ロシアを巡る環境変化とブランドマーケティング-菅原信夫

ロシア国旗

概要

これまで輸入品と海外ブランドに独占されていた耐久消費財において、ロシアブランドの人気が高まっています。とはいえ、多くの輸入部品が使用され、最終組み立てのみロシアで行う形式的な「Made in Russia」が多く見受けられます。それならば、日本製の部品やユニットの輸出を増やすB2Bビジネスが可能なはずです。これも日本のメーカーにとって一つの輸出戦略といえるのではないでしょうか。

平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックが終わり、あらためてウインタースポーツにおけるロシアの存在感の大きさを再認識しました。そして同時に、今回のオリンピックにおけるロシアの国際社会への対応に、筆者はロシア社会の変化を感じずにはいられませんでした。

具体的には、ロシアという国家がその国名で競技に参加することを禁止され、三色旗を会場に持ち込むことさえも禁じられ、OAR(Olympic Athlete from Russia、ロシアからの五輪選手)という団体名の下、各選手は国名を削除したウエアを着て、まさにニュートラルな立場で競技に臨んだわけです。しかし強い者は強く、勝つべき競技者は勝つ。一例を挙げると、フィギュアスケート女子(フリー)で、アリーナ・ザギトワ選手、エフゲニア・メドベージェワ選手がそれぞれ金メダル、銀メダルを獲得しました。彼女たちの参加がなければ、フィギュアスケート女子そのものが非常にレベルの低いものになっていたのではないでしょうか。群を抜くトップアスリートを擁するロシアによって、競技レベルが担保されるような種目は他にもいろいろありました。

それを誰よりも感じたのは、テレビで中継を見ていたロシア人でしょう。ロシアの三色旗は身に着けていなくても、テレビで競技を見ればそこにはロシア人選手が大活躍しているわけで、ロシアの誇りを感じるにはそれで十分だったのです。競技の詳細はともかく「やはりわれわれが世界一なのだ」というこの事実さえ確認できれば、国家ぐるみのドーピング疑惑など不名誉な事件の当事者となったロシア人も、ぎりぎりのところで世界と協調していくことができるのです。

さらに2018年のロシアでは、国民が国際政治を身近に感じる出来事がいろいろと発生しています。同年3月18日に行われたロシア大統領選挙でのプーチン氏の得票率76%という数字に、政治の安定と継続を望む国民の期待が現れています。その選挙運動の終盤に、突然のように起きた英国でのロシア人亡命者毒殺未遂事件。英国は今回のソールズベリーでの事件をロシア政府が関係する暗殺未遂事件と捉えて、早速、英国駐在ロシア外交官23人の強制退去を命じました。

大統領選挙運動中であったプーチン氏は困惑の表情を見せながらも、BBCのインタビューに対して、ロシアによる犯罪を証明する証拠がないことを指摘していました。これは多くのロシア人が感じていることで「西欧諸国による“ロシア人いじめ”がまた始まった、プーチン氏が関わる事件を訴えて、プーチン氏への投票を妨害する」という西側諸国による筋書きが多数のロシア人の頭には浮かんだようです。
しかし実際の選挙においては、西側諸国の筋書きとは逆にロシア国民を団結させ、プーチン氏を前面に押し出す方向に力学が働いたようで、前述した得票率76%は、そのような要因も含まれていると思われます。

また2018年3月13日には米国国務長官のレックス・ティラーソン氏の解任が発表され、米国政府のみならず、日本をはじめとする西側諸国に激震が走りました。ティラーソン氏は過去に米国の石油大手エクソン・モービルの会長兼最高経営責任者(CEO)であった人物で、ロシアにも知人が多く、ロシア側からは米国の国務長官として望ましい人物とされていました。その親ロシア派とでもいうべき貴重な人材を、ロシアの大統領選挙直前に解任するというトランプ米大統領の決定は、ロシアではロシアの大統領選挙とのコンテクストで語られ、まさに西側諸国によるロシア攻略作戦としてロシア人には捉えられています。

当然ともいえるのですが、このような環境の中、ロシア全土には非常に愛国的なムードが漂っています。一例として、国民経済達成博覧会(VDNKh)が挙げられます。モスクワ市の北部に位置するこの巨大な博覧会場は、30年以上に及ぶ建設期間を経て、国の経済的偉業を披露するものとして1958年に開場しました。2014年にそれまで使用されていた「全ロシア博覧センター」という名称から、以前の計画時に使われた名称VDNKhに変更され、内容もロシアの各産業セクターの成果を示す展示会場となりました。こちらも当初の目的に戻りつつあります。

VDNKhは1980年代、1990年代はまさに空白の巨大な都市空間として、人々が集まるのは冬のスケートリンクだけという残念な場所だったのですが、今やロシア農業展が開かれ、ロシア各地の農作物が展示即売されます。また春の新酒の時期には、ロシア全土から集められたワインが即売され、ワイン好きの人が多く詰め掛けるため、大駐車場の空きスペースを探すのにも苦労するような人気スポットになりました。特にソ連時代以降の国家宇宙開発の歴史展示は世界的にもよく知られており、外国人にも大変人気があります。

これまで輸入品と海外ブランドに市場を独占されていた耐久消費財についても、最近は傾向が変わってきました。その一例として、家庭用キッチン調理器類を見てみましょう。日本や中国での売れ筋商品ナンバーワンは電気炊飯器ですが、ロシアではジューサーミキサー、ブレンダー、トースター、グリルなどが同じくらいの割合で売れています。従来は欧州の輸入ブランドが圧倒的に強く、ドイツのBosch、フランスのMoulinex、オランダのPhilipsなどが売れ筋商品の上位に顔を並べていました。

ところが、ここ最近はロシア企業であるBORKが彗星(すいせい)のごとく市場に現れ、2012年ごろから、ジューサーミキサーやグリルでは売り上げナンバーワンを記録しています。BORKの特徴は、デザインと販売方法にあります。同社のウェブサイト(https://www.bork.ru/)からも分かるように、ジューサーミキサーやグリルは多くの場合、女性が家庭で使用するにもかかわらず、そのデザインは金属を多用した男性的な業務用機器の外観をまとっており、ロシア家庭で財布を握る男性(夫)が魅力を感じるような製品に仕上がっています

BORKの本社は、BORK Electronic GmbHという名称でドイツに登録されていますが、その活動はロシア国内に限定されます。外国製品というイメージ作りのため、ドイツに本社を構えたと思われます。しかし、愛国ムードが高まる2015年ごろから同社は外国製品というイメージからロシア国産というイメージ戦略に乗り換え、国産品愛用ブームに乗って売り上げを伸ばしています。販売方法については自社販売を貫き、ロシアの100万人以上の人口を持つ13の都市に、ブティックと称する自社製品専門のアウトレットを展開。製品の説明からアフターサービスまで、同じレベルのサービスを全国一律に提供できるような体制を取っています。

100万人都市以外の地方都市に在住するロシア人の間では近年、eコマースが非常に伸びてきています。このためBORKに限らず、コンシューマー向けの商品を販売する企業は、洗練されたウェブサイトの作成とともに、信頼できる配送業者の選定など、コストは二の次として消費者に安心して買い物をしてもらえる環境づくりに腐心しています。ロシアのメーカーがこのように洗練された商品を市場に投入し、配送、保証についても安心できるとなると、消費者の間では輸入品より国産品を選ぶ人が多くなるでしょう。今やこの傾向はどのような商品分野においても顕著になりつつあります。

出所:https://www.bork.ru/

耐久消費財に関して、金額が最も張るものの一つは自動車です。一般的にロシアの自動車産業は外資系メーカーと国内系メーカーに分かれ、ロシアの自動車市場を支えているのは外資系メーカーと輸入車であり、国内系メーカーは長期にわたり不調を続けていると理解されてきました。しかし2017年の最終統計速報を見ると1、国内新車総販売台数は159万5737台と前年比11.9%の伸びを示しており、西側諸国による経済制裁の影響を感じさせない市場の元気の良さを感じます。耐久消費財に関して、金額が最も張るものの一つは自動車です。一般的にロシアの自動車産業は外資系メーカーと国内系メーカーに分かれ、ロシアの自動車市場を支えているのは外資系メーカーと輸入車であり、国内系メーカーは長期にわたり不調を続けていると理解されてきました。しかし2017年の最終統計速報を見ると1、国内新車総販売台数は159万5737台と前年比11.9%の伸びを示しており、西側諸国による経済制裁の影響を感じさせない市場の元気の良さを感じます。

さらに注目すべきは、ブランド別販売シェアです。ロシア最大の自動車メーカーAvtoVAZの生産するLADAブランドが19.5%で堂々1位、韓国の起亜自動車の現地生産ブランドが11.4%、現代自動車が9.9%、その次にルノーとなりますが、国内系ナンバーワンのAvtoVAZの強さとロシア企業の人気を引き継いだ韓国企業の好調ぶりが目立ちます。この傾向は2018年に入ってからも継続しているようで、価格面で消費者を捉えている国産小型車は、さらに愛国心からもロシア全土の消費者から人気を勝ち得ていると言えそうです。

このような市場環境の下で、私たちロシアビジネス関係者には「こういった国産品愛用ムードが広がるロシア市場に、日本製品はどのようにアプローチすればよいのか」というテーマが頻繁に与えられます。筆者は2018年2月にこのテーマでセミナーを行いました2。3時間もの長時間セミナーだったので、その内容を全てここで紹介するのは不可能ですが、筆者の提案を簡単に紹介します。

国産品愛用ムードが高まるからといって、ロシア企業のものづくりの技術が急速に上達するはずもありません。ロシア産耐久財の実態を見ると、多くの輸入部品あるいは輸入ユニットが使用され、最終組み立てのみロシアで行うという、形式的な「Made in Russia」が多く見受けられます。それならば、そういった日本製の部品やユニットの輸出を増やすB2Bビジネスが可能なはずです。

上記で紹介したBORKの電気製品ですが、同社は中国・東欧をはじめとする諸外国の委託製造により製品を作り、OEM製品3として輸入します。デザインだけは自社デザイナーがロシアの消費者を魅了する形状にし、その製造はコストが安く、かつ品質が担保できる諸外国の専門メーカーで製造する、これがBORKのコンセプトです。BORKはすでに日本のメーカーとの取引も始めていて、筆者が講演を行ったセミナーでは、BORKに製品を納めている新潟県のある中小企業の社長によるプレゼンテーションも行われました。

現実の世界を見るとき、欧米諸国とのあつれきがますます増えてきているロシア。一方、ビジネスにおいてはその時代に合わせた方法を取ることが要求されます。幸い、日本は安倍首相の親ロシア路線のため、ロシアは日本について西側諸国とは一線を引いて考えているようです。そうなると「Made in Russia」製品を作る上で、日本製の部品やユニット、そしてOEM製品に対して、ロシアはより魅力を感じるのではないでしょうか。日本のメーカーも、今は自社ブランド拡大の時期ではないことを理解し、ロシアのメーカーのブランドに相乗りして、自社製品のB2B輸出を最大化すること、これが2018年の輸出戦略といえるのではないか、ということをセミナーでは申し上げました。


1 2018年1月12日発表のロシア欧州ビジネス協会(AEB)の速報値による
2 2018年2月27日、燕三条地場産業振興センター主催「ロシアビジネスセミナー」
3 OEM:他社ブランドの製品を製造すること

[執筆者]菅原 信夫(有限会社スガハラアソシエーツ代表取締役)

※この記事は、2018年4月17日付けで三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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