ロシアの新興企業-タクシーと食品ブランド-ドミトリー・ヴォロンツォフ

ロシア国旗

概要

大企業が支配するというロシアのイメージはあまり変わっていないとみられるが、特に都市部における生活スタイルの変化や欧米などによる経済制裁、通貨ルーブルの下落が新興企業を生み出し、市場構造が急速に変化し始めている。その実例を紹介する。

ロシアの新興企業に注目

世界でも、またロシア自身においてさえも、ロシア経済に関する伝統的な見方がある。つまり、独占体も含めて少数の金融グループや大規模国有企業が国内総生産(GDP)や輸出の大部分を牛耳っており、これらの企業は全体としてロシア経済の「顔」となっているという見方である。ガスプロム、ロスネフチ、ルクオイル、トランスネフチ、ズベルバンク、国営ロシア鉄道、外国貿易銀行(VTB)、アエロフロート、ロステックなどの企業は、世界中で知られている。近年、この構図は変化したが、外国からはもちろん、あるいはロシア国内においてさえその変化を捉えるのはなかなか難しく、世界的に見方が変わったというわけではない。

とはいえ、生産においても、サービスにおいても新興企業が現れ、少なくとも幾つかのセグメント、特に消費財・サービスのセグメントにおいては、市場構造に影響を及ぼし始めている。まず述べておかなければならないことは、GDPにおける割合である。確かに、この点では10~15年前と何も変わっていない(巨大企業の役割が支配的であるという点)。

だが、ロシア経済の「顔」について言えば、特にダイナミックに変化している大都市では変化が生じており、活動を停止した方がよいと思われる企業さえある。もちろん他の地域と同様、ロシアでも、新興企業は独力で生まれるのではなく、一定のマクロ経済トレンドの組み合わせによって生じるものである。近年のロシアに関して注目しておきたいのは、総じて健康的なライフスタイルが発展し、ロシア人の生活スタイルが変化していること、大都市でサービス業が急成長していること、農業の発展や西側諸国による経済制裁などの影響で通貨ルーブルが度々下落したことによって、ロシア製品の国際競争力が改善したことである。

 「ロシア企業」とは何か? 本稿では「ロシア企業」の条件は、公式の登録や生産拠点が外国にあるとしても、企業の創業者やオーナーがロシア出身で、ロシア資本であるものとする。

大都市の生活スタイルと「ヤンデックス・タクシー」

モスクワやサンクトペテルブルクは大きく様変わりした。ロシア全体が変化しているが、二つの大都市、特にモスクワは明らかに変化しており、これについては観光客も地元住民も指摘している。サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会開催が大都市の変化に大きな役割を果たしたといえよう。また、都市の交通インフラにも極めて大きな変化が生じている。5~7年前、モスクワは交通渋滞で息もできないほどだったが、バス・鉄道網の発達と地下鉄新線の登場によって状況は大きく改善された。

今日、都市交通網の発展において特別な役割を果たしているのはタクシーである。10年前までモスクワには事実上、タクシーは存在しなかった。「グレー」の個人タクシーはあったが、乗るたびに料金交渉をしなければならなかった。だが、オンラインタクシーの発展のおかげで、ほんの数年で状況は劇的に改善された。ウーバーのような国際的な配車ネットワーク以外にも、ロシア独自のものが登場。その代表的なものがヤンデックス・タクシー(https://taxi.yandex.ru/)である。

ヤンデックス・タクシーは2011年に創業し、現在、ロシア100都市以上、近隣の独立国家共同体(CIS)諸国で事業を展開。20万人以上のドライバーが働いており、2017年の売上高は約50億ルーブルに達している。乗客は、携帯アプリや携帯電話で最寄りのタクシーを呼ぶ。このサービスの登場により業界内での競争が激しくなり、乗車料金も大幅に低下した。今や、モスクワで(そしてロシア全土でも)、経済的に見て、タクシーはほぼ全ての住民にとって手軽に利用できるものになっている。この影響で自家用車の利用が減り、都市の交通渋滞は緩和された(ヤンデックス・タクシーの黄色い車両は、私用車の通行が禁止されている公共交通機関用の車線を走る権利を持っている)。

この他、タクシーに近い事例を見てみよう。ロシアでは近年、カーシェアリングという現代的な都市サービスが普及し始めた。都市部では駐車場不足の問題もあり、車両メンテナンスコストが高騰しているが、特に若者の間でこうした経済的で便利な車の利用が高い人気を集めている。モスクワでは、カーシェアリングとして貸し出される特徴的な塗装の車が増え続けている。この業界のパイオニアは、2人の女性起業家が設立した「ベルカ・カー」(https://belkacar.ru/)である。

農業の急速な発展と「ミラトルグ」「パルメザン」

各経済部門の発展は、新興企業の登場と急速な成長を促している。例えば、最も特徴的で国内でもよく知られている実例は農業である。その背景には、欧米による経済制裁に対してロシアが食料品輸入を制限する報復措置により、ロシアでは農業関連企業を含む新興企業が現れ成長し始めたことなどがある。近年、ロシアは穀物の輸入国から輸出国に転じている。さらに食肉産業に関して、(近年の状況から見て)驚異的な状況が生じている。ロシアでは、高品質の牛肉が生産されたことは過去にはなかったが、現在は良質の肉が国内市場を満たすだけでなく輸出も行われるようになった。食肉生産業には伝統と文化が必要であり、急速な発展を遂げることは難しい。われわれの知る限り、この予想外の発展には外国の技術やコンサルタントの誘致が一定の役割を果たし、ロシア産の牛肉は単に高品質でおいしいというだけにとどまらず、世界市場で名声を勝ち得た。


例えば「ボロネジ・ビーフ」ブランドの力は、ロシア国外にも広がっている。こうした企業の中で特に耳目を集めたのが、瞬く間にロシアの農業市場で主要プレーヤーとなった「ミラトルグ」(https://miratorg.ru/)である。ミラトルグは、小売りおよび食品サービス業(ホテル、レストラン、カフェ)向けに1,000種類以上の肉製品・半製品を供給しており、産地から消費者に至るまでの生産・物流チェーン全体を管理している。高品質でおいしい肉は、かなり高価格であるにもかかわらず、すぐに顧客の支持を得た。 またミラトルグは海外市場に進出しており、海外の航空会社のビジネスクラスの乗客用に肉を提供しているとの情報もある。つい最近までは考えられなかったほどに、ロシアの食肉生産業は発展しているのである。

さらに驚くべき実例は、チーズである。ロシア人はチーズ好きだが、率直に言って、フランスやスイスのような世界最高水準のチーズを作ることはできなかったといわれている。チーズの文化には長い年月、おそらくは数世紀に及ぶ伝統が必要である。これまで、ロシアで品質の高いチーズといえば常に輸入品であった。しかしここ10年の間に、ロシアでも「国産メーカーの」良質な製品が登場し、認められるようになった。食肉と同様に、この変化に影響をもたらしたのは、西側諸国からの食料品輸入に対する制裁措置と禁止であることは間違いない。

だが、それだけではない。大きな役割を果たしているのは、野心、健全な企業家精神、スキル、学ぶ意志、つまり代表的なロシアのビジネスパーソンの若い世代が示しているような優れた資質であると考えられる。その一例が、屈強な人目を引く姿の若者オレグ・シロタ氏である。彼は復活しつつあるロシア農業を象徴する人物となった。シロタ氏は、ロシアチーズ生産者協会代表であり、ロシアのチーズ生産者のリーダーである。彼が率いる会社「パルメザン」のウェブサイト(http://parmezan.ru)は、そのネーミングだけでも興味を引く。パルメザンチーズという名前は、かつてロシアではハードチーズは作れないと考えられていた典型例の一つであった。しかしシロタ氏は、短期間で西側諸国のチーズと同等の製品の生産体制を確立し、国内市場に供給した。チーズ好きの私もこう言える。「ロシアのチーズは本当においしくなった」

[執筆者]ドミトリー・ヴォロンツォフ(エアーブリッジカーゴ航空・日本ビジネス開発ダイレクター)
[ロシア語からの翻訳]蓮見 雄

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2018年10月17日付で掲載されたものです)


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