モンゴルの経済と畜産関連産業高度化のポテンシャル -由川 稔

モンゴル国旗

概要

モンゴルは外国からの直接投資が激減し、国内の資金需要を外債や外資で賄おうと躍起になっているようだ。しかし、貸出先の工夫などで、国内金融の在り方にも改善の余地がある。資源に依存しているとはいえ、高付加価値型畜産品の開発に資金を集めることができれば、モンゴルの投資先としての魅力は格段に 大きくなるに違いない。

1.資源依存のモンゴル経済

モンゴルの国土面積は日本の約4倍だが、人口は2015年2月にようやく300万人を超えた。名目国内総生産(GDP)の推移からみた成長率は、一時期17.5%(2011年)を記録したが、2012年以降急落、国家統計局の速報値によれば2014年に7.8%であった1。2015年中に反転上昇する見込みはないというのが大方の見方で、3%程度の成長にとどまると予測する向きもある2

今のモンゴル経済の柱は、鉱物資源開発である。十数年前、当国の輸出全体に占める鉱業部門の割合は6割弱であったが、今や9割程度にまでなり、GDPに占める割合で約30%、また歳入の約40%を鉱業に依存している3。 ただ現状では、当国内での地下資源の加工、高付加価値化は十分進んでおらず、さらに内陸国であるため、国際的な資源価格の変動や流通事情に激しく左右され る。2009年のGDP水準の急落は、世界同時不況、より直接的には主要産品である銅の国際市場価格の下落が直撃したものであった4

2.都市再開発の大きなポテンシャルと危うさ

首都ウランバートルは人口約130万を擁し、当国最大の都 市であるが、他面、人口の過半数が上下水道の未整備な「ゲル(テント式住居)地区;Ger District, Ger Khoroolol」に住む。このような住環境の改善に関連するインフラ整備事業や都市開発は、投資対象としてのモンゴルのポテンシャルの一つである。

しかし、ゲル地区の再開発には、大きな課題がある。それは、開発による住民の生活様式の変化と切り離すことのできない水源の確保と上下水道システムの整備である。ゲル地区の再開発によって集合住宅化が進むと、水の使用量が10~40倍増加するとみられており、再開発がうまく進めば進んだで、深刻な水不足の発生が懸念されているのである5

そのため、ここ数年国際協力機構(JICA)もウランバートル市全体の都市機能強化や水源確保に協力してきているが、成果が目に見えて表れるまでには、なお年月を要するであろう。

また、たとえ新たな水源が開発されて、上水の供給が需要に応じて増加したとしても、それだけでは下水処理が追い付かない。現状、1960年代仕様の浄化施設や配管などの設備は老朽化が激しく、下水の処理能力は既に全く不十分である。

この10年ほどでウランバートルという都市空間は大きく様変わりした。銀行の貸出残高の推移を見ても不動産や建設といった分野が顕著な伸びを示してきた。古い低層建築が新しい高層建築に変わり、平地が続く東西方向に都市が延長・拡大していくプロセスは、確かにダイナミックであるが、上述の「水」の一例のように、根本的な危うさも伴っている。

ここで重要なのが、適切な資金配分と人材配置であり、それを今後何年にもわたって継続できて初めて、都市機能が強化されるのである。日本が、この点に留意しつつ地道な経済協力を継続できれば、モンゴルの都市再開発は、近い将来、魅力的な投資プロジェクトとなる可能性を秘めている。

3.モンゴルの国際的信用を高める日本との経済連携協定(EPA)

2015年2月10日、モンゴルは日 本と経済連携協定(EPA)を締結した。両国間の経済関係に関しては、最近1年間で日本からモンゴルへの輸出が約399億円、モンゴルから日本への輸出が約19億円と、日本が圧倒的な黒字を計上しており、これが構造的にほぼ固定化している6。 しかしそのような中にあっても2009年にバヤル首相(当時)が日本に対してEPA締結を要望し、以後も変わることなくモンゴル側が日本側に働きかけ続けてきた背景には、純経済的な思考ばかりではない。モンゴルが「第3の隣国」と位置付ける国の代表格である日本との政治・経済的な結び付きを「形」としても確保することによって、国際的な信用度を高め、ひいては外国資本を導入しやすくするといった政治的意図がうかがえる。

実際問題として、前述の2012年モンゴル総選挙の前、資源ナショナリズムに配慮した当時の政権が、国策に影響するレベルの重要な地下資源開発案件における外資の権益を制限する法律を定めたところ、図表1に見られる通り、外国からの直接投資は激減した。依存度の高い中国の経済成長の減速の影響も受けて、当国経済は成長率を急落させている中、外債に期待する姿勢も顕著である。

2012年から2013年にかけては「チンギス債」として、5年物を5億米ドル、10年物を10億米ドル、計15億米ドルを売り上げた7。また2013年末には、国際協力銀行(JBIC)が保証を付けた「サムライ債」の発行により、モンゴル開発銀行が総額約300億円を調達することになった8

図表1 モンゴル国への直接投資(2004~2014年) (単位100万米ドル)

図表1 モンゴル国への直接投資(2004~2014年) (単位100万米ドル)

※2014年は12月末速報値
出所:モンゴル銀行 http://www.mongolbank.mn/eng/liststatistic.aspx?did=1_1 より筆者作成

4.金融のポテンシャル

他方で、銀行業を中心とする国内金融セクターにも、状況を改善し、発展していく余地が多分にある。当国には銀行13行以下、多数のノンバンク、保険会社、証券会社、信用協同組合が金融機関として存在するが、資産規模では、 銀行の比重が極めて大きく(96.6%)、それ以外の非銀行金融会社の資産の割合はごくわずかである(3.4%)。現状では、保険市場と資本市場が未発展 であるため、貨幣市場または銀行部門が重要な役割を果たしている9

また、モンゴルの産業はいまだ裾野が狭く、層も薄い。そのため、図表2に見られるように、景気動向が失業率にもよく表れる。国産品が少なく、原材料面でも輸入依存体質が強いモンゴルにとって、国際市場価格の変動を受けたコストプッシュ・インフレ下では、国民所得が目減りしてしまう。

生産・供給の拡大に直結し、たとえ付加価値生産性の面で劣ることがあっても失業者を吸収できる産業に対して政策的な融資を行うことは、国民経済全体から見て重要な意味を持つであろう。

図表2 失業率 (単位:%)

図表2 失業率 (単位:%)

出所:モンゴル国家統計局(Mongolian Statistical Information Service.)http://www.1212.mn/en/(2015年4月付)

図表3で貸出先別の動きを見ると、農牧業のように再生産可能な畜産品を生み出す分野、展開次第では高付加価値化の余地が大きい分野に対する貸し出しの伸び率が、比較的鈍いことが分かる。他方で、不動産や、消費そのものに直結する商業分野などにマネーが優先的に回りがちなことも見て取れる。 こうした場合、生産・供給が伸びない一方で貨幣量の増加に拍車がかかり、貨幣価値は下落し、インフレが生じる。

日本の場合、かつて日本銀行が窓口指導による業種別配分を行った経験がある10。もちろんバブルも経験した。直接的な資金面、そしてハード面のみならず、このような知的ノウハウの面でも、モンゴルに協力できるだろう。

図表3 産業別各期末貸出残高 	(単位:1,000トゥグルグ)

図表3 産業別各期末貸出残高 (単位:1,000トゥグルグ)

出所:モンゴル銀行 http://www.mongolbank.mn/liststatistic.aspx?did=2_2 より各年データを筆者作成

5.畜産関連産業の高度化

モンゴルは地下資源に恵まれており、鉱業分野の高付加価値化は、一見合理的な方向性のように見える。だが、それが国際競争力を持つほどの高度な技術と規模を備えるには、相当な資金が必要であり、外国からの過重な借り入れになってしまうかもしれない。

もちろん、鉱業関連であっても、国内生産によって輸入を代替し得る石油開発および精製といった方向性は、支持されてよい11。しかし同時に、幾世紀もの歴史が育んできた牧畜・畜産の分野で、現代の国際的需要に応じることのできる商品を開発して外貨を得つつ、国内の生産ネットワークを発展させていくことも検討すべき価値がある。

「モンゴルでは毎年1,000万頭の動物を食肉処理しているが、その原材料を十分に活用できておらず、むしろ未利用の原材料の処分に金を支出している。もしもこれが活用され、加工されれば、プロテイン、コラーゲン、化学工業の投入財、医薬品、技術的な手がかり、ゼラチン、動物用飼料その他の膨大な資源となる。 もしもモンゴルが、現在の動物食肉処理に由来する副原材料の5分の1、20%だけでも加工できれば、一人当たりのGDPは16,000米ドル増加する可能性がある。初期段階の加工を行う工場は、モンゴルにとって目新しいものではなく、それらは1990年代に原材料や化学薬品の不足のために打ち捨てられてしまったのである。」11

 このような 畜産関連産業の高度化の利点は、その生産基盤の蓄積が既にあることに加えて、生産物が比較的軽量なため、南北の両隣国だけでなく空路による第三国への輸出についても可能性があることである。鉱業分野の開発に比べれば規模も金額も地味であろうが、かつての日本の農業(コメづくり)がそうした面を持っていたよ うに、雇用の確保という点でも、堅実な策であろう。

モンゴルの歴史と風土に根差しながらも現代的意義を失わない高付加価値畜産品の開発と畜産振興、産業育成に国内の資金を集めることができれば、投資先としての現代モンゴルの魅力は輝きを増すに違いない。


1 http://www.nso.mn/
2 UMC ALPHA Real Estate Investment Management提供資料(2015年4月)http://umc.mn/
3 ”УУЛ УУРХАЙН САЛБАРЫН 2010 ОНЫ ҮЙЛ АЖИЛЛАГААНЫ ТУХАЙ” モンゴル国鉱物資源庁(Mineral Resources Authority of Mongolia)資料
国際協力機構プレスリリース「モンゴル国政府向け円借款契約の調印」http://www.jica.go.jp/press/2010/20101119_01.html
4 「最近のモンゴル経済」(2011年8月)在モンゴル日本国大使館
http://www.mn.emb-japan.go.jp/news/EconomyofMongolia2011Aug.pdf
5 2013年5月現地調査
6 外務省資料http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000067692.pdf
7 チメドダグヴァ・ダシゼヴェグ、ダナースレン・ヴァンダンゴムボ、モンゴル経済を多様化させる金融の挑戦(拙訳)。ロシア・ユーラシアの経済と社会;2014年5月号p.31
8 日本経済新聞、2013年12月17日付記事
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC1601G_W3A211C1EE8000/
9 チメドダグヴァ・ダシゼヴェグ、ダナースレン・ヴァンダンゴムボ:前掲稿p.32
10 リチャード・A・ヴェルナー(吉田利子訳):円の支配者。pp.110~111、204~210、草思社、2001年
Richard A. Werner:”Princes of the Yen”. pp.62-63, 131-136, M.E. Sharpe,2003
11 エンフバイガリ・ビャムバスレン、モンゴル経済の多様化の可能性:未開発の潜在力(拙訳)。ロシア・ユーラシアの経済と社会;2015年1月号p.15

[執筆者]由川 稔(大東文化大学経済学部非常勤講師、聖学院大学政治経済学部非常勤講師)

※この記事は、2015年6月4日付で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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