104.アリババとロシア-AliExpressはロシアブランドグローバル化のプラットフォーム?-蓮見 雄

ロシア国旗

概要

中国の阿里巴巴集団(アリババグループ)は、ロシアのIT企業大手と合弁企業AliExpress Russiaを設立し、電子商取引(EC)市場に本格的に参入しようとしている。この動きはロシア企業が中国市場に参入する機会にもなり、ロシアブランド、とりわけ食品ブランドのグローバル化のきっかけともなるかもしれない。

1.急速に変わりつつあるロシア・中国の貿易構造

中国は、ロシアの輸出の11%、輸入の21%(2017年)を占め、欧州連合(EU)に次ぐ貿易相手である。単に貿易規模が大きくなっただけではない。ロシアが頼るエネルギー資源(HS27類:鉱物性燃料及び鉱物油並びにこれらの蒸留物、歴青物質並びに鉱物性ろう)の純輸出において、中国は2002年にわずか2%だったが、2016年には11%に達している。しかも、中国石油天然気集団(CNPC)とシルクロード基金がそれぞれ20%、9.9%の権益を有するヤマルLNG(液化天然ガス)が生産を開始し1、ロシアと中国を直結するガスパイプライン「シベリアの力」などの建設が進んでいることを考えれば、今後ますますロシアから中国への石油・ガス輸出が拡大すると見込まれる。

見落としてはならないのは、ロシアの対中国輸入構造が大きく変化しつつあることである。ロシアは従来から、靴、衣料、日用品などを中国から輸入しているが、今や産業用機械・設備が中国からの輸入の44.5%(2017年)を占める最大の輸入品目となった。ロシアにとって、EUとの経済関係が最重要であることに変わりはない(EUは2017年に輸出の45%、輸入の38%を占めている)。とはいえ、中国との経済関係は、ロシア経済の将来を左右すると言っても過言ではないほどに急速に変貌しつつある。
「「最果ての地」=ヤマルの開発に挑む日本企業」を参照

2. ロシア・中国合弁企業AliExpressの設立

2018年9月11日、ロシア通信会社メガフォン、インターネットサービス会社Mail.Ruグループは、ロシア直接投資基金 (RDIF)は、中国の阿里巴巴集団(アリババグループ)と合弁企業AliExpress Russia(以下AliExpress)を設立し、電子商取引(EC)市場に参入することを明らかにした。出資規模は20億ドル、メガフォン (24%)、Mail.Ru グループ(15%)、およびロシア直接投資基金 (RDIF)(13%)と合わせて経営権はロシア側が握るが、アリババグループが筆頭株主となる(48%)。メガフォンはAliExpressの株式24%を取得し、Mail.Ru グループ株10%をアリババグループに譲渡する。Mai.Ruグループは、中国製品のオンラインショップPandaoに融資し、AliExpress株の15%を得る。RDIFは、AliExpress株10%と引き換えに、最大で3億ドルを融資する予定である(図1)。2019年第1四半期に契約が締結される予定である。

図1 ロシア・中国合弁企業AliExpress設立のスキーム

図1 ロシア・中国合弁企業AliExpress設立のスキーム

出所:РБК, Russia для Ма: как Alibaba c партнерами создаст новый конгломерат, 11.09.2018を基に筆者作成
https://www.rbc.ru/business/11/09/2018/5b929d4e9a79475115daaecd

3. アリババを通じた中国BtoC市場への進出の拡大の可能性

アリババグループは、中国でロシア製品を販売した最初の企業である。AliExpressは、中国最大のBtoCショッピングモール天猫(Tmall)上で、ビール製造大手のバルチカ(Балтика、図2)、健康志向の食品を取り扱うフクース・ヴィル(ВкусВилл、図3)、菓子製造のUNICONF(Объединенные кондитеры)やKDV Groupなどロシアブランドの製品を中国で販売する可能性について検討している。AliExpressのロシア支社長の劉偉(Liu Wei)氏によれば、Tmallはサプライヤーからロシア製品を購入し、中国の倉庫に持ち帰り、自社サイトで販売している。これによって顧客に商品を1日で配送することが可能になる。

図2 バルチカ:ロシアで定番のビール

図2 バルチカ:ロシアで定番のビール

出所:https://vkusvill.ru/

図3 健康的なロシア製食品でブランドを確立しつつあるフクース・ヴィル

図3 健康的なロシア製食品でブランドを確立しつつあるフクース・ヴィル

出所:https://corporate.baltika.ru/brands/baltika/baltika-2-svetloe/?CKey=

UNICONFの代表は、2017年からアリババグループと協力し、Tmallでアリョンカのチョコレート・菓子の販売を行っているとしている。またフクース・ヴィルとバルチカの代表も、Tmallと協議を始めていることを認めている。AliExpressは既にロシアメーカー30社と合意し、約1,000品目の製品について協議している。Tmallでは賞味期限6カ月以上の商品が販売されているが、フクース・ヴィルの代表者によれば、今後はもっと賞味期限の短い商品も供給できるようになる。

図4 アリョンカ:UNICONFが取り扱うロシアのチョコレートブランドの定番

図4 アリョンカ:UNICONFが取り扱うロシアのチョコレートブランドの定番

出所:https://www.uniconf.ru/upload/iblock/f18/f184c3e7778e341faec7a0b1bef61bdd.jpg

4. BtoCからBtoBへの可能性

AliExpressの掲げている目標は、ロシアブランドの「国際的な普及」「ロシア人口の4倍以上の市場への参入」である。アリババグループは世界最大のBtoB最大手であり、この動きはBtoC市場にとどまらない。アリババグループのBtoBの責任者によれば「新市場へのロシア企業の参入は始まりにすぎない。今後、アリババグループは販売、購入、ロジスティクス、決済の合理化など、中小企業のグローバル化戦略を支援する。最初の段階で100以上のロシアのブランドをグローバル化し、AliExpressはこのためのプラットフォームとなるだろう」とのことである。

「実業ロシア」評議会メンバーのアレクサンドル・スーチコフ氏によれば、中国市場への参入は、製品を適応させ認証を得るためにさまざまな問題を解決しなければならないが、それは極めて難しく「事実上、中国の現地で市場に参入することは不可能である」。アリババグループのオンライン販売は、こうした問題を簡単に解決し、ロシアの食品メーカーにとって巨大な中国市場に参入する機会となる。ロシアのメーカーは、消費財の分野では中国製品と競合できないが、食料品では十分に競争できる。バルチカの販売・輸出部長によれば、中国市場は、独立国家共同体(CIS)諸国以外へのバルチカの輸出の30%以上を占めており、成長を続けている。バルチカは国内市場重視で輸出割合は10%に満たないが、試験的に中国でのオンライン販売を行っている。フクース・ヴィルの品質・調達責任者によれば、中国ではAliExpressとの協力により、450以上のロシアのサプライヤーの製品がフクース・ヴィルのブランドで販売されている。UNICONFの代表者も、Tmallを利用できれば、中国市場での菓子販売によって売り上げを伸ばすことができると期待を寄せている。

2017年末、中国は、ロシアの食品購入国の中でエジプトに次いで第2位となり、ロシアから17億1700万ドルの食料を輸入した。中国の関心は主に魚介類と植物性油脂である。AliExpressによれば、中国のバイヤーは新たな商品を試してみたいと考えており、ロシア製品は環境に優しいと考えている。

5.ロシア・中国貿易の脱ドル化

ロシアは、欧米諸国の経済制裁を受け、主要金融機関やエネルギー企業への融資が禁止され、政府高官や企業幹部の資産が凍結された。このため、ロシアの政府も企業も個人も金融制裁を回避する策を考えざるを得なくなった。ここで、ロシア「人民元の国際化」を目指す中国との思惑が一致する。

2014年10月、ロシア中央銀行は、中国人民銀行と通貨スワップ協定を締結した。制裁で頓挫しかけたヤマルLNGを救ったのは中国のシルクロード基金だった。2017年、ロシア農業銀行は、ロシアの電子決済カード「Mir(ミール)」と、中国の「銀聯カード」を統合したデビットカードを発行しはじめ、銀聯カードが使用できる世界160カ国以上でMirカードを利用することができるようになった。同年10月、ロシアと中国は2018年7月には、ロシア地域開発銀行が同様の統合カードを発行し始めた(図5)。

図5 ロシア地域開発銀行のMir-銀聯統合カード

図5 ロシア地域開発銀行のMir-銀聯統合カード


参考文献:https://www.vbrr.ru/en/about/news/?ID=200571

2017年10月以降、ロシアと中国はPVP(Payment Versus Payment)決済により、ドルを介さず、相互決済が可能になっており、為替リスクが大幅に低減されている。ロシア中央銀行とロシア税関の資料に基づくDolgin(2018)の推計によれば、中ロ貿易におけるルーブルと人民元による決済は、2013年に輸出で3%、輸入で6%だったが、2017年にはそれぞれ18%、19%となった。両国の国民通貨決済のうち、輸入では人民元決済が86%と圧倒的だが、輸出ではルーブル決済が54%を占めている(なお、ドル建てで換算されているためにルーブル安の影響でルーブル決済が過小評価されている可能性はある)。また、2016年末時点で、人民元は、ロシアの外貨準備の0.4%に過ぎなかったが、2017年末には2.8%、2018年3月末には5%と急増している。ルーブル、人民元決済の拡大は、為替リスクを軽減し、ロシア・中国の経済協力を促進する役割を果たしている。

おわりに

中国アリババグループとロシアIT企業大手が戦略的提携を結び合弁企業を設立しようとする動きは、しばしば中国資本がロシア市場を支配するという形で報道されている。しかし、同時に、この協力は、ロシアブランドが中国の販売網を活用して中国市場に参入しうる機会ともなることを見落とすべきでない。特に、農業の発展に加え、欧米諸国の経済制裁に対してロシアが食料品輸入を制限する報復措置によりミラトルグ(食肉)やパルメザン(チーズ)といった新興の農業企業が登場しており2、これら新興ロシア企業にとって、AliExpressは中国市場進出の機会を提供し、ロシアブランドがグローバル化するきっかけとなるかもしれない。
しかも、これはBtoCにとどまらず、BtoBへと展開する可能性を秘めている。だとすれば、その実現は、資源輸出に依存し続けてきたロシアが輸出構造を多角化し、産業の現代化を進めていく契機となるかもしれない。そして、エネルギー分野も含めてロシア、中国双方の脱ドル化の動きは、ロシアと中国の企業間の協力を加速する役割を果たすであろう。
「ロシアの新興企業-タクシーと食品ブランド」を参照


参考文献:
蓮見雄(2018a)「ロシアの東方シフトと対中国貿易構造の変化」『ロシア・ユーラシアの経済と社会』No.1033
蓮見雄(2018b)「アリババとロシア」『ロシア・ユーラシアの経済と社会』No.1031.
蓮見雄(2018c)「ドル離れのロシア 経済制裁受け人民元シフト エネルギーで中国と関係強化」『エコノミスト』第96巻第18号(2018.5.8)
Dolgin, D. (2018), Russia-China trade in national currencies: the product mix is key, ING Economic and Financial Analysis, 18 October 2018.
https://think.ing.com/downloads/pdf/article/russia-china-trade-in-national-currencies-its-the-product-mix
РБК(2018a),«Аленка» для китайцев:какие российские товары Alibaba продаст в КНР,12.10.2018.
https://www.rbc.ru/technology_and_media/12/10/2018/5bbf52ce9a7947037402caf8
РБК(2018b), Russia для Ма: как Alibaba c партнерами создаст новый конгломерат, 11.09.2018
https://www.rbc.ru/business/11/09/2018/5b929d4e9a79475115daaecd

[執筆者]蓮見 雄(立教大学経済学部教授)

付記:本稿は、蓮見雄(2018b)に大幅な加筆・修正を行ったものである。

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2018年11月19日付で掲載されたものです)


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