米IT大手に巨額の制裁金を命じた欧州委員会決定-植村 吉輝

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概要

2017年6月27日、欧州委員会(欧州委)は米IT大手企業(A社)に対し、欧州連合(EU)運営条約第102条違反を理由に約24億2000万ユーロの制裁金を科す決定を下した 。A社は検索エンジン市場での支配的地位を乱用し、自社の比較ショッピングサイトを競合他社に比べ不当に有利に扱い、自社サイトへのトラフィックを急増させる一方、競合他社サイトへのトラフィックを激減させた。

1.1.関連市場の画定

欧州連合(EU)運営条約第102条は、域内市場またはその主要な部分において支配的地位を有する事業者が、その地位を乱用し、それにより加盟国間の取引に影響を及ぼす行為を禁止する。この規定は、ある事業者が特定の市場において支配的地位にあること自体を禁止するものではなく、その地位の「乱用」を問題とする。そして、そのような乱用行為の有無を論じる前提として、事業者が特定の市場において支配的地位にあることが認定されなければならない。さらに、支配的地位の認定を行うには、問題となる市場の範囲を明確にする必要がある。これは一般的に「関連市場の画定」と呼ばれ、EU競争法違反を検討する際の重要な作業となる。
 欧州委員会(欧州委)は、EU競争法を適用するための関連市場の画定に関する告示を公表している1。これによると、関連市場は製品市場と地理的市場の両方を分析して具体的に判断される。本件に関して欧州委は、製品市場をインターネット上で提供される一般検索の市場、そして、同じくインターネット上で提供される比較ショッピングの市場とした。また欧州委は、一般検索と比較ショッピングのサービスは提供される国ごとに地理的市場が成立すると結論付けた。


1 Commission Notice on the definition of relevant market for the purposes of Community competition law, OJ [1997] C372/5

世界的に見て、幾つかの事業者がインターネット上で一般検索のサービスを提供しているが、このうち独自の検索技術を用いる事業者(A社、B社など)とこれら独自の検索技術を持つ事業者と契約し、その検索結果を表示する事業者が存在する。例えば、C社やD社はB社の検索エンジンによる検索結果を表示する。また、E社はA社の検索エンジンを利用している。欧州委は、一般検索はユーザーがインターネット上のウェブサイトを検索する唯一の方法ではなく、例えばコンテンツサイト、専門検索、ソーシャルネットワークなどの他の方法も存在することを認める。しかし欧州委は、これらのオンラインによる検索方法と一般検索とは、ユーザーの視点から見ると代替可能なサービスとは言い難いとし、一般検索の提供は、それ自体で他と区別された市場を形成すると結論付けた。

比較ショッピングは専門検索の一種であり、ユーザーがオンライン上の異なる小売店や取引プラットフォームが提供するものの中から求める製品を探し出し、その価格や特徴を比較することを可能にする。そして、ユーザーが求める製品を販売するオンライン上の小売店や取引プラットフォームにつながるリンクを提供する。

欧州委は、比較ショッピングというサービスの提供は、それ自体で他と区別された製品市場を構成すると結論付けた。その理由として、比較ショッピングが(1)他の異なる分野の専門検索(フライト、ホテル、レストラン、ニュースなど)、(2)オンライン検索広告、(3)オンライン小売店、(4)オンライン取引プラットフォーム、(5)オフラインの比較ショッピング(カタログ、雑誌、テレビショッピング番組など)が提供するサービスとは代替可能な関係にない点を指摘する。

2.支配的地位の認定

EU運営条約第102条が規定する「支配的地位」とは、事業者が市場において競争者や新規参入者、そして顧客の反応をほとんど考慮せずに行動することを可能にする地位を言う。このような支配的地位の認定には、事業者の関連市場における市場占有率、関連市場の市場構造、そして市場への参入障壁など、多様な要因を総合的に考慮する必要がある。本件において欧州委は(1)各国における圧倒的に高いA社の市場占有率、(2)巨額の研究開発投資など、事業の拡大および新規参入に対する障壁の存在、(3)マルチホーミング(ユーザーが複数の一般検索を利用すること)の不活発とブランド効果の存在、(4)ユーザーの対抗的購買力の不足を理由に、本件の関連市場においてA社が支配的地位にあることを認定している。

3.A社による支配的地位の乱用行為

EU運営条約第102条を最終的に適用するには、関連市場において支配的地位にある事業者がその地位を「乱用」したことを立証しなければならない。そして、司法裁判所の判例により、支配的地位にある事業者には、そうでない事業者(支配的地位にない事業者)が負わなくてよい「特別の責任」があり、競争を阻害しないように注意する義務があることが示されている。

A社は自社の比較ショッピングを、一般検索の結果を表示する画面の最初のページの極めて視認性に優れた目立つ場所、つまり、ユーザーがスクロールせずに閲覧可能なページの上半分に表示した。また、A社の比較ショッピングの結果を、写真や製品に関する追加情報を伴ったフォーマットでユーザーの目に留まりやすい形で表示した。他方、A社の一般検索において競合する比較ショッピングは、一般的な検索結果として表示されるにすぎず、検索結果画面の目立つ場所には配置されず、相当スクロールして探さなければならない下位に表示された。

欧州委は、比較ショッピングが競争する上で重要な要素となるユーザーのトラフィックが一般検索の結果ページでの表示場所に強く影響を受けること、さらに、A社の一般検索結果ページからのトラフィックが、競合比較ショッピングサイトへのトラフィックの大部分を占め、他の一般検索エンジンなど、競合比較ショッピングが利用できる他のトラフィック源泉によっては代替されないと述べる。

実際、A社の上記乱用行為は、欧州経済領域(EEA)加盟13カ国の各国におけるA社の比較ショッピングサイトへのトラフィックを継続的に増加させる要因となった。欧州委が公表した資料2によると、英国で45倍、ドイツで35倍、オランダで29倍、スペインで17倍、そしてイタリアで14倍、それぞれ増加した。他方で、競合比較ショッピングサイトへのトラフィックは継続的に減少し、英国で85%、ドイツで92%、フランスで80%という大きな割合でそれぞれ急激に低下した。以上により、欧州委は、A社の行為は比較ショッピングの各国市場において反競争効果をもたらすと結論付けた。


2 European Commission – Fact Sheet, 27 June 2017

また、比較ショッピングサイトは、サイトを見る人が多いほど多くの収入が得られる仕組みを採用している。その際、一般検索の結果ページにおいて自社の比較ショッピングを競合他社と比べ有利に位置付け表示することにより、A社は、一般検索の結果に基づき生み出される収入を確保し、一般検索サービスを改善するための資金として利用することが可能であった。そのため、一般検索の各国市場においても反競争効果をもたらすと欧州委は結論付けた。

本件の欧州委決定により、A社は90日以内に本件の違反行為を取りやめることを求められた。これに従わない場合、A社は親会社であるa社の全世界における1日平均売上高の5%に相当する額の履行強制金を支払わなければならない。2017年9月11日、A社は本件欧州委決定の取消訴訟をルクセンブルクの一般裁判所に提起した。欧州委によるEU競争法違反を巡る単独企業への制裁金として過去最高額を記録した本件は、今後、法廷での争いに移行する。

[執筆者]植村 吉輝(阪南大学経済学部准教授)

※この記事は、2018年7月25日付けで三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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