対ロシア経済制裁下にあるカザフスタンの経済特区政策 -中馬 瑞貴

カザフスタン国旗

概要

対ロシア経済制裁による経済への影響を懸念するカザフスタンでは、これまでの経済多角化、イノベーション政策に加え、インフラ整備と中小企業支援を重視する新しい経済政策を発表した。この政策実現の鍵の一つとなるのがカザフスタン各地に広がる経済特区への積極的な投資誘致政策だ。

はじめに

対ロシア経済制裁は、ロシアと経済統合を進める隣国カザフスタンの経済にも影響を及ぼしている。昨今こうした影響を懸念したカザフスタンのナザルバエフ大統領は、2014年11月に例年より2カ月早く国民に向けて年次教書演説を行い、予算や政策 の見直しが必要であることを認め、同時に新しい経済政策「N urly Zhol(将来への道)」を発表した。演説の中で同大統領は、インフラ整備と中小ビジネスの発展に追加予算を拠出することを発表し、新しい投資誘致のために各地で進められている経済特区開発の重要性を指摘した。ロシアほどでないとはいえども、カザフスタンは世界第9位の広大な領土を抱え、地方都市が点在し ており、地域開発、地方への投資誘致は近年の国家政策の主軸であり、経済特区政策は注目を集め始めている。

経済特区とは?

カザフスタンでは、1990年代初めから経済特区開発が行われていたが、当時は法律や制度が整備されず、汚職のまん延によって予算も適切に利用されなかったためにほとんど機能していなかった。しかし2000年代以降、外資誘致および地域開発 の一環として経済特区が再び注目されるようになると、経済特区の効率性や機能性を向上させるために法整備が進められ、2011年7月に現行の経済特区法 (以下「2011年経済特区法」とする)が制定された。

2011年経済特区法によると、経済特区設立の目的は「高度な生産性と競争力を持つ最新鋭 の生産の開発、さまざまな経済分野や地域への投資・新技術の誘致、国民の就業率の向上」、つまり、近年カザフスタンの経済政策の主軸である「経済多角化」 「イノベーション」「地域開発」の実現ツールとなっていることが分かる。

なお、カザフスタンでは経済特区の存続期間は特区の設立から25年と定められているので、特区への企業の入居時期に関係なく、特区設立から25年が経過すると、特区は廃止される。特区が廃止されると、入居企業は土地法が定める手順でその区画を買い付ける権利が与えられる。

経済特区の管理と運営

経済特区に関する国家の基本方針を立案するのは、共和国政府、主に投資発展省であり、実質的な調整機関は同省傘下の輸出・投資庁「KA ZN EX IN V ES T」である。各州やアルマトイ市・アスタナ市の行政府が特区に関する国家政策の実施主体となり、特区の設置を申請することができる。また、より質の高い管理・運営を実現するために、各経済特区にはそれぞれの管理会社が設置され、実質的な特区の管理・運営を行っている。管理会社は合弁企業の形を取り、
共和国政府や地方行政府だけでなく、国内外の法人も管理会社となることができる。経済特区管理会社の機能は以下のように定められている。
1) 経済特区の活動に関する国家機関との協力
2) 補助的な事業を遂行する者に対する土地区画の利用(転貸借)提供、インフラ施設の賃貸借(転貸借)
3) 事業遂行契約の締結および解約
4) 経済特区入居企業からの年次報告に基づく、経済特区の事業成果報告書の提出
5) 経済特区入居企業の誘致
6) インフラ建設、その他の事業の遂行を目的とした投資誘致
7) 経済特区の入居企業に引き渡されていない土地区画におけるインフラ建設の遂行
8) ワンストップ窓口の原則に則したサービスセンターの活動に必要な窓口の運営
9) 経済特区に搬入された商品に関する実際の消費状況の確認
10) 事業契約の条件遂行に対するモニタリング

また、カザフスタンではもともと、国家政策を地方で推進するための「社会事業公社(S P K)」と呼ばれる組織が各地に存在するが、このS P Kが経済特区のインフラ整備の実施を担当しているケースもあり、経済特区の運営に関しては地方ごとに特色がある。

10の経済特区

2015年1月現在、カザフスタンには「アスタナ・ニューシティー」「アクタウ港」「ITパーク」「南」「国営石油化学工業団地」「ブラバイ」「ホルゴス-東の窓口」「サルィアルカ」「パヴロダル」「ケミカルパーク・タラズ」という10の経済特区が存在する。これらの経済特区では各地域の特徴を生かすための優先分野が定められており、例えば地下資源が豊富なアティラウの国営石油化学工業団地では資源(特に石油) を利用するために石油化学が、中国との国境付近でロジスティック分野での協力プロジェクトが進むホルゴスではロジスティックが優先分野となっている。

2014年9月末時点で、10の経済特区への登録企業は516。地下資源関連企業、賭博ビジネス従事者など、経済特区の入居企業として申請することが不可能な業種もあるが、基本的には国内企業であれ、外国の法人であれ、経済特区の入居企業となることができる。

これらの経済特区の中には「ITパーク」のように経済特区に関する法整備が始まるより前から開所しており、すでにインフラ整備が完了し、入居企業が活発に生 産活動を行っている経済特区もあれば「サルィアルカ」や「パヴロダル」のように設置されたばかりでインフラ整備は途中段階にあるもののすでに幾つかの投資 プロジェクトが確定しており、入居企業は工場の建設をスタートさせ、引き続き、進出企業の誘致に力を入れようという経済特区もある。また「ケミカルパーク・タラズ」のように開発がまだ始まったばかりで入居企業の誘致はこれからという経済特区もある。

図1 カザフスタンの経済特区

図1 カザフスタンの経済特区

図2 各経済特区の特徴

図2 各経済特区の特徴

出所:図1、2共にKAZNEX INVESTの資料およびウェブサイトより筆者作成

結びに代えて

2015年1月、カザフスタン投資発展省は地方ごとに異なる経済特区の管理体制を統一する ための新たな組織「統一経済特区管理調整センター」を設置する計画案を共和国議会で発表した。カザフスタンは地域格差が大きく、経済特区ごとに優先分野も 異なるので、一元的なルールを導入・適用することはなかなか難しいと考えられる。とはいえ、年始早々の法案提出は政府が中心となって経済特区開発に力を入れていく方針であることを明確に示しており、今後の進展に注目が集まるだろう。


参考文献
・中馬瑞貴「カザフスタンの経済特区政策と現状」『ロシアN IS調査月報』2014年3月号
・ K.A .ネフマトゥリナ「R ole of S pecial Econom ic Zones in D evelopm ent of the R epublic of Kazakhstan」『M iddle-East Journal of S cientific R esearch』15 (11), 2013
・「S pecial Econom ic Zones in Kazakhstan」(P P T版、輸出・投資庁「KA ZN EX IN V ES T」提供資料)

[執筆者]中馬 瑞貴(ロシアN IS貿易会ロシアN IS経済研究所研究員)

※この記事は、2015年2月9日で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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