金融危機後のユーロ圏メガバンクの国際化戦略(1)

EU

概要

ユーロ圏メガバンクの国際化戦略の違いは、金融危機以降の各社の収益性に大きな相違をもたらしている。本稿では、ドイツ銀行(ドイツ)、BNPパリ バ(フランス)、バンコ・サンタンデール(スペイン)、ウニクレディト(イタリア)の収益構造および地域別収益構造の比較から、各社の戦略の違いを3回に わたって明らかにしていく。この結果は、ユーロ圏メガバンクが「国内回帰」ではなく、むしろ欧州外の市場、特に新興諸国市場の開拓を模索する可能性を示唆 している。

はじめに-2016年初頭のユーロ圏メガバンクによる信用不安

2016年に入り、ユーロ圏の銀行を震源 地とする信用不安が生じている。同年1月28日、ドイツ銀行は、2015年決算の赤字が過去最大の68億ユーロに達すると公表した。直接の原因の一つは、 不動産関連商品の販売に関する米国での訴訟など司法コストの増大である。また、同年2月8日には、ドイツ銀行が過去に発行した偶発転換社債(ココ債)の利 払いに対する不安が高まり、銀行株を中心に欧州株が大きく下落した。その他にも、欧州中央銀行(ECB)が導入したマイナス金利による収益の圧迫、南欧諸 国の銀行が抱える多額の不良債権など、ユーロ圏メガバンクの先行きに対する懸念材料は少なくない。

世界金融危機以降、ユーロ圏のメガバン クは実際どのような状況にあり、どのような経営戦略を取っているのだろうか。本稿では、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアのトップ行(資産ベース, 2014年)であるドイツ銀行(ドイツ)、BNPパリバ(フランス)、バンコ・サンタンデール(スペイン)、ウニクレディト(イタリア)の収益構造および 地域別収益構造の比較を通して、欧州メガバンクの国際化戦略の変化について考えてみたい


 本稿では、各行が公表している財務関連データを主に使用する。ただし、以下で示される各行の収益と費用の内訳に関しては、便宜上、一部の項目を移動させている。このため、各行の公表データとは若干のずれが生じている場合がある。

1.ユーロ圏メガバンクの収益性の変化

2007年、ドイツ銀行、BNPパリバ、バンコ・サンタ ンデール、ウニクレディトの4行の総収益は300億ユーロ前後とほぼ同水準にあったが、その後は各行でかなり差が生じている。ドイツ銀行は、2008年の リーマンショックにより大きく収益を減少させたが、比較的早期に回復した。BNPパリバは、2010~2013年には欧州債務危機の影響から収益額を減少 させたものの、その後は回復傾向にある。バンコ・サンタンデールは、リーマンショックの影響も見られず、収益額の伸びは4行の中で最も堅調であり、収益額 を2006年の282億ユーロから2015年には473億ユーロへと大幅に伸ばした。これに対し、最も収益が停滞しているのはウニクレディトである。

一 方、ユーロ圏メガバンクの費用項目を見ると、4行全てが費用を大きく増加させている。ドイツ銀行とBNPパリバの費用総額は2006~2015年にほぼ2 倍になっており、バンコ・サンタンデールの費用総額は3倍近くになった。ウニクレディトの費用は近年減少傾向にあるが、2013年には386億ユーロと多 額の費用を計上している。
 収益の停滞と費用の増加により、ユーロ圏メガバンクの税引前当期利益(純収益-費用)もまた停滞傾向にある。ドイツ銀行の利益は明確に減少傾向を示しており、2015年には、リーマンショックが生じた2008年を上回る大幅な赤字を計上した。BNPパリバの利益は リーマンショックや欧州債務危機の影響を受けて停滞したが、2015年には2006年の水準に戻した。バンコ・サンタンデールは4行の中では最も安定して いるが、それでも2015年の利益は2006年とほぼ変わらない。これに対し、ウニクレディトは4行の中で最も厳しい状況にある。2014年以降は回復傾向にあるものの、利益額の下落は最も大きい。2011~2013年には赤字を計上しており、特に2013年の赤字額は2015年のドイツ銀行の赤字額を上 回っている(図1参照)。

図1 ユーロ圏メガバンクの税引前当期利益(単位:100万ユーロ)

図1 ユーロ圏メガバンクの税引前当期利益(単位:100万ユーロ)

総資産利益率(ROA)も総じて停滞している。ドイツ銀行は2007年以降、ROAが0.5%を超えていない。BNPパリバとバンコ・サ ンタンデールは相対的に堅調ではあるが、いずれも2006年の水準まで回復していない。これに対し、ウニクレディトは2013年まで大幅にROAを減少さ せたが、近年はやや回復傾向が見られる(図2参照)。

図2 ユーロ圏メガバンクのROA(単位:%)

図2 ユーロ圏メガバンクのROA(単位:%)
注:ROA=税引前利益/期中平均総資産×100

出所:各行のアニュアルレポートを基に筆者作成

金融危機後のユーロ圏メガバンク4行の収益性の違いの背景には、国際化戦略の違いがあると考えられる。次回は、この点を各行の収益構造と費用構造を比較することによって考えてみる。その上で、本連載の第3回でユーロ圏メガバンクの地域別収益の動向を比較し、ユーロ圏メガバンクが「国内回帰」ではなく、むしろ欧州外の市場、特に新興諸国市場の開拓を模索する可能性があることを明らかにしたい。

蓮見 雄(立正大学経済学部教授)、石田 周(立教大学大学院博士後期課程)

※この記事は、2016年3月8日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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