ルーブル投資は魅力的か?-安木新一郎

ロシア国旗

概要

ロシアの通貨ルーブルは下げ止まり始めており、金利の高いルーブルへの投資は魅力的になっている。だが、油価に左右される体質は変わらず、欧米の金利が上昇すれば資金流出の可能性もある。ウクライナ問題は続き、極東やクリミアの開発は財政赤字拡大につながる恐れもある。引き続きルーブル相場を左右するロシア国内外の情勢を慎重に見極めることが必要であろう。

1. ルーブル投資に対する高い評価

最近ロシア経済については、国内外に難題を抱えているにもかかわらず、魅力的な投資対象であり、今後もルーブル建て債券の収益性は高いという強気見通しが前面に押し出されている感がある。
例えば次のような2016年11月4日付の記事がある。

「ルーブルは下がり始めているが、専門家はルーブル資産を手放さないよう投資家に勧めている。ブルームバーグが伝えた。この3カ月だけでルーブル資産を購入する際、ほぼゼロ%でドルを取得した投資家は最大7%の利益を得た。これは他の30ほどの通貨の中で最も高い数字だった。専門家によると、来年(2017年)にはルーブル債の利回りは15%に達する可能性がある。最大級の国際金融会社シティグループの報告書では、ルーブルは『超高利得』であると書かれている。先にブルームバーグは、今年(2016年)ルーブルは原油相場の下落に耐え『ラジカルな強化』を遂げたと報じていた。」1
上記の記事は、ブルームバーグやシティグループが、原油価格の下落傾向にもかかわらずルーブルはあまり安くならず(図1)、他方、金利は高いので(ロシア中央銀行の言うkey rateは10%。図2参照)ルーブル建て資産は収益性が高いと考えているという内容である。
では、2017年以降もルーブルはあまり安くならないのだろうか。いくら金利が高くてもルーブルが対ドルや対ユーロで下落すればリターンも減少するのだから、ロシアに投資する際の為替見通しは重要であろう。
なお、ブルームバーグの報道(2016年9月30日付)によれば、現在、プーチン大統領は名目為替相場が63ルーブル/ドルより高くならないようにしている。ルーブルが高くなり過ぎるとドル建て原油・天然ガスの輸出代金がルーブル建てで目減りするため、ルーブル高を抑制しているのである。
以下、ロシアの国内総生産(GDP)成長率とルーブルの対ドル為替相場の先行きについて考えてみよう。

図1 ルーブルの名目対ドル相場の推移(2013年12月31日~2016年10月31日)

図1 ルーブルの名目対ドル相場の推移(2013年12月31日~2016年10月31日)

出所:ロシア中央銀行ウェブサイト(http://www.cbr.ru)より筆者作成

図2 ロシア金利(key rate)の推移(2014年2月3日~2016年10月31日)(単位:%)

図2 ロシア金利(key rate)の推移(2014年2月3日~2016年10月31日)(単位:%)

出所:ロシア中央銀行ウェブサイトより筆者作成

2. 2015年実績と2016年予想

ロシアはいわゆる「資源依存経済」、すなわち国家歳入や輸出に占める原油および天然ガスの割合が大きく、ルーブル相場は国際原油価格の変動と相関が強い。そのため、原油価格が下がるとルーブルはドルに対して安くなる2
ロシア中央銀行は、2016年10月に「2017~2019年の金融政策ガイドライン」のドラフトを公開した。図3は、そのドラフトの添付資料を訳出したものである。

図3 ロシア中央銀行「2017~2019年の金融政策ガイドライン」ドラフト付表】

図3 ロシア中央銀行「2017~2019年の金融政策ガイドライン」ドラフト付表】


注:特記のない限り数値は前年比(%)。2015年は実績、2016~2019年はロシア中央銀行予測値。

出所:ロシア中央銀行ウェブサイトより筆者作成

図3を見ると、2015年のロシアの実質GDP成長率はマイナス3.7%となり、国際原油価格の下落と欧米の経済制裁によるルーブル安が輸入物価を押し上げた結果、消費者物価上昇率は前年比12.9%を記録するなど、ロシアは景気後退期に入った。輸入が前年比4分の1超減少したことで貿易黒字は前年比で2倍となりGDPの下げ幅を縮めたが、これはロシアの購買力が落ちたことで生じた現象であり、やはり景気後退を示している。
金利に関しては、2014年12月に17%に急騰させることでインフレ率上昇の抑制を図ったが、企業の資金調達に悪影響が出たこともあり、その後は徐々に金利を引き下げていった。2015年のマネタリーベースは前年比マイナス4.3%であったにもかかわらず、マネーストックは前年比11.4%増となっており、市場の資金需要増に応じた形で金利が引き下げられたことが分かる。
2016年は2015年に比べ国際原油価格がより下落したにもかかわらず、ロシア経済は比較的安定している。国際原油価格の代表的指標であるウラルブレントを見ると、2015年の平均価格は52ドル/バレル、これに対して2016年は41ドル/バレルにまで下がると予想されている。しかしながら、2016年のGDP成長率は前年比マイナス0.7~マイナス0.5%の微減にとどまる見通しである。
2016年の経済予想については、家計最終消費支出の伸びが前年に引き続きマイナスとなるが、2015年のマイナス9.6%から2016年はマイナス4.6~マイナス4.0%にとどまる。総資本形成の伸びは4.0~5.0%の増加が予想されるが、このうち民間固定資本形成はマイナス4.5~マイナス4.0%と減少するとされ、政府による投資の割合が大きい、公的資金に依存した体制であることが分かる。
なお、金利と外国為替相場の関係については、ロシアでは金利の変化に為替相場はあまり反応しないことが知られている(Reuters, September 16, 2016)。

3.2017年以降の三つのシナリオ

ロシア中央銀行は「2017~2019年の金融政策ガイドライン」のドラフトにおいて、シナリオI(ウラルブレント年平均40ドル/バレルが3年間継続)、シナリオII(同25バレル/ドルが3年間継続)、シナリオIII(同46ドル/バレルから同55ドル/バレルに徐々に上昇)という国際原油価格に基づく予想を立てている(図3参照)。
なお、プーチン大統領とメドベージェフ首相は2017年の年平均価格を40ドル/バレルとの想定で連邦予算を組んだ旨を発表している。
シナリオII以外は消費者物価上昇率を4%としている。日米欧の中央銀行とは違い、いまだロシア中央銀行の最重要の政策目標の一つはインフレ率の上昇を抑えることにあり、目標は年4%に設定されている。とはいえ、Reuters(September 16, 2016)によれば、2016年もこの4%という数値目標をクリアすることはできないと予想されている。
シナリオIIのように国際原油価格が低迷するとルーブル安が進行し、輸入物価を上昇させるため4%目標を達成するためには政策金利の大幅な引き上げが予想されるが、これは企業の資金調達コストを増加させるだろう。それ故、シナリオIIの場合、インフレ率の上昇を容認せざるを得なくなるのである。
興味深いことに、どのシナリオであってもGDP成長率がマイナス1.5~2.5%の幅に収まることが予想されている。2000~2008年のリーマン・ショックまでという、原油価格の上昇と緩やかなルーブル高傾向の下で消費・投資の伸びが著しかった時期には年平均7%の経済成長を記録していた。2010~2012年も4%前後と先進国に比べれば高い成長率を誇っていたロシア経済であるが、2013年以降はマイナスかゼロ成長が続くものとロシア中央銀行は想定しているのである。

4. ルーブル相場を左右する諸要因

これまで見てきたように、ロシア中央銀行はある程度の経済成長率を犠牲にしてでもインフレ率の上昇を抑えたいと考えているようである。そのため、マネーストックの伸びは抑えられ、ルーブルの価値は下がりにくいとみられる。
ただし、今後のルーブル相場を考える場合、基本となるのは原油価格の動向であり、現在のところ下げ止まっているとはいえ、再び原油生産量や在庫量が増えればルーブルも安くなると思われる。
また、トランプ次期米国大統領の下で、米国や西欧諸国の金利が上昇すれば、ロシアから資金が流出しルーブルが売られる可能性もある。
さらに、ロシア極東や極北、クリミア半島などの開発を目標としているにもかかわらず、民間固定資本形成の減少ないし伸び悩みが想定される中、連邦財政支出が増大し財政赤字が拡大する恐れもあり、これもルーブル安の原因となり得る。
ウクライナを巡るロシアと欧米の対立についても決着の見込みが薄く、2017年はルーブル安傾向になりやすい条件下にあるといえるだろう。従って、ルーブル投資には、引き続きロシア国内外の情勢を慎重に見極めることが必要であろう。

1 『スプートニク日本』、2016年11月4日付(https://jp.sputniknews.com/business/201611042976233/)。なお、文意は変えていないが表現を改めたところがある。
3 安木新一郎(2014)「ロシア・ルーブル外国為替相場と国際原油価格の関係について」『甲南経済学論集』、54(1・2)、2014年1月、P57~66。
3. 2017年以降の三つのシナリオ

[執筆者]安木 新一郎(京都経済短期大学准教授)

※この記事は、2016年12月26日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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