115.ポーランドはEV用バッテリー生産拠点となるか-岡崎拓

概要


ポーランド自動車産業は市場経済体制移行後、外国メーカーの進出とともに成長を果たした。ポーランドは現時点で電気自動車(EV)をはじめとする次世代自動車への適応を迫られており、2000年代以降拡大しているエンジン生産にハイブリッド車(HV)用エンジン生産が加わるとともに、EV用バッテリー生産基地としての役割を獲得しつつある。

1. はじめに

自動車産業は現在大きな変革期を迎えている。その動きの中心は「CASE」と呼ばれるコネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Sharing)、そして電動化(Electric)の4つの変化である。ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの中欧4カ国の自動車産業もこの大きな動きの中に存在している。当該地域の自動車産業は、1990年代の市場経済体制移行開始後、西欧、米、日、韓の大手自動車メーカーがグリーンフィールド投資、あるいは旧国営メーカーの買収などによるブラウンフィールド投資の形態で進出した。結果として、ポーランドを含む中欧地域は大手外国メーカーによる生産拠点が集まる欧州内での東の集積地域となってきた。

この中でポーランドでは、旧ポーランド自動車メーカーの消滅や同国自動車産業に長らく関係を持つイタリアのFiat Chrysler Automobiles(FCA)の生産縮小などを背景に完成車生産が落ち込みを見せた。その一方で商用車およびエンジン生産への特化という特徴が、特に2000年代から見られるようになった。本稿では、この2000年代以降に続く動きとして、ポーランド自動車産業が次世代自動車に対しどのように対応しようとしているかを、市場と生産地という2つの観点から概観する。

2. 立ち遅れていたポーランド

近年、ポーランドを含む中東欧で生産を行っている大手メーカーは今後の電気自動車(EV)生産・販売に関する目標を打ち出している。フォルクスワーゲン(VW)は2019年からの10年間で2,200万台のEVを生産する計画を打ち出し、2030年には世界販売の約4割をEVとする目標も掲げる。BMWは2025年までに売り上げの15~25%のEV販売、ボルボは2025年までの累計100万台のEV販売、ダイムラーは2020年までに年間10万台規模の販売を計画している(国際エネルギー機関(IEA),2017)。

こうした動きに、ポーランドは立ち遅れている。LeasePlan発表のEV Readiness Index 2019において、ポーランドは欧州連合(EU)域内で最低水準となっている。同指標では、(1)EVの成熟度、(2)充電インフラの成熟度、(3)政府のインセンティブ、(4)リースプランの成熟度に関する4つの評価項目の総合評価で総合スコアが算出される。トップのノルウェーが総合スコア34、オランダが33、中東欧諸国は総じて低スコアであり、ハンガリーが19、スロバキアが12、チェコが11、そしてポーランドが9となる。各評価項目での内訳を見ると、ポーランドはEV普及で3、充電設備普及で3、政府インセンティブで2と各項目でも最低水準となっている。

表1  EV Readiness Index 2019

出所:LeasePlan(2019,p.6)

ポーランドでは、2018年の新規登録車のうちわずか0.25%がプラグインハイブリッド車(PHV)を含むEVとなっている。これはチェコの0.65%、スロバキアの0.4%などと比しても低い値である。また、人口1人当たりの充電プラグ数は1,000人当たり0.022と、ギリシャに次ぐ最低水準の数値となっている。加えて、政府による次世代自動車普及を目的としたインセンティブについても、購入補助金、登録時の税優遇、付加価値税優遇などの項目について同調査ではポーランドはほぼすべての優遇施策がないとの評価である。日本貿易振興機構(JETRO,2017)でもEU各国におけるEV購入に関わる政府支援策の調査が行われているが、ポーランドは所有者利益の項目は施策ありの評価であるものの、他の購入補助、所有者利益、ビジネス・インフラ支援、地方インセンティブの3項目は施策なしの評価となっている。

3. 新たなe-mobility政策

その一方で、2017年ごろから政府によるe-mobilityに関する施策を打ち出し始めている。ポーランドでは2017年3月に「電動車開発計画(Electromobility Development Plan)」1が打ち出され、政府によるEV開発目標が示された。この計画では、2025年までの主たる目標として、(1)e-mobilityの発展における環境整備、(2)e-mobility産業の発展、(3)電力網の安定性の3点が挙げられている。

(1)については、公的機関の車両についてのEVへの転換義務付け(具体的には50%を2025年までにEVに転換すること)、公共施設での充電インフラ整備、付加価値税・物品税などの税制の変更などが実現手段として提示されている。特に普及の側面では「代替燃料インフラ発展のための国家施策フレームワーク」の設立を目指し、この中で2025年までに100万台のEV国内登録をもくろむ。(2)に関しては、e-mobility分野でのイノベーション向け財政支出を進め、自動車部品などの産業発展プロジェクトの計画と実施を進める。加えて「代替燃料インフラ発展のための国家施策フレームワーク」を通じたインフラ整備や排ガスの低減の実現を目指す。

また、2018年に採択された、the Act on Electromobility and Alternative Fuelsにより、充電インフラの拡充や低排出地域の設定などが進められている。これは、2014年のEU指令2を国内で具体化し、国内法令に置き換えるものである。代替エネルギーインフラについては、充電ステーションの設立許可不要、充電ステーションへの固定資産税免除、バスレーンにおけるEV通行許可などの具体的施策となっている(CleanTechnica,2018)。
これら国家戦略、各種法令の策定により、ポーランドの次世代自動車の普及に向けた環境整備が進み始めた。ポーランドは中東欧最大規模の人口を有し、1人当たり国内総生産(GDP)も上昇を続けており、次世代自動車の潜在的な市場としての可能性を持つ。現時点での戦略、フレームワークは主として2025年前後を区切りとして目標設定がなされている。今後5年程度の期間の中で、現在の計画の履行がどの程度進むかが次世代自動車市場としてのポーランドの可能性を測る一つの指標になると考えられる。

4.バッテリー生産拠点となりつつあるポーランド

2000年代以降、ポーランドではVW、トヨタ自動車、FCAなど大手メーカーによるエンジン生産が拡大している。ただしエンジン生産については、今後の動向は流動的である。世界およびEUの環境規制の強化に従い、ガソリン・ディーゼルエンジンの生産については長期的には縮小していくことが予想される。一方で、EV、燃料電池自動車(FCV)の普及は現時点で一部の国を除き先進国でもいまだ限定的であり、短・中期的には内燃機関自動車の需要は続くと考えられる。特にEV(あるいはFCV)が市場の中心となっていない状況においては、ハイブリッド車(HV)およびPHVが市場において重要な部分を占めると思われる。

一方で、EV生産に関わる新たな動きも見られ始めている。その大きな動きの一つがEV用バッテリー生産の動向である。現在世界のEV用バッテリー生産では、テスラ、LG化学、サムスンSDI、パナソニックなどに加え、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)などがすでに開発・生産における競争を行っている。欧州におけるバッテリー生産においても、日韓メーカーがすでに進出済みであり、今後も米国、中国メーカーの工場新設が予定されている。

このような世界的なバッテリー生産拡大の動きの中で、ポーランドもその生産基地の一つとなりつつある。スウェーデンのリチウムイオン電池メーカーであるノースボルトは2018年に米国メーカー・サウスベイソリューションと共同でEV用バッテリー生産工場をポーランド・グダンスクに建設すると発表した。また、韓国・LG化学は2017年10月、ポーランド南西部、コビエジチェ(Kobierzyce)にEV用リチウムイオンバッテリー工場の建設を発表した。3億5000万ドル規模の投資で、年間10万基のバッテリー生産規模の計画であった。LG化学にとってポーランド拠点は世界で4番目のバッテリー工場であり、欧州では初の拠点となる。また、2018年には同地域に新工場を建設し、ポーランドでのバッテリー生産を約3倍に引き上げる計画であることが明らかになった(Argus,2018)。さらにエンジン生産拠点の形でポーランドに進出したダイムラーも同工場においてEV用バッテリー生産を行う計画であることが発表されている(Reuters,2019.1.22)。

以上のように、欧州では各国の主要自動車メーカーおよびバッテリーメーカーが、すでに自動車メーカーの次世代自動車生産拡大を見据えた生産設備増強をポーランドにおいて進めている。これらの動きは、2000年代以降ポーランド自動車産業の中心となってきたエンジンをはじめとする部品生産が、次世代自動車へのシフトを示すグローバル自動車産業の潮流に合わせて質的変容を見せているものと言える

この動きに加え、バス生産では、外国メーカーのMAN、Scania、Volvoだけでなく、国内メーカーであるAutosan、Solaris、Ursusなどが生産を行っており、各社電気バスの生産(あるいは生産計画)を進めている。1990年代、2000年代を経てポーランド自動車産業は欧州自動車生産ネットワークへの組み込みが進んだ。そのうえで、近年の大手自動車メーカーがEVをはじめとする次世代自動車の生産を始めバッテリーの需要が高まる中で、ポーランドでは普及に先駆けて生産面での動きが先行していると言える。

5. 欧州自動車生産ネットワークの「コア」としてのポーランドのポテンシャル

ポーランドは、次世代自動車への適応で立ち遅れていたが、直近の数年間では中長期の戦略から具体的な法令制定により、国内EVインフラの整備や生産拡大・普及のための税制改革などが進行している。生産面においては、外国メーカーの欧州生産ネットワークにおけるエンジンを中心とした部品生産・供給基地としての役割を引き継ぎつつ、次世代自動車生産に対応する形での質的変容を見せ始めている。特にEVバッテリー生産では、LG化学やダイムラーなど新たな自動車、バッテリーメーカーの参入が見られ、ポーランド南西部の自動車産業集積がさらに進んでいる。
バッテリーというEV生産にとって大きな重要性を持つ部分の生産が拡大していく中で、ポーランドを含む中欧地域は欧州自動車生産ネットワークにおいて、以前と比較してより「コア」的機能を獲得していく可能性はあると考えられる。


参考文献
JETRO(2017)「中・東欧 電気自動車普及の現状:市場シェアは小さいが、電池など生産拠点開発は旺盛」[https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2017/f643b3e954dd4952.html](2019年4月5日アクセス)
Argus (2018)‘LG Chem to expand Polish EV battery production’
[https://www.argusmedia.com/ja/news/1800748-lg-chem-to-expand-polish-ev-battery-production](2019年4月15日アクセス)
CleanTechnica(2018)‘Poland Has Huge e-Mobility Plans’
IEA (2017)‘Global EV Outlook 2017’
LeasePlan (2019)‘EV Readiness Index 2019’
Ministry of Energy, Poland (2018)‘Electromobility Development Plan in Poland’
Reuters (2019.1.22)‘Mercedes-Benz will produce electric batteries in Poland: PM’
[https://www.reuters.com/article/us-daimler-electric-poland/mercedes-benz-will-produce-electric-batteries-in-poland-pm-idUSKCN1PG12T](2019年3月10日アクセス)

[執筆者]岡﨑 拓(常磐大学総合政策学部助教)

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2019年9月2日付で掲載されたものです)


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