EU・ユーロ圏のシャドーバンキング・システム-石田 周

eu

概要

金融危機の原因の一つとしてシャドーバンキングの存在が指摘されて久しいが、その解明は道半ばである。ユーロ危機後の欧州においても、依然としてその存在は大きく、今後も注視していく必要がある。欧州システミックリスク委員会が2016年に公表した報告書では「主体」と「活動」の両面から、EUとユーロ圏のシャドーバンキング・システムについて検討している。本リポートでは、その一端を紹介する。

1. EU・ユーロ圏のシャドーバンキング・システム

サブプライムローン危機の発生以降、すでに10年近くが経過しようとしている。この間、危機の原因となった「シャドーバンキング・システム(shadow banking system:以下SBS)」の解明が進められてきた。総じて、SBSの研究は米国を主な対象として行われてきた。しかし、欧州においても、危機が去った現在でもSBSは相当な規模に達している。

金融安定理事会(FSB)の代表的な定義によると、広義のSBSとは「規制された銀行制度外部の主体および活動が関わる信用仲介」である(FSB[2011])。この定義に基づき、2016年に公表された欧州システミックリスク委員会(ESRB)の報告書では「主体」と「活動」の両面から、欧州連合(EU)・ユーロ圏のSBSについて検討している。本リポートでは、ESRBの報告書を参考に、最近のEU・ユーロ圏のSBSの現状を確認する。

2. 「主体ベース(entity-based)」で見たEU・ユーロ圏のSBS

SBSを統計的に把握する手段の一つは、その構成主体の資産総額を計測することである。表1はEUおよびユーロ圏の金融部門の資産総額とその内訳を示している。

表1:EUとユーロ圏の金融部門の資産総額とその内訳(2015年第4四半期)

表1:EUとユーロ圏の金融部門の資産総額とその内訳(2015年第4四半期)

* 金融ビークル会社(FVCs)についてのデータはユーロ圏についてのみ
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金融部門は「通貨金融機関」「保険会社・年金基金」そして「投資ファンド・その他金融機関」から構成されるが、この最後の部分が「広義のシャドーバンキング・システム(SBS)」に該当する。2015年第4四半期の広義のSBSの規模は、EUでは37兆ユーロ(EU金融部門の36%)、ユーロ圏では28兆ユーロに達した。これらの規模は2004年の規模のおよそ3倍に当たる。さらに、2012~2015年にEUの銀行の総資産が5%減少したのに対し、SBSは22%増加した。このように、世界金融危機・ユーロ危機後も、EUのSBSは規制された銀行制度と比べて急速に拡大しているのである。

EU・ユーロ圏の統計では、広義のSBSに関わる主体は「投資ファンド」と「その他金融機関」から構成される。投資ファンドは「MMF」と「非MMF」に区分される。これに対し、その他の金融機関は「金融ビークル会社」1「非証券化特別目的事業体」2、そして「残りのその他金融機関」に区分される。「残りのその他金融機関」はその他金融機関から金融ビークル会社と非証券化特別目的事業体を除いた残余であり、ユーロ圏の2015年第4四半期時点における資産額は10兆8000億ユーロ(広義のSBSの39%)である。
ここには「貸金業者(FCLs)」3と「証券およびデリバティブ・ディーラー(SDDs)」4などが含まれる。これらの機関は「信用仲介」「満期転換」「流動性転換」そして「レバレッジ」に従事するが、そのレベルがそれぞれ異なっている(表2)。

表2:SBSにおける機関の特徴

表2:SBSにおける機関の特徴

注:MMFのうち、CVAV(constant net asset value)はファンドに組み入れられた資産を時価評価しないのに対し、VNAV(variable net asset value)は資産価値を時価評価する。
出所:ESRB[2016b]p.12より筆者作成

1 金融ビークル会社:証券化を通して非流動資産(通常、ローン)を市場取引できる証券へと転換する機関。
2 非証券化特別目的事業体:親会社や多国籍グループの代わりに、資金調達やグループ間取引に従事する機関。
3 貸金業者(FCLs):家計と非金融企業(NFCs)に対するアセット・ファイナンスに特化した金融企業。金融リース、ファクタリング、住宅ローン貸し付け、そして消費者金融会社などが含まれる。
4 証券およびデリバティブ・ディーラー(SDDs):自己勘定で証券に投資することにより、第三者に投資サービスを提供することを認可された投資銀行。

3. 「活動ベース(activity-based)」で見たEU・ユーロ圏のSBS

前節で扱った「主体ベース」の分析のみでは、複数の主体を横断するリスク、すなわち、伝染(コンテージョン)やプロシクリカリティーに関連するリスクを把握することは難しい。これらのリスクを把握するためには「活動」の面からもEU・ユーロ圏のSBSを捉える必要がある。表3で示されるように、程度の差はあるが、SBSに関わるそれぞれの主体が証券金融取引とデリバティブ取引5に関わっているだけでなく、さまざまな形で銀行システムと結び付いている。従って、SBSを「活動」別に見る場合、証券金融取引、デリバティブ、そして銀行システムとの相互連関などが検討の対象となる。ここでは、規模を比較的把握しやすい証券金融取引の現状を中心に検討したい。

表3:シャドーバンキング・システムにおける「活動」と各主体の関与度

表3:シャドーバンキング・システムにおける「活動」と各主体の関与度

注:表2と同じ。
出所:ESRB[2016b]p.12より筆者作成

証券金融取引とは担保付借入(secured borrowing)であり、市場参加者間の相互連関性を高めるものである。証券金融取引にはリパーチェス・アグリーメント(レポ取引)や証券貸付などが含まれる。

レポ取引とは、取引の第一段階での証券売却と、第二段階での同等の証券の将来の買い戻しを組み合わせた取引である。レポ市場は非常に短期の市場(取引の約30%が1週間未満、約60%が1カ月未満)であり、市況が悪化すると急速に干上がる傾向がある。EUのレポ市場の規模は危機以前には6兆5000億ユーロを超えていたが、危機時には5兆ユーロ以下にまで縮小した。しかし、2010年前後に規模を回復し、その後は5兆~6兆ユーロ程度を推移している。

これに対し証券貸付は、ある取引者(貸し手)が担保に対して証券を貸し、合意された将来の日または借り手に要求されたときに、同様の証券を返却することを借り手が約束する取引である。証券貸付の大部分を占めるオープン満期の取引は、金融危機時に返済を迫られる可能性があるため、取り付けリスクが大きい。貸し付けられる証券は政府債、社債、そして、株式の三つに分類される。EUの証券貸付は、いずれも2007年にピークを迎えたが、2008年の市場の悪化により大きく下落し、2015年末でも危機以前の半分程度の水準にある。例えば、最も規模の大きい政府債貸付市場は、2007年には5,000億ユーロを超えていたが、2009年以降2,700億~3,000億ユーロ程度を推移している。
5 デリバティブはヘッジ目的だけでなく、エクスポージャーにレバレッジをかけるため、または、信用リスクを移転するためにも利用される。レバレッジは、資産市場の価格変動を景気順応的(プロシクリカル)に増幅させる可能性を持つ。また、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などの信用デリバティブは、プロテクションの売買を通じて信用仲介の増加を促すとともに、市場参加者の相互連関を高める。

4. 終わりに

本リポートでは「主体」と「活動」の両面からEU・ユーロ圏のSBSの現状を見てきた。「主体」から見た場合、SBSを構成する主体の資産規模は危機後も増加を続けてきた。ただし、SBSの40%近くを占める「残りのOFIs」の詳細は統計上ほとんど把握できていない。また「活動」、特に証券金融取引から見た場合、証券貸付市場は危機以前と比べてほぼ半減したが、2015年末時点のレポ市場は危機以前のそれと近い水準にある。このように、EU・ユーロ圏のSBSは、依然としてEU・ユーロ圏の金融市場に対して大きな影響力を持っている。EU・ユーロ圏のSBSに関して、統計データの整備がさらに進められると同時に、個別の「主体」や「活動」に関する詳細な分析が求められている。

参考文献
European Systemic Risk Board (ESRB) [2016a], “Assessing shadow banking – non-bank financial intermediation in Europe”, Occasional Papers, (10), July.
European Systemic Risk Board (ESRB) [2016b], “EU Shadow Banking Monitor”, July.
Financial Stability Board (FSB) [2011], “Shadow Banking: Scoping the Issues”, April.

[執筆者]石田 周(神奈川大学経済学部講師)

※この記事は、2017年5月7日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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