金融危機後のユーロ圏メガバンクの国際化戦略(2)

EU

概要

ユーロ圏メガバンクの国際化戦略の違いは、金融危機以降の各社の収益性に大きな相違をもたらしている。本稿では、ドイツ銀行(ドイツ)、BNPパリバ(フランス)、バンコ・サンタンデール(スペイン)、ウニクレディト(イタリア)の収益構造および地域別収益構造の比較から、各社の戦略の違いを3回にわたって明らかにしていく。この結果は、ユーロ圏メガバンクが「国内回帰」ではなく、むしろ欧州外の市場、特に新興諸国市場の開拓を模索する可能性を示唆 している。

2.ユーロ圏メガバンクの収益構造と費用構造

前回の「金融危機後のユーロ圏メガバンクの国際化戦略(1)」(2016年3月8日付掲載)で指摘したユーロ圏メガバンクの収益性の停滞と費用増加の原因は、ドイツ銀行(ドイツ)、BNPパリバ(フランス)、バンコ・サンタンデール(スペイン)、ウニクレディト(イタリア)各行で異なっている。以下、それぞれ収益構造と費用構造を確認していこう。

1. ドイツ銀行

ドイツ銀行の場合、2006年の時点では「純利息収益」「手数料およびフィー収益」そして「純損益を通じて公正価値で測定する金融資産/負債に係る純利得」が3大収益源であったが、2008年以降、これらの項目は異なった動きを見せている。「純利息収益」は2006年から2011年にかけて2倍以上に増加している。純収益に占める「純利息収益」の割合は、2006年の24.6%から2014年には44.7%と20%以上も上昇した。この「純利息収益」の上昇は、ベルリン銀行、ノリス銀行、ドイツ・ポストバンクなど複数の国内銀行をドイツ銀行が買収したことにより生じたものである。また「手数料およびフィー収益」は一貫して安定した収益源となっている(図3参照)。

図3 ドイツ銀行の収益項目(単位:100万ユーロ)

図3 ドイツ銀行の収益項目(単位:100万ユーロ)

出所:ドイツ銀行のアニュアルレポートを基に筆者作成

これに対し、トレーディング収益を中心とする「純損益を通じて公正価値で測定する金融資産/負債に係る純利得」は、2014年には2006年の半分以下にまで減少した。よく指摘されるように、トレーディング収益は2009年時点でドイツ銀行の収益回復を支えたが、2014年には総収益の13.5%を占めるのみであり、現状ではトレーディング収益は相対的に重要性を失いつつある。

ドイツ銀行の2大費用は「給与手当」と「一般管理費」だが、特に「一般管理費」の伸びが非常に大きく、2014年は2006年と比較して2倍以上に増加した。「一般管理費」を大きく増加させた主因は、2010~2012年については情報技術(IT)関連費用や買収関連費用の上昇だが、2012年以降は司法コストの上昇である。司法コストは2012年に 26億ユーロ、2013年に30億ユーロ、2014年に20億ユーロを計上し、2015年には52億ユーロに達した。また、世界金融危機以降、「信用リスク引当金」も増加している(図4参照)。

図4 ドイツ銀行の費用項目(単位:100万ユーロ)

図4 ドイツ銀行の費用項目(単位:100万ユーロ)


 「信用リスク引当金」は便宜上、費用項目として扱っている。

出所:ドイツ銀行のアニュアルレポートを基に筆者作

以上のように、損益計算書で見た場合、ドイツ銀行の利益を圧迫しているのは、トレーディング収益の停滞と司法コストの大幅な上昇である。司法コストに関しては一時的なものとも考えられるが、ドイツ銀行のクライアン頭取によると、2016年も司法コストが経営を圧迫するリスクがあるという。ドイツ銀行の経営を支えている純利息収益もやや低下傾向にあるため、ドイツ銀行の先行きには不安が残るといえる。

2.BNPパリバ

BNPパリバの収益構造は2006年には「純利息収益」「純手数料収益」「純損益を 通じて公正価値で測定する金融商品に係る純利益」の三つを柱としていたが、これらの項目はその後、大きく変化した。まず「純利息収益」の額が大幅に上昇し、純収益に占める割合は2006年の32.0%から2014年には50.7%へと増加した。また「純手数料収益」は安定しており、大幅な上昇も下落も見られない。これに対し、トレーディングを中心とする「純損益を通じて公正価値で測定する金融商品に係る純利益」は停滞傾向にあり、純収益に占める割合は26.6%から13.6%へとほぼ半減した(図5参照)。このように、BNPパリバはドイツ銀行と似た形で収益構造を変化させたが、ドイツ銀行以上に「純利息収益」への依存度を高めている。

図5 BNPパリバの収益項目(単位:100万ユーロ)

図5 BNPパリバの収益項目(単位:100万ユーロ)


 「持分法適用会社投資損益」と「長期性資産に係る純利益」は便宜上、収益項目として扱っている。

出所:BNPパリバの収益項目

費用項目で金額が大きいのは「給与および従業員給付費用」「その他の営業費用」「のれん代償却」である。特に、これらの項目は2009~2010年に大きく増加している。「のれん代償却」の増加に関しては、2009年のBNPパリバによるフォルティスなどの買収による評価差損が、その他の金融機関の 買収に伴う評価差益を上回ったことが主な要因であった。「給与および従業員給付費用」や「その他の営業費用」の増加に関しては、買収に伴いグループ全体の 諸経費が増加した結果と考えられる。また、2014年には「米国の関係機関との包括的和解に関する費用」として多額の司法コストが計上されたことも、 BNPパリバの利益を圧迫した(図6参照)。

図6 BNPパリバの費用項目(単位:100万ユーロ)

図6 BNPパリバの費用項目(単位:100万ユーロ)


 「のれん代償却」は便宜上、費用項目として扱っている。

出所:BNPパリバのアニュアルレポートを基に筆者作成

純利息収益への傾斜と、買収や司法コスト上昇により臨時的な費用が拡大している点で、BNPパリバの収益・費用構造はドイツ銀行と類似している。しかし、BNPパリバは2015年に司法コストを大きく低下させたことにより、利益を大幅に回復させている。

3.バンコ・サンタンデール

バンコ・サンタンデールは、もともと「純利息収益」を中心とする経営モデルを採用していたが、2006年以降大幅に「純利息収益」が増加し、2006~2015年に「純利息収益」は2.6倍になった。これに伴い、純収益に占める「純利息収益」の割合は2006年の49.8%から2015年には68.1%へと大幅に増加した。また「純フィー収益」も緩やかに上昇しており、純収益 に占める割合は一貫して20~30%で推移している(図7参照)。

図7 バンコ・サンタンデールの収益項目(単位:100万ユーロ)

図7 バンコ・サンタンデールの収益項目(単位:100万ユーロ)


 「のれん代償却」は便宜上、費用項目として扱っている。2006~2007年の「その他の営業収益」は「保険業務収益」に「非金融サービスによる収益」「非金融費用」「その他営業収益」を加えたものである。

出所:
バンコ・サンタンデールのアニュアルレポートを基に筆者作成

バンコ・サンタンデールの3大費用項目は「人件費」「純貸倒引当金」「その他の一般管理費」であり、いずれの項目も大幅に増加している。「人件費」 と「その他の一般管理費」の増加は、事業規模の拡大によるものであろう。これに対し「純貸倒引当金」の増加は、マクロ経済状況の悪化や政府による銀行健全化策などによって、引当金の大幅な積み増しが必要になったことにより生じた(図8参照)。

図8 バンコ・サンタンデールの費用項目(単位:100万ユーロ)

図8 バンコ・サンタンデールの費用項目(単位:100万ユーロ)


 「事業廃止による純利益(損失)」と「純キャピタルゲインおよび引当金」は便宜上、費用項目として扱っている。

出所:
バンコ・サンタンデールのアニュアルレポートを基に筆者作成

4.ウニクレディト

ウニクレディトの2大収益源は「利息収益」と「純フィーおよび手数料収益」であるが、いずれも2006年以降ほぼ一貫して減少傾向にある。特に「利息収益」は、2006年の147億ユーロから2015年の119億ユーロへと20%近く減少した(図9参照)。
ウニクレディトの場合、費用の面でも大幅に利益を圧迫した。ウニクレディトの利益を圧迫したのは「のれん代償却」と「保証およびコミットメントのための貸付金および引当金の純評価損」である。特に、両者が同時に上昇した2013年には大幅な赤字を計上している。「のれん代償却」関しては、金融危機以前にウニクレディトが行った買収が金融危機後に影響を及ぼしている。2011年の「のれん代償却」の増加は国内と東欧で行った買収によるもので、2013年の「のれん代償却」の増加は2005年に行った買収によるものである。また、2013年にかけての「保証およびコミットメントのための貸付金および引当金の純評価損」の増加は、バランスシートの健全化に向けた引当金の積み増しが影響している(図10参照)。
このように、ウニクレディトは「利息収益」や 「純フィーおよび手数料収益」など、主要業務においても明確な停滞が見られるだけでなく、費用面でも過去の買収に係る「のれん代償却」や引当金の積み増しが利益を大きく圧迫している。2015年には利益が大幅に回復したが、主要業務が停滞している点でウニクレディトは非常に厳しい状況にあるとみられる。

図9 ウニクレディトの収益項目(単位:100万ユーロ)

図9 ウニクレディトの収益項目(単位:100万ユーロ)


 「投資による純収益」は便宜上、収益項目として扱っている。なお、「投資による純収益」の一部は2013年より「純トレーディング収益」に計上されるようになった。

出所:ウニクレディトのアニュアルレポートを基に筆者作成

図10 ウニクレディトの費用項目(単位:100万ユーロ)

図10 ウニクレディトの費用項目(単位:100万ユーロ)


 「売却目的で保有される非流動資産からの利益(損失)」「取得原価配分効果」「のれん損失」は便宜上、費用項目として扱っている。

出所:ウニクレディトのアニュアルレポートを基に筆者作成

(5)小括

総じて、ユーロ圏メガバンク4行は、収益面では「純利息収益」への依存度を高めており、ドイツやBNPパリバではトレーディング関連の収益が大幅に減少している。しかし、日米欧における経済の停滞や現在の低金利環境を考慮すれば「純利息収益」に依存した経営は長期的には困難であろう。また、費用面では引当金、買収関連の損失、そして司法コストが利益を圧迫した。費用の増加は一時的なものも多く含まれるため、今後、メガバンクの利益は回復する可能性がある。

[執筆者]蓮見 雄(立正大学経済学部教授)、石田 周(立教大学大学院博士後期課程)

※この記事は、2016年3月16日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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