油価下落とアゼルバイジャン経済 -蓮見 雄

アゼルバイジャン共和国

概要

アゼルバイジャンはBPなど外資との協力によって資源開発を促し経済発展を遂げたが、それは油価依存型構造をもたらした。油価下落によって石油基金は減少に転じ、ばらまき政策ができなくなる中、外資との協力強化と産業の近代化はアゼルバイジャンの喫緊の課題となっている。

1.アゼルバイジャン経済概観

アゼルバイジャンのイリハム・アリエフ大統領(以下「アリエフ大統領」とする)は2015年1月10日、首都バクーにて開催された拡大閣僚会議において2014年の経済を総括し「実質国内総生産(GDP)成長率2.8%、インフレ1.4%。アゼルバイジャン国内への新規投資は計270億ドルであり、そのうち160億ドルが国内からの投資、残りが海外からの投資となった」と報告した。

アゼルバイジャンは1990年代後半から、カスピ海における石油投資ブームを背景に順調な経済発展を遂げていたが、2008年の世界金融危機はアゼルバイジャン経済を直撃した。その後カスピ海における原油生産拡大に伴い、経済は回復基調となったが、2011年以降は同国の原油生産量は減少している(後述)。現在は再び回復基調にあるが、輸出額の9割以上を原油・石油製品・天然ガスが占めており、産業の近代化が喫緊の課題となっている。

独立直後のアゼルバイジャンは混乱していたが、故ヘイダル・アリエフ氏が1993年6月に同国3代目の大統領就任した後、国は安定した1。その後、故ヘイダル・アリエフ大統領はカスピ海の海洋開発に積極的に乗り出し、英国大使にカスピ海海洋開発を相談した。英国大使はBPを推薦して、ここに故ヘイダル・アリエフ大統領・BP・アゼルバイジャン国営石油会社(SOCAR)の協力関係が始まった。

2012年末現在のアゼルバイジャンの戦略的外貨準備高(石油基金+金・外貨準備高)は460億ドルであったが、2013年末現在に500億ドルとなった。2014年4月1日現在の国家戦略外貨準備高は過去最高の530億ドルに達したとアリエフ大統領は発表した。だが、2015年1月1日現在の国家戦略外貨準備高は508億ドルへと減少している2


1 現在のイリハム・アリエフ大統領は故ヘイダル・アリエフ大統領の長男
2 Azer Press(2015.2.9)

2.アゼルバイジャンの原油・天然ガス生産量推移

アゼルバイジャンのバクー陸上油田は世界最古の商業油田といわれる。1848年に原油の商業生産開始後、1900年には世界の原油生産の約半分がバクー油田であった3。 しかし、陸上原油は既に生産量が減退している。原油生産量も2010年以降減少しており、政府は生産拡大のため、積極的に外資誘致策を推進している。ソビエト連邦崩壊後、1993年にアゼルバイジャン大統領に就任した故ヘイダル・アリエフ大統領はBPとアゼルバイジャン領海カスピ海の海洋油田開発に乗り出した。カスピ海のアゼリ・チラグ・グナシリ海洋鉱区(ACG鉱区)では、1997年11月に原油生産が開始された。

アゼルバイジャン政府は2014年10月、同国の原油生産量予測を発表した。2014年の原油生産量は4,165万トン、2015年は4,062万トン、2016年は4,077万トン、2017年は3,942万トン、2018年は4,032万トンとの見通しである4。これまでのアゼルバイジャンにおける原油・天然ガスの生産量推移は図の通りである。

図 アゼルバイジャンの原油・天然ガス生産量推移

図 アゼルバイジャンの原油・天然ガス生産量推移

出所:SOCAR資料を基に筆者作成

アゼルバイジャン国家統計委員会発表の2014年の原油生産量は4,190万トン(前年比2.9%減)、天然ガス生産量はグロス297億立方メートル、ネット187億立方メートルとなった。原油輸出量は3,300万トン(同3.5%減)、天然ガス輸出量は86億立方メートル(同17.6%増)となった。 2010年を境に2011年から原油生産が漸減しているが、これはカスピ海ACG鉱区における原油生産量の減少によるものである。SOCARのアブドラエフ社長は2013年9月、2010年以降アゼルバイジャンの原油生産量は減少しているものの、2013年に底を打ち、2014年以降は回復するとの見通しを発表したが5、実際には減少傾向が続いている。

今後の原油生産量回復の鍵は、外資導入によるカスピ海海洋油田開発プロジェクトである。アゼルバイジャンで最初に調印されたAzerbaijan International Operating Company(AIOC)プロジェクト(ACG海洋鉱区/1994年9月調印)では、1997年11月生産開始以来、2014年末までに累計約4億トンの原油が生産された。ここで生産される原油の大部分は、輸送のチョークポイントとなるボスポラス海峡を通過せず、バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプラインで、トルコの地中海沿岸ジェイハン基地より世界市場に出荷されている。しかし、これ以外、カスピ海では原油商業生産は始まっておらず、今後の原油生産回復・増産のためには、カスピ海海洋鉱区のさらなる探鉱・開発が必要である。カスピ海沿岸5カ国ではカスピ海海洋鉱区の探鉱・開発に進出しているが、国によって開発速度に濃淡があり、最も進んでいるのはアゼルバイジャンである。

3 SOCAR資料
4 2013年の原油生産量は4,315万トン。内訳は、ACG原油3,220万トン、Shah Deniz 248万トン(ガス・コンデンセート)、残りはSOCARとなった(合弁会社を含む)。
5 RusEnergy(2013.9.23)

3.アゼルバイジャン国家石油基金(SOFAZ)の概要

1)SOFAZ設立の経緯と目的

SOFAZ は1999年12月29日付「SOFAZ設立に関する」大統領令No.240により設立が決定され、1年後の2000年12月29日付大統領令No.434によって運営形態が確立した。その後、2001年6月19日付「SOFAZ資産運営規定(Asset Management Rules:AMR)」に関する大統領令No.511により、実務を開始した。

SOFAZ設立の目的は、アゼルバイジャンの天然資源収入を効率的に運用して、現世代および次世代の福祉向上に活用することであり、その後の政治・経済の安定化に寄与した。SOFAZ設立は故ヘイダル・アリエフ大統領の功績といってよいだろう。

2)SOFAZ資産の収入源と支出

SOFAZの収入源は生産物分与契約(PSA)の国家取り分・PSAボーナス・投資運用益・アゼルバイジャン領内における天然資源トランジット収入・無償援助金などである。SOFAZは収入の約半分を国庫予算に編入している。国家的規模のプロジェクトにも財政支援しているが、2013年からは海外の不動産購入を開始した。また、同年から金(Gold)の購入も開始したが、購入後に金価格が下がったため、評価損を出している可能性がある。

3)SOFAZ資産の現状

ACG鉱区では1997年11月に原油生産が始まり、SOFAZは1999年 12月からプロフィット・オイル(PSAに基づく原油収入)の受領を開始した。以後、2015年1月末までにACG鉱区から累計1,110億ドル以上のプロフィット・オイルを得ている。なお、SOFAZ収入の9割以上がACG鉱区によるものといわれている。

アリエフ大統領はSOFAZに対し、2015年度国家予算に石油基金から104億マナト(132億ドル)を編入するよう指示した。この編入額は2015年度国家予算歳入案の53.4%に相当し、過去最大の国庫編入金額となった6

また、アリエフ大統領は2015年1月19日、SOFAZの2015年度予算案を承認した。同予算によれば、収入102億5,000万マナト、支出は118億 1,000万マナトであり、収入のうち99億4,000万マナト(97%)がPSAからの収入となる(2015年2月の平均為替レートは1マナト≒1.27ドル)。


6 Azer Press(2014.11.12)

4.アゼルバイジャン経済に対する油価下落の影響

アリエフ大統領は2014年12月24日、2015年度国家予算案に署名した。同予算によれば、2015年の国庫歳入は194億マナト、歳出は211億マナトで、17億マナト(GDP比2.8%) の赤字となった(2014年度国家予算は、歳入184億マナト、歳出200億マナトで16億マナトの赤字であった)。想定油価は1バレル90ドルである。

アゼルバイジャン政府は2015年2月現在、2015年度国家予算案の見直しを検討中である。想定油価90ドルは50~60ドル程度に引き下げられることになるだろう。ア ゼルバイジャン経済は、いわば「油上の楼閣」である。油価高騰・高止まりは、アゼルバイジャン経済にとって必ずしも良い結果を生むわけではない。油価上昇局面では、国民に対するばらまき政策も可能だが、産業の近代化への意欲が遠のいてしまう。逆に油価の下落は、経済を直撃する。

アゼルバイジャン統計委員会発表によれば、2014年(1~12月)の貿易総額は310億2,000万ドル(前年比10.6%減)となり、そのうち輸出額218億 3,000万ドル(同9.0%減)、輸入額91億9,000万ドル(同14.2%減)で、126億4,000万ドル(同4.7%減)の黒字となった。輸出額のうち、原油84.3%、石油製品6.3%、天然ガス1.4%(計92%)であった。これまでは原油・石油製品・天然ガス総計が94%以上を占めていたので、 油価下落が影響している。

世界銀行のアゼルバイジャン担当者は、2015年2月9日、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された第4回税 務会議において、アゼルバイジャン経済はこのままでは中長期的に困難に陥ると予測した。世界銀行の油価予測は、2015年は1バレル53ドル、2016年 は同57ドルになっており、アゼルバイジャンの油価依存型経済構造に警鐘を鳴らした。なお、アゼルバイジャンの代表的油種であるアゼリ・ライトの2015 年1月中旬の平均輸出油価は1バレル49ドルとなっている(同期間の北海ブレント同46ドル、ロシア・ウラル原油同43ドル)。アゼリ・ライトの2014 年平均輸出油価は1バレル105ドルであり、油価は半減したことになる。

この結果2015年2月21日、アゼルバイジャン政府はマナトの 対米ドルの公式レートを1ドル=0.78マナトから1.05マナトへと3分の1以上切り下げた。この大幅な通貨切り下げは、90ドルの油価を想定していた国家予算の減少分を相殺する役割を果たす。しかし、通貨安はインフレを刺激し、外債の負担を急増させる。2014年の融資の27.2%は外貨建てであった。しかも、2015年年初から、多くの銀行が通貨切り下げを懸念してドル建ての消費者金融を強化していた7

2014年、アゼルバイジャン国家戦略備蓄額(金・外貨準備高+石油基金)が初めて減少に転じた。さらに通貨切り下げによりインフレが進むとともに、債務負担が膨らみ、国民の不満が高まる可能性が生じている。石油基金が減少し、ばらまき政策が不可能になるとき、国民はアリエフ政権に不満を表明し、同国の政治・経済は不安定化するかもしれない。油価依存型経済構造から脱却するために、産業の近代化を目指したプランと外資との協力を強化する政策に真剣に取り組むべき時が来ているようだ。


7 Коммерсантъ, No.31(2015.2.24)

付記:本稿執筆に当たり、杉浦敏広氏から資料提供、助言など協力を得た。

[執筆者]蓮見 雄(立正大学経済学部教授、ユーラシア研究所事務局長)

※この記事は、2015年3月10日で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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