114.オンライン家電取引にEU制裁金-植村 吉輝

EU

概要

2018年7月、欧州委員会は家電メーカー4社に対し、欧州連合(EU)運営条約第101条違反を理由に総額1億1100万ユーロ超の制裁金を科す決定を下した。4社はオンライン取引において小売業者から小売価格設定の自由を奪い、「再販売価格の拘束」を行った。オンライン取引がますます拡大する中、欧州委は価格監視アルゴリズムを用いた再販売価格維持行為に対する監視を強化していくと予想される。

2018年7月24日、欧州委員会(欧州委)はアジアと欧州に本拠を置く大手家電メーカー4社(日本2社、台湾1社、オランダ1社)に対し、欧州連合(EU)運営条約第101条違反を理由に総額1億1100万ユーロ超の制裁金を科す決定を下した1。4社はオンライン取引において、自社製品の小売業者から小売価格設定の自由を奪い、いわゆる「再販売価格の拘束」を行った。

1 Case AT. 40181, Case AT. 40182, Case AT. 40465, Case AT. 40469.

1.事案の概要

本件では、消費者向け家電製品(台所用品、ノートパソコン、音響機器など)を製造販売する大手家電メーカー4社が、オンライン取引において自社製品を取り扱うオンライン小売業者に対し、自由な小売価格の設定を制限した上で、当該オンライン小売業者が消費者などに販売する際の価格(再販売価格)を指示し、これを順守させた。特に、4社の商品を安価で販売していたオンライン小売業者の価格に介入し、オンライン小売業者が、4社が求める販売価格に従わなかった場合には、自社製品を出荷停止するなどして厳しく対応した。
具体的には、台湾のA社は自社製品の小売業者の再販売価格を監視し、ドイツとフランスおいて、2011年から2014年にかけてA社の希望小売価格を下回る価格で販売する小売業者に価格の引き上げを要請した。日本のB社は、2011年から2015年にかけてドイツとオランダで同様の方法で自社製品の再販売価格を拘束した。オランダのC社は、2011年から2013年にかけて、フランスにおいて自社製品の再販売価格を制限した。さらに日本のD社は、2011年から2013年にかけて、関係12カ国(ドイツ、フランス、イタリア、英国、スペイン、ポルトガル、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ベルギー、オランダ、ノルウェー)において、自社製品の再販売価格を拘束するとともに、上記各国間で消費者向け販売価格が異なるようにするため、取引先のオンライン小売業者が他国の消費者に国境を越えて販売することまでも制限した。

本件において4社は、重要な付加価値のある証拠を欧州委に提出し、EU競争法に違反する本件事実を明確に認めた上で、欧州委の調査に全面的に協力している。そのため、欧州委は、関連規定に従い、違反各社の協力の度合いに応じて制裁金を40%(A社、B社、C社)あるいは50%(D社)減額した。

2.オンライン取引と価格監視

オンライン取引においては、市場の価格の透明性が向上し価格競争が激化することが一般に知られている。またオンライン取引では、価格が頻繁に改定され、小売業者は競争関係にある販売業者の価格を追跡し、多くの場合、即座に自らの販売価格を競争者の価格に合わせる傾向にある。なお、オンライン取引に限らず、現実の取引(オフライン取引)においても従来、多くの事業者が競争者の価格を監視し、何らかの対応をしていた。しかし従来の監視は、個別に価格を観察する、価格追跡情報を専門家から購入する、あるいは他の店舗などでより安い価格を発見した顧客から情報提供を受けるなどの方法に限られていた。これらの監視方法は、煩わしく、費用がかかり、あまり効果的でなく、何よりリアルタイムで実施できないという弱点があった

欧州委が2017年5月に公表した電子商取引の実態に関する調査報告書2によると、小売業者の53%が競争者のオンライン価格を追跡し、そのうち67%が価格の追跡に自動ソフトウエアプログラムを用いると回答している。また、大企業は中小企業よりも競争者のオンライン価格を追跡調査する傾向にある。さらに、価格の追跡に自動ソフトウエアを利用する小売業者の78%が、追跡後、自らの販売価格を競争者の販売価格に適合させる行動を取ることが実態調査により明らかになった。このように現在のオンライン取引においては、他の事業者の価格を監視するのは人間ではなく、自動化されたコンピュータプログラムであり、その中核には、価格の監視、追跡、適合を瞬時にして行う高度な価格監視アルゴリズムが存在する。

3.再販売価格維持行為と価格監視アルゴリズム

オンライン取引において他の事業者の価格を監視するアルゴリズムは、当初、競争関係にある事業者間で価格を協定した際に、相互に競争者の価格設定を監視する目的で利用されることを念頭に置いた議論が中心であったが、欧州委は、経済協力開発機構(OECD)の競争委員会の議論において、再販売価格維持行為における価格監視アルゴリズムの役割と競争法上の懸念についても指摘していた3。具体的には、例えば、EU競争法に違反して製造業者が小売業者に再販売価格の維持を求める場合、小売業者の販売価格を監視するアルゴリズムが一定の価格あるいは最低販売価格からの離脱を探知するために利用され、問題となる再販売価格維持行為の実効性を確保するのに寄与する場合がある。

さらに欧州委は、例えば、ある小売業者Xが、製造業者が示した再販売価格を順守し、別の小売業者Y(再販売価格の拘束を受けていない小売業者)が価格監視アルゴリズムを用いてこの再販売価格を監視していたならば、この小売業者Yは自らの価格を小売業者Xの価格に合わせる可能性があるとする。そして、このような状況では、再販売価格の拘束による価格の安定効果が価格監視アルゴリズムの作用と相まって、関連市場全体に広がる可能性があるとの懸念を欧州委は指摘していた。

2 Commission Staff Working Document accompanying the Final report on the E-commerce Sector Inquiry, document SWD(2017)154 final of 10.5.2017.
3 Algorithms and Collusion – Note from the European Union, 14 June 2017.

4.おわりに

本件での4社による再販売価格維持行為は、まさに製造業者が取引先のオンライン小売業者に対して求めた再販売価格が実際に順守されているかを高度な価格監視アルゴリズムを用いて監視し、効率的に再販売価格の維持を実現していた事例と言える。また欧州委は、本件において、最大手を含む多くのオンライン小売業者が、競争者が設定する小売価格に自らの小売価格を自動的に適合させるアルゴリズムを使用しており、低価格販売をしているオンライン小売業者の販売価格が製造業者による再販売価格維持行為により制限される。そして、本件で問題となった家電製品のオンライン価格全体が広範囲に影響を受けると指摘する。
 EUの競争政策を担当するベステアー欧州委員は、本件のプレスリリースにおいて、EUにおけるオンライン取引の市場は急成長しており、年間売上規模は5,000億ユーロを上回ると言及している。そして、本件4社の行為により、EU内の数百万の消費者は4社が製造する台所用品、ヘアドライヤー、ノートパソコン、ヘッドフォンなど多くの家電製品につき、価格の高騰に直面することになったと述べる4。今後、EUにおいてオンライン取引がますます拡大する中、欧州委は本件のように、価格監視アルゴリズムを用いた再販売価格維持行為に対する監視の目を強化していくことが予想される。

4 European Commission, Press release, 24 July 2018.

[執筆者]植村 吉輝(阪南大学経済学部准教授)

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2019年7月29日付で掲載されたものです)


Comments are closed.

Back to Top ↑