93.シベリア鉄道+中欧班列+北極海航路-木村 保彦

ロシア国旗

概要

ソ連時代から日本とユーラシア大陸間のコンテナ輸送を担ってきたシベリア鉄道は、中国と欧州を結ぶ中欧班列の台頭、北極海航路の登場といった新たな展開を前に一つの転機を迎えている。本稿ではシベリア鉄道の置かれた現状を把握するとともに、シベリア鉄道の将来像を考察する。

はじめに

シベリア鉄道は中欧班列(一帯一路)や北極海航路といった新たな輸送ルートの台頭に直面しつつも、相互連携を図りながら一層の利用拡大が図られていくだろう。朝鮮半島など流動的な世界情勢の展開いかんによっては、さらにその姿を変容させていくかもしれない。
ソ連時代から日本とユーラシア大陸間のコンテナ輸送を担ってきたシベリア鉄道は、中国と欧州を結ぶ中欧班列の台頭、北極海航路の登場といった新たな展開を前に一つの転機を迎えている。本稿ではシベリア鉄道の置かれた現状を把握するとともに、シベリア鉄道の将来像を考察する。

シベリア鉄道輸送の変遷

シベリア鉄道はロシアの首都モスクワと日本海に面した極東の都市ウラジオストクを結ぶ全長9,288キロメートル(km)の路線であり、ロシアの経済・社会を支える屋台骨として極めて重要な役割を担っている。

シベリア鉄道を利用したコンテナ輸送は1970年代以降に活発化し、日本からソ連、イランをはじめとする中東諸国や欧州諸国への貨物輸送の主要ルートとして利用された。その背景には外貨獲得を目論むソ連側の意向が強く反映されており、スエズ運河を経由する既存の海上輸送に比較して戦略的に設定された輸送料金は、荷主から高い評価を受けた。

しかしながら1991年のソ連崩壊や海上輸送ルートの運賃相場下落などによりシベリア鉄道はその競争優位性を失い、国際コンテナ輸送ルートとしての役割は徐々に低下していく。その後2000年代に入り、日本や中国、韓国からロシア内陸部に向かうルートとして再び台頭、さらには中国からロシアを経由して欧州諸国に向かう貨物の中継ルートの一部としても利用されており、現在に至っている。

輸送品質に対する評価

ソ連崩壊後に発生した同鉄道輸送での盗難や遅延、特に積み替え港での貨車搭載遅延といった輸送の不確実性に関連するネガティブな評価は着実に改善されている。日本発モスクワ近郊向けコンテナ輸送を一例に挙げると、2011年には全行程で約50日を要していたが2018年には30日を切るレベルに達しており(表)、約55日を要するスエズ運河経由の海上輸送に比べて大きな優位性を発揮している。

輸送コストについてはスエズ運河経由に比べて約60%増で推移しているものの、約50%のリードタイム短縮がもたらす在庫圧縮効果と併せて比較するならば、価格面についても一定の競争力を有していると評価できる。以上の点から、日本からロシア内陸部へのコンテナ輸送は今後も安定的な需要が期待できる。

表 シベリア鉄道 コンテナ輸送日数 改善状況

表 シベリア鉄道 コンテナ輸送日数 改善状況

出所:日本通運の輸送実績を基に著者作成

中欧班列の台頭

前述のように、現在のシベリア鉄道における貨物輸送は大きく分けて(1)日本、中国、韓国からロシア内陸部(2)中国から欧州諸国(3)ロシア国内、の三つに分けられる。このうち、(2)は中国発の「中欧班列」の一部として位置付けられている。
 中欧班列とは、中国と欧州諸国を結ぶ国際定期貨物列車の統一名称である。中国が推進する「一帯一路」政策のうち、中国から中央アジアを経て欧州諸国にまたがる「シルクロード経済帯」の中核を成しており、a)満州里経由b)モンゴル経由c)カザフスタン経由の三つのルートを通じてロシアの鉄道網へ接続している。a)とb)はシベリア鉄道を利用する形となっている(図)。

図 シベリア鉄道と中欧班列の位置関係

図 シベリア鉄道と中欧班列の位置関係

出所:著者作成

中欧班列は年を追うごとに運行規模を拡大させている。人民網によると、現在の運行路線数は61本、中国国内の発着都市は43カ所を数え、欧州の13カ国・41都市と結ばれている1)。
運行規模拡大により利便性が高まった中欧班列に対しては、日本の荷主も高い関心を寄せている。特に、日本から中国までの海上輸送と中欧班列を組み合わせた欧州内陸部向けコンテナ輸送は既存の海上航路と比べてコスト面ではかなわないものの、リードタイム短縮の面では一定のメリットが期待できる。このため、海上輸送と航空輸送の中間サービスとしての潜在需要は高いといえる。シベリア鉄道はこうした新たな輸送需要の一端を担っていくこととなる。

1) 人民網日本語版 2018年3月31日14:34
http://j.people.com.cn/n3/2018/0331/c94475-9444350.html

北極海航路の登場

シベリア鉄道の将来に影響を与える要素として中欧班列の次に挙げられるのが、北極海航路である。北極海航路はロシア政府が積極的な開発投資を行っており、鉄鉱石や天然ガスなど天然資源の輸送を中心に運航が実施されている。2018年3月27日には日本の商船三井が運航する液化天然ガス(LNG)砕氷船がロシア・ヤマル半島のサベッタ港において初荷役を実施する2など、日本勢の活動も徐々に活発化している。

北極海航路は航路周辺の人口が希薄であることから、アジアと欧州の短絡ルートとしての側面が強く、長期的には中欧班列と同様に海上輸送と航空輸送の中間サービスとしてのコンテナ航路が確立される可能性がある。他方、より現実的には資源貨物輸送のシベリア鉄道から北極海航路へのシフトが望まれる。輸送容量が逼迫(ひっぱく)しているシベリア鉄道の輸送負荷が軽減されることにより輸送枠が拡大し、増大する貨物輸送需要に応えることが期待される。また、北極海航路とシベリア鉄道の一体運営が効率的なコンテナ輸送の実現につながる可能性も示唆されている3。

2) 商船三井 プレスリリース 2018年3月29日 http://www.mol.co.jp/pr/2018/18022.html
3) タス通信 2018年3月1日17:12 http://tass.ru/ekonomika/5000053

シベリア鉄道の将来像

日本と欧州を結ぶ貨物輸送は今後も海上航路が主軸であると思われ、近い将来には速達ルートとして海上輸送と中欧班列を接続したサービスの展開が本格化するであろう。シベリア鉄道は北極海航路の開拓と連携を取りながら中欧班列の旺盛な輸送需要の一端を支え、より一層の利用拡大が見込まれるだろう。

シベリア鉄道を巡っては、朝鮮半島情勢の好転による韓国への接続計画が復活する可能性がある他、一部ロシア側の報道で取り沙汰されているように北海道への延伸構想も存在している4。流動的な世界情勢を踏まえつつ、その動向を十分に注視する必要がある。

4) タス通信 2018年4月16日14:26 http://tass.ru/ekonomika/5130463

付記:本稿に示された見解は著者個人のものであり、所属機関の公的な立場または見解を示すものではない。

[執筆者]木村 保彦(日本通運株式会社 海運事業支店)

※この記事は、2018年5月10日付けで三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205

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