注目され始めたロシアのバイオエネルギー -山脇 大

ロシア国旗

概要

資源大国として知られるロシアは、同時に資源浪費国でもある。この状況は、ロシアの環境を悪化させるばかりでなく、国際的な環境対策の停滞にもつながりかねない。解決策の一つである再生可能エネルギーの中でも、関心が高まっているバイオエネルギーを取り上げる。

はじめに

ロシアはエネルギー資源大国の一つだが、依然として世界有数のエネルギー起源二酸化炭素排出国であると同時にエネルギー浪費国であり続けている。このような状況は短期的にはロシア国内の環境状況の悪化を、中長期的には国際社会における環境負荷増大とその解決に取り組む国際的枠組みの停滞につながりかねない。また、豊富な炭化水素資源は、かえってクリーンな経済へ向けたロシアの移行を遅らせている。本稿では再生可能エネルギーの中でも、特にロシアにおいて潜在性の大きいバイオエネルギーについて検討する。

ロシアにおけるバイオエネルギーの供給状況と政策的位置付け

2014年度のロシアにおける一次エネルギー総供給は、7億1090万石油換算トン(toe)であり、その90%以上が炭化水素資源によって占められており、再生可能エネルギーは全体の3%ほどにすぎない。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国全体の一次エネルギー総供給に占める再生可能エネルギーの割合は9.8%であり、ロシアは、それを大きく下回っている。再生可能エネルギーの中では水力が最も大きく、バイオ燃料・廃棄物が710万toeと続く(図1)。

図1 一次エネルギー総供給に占める再生可能エネルギーとその内訳(2014年度)(単位:100万toe)

図1 一次エネルギー総供給に占める再生可能エネルギーとその内訳(2014年度)(単位:100万toe)

出所:国際エネルギー機関(IEA), Energy Statistics(http://www.iea.org/statistics/statisticssearch/)より著者作成

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)(2017)によると、2014年のロシアにおけるバイオ燃料および廃棄物の利活用は全体で年間290ペタジュール(PJ)であり、そのうち60%が廃棄物(再生可能/不可能な産業廃棄物と一般廃棄物)であり、40%が固体および気体燃料である。全利活用のうち63%が電力・地域熱供給に使用されている一方、残り37%が主に建築物における熱供給に向けられている。

政策レベルで見ると、よりクリーンなエネルギー源を目指す国際的潮流の中で、ロシア国内においてもバイオエネルギーの一次エネルギー供給源としての重要性とポテンシャルが指摘されるようになってきた。それが顕著に現れているのが、2011年4月1日のハイテクおよびイノベーションに関する政府委員会の決定に基づいて設計され、2012年4月24日に採択された「2020年までのロシアにおけるバイオテクノロジーの総合開発プログラム(バイオ2020)」においてである。本プログラムの中で、バイオエネルギーは重点分野の一つに位置付けられており、プログラム実施期間(2011~2020年)の予算配分見通しは、3,670億ルーブルで最も多くなっている。

しかしながら、本プログラム「バイオ2020」は、基本的にはロシア・エネルギー省による国家プログラム「エネルギー効率とエネルギー発展」の枠組みの中で実施されていくことが想定されている。そこでは特に、バイオマスからの電力および熱の生産、非食用バイオ生産の強化に向けた産業廃棄物および一般廃棄物のエネルギー生産サイクルで生成された二酸化炭素排出量の吸収(活用)、そしてバイオコンバージョン(生物変換)を用いたエネルギー部門が与える環境に有害な人為的影響の防止と軽減に焦点が当てられている。

加えて、2009年11月に採択された「2030年までのロシアのエネルギー戦略」も、バイオエネルギーを含む、再生可能エネルギーの戦略的重要性とともに、エネルギー部門の環境保全の改善に向けて、燃料・エネルギー資源の生産・輸送・貯蔵・使用における、クリーンエネルギーや省エネ技術の導入、再生可能エネルギーによる発電や熱生産を拡大するための環境整備の必要性を指摘している。その背景には、エネルギー部門が、国内の大気汚染の50%、表層水汚染の20%、二酸化炭素排出の70%を占めるロシアの主な環境汚染源だという事実がある。

2012年11月には、技術プラットフォーム「バイオエネルギー」が設立され、クルチャトフ研究所が調整機関の役割を担っている。本プラットフォームには、政府系機関(5)、科学機関(31)、教育機関(28)、企業(56)、公的機関(25)が含まれており、バイオエネルギー全般に関する知識・技術共有の場として幅広く活用されている。
このように、ロシア国内においてよりクリーンな代替資源としてのバイオエネルギーに対する関心が官民問わず高まってきており、必要な制度的枠組みが徐々に形成されてきているといえよう。

ロシアにおけるバイオエネルギー発展の機会と課題

ロシアのバイオエネルギーには大きなポテンシャルがある(表1)。2030年のロシアにおけるバイオマス原料の供給ポテンシャルは年間1,848PJ(低シナリオ)から1万4084PJ(高シナリオ)と見込まれており、低シナリオの場合でも、2013年のロシアにおける発熱・発電総量(9,220PJ)の20%ほどを賄うほどである。

ロシアには、広大な国土と森林面積、そして豊富な森林資源がある。国際連合食糧農業機関(FAO)(2012)によると、ロシアの2010年の総林木蓄積量は830億立方メートルであるが、森林面積の増加や地球温暖化、窒素沈着などの要因によって、2030年には2.4~5%の増加が見込まれている。また、現在ロシアの農業企業は年間600万トンの廃棄物を出しており、そのほとんどが郊外に放置され、土壌や水資源に悪影響を与えている(GEMCO Energy, 2015)。このような潜在資源の効率的活用は、発電・発熱量を増加させるばかりではない。農業は主要な温室効果ガス排出源であることから、ロシアにおけるバイオエネルギーの利用は、気候変動の緩和にも直結し、経済全体の効率性を上昇させることにもつながる。
加えて、表1の見通しに示されているような、バイオマスセクターへの投資とインフラ設備の発展が実現された場合、炭化水素資源への依存(図2)と浪費的な消費構造という二重の病にかかっているロシア経済にとって、バイオエネルギーという一次エネルギー源の選択が「脱炭化水素資源・産業多角化・クリーンなエネルギー源への転換」という観点から、これ以上ない処方箋として現実味を帯びてこよう。

表1 ロシアにおけるバイオエネルギーの発展に関する見通し

表1 ロシアにおけるバイオエネルギーの発展に関する見通し

注記:Reference case:2010年から2030年までの再生可能エネルギーの導入量の増加を従来の見通しに基づいた場合。REmap:世界のエネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの比率を2倍に増やした場合
出所:IRENA(2017)より著者作成

図2 ロシアの財政収支と歳入に占める石油ガス収入の割合、対外債務残高の推移

図2 ロシアの財政収支と歳入に占める石油ガス収入の割合、対外債務残高の推移

注記:政府対外債務残高は期首値
出所:OECD(2015), 国際通貨基金(IMF)(1999), Министерство Финансов Российской Федерации(2016), およびФедеральная служба государственной статистики(Росстат), Центральный Банк Российской Федерацииの公表データより著者作成

一方で、バイオエネルギー発展の見通しに関して、暗雲も立ち込めている。例えば、上述の「バイオ2020」は2015年までは連邦予算で賄われ、それ以降は予算が付いていない(Netherlands Enterprise Agency, 2014)。そのため、2016年以降は国内外の企業やその他国家プログラムから資金を受けることが想定されていたが、その実施枠組みである国家プログラム「エネルギー効率とエネルギー発展」の予算は、2014年度の当初案に比べて、2017年の修正案ではプログラム期間全体で84億ルーブルの削減見込みである。また、第6サブプログラムである再生可能エネルギー利用の発展(バイオエネルギーを含む)も当初案の1億9000万ルーブルから、修正案では1億5679万4000ルーブルへと削減される見込みである。

その他にも、解決すべき課題がある。まず、近年の国際市場における炭化水素資源価格の落ち込みは、再生可能エネルギー、ひいてはバイオエネルギーの、炭化水素資源に対する代替財としての価格競争力を弱めることにつながる恐れがある。
加えて、エネルギー需要の多くが欧州・ロシアおよび欧州連合(EU)市場である一方、バイオマス原料は概してシベリアやその他遠隔地に賦存しているため、その場合の原料調達および輸送コストが課題となる。

同時に、国土の西側でも放射能汚染という問題がいまだに残されている。ウクライナおよびベラルーシと同様に、ロシアはチェルノブイリ原発事故で最も汚染された3国である。欧州全体で、1平方メートル当たり4万 ベクレル以上のセシウム137汚染地域が20万平方キロメートル以上に及ぶ中で、その71%が当該3国内に位置していた(国際原子力機関(IAEA), 2006)。放射能汚染地域におけるバイオマス生産とその利活用は、他国でも同様の議論があるように、現状での実現見通しは高いとはいえない。セシウム137に汚染されたチップやペレットなどの木質バイオマスの燃焼による、高い放射線量を含んだ燃焼灰の処理といった技術的要素、放射能汚染地域の再活用に関わる制度的枠組みの形成や地域コミュニティーとの調整が必要となってくるからである。

近代化の一方策としてのバイオエネルギー

さまざまな課題はあるにせよ「脱炭化水素資源・産業多角化・クリーンなエネルギー源への転換」は、ロシアにとって目指すべき道であると同時に、そこで豊富なポテンシャルを持つバイオエネルギーに注力することは、合理的かつ国際的な環境潮流の中で他国と歩みをそろえることに他ならない。とはいえ、総じて、ロシアにおけるバイオエネルギーの発展には、その豊富な供給ポテンシャルを活用するための設備インフラへの投資と技術や効率的なオペレーションの習得が不可欠である。まさに近代化こそが今後のロシアの直面する課題であり、バイオエネルギーの発展もその一環なのである。

付記:本稿に示された所見は著者自らのものであり、FAOの公的な立場または見解を必ずしも意味するものではない。


参考文献
山脇大(2017)「ロシアのエネルギー消費とバイオエネルギーの発展可能性」『ロシア・ユーラシアの経済と社会』2017年9月号掲載予定
FAO (2012) The Russian Federation forest sector: outlook study to 2030, FAO, Rome.
GEMCO Energy (2015) Biomass Energy in Russia / Industry Analysis
IAEA (2006) Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and their Remediation: Twenty Years of Experience, Chernobyl Forum Expert Group ‘Environment’
IMF (1999) Russian Federation: Recent Economic Developments, IMF Staff Country Report No. 99/100, Washington D.C.
IRENA (2017) REMAP 2030: Renewable Energy Prospects for the Russian Federation, Working Paper, IRENA, Abu Dhabi
Netherlands Enterprise Agency (2014) Biomass market opportunities: Russian Federation
OECD (2015) National Account Statistics, OECD/IEA, Paris


[執筆者]山脇 大(国際連合食糧農業機関(FAO)環境・気候変動ジュニア専門官)

※この記事は、2017年8月23日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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