ポーランドにおけるLPG車ビジネスとEVビジネスとの「すみ分け」-家本博一

ポーランド国旗

概要

世界的な自動車燃費規制強化が進む中、西欧地域では電気自動車(EV)の開発・製造競争が激化し、これを受けて蓄電池の開発・製造も激しさを増している。他方、西欧地域に比して所得水準の低い中東欧およびその周辺地域では、特に価格面での比較優位に基づき液化石油ガス(LPG)車の販売が増加しつつある。近未来には、これら両地域でEVとLPG車の「すみ分け」が進行すると考えられる。

1. 欧州で進むEVシフト

世界の主要な自動車製造企業では、自動車の排気ガス規制、燃費規制の一層の厳格化への対応策として、ハイブリッド車(HV)の開発・製造に加えて電気自動車(EV)の開発・製造競争が激しさを増している。こうした動きと並行して、近年、EVの死命を制するといわれる電池(リチウムイオン電池(LIB)と全固体電池)の開発・製造競争も、日本・韓国の大手企業グループが参戦し、さらに激しさを増している。

欧州では、欧州連合(EU)が二酸化炭素(CO2)排出量削減など燃費規制の強化を推進する中で、1990年代前半以降、CO2排出量の少ないディーゼル車に対して税制優遇を含む各種のインセンティブが付与され、ディーゼル車の製造・販売が後押しされてきた。その一方で、ディーゼル車の急増によって、排出される窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)が原因となって大気汚染が深刻化するという状況が各地で続出した。このため特に大都市では、ディーゼル車の市内乗り入れ禁止などの走行規制が相次いで導入(あるいは検討)されるようになった。そして2017年7月には、フランス・英国両政府が2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を全面禁止する方針を発表するに至り、ガソリン車とディーゼル車の販売禁止という動向が一挙に主流となってきた。

こうした一連の規制強化を受けて、特に西欧地域では、EVの普及で先行するノルウェー、オランダに加えて、近時ではフランス、英国、ドイツの3カ国においても、EVの販売・普及が進行しつつある。EVへのシフトは、中長期的には上述の規制措置に加えて、(1)バッテリー性能の向上や車体軽量化による航続距離の延伸、(2)運輸分野でのデジタル技術(自動運転やコネクテッドカーとこれらを利用する各種カーシェアリングサービスなど)の活用、(3)内燃エンジン車に対する価格競争力の強化、の成功いかんによって決定されると考えられている。

2. 中東欧地域のEV普及状況

ポーランド、チェコなど中東欧地域では、EVの普及はどのような状況であろうか。欧州自動車工業会(ACEA)によれば、EVの市場シェア(2016年末時点)では、中東欧地域は西欧地域(オランダ:6.0%、スウェーデン:3.6%、英国・フランス:1.4%、ドイツ:0.8%など)に比べて低く、中東欧地域でEVの市場シェアが最大のハンガリーであっても比率は0.4%にすぎない。また、欧州での自動車製造業の集積地と言われて久しいチェコ、スロバキア、ポーランドの3カ国ではいずれも0.1%と極めて低い。

EVの市場シェアが大きい西欧地域では、EV販売への各種インセンティブが整えられているが、中東欧地域では、西欧地域に比べてこうしたインセンティブが整えられておらず、EVの普及・促進を図るインセンティブ措置の整備は今後の重要課題の一つである。

こうした状況の中、中東欧地域では、西欧地域での動きとは異なり、ガソリン車改造型やディーゼル車改造型の液化石油ガス(LPG)車が近時再び注目されるようになっている。これは、一層の規制強化への対応策として化石燃料からガス体燃料への転換が図られてきた中で、EVの販売価格に比べてLPG車の(改造費用を含む)販売価格が低いことから、LPG車の販売が2000年代後半以降かえって伸びるという現実を反映した結果である。

ポーランドでの登録台数は、欧州ではトルコ(2016年:約360万台、本稿でトルコは欧州に含める)に次いで多く、イタリア(2016年:約210万台)を上回っている。またポーランド国内のLPGスタンドの数は、2016年には全土で5,800カ所を超えた。こうした状況から、ポーランドではLPG車の販売が今後も一定期間以上にわたって継続していく可能性が高いと考えられている。

3. ポーランドではLPG車販売が今後も一定期間・割合で継続か

ポーランドでは表1に見られるように、2011年には(商用・乗用)自動車登録台数のうちLPG車は247万7000台に達し、自動車登録台数全体の14.8%を占めるに至っていた。その後、増加幅に多少の変動は見られるものの登録台数は年々増加し、2015年には264万7100台(シェア13.9%)、2016年には269万2100台(13.1%)となり、2017年末には確実に270万台を超えると推測されている。

表1 ポーランドにおけるLPG車登録台数とその増加率(2011~2016年)

*)商用・乗用自動車登録台数の数値は全て1,000未満の数値を切り捨てている。
**)登録台数総計(ガソリン車+ディーゼル車+代替燃料車)に対する割合(%)
出所:ACEA、Statistics、Passenger Car Statistical Press Release各月版、Commercial Vehicle Statistical Press Release各月版、Alternative fuel vehicle registrations各月版、Economic and Market Report:EU Automotive Industry各年版それぞれの数値を基に筆者作成

表2を見ると、2015年では、代替燃料車の登録台数が占める割合は、EU域内ではポーランド(15.5%)が最大で、他の加盟国を大きく上回り、スイス(7.0%)、イタリア(5.3%)、オランダ(4.6%)の3カ国がその後に続いている。またガソリン車で見ると、オランダ(78.9%)はドイツ(66.2%)を大きく上回る一方で、フランス(34.5%)が他の加盟国を大幅に下回っている。

さらにディーゼル車を見ると、ガソリン車の場合とは正反対に、フランス(64.2%)がEU域内で最も高く、逆にオランダ(16.5%)がEU域内で最も低くなっている。そして、EU域内で代替燃料車の比率が高いポーランドとスイスは、ディーゼル車の比率ではそれぞれ29.5%と29.6%となっており、ドイツ(32.3%)よりも低くなっている。

これらの結果から、EU域内で同じように燃費規制が強化されていても、こうした規制への対応が各国で大きく異なることが分かる。換言すれば、環境規制の一層の強化がEU域内においてガソリン車やディーゼル車の排出物規制の厳格化という形で進められている中で、代替燃料車という選択肢を有するポーランドやスイスでは、これを達成する選択肢としてEV、HVへの転換を図ることなく、これを「回避」できるという状況が生じているのではないかと考えられる。

表2 欧州地域における燃料エンジン別登録台数の比較(2015年)(単位:%)

(注)代替燃料には、LPG、LNG(液化天然ガス)、E85(アルコール燃料)が含まれている。また各数値は、各国の乗用自動車登録台数に占める燃料エンジン別登録台数の比率である。
出所:ACEA、Statistics、Passenger Car Fleet by Fuel Type(2017年10月公表)を基に筆者作成

4. 地域による所得水準で異なるEV普及状況

ポーランドでのLPG車ビジネスの今後を考える際に参考となるデータが、ACEAから発表された。これは、荷電可能なEVの普及率と1人当たり国内総生産(GDP)名目額との相関関係を欧州地域31カ国について調査・分析したものである。これを見ると、(1)EVの普及が進展していくためには、1人当たりGDP名目額が少なくとも3万ユーロ以上なければならないこと、逆に(2)1人当たりGDP名目額が1万7000ユーロを下回る国々では、電気商用自動車(ECV)の普及はその可能性が低いこと、という2点が明らかにされている。つまりECVの普及という問題に関しては、販売価格の相対的な高さ故に、所得水準の低い欧州地域の国々で早急に普及する可能性は極めて低いと考えられる。

このことは、相対的に所得水準の低い中東欧地域およびその周辺地域(中央アジア地域、トルコ・中東地域など)にとって、環境規制の厳格化への対応策として、西欧地域並みに所得水準が高まるまでの間、EVの選択は容易には進まず、難しいと言わざるを得ない。つまり、ポーランドにとってこの間、LPG車の選択が続くということであり、またEU新興加盟国を含む欧州の周辺地域にとっても、価格面で有利なガソリン車改造型のLPG車という選択肢が今後も採用可能なものとして存在していくと考えられる。西欧地域では、EVの普及が今後急速に進展する一方で、中東欧地域およびその周辺地域では、改造型LPG車の新規登録が一定期間続くという状況が並立し、一定程度の「すみ分け」の状態が続くと考えられる。

[執筆者]家本 博一(名古屋学院大学経済学部教授)

※この記事は、2018年2月15日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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