題となっている。ロシアの銀行貸し付けは2008~2009年の景気後退に伴いマイナス成長を続けていた。しかし、2010年末から実質増に 転じると、その後増加を続け、2012年年央には年率で25%という“貸し付けブーム”状態になった(図1)。内訳を見ると、対非金融法人貸し付けは 2012年後半から減速し、2013年は1桁台後半の成長率である。その一方、対家計貸し付けは成長率の低下は見られるものの、2013年に入っても依然 として年率20%を超え、貸し付け全体の伸びを下支えしている。

図1 銀行貸し付けの推移(単位:%(各月末前年同期比))
注:貸し付けは居住者、非居住者、ルーブル建て、外貨建て全てを含む。デフレーターは消費者物価指数。

出所:The Central Bank of the Russian Federation(CBR)ウェブサイト

家計貸し付けブームのリスク要因

ただし、ロシア中央銀行は現在の状況が危機的であるとは見ていない。その理由は、ロシアの家計が抱える金融負債が他の国と比べればまだ少ないからである。ロシアの家計金融負債の対国内総生産(GDP)比は2012年末で12.4%で、先進国はもちろん、東欧諸国と比べても低い値である。ロシアの家計金融負債の対家計所得比は2012年第3四半期末時点で23%であるのに対して、ユーロ圏の平均は98%である(CBR, Financial Stability Review, 2012 July;Vedomosti, 2012/12/15)。ロシアでクレジットカードを保有している家計は全家計の20%程度しかない。消費者金融の急増の一端はもともと消費者金融が発達 していなかったという側面があることは否定できない。

ただし、ロシア中銀は、対家計貸し付けの中でもクレジットカード債務や日本のいわゆる「消費者金融」に相当する用途非特定の消費者貸し付けなどの無担保融資が、相対的にも絶対的にも増大を続けていることに懸念を示している(CBR, Financial Stability Review, 2012 December, 2013 July)。実際、対家計貸し付けの中でも無担保貸し付けは2013年に入っても年率50%近く増えている(図2の消費者クレジット)。

図2 対家計貸し付けの実質成長率
注:各期末の前年同期比

出所:CBR, Financial Stability Review,2013 July

家計部門全体で見ると債務負担はまだ低いが、貸し付けを受けた家計だけを見てみると、事態はやや深刻であることが分かる。貸し付けを受けた家計について、利払いと元金返済が家計可処分所得に占める割合を見ると、2012年10月末で20%に達している。この数字はイタリアの10.8%、米国の10.9%、フランスの13.1%と比べて高く、日本で債務負担の限界といわれる年収の5分の1に到達していることになる。これまでのところ、対家計貸し付けのうち不良債権比率に大きな悪化は見られない(CBR, Financial Stability Review, 2013 July, P37)。しかし、これは対家計貸し付けの増大とともに不良債権も増大していることを意味していることになる。

このロシアの消費者金融 ブームに対して、国際通貨基金(IMF)は2013年10月の政策コンサルテーションで、金融システムに対する対家計貸し付けの急増リスクは容認できる範 囲にあるとしたものの、増大し続けている点を指摘し、対家計貸し付けの動向を慎重に監視するとともに、必要に応じて抑制策を取るよう要請した(IMF Country Report, No.13/310;Chicago tribune, October 22, 2013)。ロシア中銀自身、2013年に入って対家計無担保融資についての貸倒引当金の積み増しや、準備率を引き上げるといった対家計貸し付け抑制策を取っている(Bloomberg, 2013/07/24;CBR, Financial Stability Review, 2013 July)。

これらの抑制策により対家計融資の伸びは一定程度抑えられたわけだが、依然として対家計無担保貸し付けはハイペースで増大している。ロシア中銀は消費者金融 についてのモニターもIMFの政策コンサルテーションの前から実施していた。最近では、対家計貸し付けに重点を置く銀行31行のモニター結果に基づき、これらの銀行が高い貸し付け金利を得られる対家計貸し付けの原資とするために高金利で預金を集める傾向にあることが判明し、このような銀行の行動が実物経済における資金調達費用の増加をもたらしていると報告している(CBR, Financial Stability Review, 2012 December)。

ロシア中銀は2014年から対家計貸し付けについて金利規制を導入する意向であり(Reuters, 2013/12/06)、またバーゼルIII(自己資本比率規制)による銀行監督も2014年年明けから始まる。これらの措置により対家計貸し付けの伸びはさらに鈍化するのではないかとみられている(Expert online 2013/07/29;Bloomberg 2013/11/28など)。

貸し付けブームの原因と展望

対家計貸し付けブームが起きた要因を振り返ってみると、まず家計側の要因として、資源価格の高騰によってロシア経済がリーマン・ショックから順調に回復し、経済の先行きに対する期待が大きく好転したことが挙げられる。家計所得よりも家計需要の方が早く回復し、そのギャップを消費者金融が埋めていることになる。もっとも、リーマン・ショック後、公共部門の賃金や年金引き上げによって家計所得が実際に増大していることは間違いない。一方で、ロシアの家計の金融リテラシーがなお低いというという状況があることも否定できない。その結果、無理な借金をした人が返済苦から自殺するといった記事がマスコミをにぎわすことになる(Financial Times, 2013/02/13;Ekspert, No. 41, 2013)。

供給側の要因としては、まず景気回復とともに法人、家計の預金も 貸し付けと同様に増大したことが挙げられる。銀行は貸し付けのための原資を容易に調達することができた。加えて、リーマン・ショック後の金融緩和策が金融機関に流動性を供給した。この状況下で、Home Credit and Finance Bankのような消費者金融に特化した銀行だけでなく、国有系の大手銀行も高利回りを確保できる対家計貸し付け業務の拡大に力を入れた (Financial Times, 2013/02/13など)。法人の預金が増えるということは、法人が実物投資をあまり増やさず、従って法人の資金需要もさほど伸びなかったことになる。 そのような中で家計は貸し付け先として魅力的になったわけだ。

ロシアの消費者金融ブームが2014年の追加抑制策で落ち着くのかどうかは、今後の推移を見守るしかないだろう。この消費者金融ブームがこれからどうなっていくのかは、家計の金融リテラシーの成熟度や、金融当局の監督手腕の試金石として興味深いだけではなく、ロシア経済の本質を見極める上でも貴重な材料である。ロシアの場合、資源価格の高騰は資源部門の実質生産増をほとんど伴っていない。つまり、資源価格の高騰は確かにロシアに外貨をもたらしているが、生産を増やす直接の要因にはなっていないのである。

ロシアの資源部門の好調が、どのようなメカニズムで資源部門以外の産業の成長を促進し、家計所得を増やしているのか、実はそう簡単には説明できない。資源ブー ムの実体経済への直接的な影響は、かなりの部分が輸入品販売サービスの好調に反映されていると見る向きもある。これ以外の資源ブームの実体経済への影響は、直接的な影響というより経済の先行きに対する期待感の改善がもたらしている可能性がかなりある。もしそうであれば「将来所得が増加する」という必ずしも根拠がはっきりしない期待に基づいて家計が借り入れを増やしているのが、現在の消費者金融ブームということになる。ロシアの実体経済の多様化と成長が前進せず、所得増が幻に終われば、対家計貸し付けブーム終了後には家計債務だけが残ることになる。あるいは逆にこの消費者金融ブームが実体経済の現実の成長を促すことになるかもしれない。消費者金融ブームの行方は、ロシア経済の成長の分かれ目となるといえるだろう。


参考文献
・Stephan Barisitz,Credit Boom in Russia despite Global Woes, Financial Stability Report, 26, December 2013, Oesterreichische Nationalbank
・久保庭真彰『ロシア経済の成長と構造』(岩波書店、2011年)

[執筆者]中村 靖(横浜国立大学国際社会科学府教授)

※この記事は、2014年1月9日で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205


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