入札制度導入でドイツの再生可能エネルギーは生き残 れるか?-EU主導の再生可能エネルギーの市場化-道満治彦

ドイツ国旗

概要

ドイツでは、再生可能エネルギー政策が固定価格買取制度(FIT)を基礎とした政策から大きく変化し、2017年1月より入札制度へと移行する。この入札制度への政策変更によって、再生可能エネルギーへの投資に対して、どのようなインパクトがあるのだろうか。EU主導の「再生可能エネルギーの市場化」をキーワードに考える。

1. はじめに

ドイツでは、再生可能エネルギー政策が固定価格買取制度(Feed in Tariff:FIT)を基礎とした政策から大きく変化し、2017年1月より入札制度へと移行する。ドイツの再生可能エネルギー政策は、既にFITから、フィード・イン・プレミアム(FIP)と呼ばれる市場取引平均価格と公定による指定価格の差額を補助として受け取るメカニズムに変更されている。これは、消費者の負担を軽減するだけでなく、ドイツの再生可能エネルギーが市場での競争力を持ち始めたことを示していた。とはいえ、FIPはFITと同様に再生可能エネルギーを優遇するものであった。

しかしながら、入札制度の導入は、再生可能エネルギーのFITからの「卒業」を意味する大転換である。これは、発電事業者にどのような影響をもたらすだろうか? 欧州連合(EU)主導で進められる「再生可能エネルギーの市場化」による競争環境の中で、ドイツの再生可能エネルギーは生き残れるのだろうか? 一方で、入札制度の導入は、大規模発電事業者による再生可能エネルギービジネスの本格的な展開の契機となるかもしれない。他方、これまで再生可能エネルギーの急速な発展に貢献してきた市民による発電事業者が不利になる可能性が指摘されている。この意味で、ドイツの再生可能エネルギーは岐路に立っている。

2. ドイツにおける再生可能エネルギーの導入状況

再生可能エネルギーの導入や利用、そして制度構築において、世界で最も進んだ国の一つはドイツである。ドイツは、1991年の電力供給法(EFL)においてFITの原型を導入し、現在でいう世界での再生可能エネルギー導入の先駆けとなった。

ドイツでは、エネルギー大転換「エネルギーヴェンデ(Energiewende)」という野心的な政策の名の下に、(1)大々的な省エネとエネルギーの高効率化対策の推進、(2)地域暖房とコジェネレーション(熱電併給)の推進、(3)再生可能エネルギーの推進を掲げ、環境エネルギー政策のみならず、社会・経済構造そのものも転換させようとしている。ドイツにおける再生可能エネルギーの過去25年間のトレンドを見ると、発電量に占める割合が3.4%(1990年)から32.6%(2015年)へと拡大(図1)。2014年には設備容量ベースで8,600万キロワット(kW)まで増加した。発電量ベースでは大規模水力発電まで含むと、2014年は1,625億キロワット時(kWh)(27.4%)、2015年は1,959億kWh(32.6%)となった。雇用に着目すると、再生可能エネルギー分野では2015年時点で約35万5000人分の職が生まれた。

図1 ドイツの再生可能エネルギー発電量と全電力に占める割合の推移

図1 ドイツの再生可能エネルギー発電量と全電力に占める割合の推移

出典:ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)の資料を基に筆者作成

3. FITの展開

2000年の再生可能エネルギー法(EEG)への大改正によって、再生可能エネルギーの種類や条件ごとにコストベースの買取価格を定めた他、上乗せとなるコスト負担を一般需要家が公平に分担する仕組みも導入され、再生可能エネルギーの優先接続に関する規定も盛り込まれた。その後、2004年の改正で買取価格を見直し、太陽光発電などの導入量を一気に増やしている。

2009年にこのEEGが全面改正され、2020年までに再生可能エネルギーの割合を30%にすることなどが明記された他、太陽光発電を中心に買取価格の逓減率が引き上げられた。さらに2010年からの想定を超えた急速な太陽光発電の導入拡大などもあり、2010年および2011年4月の部分改正でも太陽光発電の買取価格の逓減率が引き上げられている。

福島第1原発事故の影響もあり、ドイツでは2022年までの脱原発を決定したことを受け、2012年にEEGの改正が行われた。この中では、電力に占める再生可能エネルギーの割合の目標を2020年までに35%以上、2030年までに50%以上、2040年までに65%以上、2050年までに80%以上と定められた。また、従来から認められていたFIT制度以外の電力市場での直接販売についても明確に定められた。買取価格についてもさまざまな改正が行われており、バイオマス発電については熱電併給が必須条件となり、地熱については買取価格が引き上げられた。風力発電の買取価格も、陸上風力発電は逓減率が1%から1.5%に引き上げられたが、洋上風力発電は買取価格が引き上げられている。太陽光発電については、年間導入量が300万kW程度となるように、前年の設備容量の増加量に応じて逓減率が引き上げられる仕組みが本格的に導入された。

4. FIP制度・入札制度への移行とEU競争政策との関連性

だが、2014年からEEGの大幅な見直しによって、FITからFIPへの移行が行われた。(1)買取価格の構造については、これまでのFITでは公定による一定の固定価格で買い取る形であったが、FIPでは市場取引平均価格と公定による指定価格の差額を補助として受け取るメカニズムに変更されている。(2)調達メカニズムについては、FITでは買取義務による契約を送電事業者(TSO)と結ぶ形であったが、FIPの下では発電者が市場で販売する形にメカニズムが変更されている。これは市場統合の一環ではあるが、中小の発電事業者に対しては非常に大きな事業リスクとなっている。
また、これまで賦課金の対象となっていなかった自家消費モデルに対する賦課金の導入や、新設の年間導入量にキャップを設ける措置(太陽光発電は年間最大2,600メガワット(MW)以下、バイオマス発電は年間最大100MW以下、陸上風力発電は年間最大2,600MW以下をそれぞれ上限、洋上風力発電については2020年までに6,500MWを目標とする)なども行われた。

らに、2016年7月に改正EEGが可決され、2017年1月から入札制度へ移行する。ドイツで入札制度は既に大規模太陽光発電の一部で試験的に導入されているが、2017年以降、それ以外の太陽光発電、陸上風力発電、洋上風力発電、およびバイオマス発電に拡大される。また、地域主導型のエネルギー協同組合などには、陸上風力発電の入札条件の緩和の優遇策も行われる。

入札制度への移行はFITからの「卒業」を意味する。FITは「幼稚産業保護政策」のような特性を持っており、再生可能エネルギーの導入拡大と同時に価格逓減を進めた。FIPはFITと入札制度の中間に位置するが、政策としてはFITの一種である。こうした政策変更は、少なくともドイツでは再生可能エネルギーが市場でも競争できる電源となってきたということを示している。

ところで、FITからFIP、さらには入札制度に至るこの一連の流れは、ドイツ一国の政策によるものだろうか。確かに、再生可能エネルギーの導入割合は2015年時点で30%を超え、さらに発電単価を引き下げるという目的も達成されてきた。ドイツにおける再生可能エネルギーの導入量拡大と低コスト化によって「再生可能エネルギーの市場化」の段階まで至ったといえるのかもしれない。それに加え、この改革は賦課金の上昇を抑えることも目的として挙げられる。

しかしながら、EUのエネルギー政策の文脈から捉え直すと、この流れはドイツ一国のみの政策によるものではない(図2)。というのも、ここにはEUの機能に関する条約(TFEU)と2014~2020年の環境・エネルギー関連の国家補助金に関するガイドライン(2014/C/200/01)が影響しているからである。

図2 ドイツの再生可能エネルギー政策の変化とEU競争政策の関連性

図2 ドイツの再生可能エネルギー政策の変化とEU競争政策の関連性

出所:各種資料を基に筆者作成

2014~2020年の環境・エネルギー関連の国家補助金に関するガイドラインの中では「再生可能エネルギー資源由来の電力の電力市場への統合」が示されている。それによると、まず「2016年1月からはエネルギー市場統合の観点から、市場での直接取引を行うこと」が前提とされており、これはFIPの仕組みに合致する。その上で「2015年および2016年に新規の再生可能エネルギー資源由来の電気の少なくとも5%を入札制度とすること」とされている。さらに、2017年からは導入状況の遅れや市場のアクターが限られるなど一部の例外を除き、加盟各国は入札制度を基礎とする仕組みに変更することとなった。EUにおけるエネルギー政策は、今やEUと加盟国の共有権限となっている。つまり、この政策変化はドイツ一国の政策だけではなく、EUのエネルギー政策による影響、およびEUと加盟各国の相互作用によって引き起こされていると言っても過言ではないだろう。

5. 入札制度導入による発電事業への影響とEU主導で進む「再生可能エネルギーの市場化」

入札制度への移行に対する動きには「化石燃料業界を有利にさせ、再生可能エネルギーへの転換の流れを後退させる」として、ドイツ再生可能エネルギー協会(BEE)などの再生可能エネルギー業界団体や環境保護団体、緑の党、市民セクターなどから批判の声が上がっている。また、特に危機感が強いのはこれまでドイツのエネルギー転換の中心的な存在となっていたシェーナウ電力などの市民共同発電事業者である。FITに比べて、大規模発電事業者に有利な入札制度は、市民共同発電には不利となる可能性が高く、市場から締め出されるという危機感が根強い。
つまり、一方において、入札制度は、大規模発電事業者による再生可能エネルギービジネスの本格的な展開の契機となるかもしれない。他方において、入札制度は、これまでドイツの再生可能エネルギーの発展を支えてきた中小の電力事業者の衰退を招くかもしれない。

ここまで見てきたように、EUの競争法の下でEU、ドイツ国内の双方で入札制度を含めた「再生可能エネルギーの市場化」の流れが進むことは避けられないだろう。とはいえ、FITの負担にもかかわらず、ドイツにおいて再生可能エネルギーが急速に発展してきたのは、市民の積極的な支持があったからこそである。日本と異なり、ドイツでは、多数の市民が単なる電力の消費者にとどまらず、協同組合などを通じて電力事業に出資しており、再生可能エネルギー事業のステークホルダー(利害関係者)となっていることに注意が必要である。従って、EUおよびドイツが目指すパリ協定発効以降の新たな気候変動政策を進め、低炭素社会を目指し、再生可能エネルギーの導入拡大を継続するには、やはり市民の協力が不可欠である。再生可能エネルギー政策の大転換は、さまざまな摩擦を引き起こす懸念があり、慎重かつ柔軟な対応が求められるだろう。

[執筆者]道満 治彦(認定NPO法人環境エネルギー政策研究所 リサーチアシスタント)

※この記事は、2016年12月12日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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