111.ロシア会計改革の終着点~節税こそ会計士の腕の見せ所?-安木新一郎

ロシア国旗

概要

ロシアの勘定科目表を紹介する。ソ連がなくなって社会主義体制ではなくなっても、ロシアは国家資本主義のままだといわれるが、これが端的に表れているのが勘定科目表だ。ロシアでは勘定科目や記帳の仕方は全て法律で決められる。会計ソフトまで事実上、国が配っているから驚きだ。会計士はあの手この手で節税に励むことになる。

下記の表は、2000年10月31日付ロシア連邦財務省令No.94н「企業の財務・経済活動の会計勘定計画」の改訂版である2010年11月8日付ロシア連邦財務省令No.142нの翻訳である。1994年版勘定計画の邦訳はあるものの、最新版の翻訳はまだないため、以下に訳出した。底本はНовый план счетов бухгалтерского учета, Проспект, Москва, 2018である。
ソ連では、勘定科目の名称とその番号の一覧表を「勘定計画(план счетов)」と呼び、勘定計画は国家中央統計局の同意を得た上でソ連大蔵省令として公布されてきた。1991年12月にソ連が解体され、1992年1月からロシアではいわゆる「自由主義的経済改革」が始まり、会計制度の改革も行われ、1994年12月28日に新生ロシアの「企業の財務・経済活動の会計勘定計画」が公布された。
しかしながら、1994年の会計改革を経てもソ連時代の制度の影響が色濃く残ったままだった。まず、勘定科目や仕訳の方法などを財務省が決めるという点が維持された。また、財務諸表は企業の活動・収益の実態を明らかにするものではなく、政府への納税のための帳簿であるという点も変わらなかったといえる。

その後、2000年に新しい勘定計画が出され、2003年に大幅な改訂が行われ、2006年と2010年にも少し修正が加えられ現在の勘定計画が出来上がった。この2000年版勘定計画は、ソ連時代同様、主要部分とバランス外勘定に分けられているが、主要部分の区分は八つとなった。勘定科目は主要部分が62個、バランス外勘定が11個の計73個となっており、番号が振られている。73個の勘定科目だけでは取引を全て記帳することはできないので補助勘定科目が定められており、これらも各企業が自由に決められるわけではない。

実務では会計ソフト「1C」(アジン・エス)で記帳され、この1Cは事実上ロシアの政府機関が頒布し、各地で企業の経理担当者向けに使い方の講習会が行われている。税法が変わるたびに1Cは更新されるので便利だが(例えば2019年のように付加価値税が18%から20%に引き上げられると、1Cも自動更新される)、簿記会計は納税のためのものであり、国家が管理すべきものだという姿勢はソ連時代と変わらない。ロシアは国家資本主義だといわれるゆえんである。

ソ連時代と制度の理念が変わらないのと同じく、会計経理担当者の意識もあまり変化していない。すなわち、会計経理担当者の仕事は納税額を少なくすることだという意識である。

例えば、ロシアから日本に商品100ドルを売るとする。このとき、ロシアの企業は輸出税の支払いを少なくしようと帳簿上の販売価格あるいは売掛金を50ドルにしておく。本当の売掛金は100ドルなので日本の企業は銀行を通じて50ドルを支払い、残り50ドルは送金を代行してくれる会社を通じて支払うことになる。輸出関税が9%かかるとき、ロシアの企業はロシアで9ドル納税しなければならないので、ロシア側が負担するとすれば手に入るのは91ドルになってしまう。

これに対し送金代行を使うと手数料が4%かかるとすれば、納税額は4.5ドル(=50ドル×9%)、送金手数料は2ドル(=50ドル×4%)となり、受取額は93.5ドルとなって2.5ドル得をする。こうした実態があるので、1Cで記帳されたものとは別の帳簿があるはずだ(インターネットにつながっていれば、1Cに記帳した時点で税務当局に把握されているかもしれないので別のパソコンにあるはず)。このような手法を考え出すのも会計経理担当者の腕の見せ所というわけである。

企業の財務・経済活動の会計勘定計画




付記:
本表の訳語については直訳を避け、日本商工会議所簿記検定の教科書に使われている勘定科目をできるだけ活用し理解しやすいよう努め、補助勘定については煩雑さを避けるため重要なもののみ訳出した。
また、訳出に当たり、以下の文献を参照した。齊藤久美子監修(1996)『解説付き日ロ(英)会計用語集』(北陸環日本海経済交流促進協議会)。土屋和男(1997)「ロシアの新しい財務諸表について:経済制度の国際的調整の一過程」『大阪市大論集』86、75ページ~102ページ。安木新一郎(2009)「ロシア会計基準における為替差損益について」『大阪市大論集』125、25~35ページ。

※本稿はJSPS科研費17H04553(基盤研究(B)一般・日系企業の新興国市場ビジネスと政府間経済協力:ロシア語圏市場を中心に(平成29年度~31年度)(研究代表者:徳永昌弘・関西大学商学部教授))の研究成果の一部である。

[執筆者]安木 新一郎(函館大学准教授)

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2019年5月16日付で掲載されたものです)


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