ロシア極東に企業を呼び込め-ビジネス重視の極東開発戦略への転換-堀内 賢志

ロシア国旗

概要

ロシアの極東地域開発はトルトネフ全権代表とガルシカ極東開発相の下、外資を含む民間投資と効率性を重視したものへと転換し、先進発展区域構想が政策の目玉となっている。経済危機の状況下で政策は、より効果的で採算性の高いものに修正されたが、プーチン大統領の極東開発重視は変わらない。

トルトネフ極東連邦管区大統領全権代表兼副首相(以下全権代表)とガルシカ極東開発担当相の下、ロシアの極東地域開発は、外資を含む民間投資と効率性を重視したものへと転換した。その政策の目玉が「先進発展区域」構想である。経済危機の状況下で、その政策は、より効果的で採算性の高いものに絞り込む形で修正されたものの、プーチン大統領の極東開発重視は変わらない。

ビジネス重視のトルトネフ全権代表、ガルシカ極東開発相の就任

発展著しいアジア太平洋諸国に近接しながら、人口が少なく開発の遅れた極東地域にいかに高付加価値の産業を発展させるかという問題は、プーチン政権の重要課題の一つとなってきた。この極東開発 が、2013年9月のトルトネフ全権代表、ガルシカ極東開発相の就任以降、重要な展開を見せている。

それまでこの両者の職を兼務していた元ハバロフスク地方知事のイシャーエフ氏は、旧ソビエト連邦(旧ソ連)末期から極東地域開発に携わってきた重鎮であったが、国家財政からの大規模投資によるインフラ開発を続けていた。彼の下で策定された、2025年までの「極東バイカル地域社会経済発展国家プログラム」は、政府が承認した額をはるかに超える拠出額を連邦予算に要求するものとなった。これまでの極東開発プログラムは、計画に対して実際の執行率の低さが問題となっていたようである。

代わって全権代表となったトルトネフ氏は、ペルミ州で旧ソ連末期からビジネスを成功させた後、ペルミ州知事、天然資源相を歴任した、プーチン大統領の信頼が厚い人物である。一方、弱冠38歳で極東開発相に就任したガルシカ氏は、民間のコンサルティング会社社長として台頭し、プーチン大統領に政策提言を行う非資源・加工産業の若い企業家による団体「ビジネス・ロシア」の共同議長、またプーチン大統領を支持する経済・社会団体により結成された「全ロシア国民戦線」の共同議長を務めた。イシャーエフ氏とは対照的に、彼らは極東地域に拠点を持たず、市場経済下のビジネスにおいて成功した経験を持ち、同時にプーチン政権と密接な関係を築いてきた人物である。

ガルシカ極東開発相の下、極東開発省には外資導入により目覚ましい経済成長を遂げたカルーガ州から元副知事のシェレイキン氏が次官として就任した他、民間企業の出身者など30~40代の若手が幹部に抜てきされた。省の組織も大きく改編され「直接投資誘致・輸出および対外経済活動支援局」「投資プロジェクト実施協力・随伴局」「先進社会経済発展区域(以下「先進発展区域」)・インフラ局」「人的資本管理・労働資源発展局」など、民間投資導入と輸出促進に関わる部局が立ち上げられた。

「先進発展区域」の免税と規制緩和

トルトネフ全権代表とガルシカ極東開発相は、就任から間もない 2013年10月の極東地域発展政府委員会の会議において、極東地域にアジア太平洋諸国への輸出に向けた製品の生産を発展させるという開発方針を提示した。それを実現するための施策として提案されたのが「先進発展区域」と呼ばれる、新たなタイプの経済特区の創設である。

すなわち、極東地域の発展の核となるような産業創設の条件を持つ場所を絞り込み、そこに外資を含む民間の投資を導入するための特恵税制や規制緩和、インフラなどの環境を集中的に整備して、高い技術力を持った企業を誘致する。そうした区域のネットワークを通じて、地域全体の活性化を図るという考え方である。これは、国家財政 により広大な極東地域全般を対象として大規模なインフラ整備を進めるという在り方からの大きな転換であり、またアジア太平洋諸国との経済関係の深化と資源 輸出依存からの脱却を強く志向するものである。この提案はプーチン大統領に強く支持され、2013年末の大統領年次教書演説に取り入れられた。その後、極東開発省によってその実現に向けた法案が策定され、2014年11月から12月にかけて「ロシア連邦における先進経済社会発展区域に関する連邦法」とその関連法が成立した。

経済特区という制度は、特にアジア太平洋地域においてすでに多くの国々で導入されている。そうした中で、先進発展区域の導入に際しては、中国や韓国、シンガポールなどの成功例を研究し、それらの特区に対しても競争力を持つような条件の創出を目指したとしている。

一般に経済特区に関して導入される特恵措置には、税負担の免除・軽減とそれ以外の規制緩和があるが、先進発展区域はその双方を併せ持つタイプの特区である。 税制については、特に通常20%である法人税に関して、そのうち2%のロシア連邦(連邦)分は5年間免除となり、また18%の連邦構成主体分は、最初の利益を得たときから5年間は5%以下、それに続く5年間も10%未満となる。土地税、資産税は免除、天然資源採取税も10年間は免除もしくは軽減される。区域内は自由関税地区の関税手続きが適用され、居住者が区域内で利用するために輸入される商品・業務・サービスには関税が免除される。さらに、通常30%である社会保険料も10年間にわたり7.6%に軽減される。この他、不動産の賃料の優遇などの措置も定められている。

一方、規制緩和を通じて行政的な手続きの簡素化と利便性の向上を実現する多くの措置が盛り込まれている。区域を管理する管理会社に、通常国家機関・自治体機関が行う各種の管理・監督権限を委譲し、同時に徴税や通関、移民管理その他に関わる国家機関の支部を区域内に設置することで、もろもろの行政手続きを迅速にまとめて行うことが可能となる。また区域内では、国家・自治体機関による検査や環境審査などの行政的手続きに要する期間を短縮する特別な規則が適用される。さらに外国人労働者の誘致・活用の際も、クオータ(割り当て)枠の適用外となり、許可を得る必要はなくなる。

上記の法の発効から3年間は、先進発展区域を設置できるのは極東連邦管区の域内と、経済社会的に困難な状況に置かれたモノゴーラド(単一企業もしくは少数の関連企業の企業城下町)のみであり、その後は他の連邦構成主体でも設置できる。また先進発展区域の設置期間は70年であり、ロシア政府の決定により延長も可能である。

開発政策の選択と集中

極東開発省は、極東地域内における400以上の先進発展区域の候補を検討し、潜在的な投資家が実際に存在するかどうか、またインフラなどの条件がすでに整備されているかどうかという観点から、これまでに17の候補区域を選定している。こうした基準が適用された結果として、その多くは沿海地方、ハバロフスク地方、アムール州など極東地域南部の産業集積地に集中した。

その後、さらにここから創設を開始する区域として三つが選定され、2015年2月にトルトネフ全権代表、ガルシカ極東開発相を議長として開催された小委員会において承認された(表1)。この三つの区域は、極東地域における最大の産業集積地、もしくはその隣接地域にある。国家や自治体の財政からの投資予定額が62億ルーブルであるのに対し、民間企業から504億8000万ルーブルの投資が予定されており、また7,000人を超える雇用創出が見込まれている。すなわち、投資条件が整い実際に投資が見込め、また採算性が高く地元への経済効果の大きい、ごく少数の区域に絞り込まれている。

【表1:先進発展区域】 (金額単位:1億ルーブル)

【表1:先進発展区域】 (金額単位:1億ルーブル)

出典:極東開発省ウェブサイト
(http://minvostokrazvitia.ru/press-center/news_minvostok/?ELEMENT_ID=2959)

「ハバロフスク」は、ハバロフスク市の「アヴァンガルド」産業パーク、ハバロフスク空港、そして金属、建築資材、食品工場などの設置が予定されているハバロフスク市近郊ラキトノエ村の3カ所からなる。「コムソモリスク」は、市の産業を支える「コムソモリスク・ナ・アムーレ航空機生産合同」 に向けた部品製造などが行われる予定である。「ナジェジジンスカヤ」は、ウラジオストクに近接しアムール湾に面したナジェジジンスク地区の産業パークであり、プラスチック製品や菓子製造、ロジスティックなどに関連した企業からの投資が予定されている。

また上述した2015年2月の小委員会 では、極東地域内で実施される投資プロジェクトに関しても、39のプロジェクト候補から六つが決定した(表2)。これらは全て天然資源の採掘や加工、輸送に関するプロジェクトであり、約165億ルーブルの国家投資に対して1265億4000万ルーブルの民間からの投資が予定されている。約8,000人の雇用を創出し、2025年までに約876億ルーブルの税収をもたらすと試算された。ここでも、プロジェクトは民間からの多額の投資が見込め、地元に高い経済効果をもたらすものに絞り込まれている。

【表2:投資プロジェクト】

【表2:投資プロジェクト】(金額単位:1億ルーブル)

出典:極東開発省ウェブサイト
(http://minvostokrazvitia.ru/press-center/news_minvostok/?ELEMENT_ID=2959)

これらの先進発展区域や投資プロジェクトに対する潜在的投資家は、現在のところロシア企業が中心であるが、アジア太平洋地域を中心とする国々の企業からも注目を集めている。日本の三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅、伊藤忠商事、双日、豊田通商なども、極東開発省との間でこの先進発展区域に関する協力を含む貿易・投資協力の覚書を締結している。ガルシカ極東開発相も極東地域に対する外資の投資イメージが非常に悪いことは強く認識しており、成果を出しやすい場所での成功事例を積み重ね、情報を発信していくことでこれを改善していく考えのようである。

この先進発展区域とは別に、極東開発省は沿海地方南部地域に「自由港」の地位を与えるという法案を策定中である。この構想は、2014年12月のプーチン大統領の年次教書演説でも触れられた。ウラジオストクを中心とする沿海地方の南部全域を事実上含む形で、70年の期限で、空港を含む港湾地区、工業地区、科学技術導入地区、観光 レクリエーション地区の四つの地区を設置し、自由関税ゾーンとして税・関税の減免を行うというものである。

さらに、人口の少なさがネックとなっている極東地域の発展のために、18歳以上の全てのロシア市民を対象として、同地域への移住者(居住者も含めて)1ヘクタールの国有地を無償で譲渡するという案まで出されている。この案もトルトネフ全権代表がプーチン大統領との会談で提案し支持を得、極東開発省が具体化を進めている。エキセントリックにみえる案だが、帝政ロシア時代のシベリア開発において実施され大きな成果をもたらしたのだという。その実際の効果はともかく、こうした思い切った案も 含めて、極東開発のための諸構想がプーチン大統領の支持を得た形で矢継ぎ早に進められている。

経済危機でも極東開発重視は変わらない

ロシアはウクライナ情勢をめぐり、欧米を中心とする諸国から経済制裁を受け、さらに原油価格の急落、ルーブル・株価の急落に見舞われている。2014年12月、2015~2017年度の予算が成立した。ここでは極東地域の先進発展区域における投資プロジェクト実施のために連邦予算から計420億ルーブル(2015年度:70億ルーブル、2016年度:150億ルーブル、2017年度:200億ルーブル)が計上されたが、これは当初予定されていた890億ルーブルから半分以下に減額されたものである。しかもその後の極 東開発省の発表によれば、2015年度分はさらに1割減の63億ルーブルとなる。先進発展区域が創設される場所が3カ所にまで絞り込まれたのは、こうした財政状況を反映している。

連邦構成主体は域内の先進発展区域に関してインフラ建設に財政責任を負っているが、住民生活のための財政出動も要請されていることから、極めて厳しい財政状況にある。プーチン政権の東方政策に否定的な政治家からは、その政策の転換を主張する声も聞かれるようになった。

しかし、2014年9月に「極東における投資プロジェクトと先進発展区域の国家支援に関する会議」を開催したプーチン大統領は「繰り返したい。極東地域の発展は、わが国の国家的優先課題の一つであり、多くの経済的、社会的、人口学的問題、そして地政学的問題に関してさえも、解決の鍵なのである」とあらためて訴えた。同年12月の年次教書演説でも、「先進発展区域は、極東振興において鍵となる役割を果たすはずである。われわれはこの地域を発展させる大規模な計画について発表した。そして言うまでもなくこれらの計画は実現されるだろう」と言明している。

プーチン大統領は沿海地方の自由港構想についてもこの演説の中で提起しており、移住者への土地の無償供与案も支持するなど、極東地域開発には依然として非常に前向きな姿勢を貫いており、経済危機でも極東開発重視は変わらない。これは、腰を据えて対ロシアビジネスに取り組むべきことを示唆している。

[執筆者]堀内 賢志(早稲田大学地域・地域間研究機構招聘研究員)

(※この記事は、三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2015年4月21日付で掲載されたものです)


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