Archive for 2016年7月29日

63.経済制裁下のロシア経済-リスクと新たな可能性-岡田 進

ロシア国旗

要旨

< ロシアの経済危機は、油価低迷や経済制裁など外的要因に影響されやすい資源輸出=輸入依存モデルの限界を示している。しかし、経済制裁下の輸入代替を契機として、自立的に再工業化=イノベーション・モデルへの転換が模索され始めている。これは長期的に見れば、ロシアが製造業分野の国際分業に参加していく新たな可能性を生み出すかもしれない。

はじめに

ロシア経済は1年以上落ち込みが続き、原油価格の暴落や経済制裁の影響が指摘されている。だが留意すべきは、こうした外的諸要因に影響されやすい資源輸出=輸入依存モデルそのものが行き詰まっていることである。しかし、経済制裁下の輸入代替を契機として、自立的に再工業化=イノベーション・モデルへの転換が模索され始めている。これは長期的に見れば、ロシアが製造業分野における国際分業に参加していく新たな可能性を生み出すかもしれない。

1.落ち込みが続くロシア経済 2015年と2016年第1四半期


2015年に、ロシアの国内総生産(GDP)は3.7%のマイナス成長を記録したが、これは2008~2009年の経済危機当時とは異なって、主要国の中ではロシア経済だけが落ち込んだ。工業生産は3.4%減少し、固定資本投資は8.7%低下した。特に大幅に減少したのは貿易額で、輸出は37.7%、輸入は32.1%減少した。実質賃金は前年に比べて9.5%、可処分貨幣所得は4%減少し、国民生活を直撃した(最低生活費以下の所得人口は2008~2009年の経済危機以来の13.3%に上昇)。購買力の低下から小売商品流通高も10%減少した。その一方で、ルーブル安の影響もあって、不況にもかかわらず年間の消費者物価上昇率は15.5%にも達した。ただし、一部で強制休暇や賃金未払いが復活しているとはいえ、失業率は5.6%と欧米諸国に比べて特に高いわけではなく、またこの間、企業財務は全体として黒字基調であった。
2016年に入って低下のペースは多少鈍化したが、依然としてマイナス成長が続いている。同年第1四半期のGDPは前年同期比マイナス1.4%で(経済発展省推計値)、工業生産は同0.6%減にとどまったが、固定資本投資は同8.4%減と高水準で、住民可処分所得は同3.9%、小売流通高は同5.4%それぞれ減少している。所得の減少や節約志向による消費需要の減退により、インフレ率はようやく年率7.3%に下がった。住民の貯蓄率は15.7%に急上昇し、不要不急の支出を控える「生き残り指向」が鮮明になっている。
歳入減と歳出増により、2015年の連邦予算はGDP比2.6%の赤字であったが、すでに2016年1-3月期には赤字は3.7%と2016年度予算で定められた3%を上回っており、このままの状態が続けば、オイルマネーを貯めた赤字補填のための予備基金は2017年中に底をつくと見られている(以上の数字は連邦国家統計局の公式データおよび経済発展省のモニタリング・データによる)。国際通貨基金(IMF)は2016年のロシアの成長率をマイナス1.0%、2017年にはようやく回復してプラス1.0%と予測している(同年4月改定値)。

2.経済危機のロシア特有の原因 資源輸出=輸入依存モデルの行き詰まり

近くは中国経済の減速をはじめとした世界経済の低迷もさることながら、こうしたロシア経済の際立った落ち込みにはロシア特有の原因がある。ここでは、資源輸出国ロシアを襲った原油価格の暴落、ウクライナ問題に端を発した西側諸国による対ロシア経済制裁といった外的要因が挙げられるが、むしろこうした外因によって深刻なダメージを受けたロシア経済の脆弱な体質にこそ問題があるといえよう。
欧米諸国が2008~2009年の経済危機からの立ち直りを見せた2013年には、早くもロシアのGDPは2012年の3.5%から1.3%に下がり、まだ外的影響がなかった2014年上半期には0.8%にまで低下していた。ロシア産原油の輸出価格が1バレル当たり120ドルに達し、同年は年間でほぼ100ドル水準を維持していたにもかかわらず、である。これは、石油・ガス輸出に依存して高成長を遂げたロシアの成長モデルの潜在力が尽きたことを意味した。
資源輸出収入によって増大した消費・投資需要はもっぱら輸入に向けられて、国内産業活性化の要因とはならず、その結果、輸出価格が不断に上がり続けて輸入が増えない限り成長が見込めなくなっていた。ここでは大量の資源輸出収入が自国通貨高を招き、国内製造業の価格競争力を低下させるという、いわゆる「オランダ病」が指摘される。だが、そもそも世界の原料供給源となることで自らの富裕化を目指したオルガルヒ(新興財閥:彼らはまた利潤の多くを海外に逃避させた)の支配と、市場が全てを解決するとして産業政策や科学技術政策を放棄した1990年代以来の政府の新自由主義政策によって、機械・設備生産は20年以上たってもソ連時代の半分にも満たないなど、すでにロシアの製造業自体が壊滅状態に陥っていた。
そして、資源輸出=輸入依存モデルが行き詰まっていたところに外因が作用した。途上国を含めた高成長時代の終焉による燃料エネルギー需要の低下、再生可能エネルギーの急増、省エネやシェール革命の進展などによって石油の世界的過剰が明らかとなり、ロシア産原油の輸出価格は2014年末には1バレル当たり61ドルに下落し、2015年末には36ドルにまで下落した。原油価格が一挙にピーク時の3分の1にまで暴落したことが、輸出額の70%、国家歳入の50%、GDPの40%を石油・ガス輸出に依存していたロシア経済にいかに深刻な影響を与えたかは想像に難くない。資源の主要輸出先を従来のヨーロッパからアジアにシフトさせるという方向で、中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)市場にも接近しているが、転換には時間と巨額のインフラ投資を必要とする。
 ほぼこれと同じころに起こったのが、ルーブルの下落である。ルーブルは2014年半ばまでは1ドル=33~35ルーブル程度で安定していたが、同年末にかけて一挙に値を下げ、68ルーブルにまで落ち込んだ。その後も不安定な動きが続いているが、経常収支の黒字にもかかわらずルーブルの価値が半減したことは、石油に依存したロシア経済に対する市場の不信の表れであったといえよう(原油価格とルーブル・レートとの相関は70~80%と高い)。またここでは、同時期にロシア中央銀行によって取られた自由変動相場制への移行、為替投機や海外への資本逃避が放任されたことも少なからぬ影響を与えた。ルーブル下落は輸出企業の利潤を増やし、原油の値下がりによる国家歳入の減少をカバーし、輸入代替への刺激ともなり得るが、輸入品価格や海外旅行費用の高騰という形で国民生活にも否定的影響を及ぼした。

3.西側諸国による経済制裁の影響

ロシア経済危機のもう一つの原因として挙げられるのが、ウクライナ問題に関連して西側諸国が発動した対ロシア経済制裁(また、これに対するロシアの逆制裁)である。2014年7月には、欧州連合(EU)や米国が、ロシアの主要銀行・企業に対する金融取引の制限、軍事技術や汎用品の輸出禁止、また北極海・深海大陸棚での油田探査や掘削、シェールオイル掘削に使われる先端技術の提供禁止などの措置を取り、ロシア企業との技術提携なども大幅に制限した。これに対抗してロシアは、同年8月に一連の農産物の輸入禁止に踏み切った。グローバル化が進んだ現在、経済関係の断絶や縮小は双方にとって打撃となるが、現在に至るまで経済制裁緩和の兆しは見えず、ロシア経済は事実上冷戦時代の孤立状態に立ち戻っている。
これまで、ロシアの企業はヨーロッパの金融市場からの信用に大きく依存してきたが(2007~2013年の借入額は年間1,500億~2,000億ドル)、経済制裁によりこれが大幅に制限されることになった。その結果、国内信用財源からの資金調達に切り替えざるを得なかった(アジアなど代替市場はなお極めて限定的)。しかし、もともと投資源泉としての銀行信用の割合は低く、しかも利潤率をはるかに超える高金利の下で、主に自己資金に頼る企業(特に中小企業)の投資の縮小は避けられなかった。海外からの直接投資も2013年の690億ドルから2014年には220億ドル、2015年には48億ドル(ヨーロッパからの投資はマイナス73億ドル)に激減した(ロシア中央銀行のデータ)。
借り入れの返済などは企業の準備金からなされ、資本流出も3分の1にまで減少し、外貨準備高は4,000億ドル近くの水準を維持するなど、ロシアは短期的には金融面で経済制裁に適応しているが、制裁が長期にわたれば、国内投資の縮小や直接投資を通じての技術導入の困難などの影響が深刻化することは避けられない。
実体経済面では、資源輸出モデルに基づいてハイテクを中心に製造業の主要部門がヨーロッパからの輸入に大きく依存している(医薬品の50%、機械類の20%、化学工業品の25%を輸入に頼っており、数値制御付き旋盤の輸入量は国内生産の実に15倍にも達する)ことから、経済制裁による先端技術・機械設備・部品などの供給の停止や制限の影響は小さくない。輸入元の他国への切り替えには品質などの問題もあり、この分野での制裁は長期的に見て、西側諸国と肩を並べるために不可欠なロシアの再工業化や国際競争力強化にとって大きな障害となろう(これによる損失は年間200億ドルと見積もられている)。特にロシアの燃料エネルギー産業では、旧産地の産出効率が低下している中で、北極海などでの新油田開発やシェールオイル開発に期待がかけられていたが、西側諸国による経済制裁はこうした開発プロジェクトの実現を困難にしている。これにより、2030年のロシアの原油採掘量は現在より15%減少するとの予測もある。

4.輸入代替を契機にイノベーション・モデルへの転換は実現できるか

西側諸国の経済制裁によるハイテク分野の輸入停止やロシアの対抗策としての農産物輸入禁止は、輸入代替問題を提起した。折からのルーブル安がその追い風となり、代替需要があり、資源的にも技術的にも国内生産が可能で稼働率に余力のある部門では、経済不況の中にあって一定の伸びを示した。すなわち2015年に農業生産は前年より3%増大し、化学工業は6.3%(製品によっては11~12%)、食品工業は2%(肉製品は10.8%、チーズは17.1%)伸びた。これまで農業保護が軽視され、穀物などを除き食料品の多くを輸入に依存してきたロシアにとって、自国産の農産物の比重が増大したことは、食糧安全保障の観点からも制裁(逆制裁)による予期せざるプラス効果であった。一方、自動車や航空機製造などでは多少の動きはあるものの、ハイテク分野では西側諸国からの立ち遅れは歴然としている。国産化には巨額な投資資金も必要であり、当面、なお輸入に頼らざるをえない状況にある。
今ロシアでは、為替レートが変わればまた元に戻ってしまうような一時的な輸入代替ではなく、より広く、国際分業の利点を利用しつつも国家主権を支える自立的な再生産構造を構築することが求められている。これは長期的に見れば、ロシアが製造業部門における国際分業に参加していく新たな可能性を生み出すかもしれない。原油価格の低落や西側諸国による経済制裁を奇貨として、今後、政府の意識的な取り組みを通じて、資源輸出=輸入依存モデルからの脱却と、ロシアの再工業化=イノベーション・モデルへの転換が実現できるかどうか、注目されるところである。

参考文献
Угрозы и защищенность экономики России.: опыт оценки. Новосибирск : ИЭОПП СО РАН, 2016.
А.А.Широв, А.А.Янтовский, В.В.Потапенко. Оценка потенциального влияния санкций на экономическое развитие России и ЕС // Проблемы прогнозирования. 2015.No.4.
В.К.Фальйман. Импортозамещение в отраслях экономики России. // Проблемы прогнозирования. 2015.No.5
蓮見 雄「油価低迷・経済制裁とロシア」『ロシア・ユーラシアの経済と社会』第1002号(2016年3月号)
岡田 進「新たな危機を迎えたロシア経済」『ロシア・ユーラシアの経済と社会』第992号(2015年4月号)

[執筆者]岡田 進(東京外国語大学名誉教授)

※この記事は、2016年6月22日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205

62.注目の新興国リトアニアの光と影-課題も多いが魅力ある欧州のビジネス拠点-蓮見 雄

リトアニア国旗

要旨

リトアニアは旧ソ連から独立して以来、急速なキャッチアップを果たした注目の新興国であり、ビジネス環境への評価も高い。とはいえ、同国は賃金上昇や人口流出など多くの課題に直面している。しかし、これまで欧州連合(EU)の政策を積極的に受け入れ、一貫してビジネス環境の改善を続けてきている。また交通の要衝であるクライペダ経済特区の存在を考えれば、リトアニアは依然として魅力ある欧州のビジネス拠点候補地の一つといえる。

小規模だが急成長する新興国

リトアニアの経済規模はポーランドの約10分の1にすぎないが、注目の新興国である。リトアニアは、世界経済フォーラムによる2015-2016年の競争力ランキングで36位、世界銀行による2016年のビジネス環境ランキングで20位と高い評価を得ている。2005~2014年には、労働生産性(1人当たりの実質生産額)が約35%上昇した。これは欧州で最も速いペースであり、10年余りの間に経済規模は倍増した。市場経済化への取り組みを始めたばかりの当時の1人当たり国内総生産(GDP)はEU平均の3分の1であったが、2013年にはその73%までキャッチアップしている(図1)。

図1 リトアニアの急速なキャッチアップ

図1 リトアニアの急速なキャッチアップ

出所:IMF, Republic of Lithuania, IMF Country Report, No. 15/139, May 2015, p.36を基に筆者作成(表記方法を一部修正)

2004年のEU加盟は、リトアニアの経済成長を刺激したものの、それは消費バブルと住宅バブルを伴っていた。投資と消費は、EU加盟前後の経済成長をけん引したが、世界金融危機の影響で2009年のGDPは対前年比14.7%減と急落した。しかし、2011~2014年の実質GDP成長率は年平均で4.1%と回復も急速であった。2013年以降は、賃金上昇や失業率の低下などによって個人消費が成長に寄与し、住宅価格も上昇の兆しを見せている。
2015年は1.6%成長にとどまったが、これは貿易の2割を占めるロシアの景気低迷で対ロシア輸出が4割減となったことが影響している。図2から明らかなように、リトアニアの貿易相手の大半はEU諸国であるとはいえ、依然としてロシアは重要な貿易相手国の一つである。このため、リトアニアの経済を占う上ではロシアの動向にも留意する必要がある。

図2 リトアニアの貿易地域構造(2014年)(単位:%)

図2 リトアニアの貿易地域構造(2014年)(単位:%)

出所:経済協力開発機構(OECD):OECD Economic Surveys Lithuania, March 2016, p.58を基に筆者作成

だが、欧州委員会によれば、リトアニアはアジア向けなど輸出先の多角化を進め、堅調な内需が続けば、2016年以降は3%前後の成長率に回復するとみられる。
リトアニアは、2009年の金融危機への対応に追われ財政赤字が拡大したが、通貨切り下げは行わず、通貨リタスのユーロペッグを維持し、専ら歳出削減によって均衡を回復し、2015年にはユーロを導入した。2015年の財政赤字は対GDP比0.9%、債務残高も43%弱と健全財政を維持している。

直面する課題

同時に、リトアニア経済は多くの課題を抱えている。特に問題とされているのが、賃金の高騰と人口流出である。
製造業はGDPの2割を占めるが、食品加工、化成肥料、プラスチック製品、石油精製などの原材料加工、あるいは繊維・衣料、木材・家具などの労働集約的なものが中心であり、厳しい国際競争にさらされている。リトアニアの3大企業といえば、石油精製ORLEM Lietuva、スーパーマーケットチェーンMaximaを所有するVilniaus prekyba、肥料や物流(KLASCO)のKoncernas ACHEMOS GRUPĖである。つまり、旧ソ連時代の資産を民営化した企業と市場経済化の中で急成長した商業企業である。こうした産業を支えてきたのは低賃金であった。2015年のリトアニアの労働コスト(1時間当たり、公的部門を除く)は6.8ユーロで、EU平均の25ユーロの3分の1にも満たない。
しかし、2000年初頭以来、労働コストは倍増しており、付加価値の高い経済を目指して産業構造の転換を図らなければ、コスト上昇とともに国際競争力を失う中進国の罠に陥りかねない。ところが、労働人口の高齢化と熟練労働者の不足から賃金が高騰しているにもかかわらず、効率改善に役立つ設備や機械への投資は伸び悩んでいる。リトアニアで生産される製品の7割近くは輸出されるが、石油製品、肥料、プラスチック製品、肉・魚加工品、穀物など主要輸出品の競争力は低下している。EU内における市場シェアも、ここ数年縮小を続けている。
従って、旧ソ連時代の遺制に依存する産業構造を脱し、国際競争力のある産業を育成しなければならない。そこで重要となるのが人的資本であるが、リトアニアは人口流出の危機にある。独立当時の人口は370万人であったが、毎年2万人以上の人口流出が続き、2015年には290万人を割り込んでしまった。特に、失業率の高い若者(20~29歳)の流出が目立っており、大きな懸念材料となっている。

魅力ある欧州のビジネス拠点

このように国民経済という単位でリトアニアを見る限り、多くの課題が残されていることは否定し難い。しかし、欧州のビジネス拠点として考えた場合、リトアニアは依然として魅力ある投資対象である。例えば、リトアニアはヴィリニュス、カウナス、クライペダなど交通の要衝に経済特区を設け、創業から6年間の法人税免除、その後10年間は法人税率7.5%(通常の半分)、配当金・不動産税の免除などによって外国投資を誘致している。中でも注目すべきはクライペダである(図3)。

図3 リトアニアの主な経済特区と交通の要衝クライペダ

図3 リトアニアの主な経済特区と交通の要衝クライペダ

出所:Invest Lithuania: The Lithuanian Investment Promotion Agency.

この地域は同国のGDPの12%を占め、ヴィリニュス、カウナスに次ぐ第3の経済中心地であるのみならず、欧州市場向けのビジネス拠点としても有力な投資対象地域の一つとなっている。それは、この地はバルト海に面した不凍港があり、道路網、鉄道網、航空網を含めて欧州市場においても重要な交通の要衝であるからだ。また、クライペダ郡の2012年の付加価値構造を見てみると、25%が工業(建設業を除く)、43%が卸売業・小売業、運輸業、ホテル、フードサービスであり、その多くがバルト海沿岸部で生み出されている。
リトアニアは、これまでもEUの政策を積極的に受け入れ「ブリュッセルの優等生」として振る舞い、金融危機に際してもユーロペッグを維持し、財政を再建し、構造改革を進めてきた。高成長の半面、格差の拡大など成長のゆがみが生じていることも事実だが、リトアニア政府は、一貫してビジネス環境の改善に取り組んできており、今後もこの点は揺らがないだろう。従って、依然としてリトアニアは魅力ある欧州のビジネス拠点の一つといえる。最後に、単一市場が形成されているEU市場への投資を考える際には、先に指摘したクライペダのように、国という単位だけでなく、欧州市場の中の地域という視点から投資対象を検討することが、とりわけ重要になることを指摘しておきたい。

[執筆者]蓮見 雄(立正大学経済学部教授)

※この記事は、2016年6月9日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205

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