中ロの天然ガス取引を占うー酒井明司

ロシア国旗

概要

ガスプロムの主たる関心は中国向けのガス輸出であるが、中国の需要予測が不透明になり、既に建設の始まっている東シベリアからのパイプラインを除けば、実現はさらに紆余(うよ)曲折が予想される。このことを考えるなら、輸出の多角化を可能にする液化天然ガス(LNG)輸出の拡大がロシアにとってガスの輸出拡大に資するのではなかろうか。
2017年も6月末に開かれたガスプロムの株主総会に先立って、同社の財務状況や各方面の活動についての記者会見が何回かに分けて行われた。同年6月8日には担当副社長以下によって、アジア太平洋方面に向けての同社の活動概要の説明が行われ、総会本番での社長アレクセイ・ミレル氏の演説もこれを踏襲している。

2017年も6月末に開かれたガスプロムの株主総会に先立って、同社の財務状況や各方面の活動についての記者会見が何回かに分けて行われた。同年6月8日には担当副社長以下によって、アジア太平洋方面に向けての同社の活動概要の説明が行われ、総会本番での社長アレクセイ・ミレル氏の演説もこれを踏襲している。

ロシア政府内で過去数年続けられてきた、今後20年間を見据えるエネルギー戦略(以下、戦略)の議論の中で、東方、すなわちアジア太平洋地域へのエネルギー資源輸出が今後の輸出全体の成長の原動力とされ、中でもとりわけ天然ガス(以下、ガス)が重要視されている。戦略の草案では、ガスのアジア太平洋地域向けの輸出が2035年までに5~9倍へ増加し、現在の欧州向け輸出の6割近くまでの量(1,200億~1,300億立方メートル/年)に達する見通しが描かれている。

エネルギー資源輸出全体でのガスの比重も、現在の4分の1から2035年までに3分の1へ高まり、その増加分の多くが東方向け輸出で実現されると想定されているのだから、ガスプロムの解説にも力が入るというもの。

彼らの説く東方向け輸出の現況と見通しは、以下のようになるようだ。

  • 東シベリア・極東でのガスの埋蔵量は4兆2300億立方メートル(カテゴリーA+B1+C1)。
  • チャヤンダ・ガス田(年産250億立方メートル)では生産井60本以上の掘削と周辺ガス田の地質探査(3次元)、コビクタ・ガス田(年産250億立方メートル)では試掘井掘削と地質探査(3次元)が進められている。
  • 大陸部ではこれらの二大ガス田の他に、クラスノヤールスク地区やカムチャツカ半島での地質探査が行われている。
  • チャヤンダ(加えて将来的にコビクタ)からのガスを中国に運ぶパイプライン「シベリアの力(Sila Sibiri)」(輸送能力380億立方メートル/年)は、全長2,160キロメートルのうち445キロメートルが2016年末までにその建設を完了し、2017年にはさらに663.5キロメートルが敷設される予定(初期少量輸送での運開予定は2019年12月と、2017年7月4日にガスプロムと中国石油天然気集団(CNPC)が合意)。中ロ国境のアムール川横断部分は中国側(CNPC)が2017年4月に着工。
  • 対中輸出に必要とされるロシア内地下貯蔵庫は、建設予定地での地質探査(3次元)を実施中。
  • 対中輸出に際しての重質分(エタン、プロパン、ブタンなど)とヘリウムの分離を行うアムールスク工場(GPZ=ガス処理工場)は、その設計作業が完了し、これから第1期分の建設に取り掛かる。最終的にガス処理能力は420億立方メートル/年、液化石油ガス(LPG)年産150万トン、ヘリウム年産6,000万立方メートルを目指す。
  • サハリンでは、サハリン-3鉱区の2ガス田での生産拡大(55億立方メートル/年)と開始(210億立方メートル)に向けて必要とされる掘削および設計作業を取り進め中。サハリン-2でのLNG生産能増(540万トン/年)計画も進んでいる。
    2015年9月にCNPCと覚書を締結した、サハリンからの対中ガス輸出計画(別途ガスプロム関係者は、80億立方メートル/年という数字を挙げている)は、2017年末までに供給条件の合意を予定。また、西シベリアからの対中ガス輸出計画(300億立方メートル/年)も中国側と協議中。

話の多くが中国向けのパイプライン・ガスの輸出に集中していることが分かる。計画値を足し合わせれば、これだけでも750億立方メートル/年を超え、戦略草案が想定するアジア太平洋地域に向けたガス輸出の6割を占める勘定になる。この他にも中国向けにはLNGも加わる予定だが、ロシアの東方に向けてのガス輸出拡大の成否は、対中パイプライン・ガス輸出の実現の如何によって決まるともいえるだろう。

上述のガスプロムの説明に基づけば、東シベリアからのガス輸出(「シベリアの力」経由)、西シベリアからのガス輸出、そしてサハリンからのガス輸出、と三つのパイプライン案件が並ぶことになる。

「シベリアの力」建設

http://www.gazprom.com/f/posts/69/808097/map_sila_sib_e2016-10-25_1.png

では、戦略が想定する2035年の時点で、これらの案件は皆めでたく実現しているのだろうか。ロシア側はそれこそ「やる気」なのだが、足元を見ると中国側が今一つ勢いに乗り切れていない。

 2017年1月までに中国政府から出された第13次5カ年計画(2016~2020年)の概要では、最終年度の2020年でのガスの総需要に該当する予測数値が示されなかった。他の公示予測指標から2020年で2,600億~3,100億立方メートル辺りとの数値が専門家によって割り出されているが、ガスプロムがその最大値の3,000億立方メートル辺りを予測値として捉える一方、米エネルギー情報局(EIA)などは、2,600億立方メートル(9兆1200億立法フィート(TCF))止まり、との予測をつとに出している。

要は、現状で中国政府自体が、3~4年先の具体的な予測値ですら自信を持って引き出せていないのだ。その理由は、(1)エネルギー資源総需要量を規定する経済成長の今後の推移が読めずにいること、(2)石炭、ガス、再生可能エネルギーのシェア(エネルギーミックス)の態様がどうなるのか、当該政策の効果も含めて不透明な点が多いこと、そして(3)ガスを調達するにしても今後の国内生産の伸びやアジアと世界のLNG市場がどうなるのか、そのLNGは価格の面でパイプライン・ガスより買い手にとって有利なものになりはしまいかといった思惑など、に求められる。

それでなくとも、対米貿易の赤字問題を何とかせねばならない立場に置かれてしまった中国は、米国からのLNG輸入にまで乗り出したと報じられている。この種の予想外の政治決断がいつどこから飛び出してくるか。それを予想することは、極めて難しい。

このために、東シベリアからのガスは過去に合意したことでもあり、ロシアから出てくれば引き取らざるを得ないと中国側は腹を決めているものの、ロシア紙の報道によれば、ロシアにとって最終合意を目指さねばならない西シベリアやサハリンからのガスについては、現状では何ら話し合いが進んでいない。ロシアの専門家からは、当面実現の見通しは立つまい、との悲観論も漏れ聞こえる。

10年前までは、手当たり次第に資源確保に奔走した中国にとって、ロシアのガスもまずは手を着けておくべき対象だった。そのため、ロシア側の輸出計画がまとまり切らずに話が結論に行き着かない状態が延々と続いても、辛抱強く話に付き合っていた。そのロシアがようやく体制が整い始めて、では具体論を詰めよう、と持ち掛けてきた今、中国が二つ返事でそれを受け入れる状況にはない、というちぐはぐさが出てきてしまっている。

この状況を与えられて、これから先20年後にどうなっているかを無理にでも占わねばならない。まず、今よりは低下したとしても中国が数%の経済成長を維持できると仮定するなら、エネルギー全体の消費量も大きく減少することはないものと考えられる。そしてエネルギーミックスでは、世の流れに従って温暖化への影響が軽減される再生可能エネルギーとガスが主役になっていくと考えたいところだ。

だが、G 2として中国が対抗すべき米国はシェール革命によってエネルギーの自給率を急速に高めている。対して中国は、石油と並んでガスも今後自給達成のめどはまだ全く立っていない。それどころか、このままでは輸入依存度は増加する一方である。ここが中国のアキレス腱(けん)で、それ故に環境への負荷が大きいと分かってはいても、その気になれば100%自給も不可能ではない石炭への依存度を急速に減らすことは簡単ではないかもしれない。

これらを考え合わせると、ロシアの中国向けパイプライン・ガスの輸出は、パイプラインの建設に手を着けてしまっている東シベリアからのそれは何とか実現するであろうが、他の2案件については中国側でよほどの(経済に優先する)政治的判断がなされない限り、その実現の見通しは当面立たないと考えるべきなのだろう。

こうした中国市場への過大な期待感を排する予測を前提に考えると、ロシアの取るべき道は、一つにはガスを原料とした国内での加工製品(化学品)生産増加策となる。しかし、ガスからの化学品は生産コスト上の制約から窒素系肥料やメタノールなどに種類が限定され、それだけで大量のガスをさばくにはどうにも無理がある。

もう一つは、売買契約形態の変化に伴い仕向け地を自由に変えることが可能になってきたLNGでのガス輸出促進ではなかろうか。東シベリアのような大陸部奥深くに位置するガス田からのガスは、ユーラシア大陸内で国内消費あるいはパイプラインによる輸出に当てるしかあるまいが、経済性ギリギリでも沿海部に輸送可能なガスであれば、どの輸入基地へも向けられるように液化した形でその輸出を拡大していくことが、ロシアにとっても最も賢明な道のように思われる。これは、日本のエネルギー戦略を考える上でも念頭に置くべきことでもあろう。

付記:本稿における見解は著者個人のものであり、所属機関の見解を示したものではない。

[執筆者]酒井 明司(三菱商事株式会社欧州ロシア天然ガス事業部シニアアドバイザー)

※この記事は、2017年7月13日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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