ルーブルの動向と足元のロシア経済 -一ノ渡 忠之

ロシア国旗

概要

2015年年初から年央にかけ、原油価格の緩やかな持ち直しやウクライナ東部紛争の沈静化を受け、通貨ルーブル(対ドル)が落ち着きを見せている。この間、ロシア中央銀行(中銀)は4度にわたる利下げを実施した。こうした中、格付け機関が相次いで2015年のロシアの成長率見通しを上方修正している。しかし、ルーブルの下落リスクが残されている他、足元の経済指標は悪化しており、今後も予断を許さない状況が続くとみられる。

変動する為替相場

(1)2014年末のルーブル急落

2014 年のロシアの為替相場(以下、対ドル)は、1月の米国連邦準備制度理事会(FRB)によるテーパリングの開始と新興国からの資金の逆流、3月のクリミア編入とウクライナ東部紛争をめぐる欧米諸国からの対ロ制裁、ロシア経済の先行き不透明感の高まりなどを受け、下落圧力にさらされた。しかし、同年秋口まではロシア中銀による415億ドル規模の外貨売り介入と計3度にわたる利上げ(計250ベーシスポイント(bp))によって、為替相場は小幅な上下変動にとどまり推移してきた。

しかし、2014年秋口以降、原油価格と為替相場の下落が一段と進んだことから、ロシア中銀は為替相場下落の回避と企業、銀行の外貨需要に応えるため一連の施策を講じた。まず、9月から10月にかけて翌日物外貨建てスワップおよび外貨建てレポオークションを開始し、市場への外貨供給の拡大を図った(表1)。また、11月から12月にかけ、ロシア中銀は3度の利上げ(計900bp)を実施し為替の安定に努めた他、政府系輸出企業に対し外貨保有上限を設定し、残る外貨の売却を指示した(事実上の資本規制措置)。さらに、新たに外貨建て融資を担保とする外貨供給(外貨建て担保借入)も開始した。こうしたロシア中銀による一連の市場向け外貨供給措置が奏功し、12月中に一時80ルーブル台を突破した為替相場は、同年末に56ルー ブル前後へ持ち直した。

表1 為替相場の下落に対するロシア中銀、政府の主な対応(2014年9~12月末)

表1 為替相場の下落に対するロシア中銀、政府の主な対応(2014年9~12月末)

※2014年11月5日から12カ月物を導入した他、12月4日には外貨建てレポオークションの最低金利をLIBOR+0.5%へ統一した。出所:ロシア中銀、各種報道を基に筆者作成

(2)2015年上期の為替相場はやや落ち着く

2015年1月の為替相場は、原油価格が1バレル当たり50ドルを下回る水準に達したことに伴い再び下げ足を速め、65ルーブル前後で推移した。さらに、同月末にスタンダード・アンド・プアーズ (S&P)が、ロシアのソブリン格付けを引き下げたこと(「BBB-」から「BB+」へ)、ロシア中銀が予想外の利下げを発表したこと(200bp、実施は同年2月2日)が追い打ちをかけ、2月初旬の為替相場は一時70ルーブル近辺まで下落した(図1)。

図1 原油価格とルーブルの推移

図1 原油価格とルーブルの推移

出所:Datastream

しかし、2月に入ると状況は一転し、同月後半にかけて原油価格がやや持ち直す中、為替相場も緩やかに上昇した。特に、2月12日にウクライナ東部の和平交渉が合意に至った(ミンスク2)ことを受け、市場でウクライナ東部情勢の沈静化への期待が高まったことも影響した。同月20日には、ムーディーズ・インベスターズ・サービスもロシアのソブリン格付けを引き下げたものの(「Baa3」から「Ba1」へ)、影響は限定的であった。

3月以降は、サウジアラビアがイエメンの内戦に軍事介入したことで中東における地政学的リスクが高まったことや、4月に米国エネルギー情報局(EIA)が米国のシェール オイル生産の減少見通しを発表したことを受け、原油価格は1バレル当たり60ドルを上回る水準で推移した。これに伴い、為替相場も上昇基調をたどり、5月中旬から下旬にかけて50ルーブルを割り込む水準となった。もっとも、ロシア中銀の利下げなど(後述)を受け、足元の為替相場は緩やかに下落しており、 2015年6月16日時点では54.07ルーブルとなっている。

2.ロシア中銀による4度の利下げ

2015年1月30日、ロシア中銀は2011年12月以来となる利下げを発表した(200bp、実施は同年2月2日)。インフレ局面にあったため、市場関係者にとって予想外の利下げとなった。背景には、2014年12月の 急激な利上げ(650bp)を受け、企業の借り入れ需要が冷え込み、景気減速が深まることを懸念したためである。当時、ロシア中銀のナビウリナ総裁は「イ ンフレ抑制と経済成長の回復のバランスを取ることを考慮したもの」と説明し「金利は物価上昇率の中期的目標を達成するには十分高い水準にある」とコメントした。

2015年に入り2度目となる3月13日の利下げ(100bp、実施は同年3月16日)も同様に、景気減速に配慮したものとなった。もっとも、3月の利下げは、インフレが一段と加速する局面(1月+15.0%→2月+16.7%→3月+16.9%)にある中で実施されたため、インフレ・ターゲティングを進める中銀の信頼性に疑問を呈する向きもあった。

3度目となった2015年4月の利下げ発表(150bp、実施は 同年5月5日)以降は、市場ではロシア中銀が財政や輸出への影響に配慮し、ルーブル安を誘導しているとの見方が一部浮上している。例えば、3度目の利下げはリスクが低下したとはいえ、インフレ率が+16.4%となお高水準にとどまっていた折の決定であり、しかも利下げ幅は市場予測(100bp)を上回るものであった。また、4月に為替相場が上昇局面を迎える中、ロシア中銀はそれまで進めてきた市場への外貨供給オペ(外貨建てレポオークション、外貨建て担保 借入)の金利を3度にわたり引き上げた他1、6月には外貨建てレポオークション(1年物)を停止した。ロシア中銀は市場における外貨需要が減少したと説明するものの、4月から5月にかけての外貨需要の減少が金利の引き上げを受けたものにすぎないとの見方もある(図2)。


注1 2014年12月4日にLIBOR+0.5%で統一された外貨建てレポオークションの金利は段階的に引き上げられ、2015年4月21日から1週間物、1 カ月物についてはLIBOR+2.00%、1年物についてはLIBOR+2.50%となった。また、外貨建て担保借入の金利も、当初の LIBOR+0.75%から段階的に引き上げられ、1カ月物についてはLIBOR+2.25%、1年物についてはLIBOR+2.75%となった。

さらに、ロシア中銀は2015年5月13日から市場で日額1億~2億ドルの外貨買い介入を再開した。今後、外貨準備高を5,000億ドルの水準に積み増す予定である。期限が設定されていない他、介入額が小規模のため為替に対する影響は限定的との見方もあるが、ロシア中銀は介入開始以降、ほぼ全日にわたり外貨を購入しており、その額は同年6月中旬までに約40億ドルに達している。介入がこのまま長期化するようであれば、為替への影響が少なからず表れる可能性がある。

もっとも、4度目となる2015年6月15日の利下げ発表(100bp、実施は6月16日)においては、ロシア中銀は引き続き景気 減速への対応を重視し、追加利下げを行う方針を示した。その一方で「今後数カ月間のインフレリスクを考慮し、一段の利下げの可能性は限定的となる」と指摘し、インフレに対する警戒感を強く示したことから、過度のルーブル安は回避するとみられる。

図2 外貨建てレポオークションの推移

図2 外貨建てレポオークションの推移

出所:ロシア中銀

3.足元のロシア経済

2015年5月のロシア連邦国家統計局の発表によれば、2015年第1四半期の実質国内総生産(GDP)成長率(前年同期比)は、-2.2%となった2

注22015年5月15日にロシア連邦国家統計局が発表した同年第1四半期の成長率の速報値は-1.9%であった。

需要項目別の内訳は未発表であるが、2014年に続き、ウクライナ危機をめぐる欧米諸国の対ロ制裁や内需縮小に伴う景気悪化懸念などを受け、総固定資本形成 (投資)が一段と冷え込んだことが主因とみられる。また、成長を下支えしてきた民間消費も、インフレに伴う実質賃金の低下と消費マインドの低下を受け縮小したと考えられる。実際、2015年第1四半期の主要経済指標(月間)を見ると(表2)、総固定資本形成は2013年12月以降、マイナスが続いている。また、実質賃金の大幅な縮小や失業率の上昇に伴い小売売上高もマイナス幅を拡大させており、民間消費が一段と縮小したとみられる。一方、 輸出は主要輸出品である石油や天然ガス価格の下落により、輸入は内需縮小や為替相場の下落によりいずれも大幅に減少した。

 表2 ロシアの月次主要経済指標(伸び率) 	(単位:前年同期(月)比:%)


表2 ロシアの月次主要経済指標(伸び率) (単位:前年同期(月)比:%)

こうした景気後退局面にもかかわらず、各機関は相次いでロシアの2015年の成長率見通しを見直している。同年5月中旬に、ロシアのウリュカエフ経済発展相、シルアノフ財務相が成長率見通しを-2.5%から2.8%程度へ上方修正したのに続き、国際通貨基金(IMF)が同見通しを-3.8%から-3.4%へ、フィッチ・レーティングスが-5.5%から-3.3%へ引き上げた。また、同年6月1日には世界銀行が-3.8%から-2.7%へ上方修正している。各機関は上方修正の理由として、同年第1四半期の経済指標が予測ほど悪化しなかったこと、原油価格の上昇に伴う足元の為替 相場の安定がインフレの沈静化につながり、将来のロシア中銀の利下げが消費および投資の縮小を限定的ながらも食い止める、などの理由を挙げた。

もっとも、こうした見解に対し、クドリン元副首相兼財務相はより慎重である。同氏は、投資の大幅な落ち込みや失業者の増加などを理由として2015年の成長率が-4.0%程度になるとの見通しを示し、経済成長に向けた構造改革の必要性をあらためて強調した。実際、景気後退のピークと予測される同年第2~3四半期に差し掛かり、4月の経済指標では、成長率(-4.2%)を含め大半の項目が前月を大幅に下回った。さらに、5月の鉱工業生産指数は前年同月比 -5.5%(製造業は同-8.3%)、総固定資本形成は同-7.6%へ悪化しており、景気の先行きは一段と不透明になっている。

4.終わりに

足元の原油価格の緩やかな持ち直しに伴い、為替相場は落ち着いており、内需が低迷 していることも加わりインフレ率は2015年4月以降低下を続けている。今後は、ロシア中銀の利下げ余地が拡大したことで景気後退に一定の歯止めがかかることが期待されよう。もっとも、原油価格の一段の下落、ウクライナ情勢をめぐる欧米諸国の対ロ制裁強化とそれに伴う資本流出、2015年内にも見込まれる米国の利上げなど、為替相場下落につながるリスク要因は依然として残されている。また、ロシア経済全体についても、足元の状況が悪化しており、賃金や失業 の動向など国内要因に加え、欧米諸国や中国の景気動向など外的要因が与える影響も引き続き注視する必要があろう。

[執筆者]一ノ渡 忠之(国際金融情報センター欧州部主任研究員)

※この記事は、2015年7月8日付で三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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