ロシアにおける日本製品のプロモーション戦略-西田 裕希

ロシア国旗

概要

本稿では、ロシア人に対する日本企業・製品の適切なコミュニケーションの在り方を探る。特に感度の高い都市部の若者層に焦点を絞り、アニメや漫画を楽しむ日本ファンの若者や、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の使い方などの実態を紹介。昨今のロシアの時流と併せて、ナショナリズムの高揚という観点も捉えたアプローチを提言する。

はじめに

アニメ、漫画、ゲーム、コスプレなど、日本のエンタメコンテンツが世界で人気を博しているといわれて久しい。そしてその熱量は、極寒の北国ロシアでもヒートアップしており、今もなお根強い人気を誇っている。また、アニメなどのサブカルチャーのみにとどまらず、ロシアでは数多くの日本食レストランや日本製品を取り扱う専門店なども数多く展開しており、日本製品を売り込んでいく一つの市場としてのポテンシャルが見込まれている。

一方で、ロシア人のインサイトというのは日本人にとって理解し難い部分もあり、見えてきづらい。本稿ではロシア人でも特に感度の高い都市部の若者にターゲットを絞り、日本のイメージや日本ファンの実態を概略的に紹介し、それをどう商品販売戦略に生かせるのか、その一助を果たしたい

親日国ロシアの街中で見掛ける日本

親日国としてロシアの国名を挙げる日本人は少ないかもしれない。しかし「電通ジャパンブランド調査2017」によると、日本に対する好意度ランキングにおいて、ロシアは調査対象となった20カ国・地域全体で8位。上位7カ国がタイ、ベトナム、フィリピンなど全てアジアの国・地域で占められている中、非アジア圏ではロシアが親日国第1位となった。

実際に、モスクワの街中には“Tanuki”“Yakitoriya”といった名称の日本食レストランが至る所に立ち並び、また2005年にウラジオストクで開業した日本製品を扱うチェーンストア“Megumi”はロシア全土に80店舗以上を展開している。さらに、ロシアの環境下では難しいとされてきたが、2013年にはダイドードリンコがモスクワで自動販売機を“Hello! Japan”というポップとともに展開、2018年には数千台の自動販売機をモスクワ以外の地域にも設置する計画である1。これらの実店舗が街中に溢れているという事実が「日本」を広告する役割も果たしており、日頃、特に都市部のロシア人が「日本」を潜在的に目にする土壌が整ってきている。


また、2018年は日本・ロシア間における人的交流の拡大に向けた方策の一つとして「ロシアにおける日本年」および「日本におけるロシア年」を相互に開催することを両国政府間で決めており、ロシアにおけるさらなる日本への友好的な機運が高まることが期待されている。

日本ファンが集う日本文化イベント

一般的なロシア人が親日的であることは上述した通りであるが「日本ファン」ともいえる、積極的好意層の一つはアニメや漫画などの日本のサブカルチャーファンである。
 モスクワで開催される大型日本文化イベントの一つであり、在ロシア日本国大使館の協力も得ている「HINODE POWER JAPAN」の第1回開催時には、参加者は数千人規模だったものが、2017年の開催時には過去最大の2万5000人が訪れ、順調にファンを増やしつつある。名古屋で毎年行われる世界コスプレサミットのロシア予選大会も兼ねており、本イベントのメインイベントでもあるコスプレコンテストの優勝者は名古屋で行われる決勝大会に参加できることもあり、ロシア全土から参加者が訪れる。

モスクワだけでなく、ロシア各都市でも同様のイベントが開かれており、多くの日本ファンをそこで目にすることができる。特筆すべき点は、これらの日本文化イベントはHINODE POWER JAPANのように最初から在ロシア日本国大使館や企業を巻き込んで発生した、いわゆる日本ブームに乗った日本からのアプローチで生まれたムーブメントではなく、もともと日本ファンのロシア人が自ら立ち上げたイベントが始まりであることだ。同じくモスクワで行われるAniMatrix、ボロネジの国立オペラバレエ劇場を貸し切って行われる全ロシア日本アニメフェスティバル、サンクトペテルブルクで開催されるAniMatsuriは、いずれも数千人から数万人規模が参加するイベントであるが、いずれもロシア人の日本ファンが自主的にイベントを開催し、ファン活動を盛り上げている。

ただ、彼ら彼女らは、特にコスプレ活動においては手作りでの活動が多く、日本への関心が高いものの、日本製品を用いてコスプレの準備などをすることは少ない。一方で日本ブランドへの好意度は高い傾向にある。このため、プロモーションの場としての利用は大いに検討する余地がある。

SNS上でのコミュニケーション

2017年12月に実施されたレバダ・センターの全ロシア調査2では、18歳以上のロシア人の59%がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用しており、これは2011年の約2倍(35%)であるそうだ。最も利用率が高いのが、ロシア版Facebookともいえる“VKontakte”で、同調査では2017年12月にユーザーの65%が訪問しているとしている。

VKontakteでは、任意のユーザーが自由にコミュニティーを形成することができ、アニメファンは、それぞれのアニメのコミュニティー内で活発にファン交流をしている.最大アニメコミュニティーの一つである日本の漫画・アニメである「NARUTO」のコミュニティー参加者数は約35万人と、多くのファンを獲得している。

日本以外の作品と比較してもNARUTOの人気は顕著だ。例えば「Гарри Поттер(ハリー・ポッター)」はコミュニティー数が46万人とNARUTOよりもコミュニティー数が多いが「Тёмная Сторона(スター・ウォーズ)」のコミュニティー数は約9万5000人、「Холодное сердце(アナと雪の女王)」は約8万5000人、「Человек-Паук(スパイダーマン)」は約4万人3と、著名なSF、アニメ作品と比較しても遜色ない。このように、日本のアニメ人気というのは一部のマニアックな人たち向けではなく、一般化している現象としてロシアでは捉えられつつある(ただし、一方でアニメファンとインターネットユーザーの親和性が高く、コミュニティーの参加者数が多い可能性があるということはあえて注記しておきたい)。
 また、GoogleやFacebookなどの米国型オンラインサービスが定着しづらい環境にあったロシアだが、近年、Facebookの傘下であるInstagramの若者層への人気が高まってきている。上述したレバダ・センターによる調査の2017年12月の訪問率の3位はInstagram(23%)であり、近年の非テキスト型のコミュニケーションのトレンドが高まってきている。Instagram人気を背景に昨今、VKontakteのモバイル版アプリもUI/UXを大幅に変更し、写真や画像、動画といったテキストに頼らなくてもコンテンツを楽しめて、ユーザーも情報発信しやすいようにアジャストされてきている。


Instagram人気を背景にしたサービスも続々と登場している。2014年、ロシアのBoftはInstagramのアカウントから写真をプリントアウトできる自動販売機を開発。現在では設置数や場所も拡大を続け、ロシアのレストランやショッピングモール、空港などでそれらを見ることができる。これは日本で言えば、街中にある自動で撮影・印刷までできる証明写真機を若者向けにおしゃれにしたものとイメージしていただければ分かりやすい。印刷される写真はデジタルっぽさとは逆行しており、ポラロイド風のものがプリントアウトされる。

そして2017年には同様の設置型機械でのサービスとして、Instagramの写真データをプリントアウトできるだけでなく、自分の投稿に「いいね!」を得るためのサービスもモスクワに誕生した。これは50ルーブルで「100いいね!」を買えるマシーン4であり、人々の偽の賞賛をお金で買うことができる。このサービスに対してはもちろん賛否両論あるが、いずれにしてもInstagramのロシアでの利用率の向上をうかがわせるサービスだ。

VKontakte、Instagram双方に言えるのは、テキストでのコミュニケーション量は低下し、よりビジュアルや体験を重視したコミュニケーションがトレンドになっているということである。Instagramが世界中で広まりつつある中での世界的なトレンドではあるが、ロシアでも同様にそのような傾向にある。

ロシアの日本ファンへのアプローチ

ロシア全体での日本への好意度の高さ、ロシア人の間での日本ファンの盛り上がりの機運、そして若者のSNS利用について概略的に述べてきた。

日本ファンへのアプローチとして、キーワードとなるのが、写真映え(動画映え)を意識した絵作り、そのためのリアルの場での体験の提供、そしてSNSを活用したコミュニケーションである。これらは何も日本ファンにかかわらず、現在若年層に向けたマーケティングアプローチとして一般的な手法になりつつあるが、そこにロシアらしさを加えるのであれば、高揚するナショナリズムをどう捉えていくかということが重要な視点になる。
ロシアにおけるナショナリズムの高揚に関しては今さら私が述べるまでもないが、既知の通り、プーチン大統領が2018年3月の大統領選で圧倒的な支持率を得て再選した。一般的な若者の間において、今回の投票にどれほどの関心があったかは定かではないが、少なくともロシア人のそれを逆なでする可能性のあるアプローチはふさわしくない。


少し前の事例となるが、2013年、赤の広場に面しているグム百貨店の創業120周年を記念して「ルイ・ヴィトン」の関連会社が巨大なルイ・ヴィトンのスーツケースを展示した。これはマーケティングアプローチとしては優れた手法であるが、一方でロシア人の「神聖な場所」を汚しているとして非難を浴びることとなり、設置した経緯など含め議論となった結果、撤去せざるを得ない状況となった5。そして2018年現在、プーチン大統領の再選と2018 国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップ・ロシア大会を経て、ますます自国のプライドが高まる時期において、この問題はデリケートに扱う必要がある。日本や日本製品は素晴らしいという一方的なコミュニケーションは危険をはらんでいる。考えられる日本らしいアプローチというのは、日本(企業・ブランド)もロシアを尊敬している、好意を抱いているという双方向のメッセージのニュアンスを含んだコミュニケーションではないか。

具体例を挙げるのであれば、ロシアの著名な日本ファンを起用するということは有効かもしない。平昌冬季五輪フィギュアスケート女子において、金メダルを獲得したザギトワ選手の要望であった秋田犬が日本の秋田犬保存会からプレゼントされた。また銀メダルを獲得したメドベージェワ選手は生粋のアニメファンとして有名で、日本では「美少女戦士セーラームーン」のコスチュームでアイスダンスを披露したり、自身のTwitterで日本アニメ視聴の感想をつぶやいたりすることで知られている(メドベージェワ選手は監督をロシアのトゥトベリゼ氏から他国の監督に変える話が出ており、これに関して少なからずロシア国内で反発の声が上がっていることには注視すべきだが)。このようにロシアの著名な日本ファンを応援する形でのプロモーション展開やブランディング、あるいはそういった日本とロシアの架け橋的な人材創出やイベントに協力していくような文脈づくりをしていくことも有効な手段の一つではないか。ロシアという「大国」のプライドを保ちつつ、日本への好意度をいかに生かしていくかという点が昨今のプロモーション戦略には必要不可欠である。


1 インターファクス通信 DyDo DRINCO to Expand Japanese Vending Machine Business in Moscow http://www.interfax.ru/pressreleases/343549
2 イズベスチヤ Пользователей соцсетей в России стало вдвое больше https://iz.ru/696806/nataliia-berishvili/polzovatelei-sotcsetei-v-rossii-stalo-vdvoe-bolshe
3 いずれも2018年6月20日現在のコミュニティー数
4 NTV В России появились автоматы по продаже интернет-лайков http://www.ntv.ru/novosti/1819687/
5 Газета.ru Чемодан Louis Vuitton на Краснойплощади https://www.gazeta.ru/social/photo/socialcunduk_louis_vuitton_na_krasnoi_ploshadi.shtml

[執筆者]西田 裕希(株式会社電通 第8ビジネスプロデュース局)

※この記事は、2018年7月23日付けで三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。


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