119.新欧州委員会の始動と今後のEUのデータ、プラットフォーム規制・競争政策 -小川聖史

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概要

2019年の欧州委員会競争総局Vestager委員の再任及びデジタル政策担当の併任を踏まえ、「データ、プラットフォーム規制、垂直的制限」を中心として、ウルズラ・フォンデアライエン氏を新委員長とする今後の欧州委員会の競争法執行・規制の実務上の留意点を概観する。

1. はじめに

2019年9月、これまで5年間にわたり欧州委員会の競争法執行を統括してきたVestager委員が、競争総局(DG COMP)の委員として再任されるとともに(なお、DG COMPの委員が任期満了後に再任されるのはVestager委員が初めてとされる)、欧州委員会のデジタル政策担当の副委員長を併任することが発表された。その後、欧州議会及び欧州理事会の承認を経て、同年12月から、ウルズラ・フォンデアライエン氏を委員長とする新たな欧州委員会が始動した。
Vestager委員のこれまでの5年間の欧州連合(EU)競争法執行は、米系巨大プラットフォームに対する複数の調査や高額の制裁金賦課が著名である。しかし、それのみならず、欧州委員会の「欧州デジタル単一市場」戦略の下、取引相手に対する制限的な行為(「垂直的制限」といわれ、流通制度における代理店などに対する制限などは対象となり得る)に対する積極的な法執行も目立つ。特に、欧州委員会の近時のEU競争法執行では、地理的制限(越境販売の制限)、受動的販売に対する制限、選択的流通制度に伴う制限、ジオブロッキング行為に対するものが多く見受けられる。また、2019年7月には、欧州委員会により「オンライン媒介サービスのビジネスユーザーのための公平性及び透明性促進に関する規則」が公布された。
 現在の経済社会の動きは特に激しく、2020年以降の欧州委員会の法執行・政策方針を正確に見通すことは困難である。しかし本稿では、上記のような背景とVestager委員の再任・デジタル政策担当の併任を踏まえて、データ、プラットフォーム規制と垂直的制限を中心として1)、今後の欧州委員会の競争法執行・同関連規制の留意点を概観する。

2. デジタル社会とデータ、プラットフォーム規制

冒頭述べたとおり、欧州委員会はここ数年、米系巨大プラットフォームに対してEU競争法違反を理由として高額の制裁金を科している。特にG社に対しては、2017年以降3件の事件を立件し、支配的地位の濫用を理由として総額約80億ユーロ(約1兆円)の制裁金を科している。また現在も、ネット通販大手A社に対して、出店業者のセンシティブ情報の利用に関してEU競争法違反がなかったかなどについて調査を継続中である。
 欧州委員会のデジタルエコノミーやプラットフォームに関する問題意識は、事後規制としての法執行にとどまらず、一定の事前規制を定める「オンライン媒介サービスのビジネスユーザーのための公平性及び透明性促進に関する規則案」を2018年4月に公表した。同規則案の公表は、プラットフォームを巡る規制に関する世界的な議論を巻き起こし、現在、日本においても立法化の動きがある2)。同規則案は2019年6月に採択され、同年7月に公布された3)。同規則は、プラットフォームに対し、ビジネス利用者との関係において契約条件の明示や一定の情報開示を義務付ける。具体的には、契約条件の事前の明示・明確化、ランキングや検索結果の決定に係る主要パラメーターの開示、不平等な取り扱いをする際の開示、苦情処理システムの整備などの義務を定める。同規則は、2020年7月12日からEU域内において効力を有する。

ウルズラ・フォンデアライエン新委員長は「Europe fit for the Digital Age」(デジタル時代に適合したEU)を優先課題の一つに掲げており、Vestager委員がその任に当たる。これに加えて、今般のVestager委員のデジタル政策担当のポジションの併任からすれば、欧州委員会が今後も巨大プラットフォームによる濫用行為を中心として、デジタルエコノミーにおける競争制限的行為や、データに関する濫用行為に対する監視の目を弱めることは考えにくい。特に、欧州委員会は、2018年にプラットフォームに関する専門家監視組織(Observatory)を創設しており、この監視組織はプラットフォーム経済、プラットフォームによる不平等な取り扱い及びデータの取り扱いを中心として議論をしている模様であるから、特にこれらの領域においては更なる議論の進展及び将来の法執行が予期される。

3. 垂直的制限に対する欧州委員会の競争法執行

欧州委員会の競争法・関連規則の動きとしては、データの取り扱いやプラットフォーム関連の動向が華々しく取り上げられているが、欧州に進出する多くの日本企業にとって実務的により注意を払う必要があるのが、取引相手に対する制限行為(いわゆる「垂直的制限」)であると思われる。

欧州委員会の競争法・関連規則の動きとしては、データの取り扱いやプラットフォーム関連の動向が華々しく取り上げられているが、欧州に進出する多くの日本企業にとって実務的により注意を払う必要があるのが、取引相手に対する制限行為(いわゆる「垂直的制限」)であると思われる。
垂直的制限には様々な類型があり、冒頭述べたとおり、流通制度における代理店などに対する制限などは対象となり得る。著名なものとしては、再販売価格維持・拘束(サプライヤーが、卸・小売業者に対し、価格や価格水準を指示してこれを遵守させる行為)があり、欧州委員会は再販売価格維持に対しても法執行を続けている。しかし、欧州委員会がより厳格な法執行をしているのは「欧州デジタル単一市場」戦略に反する可能性のある垂直的制限行為である。そのような垂直的制限としては、具体的には、取引相手に対する地理的制限(例えば、越境販売すなわちEUの各加盟国をまたぐ取引の禁止)、オンライン販売の制限を含む受動的販売4)に対する制限、選択的流通制度5)に伴う制限、ジオブロッキング6)行為に対する行為などが挙げられ
例えば、欧州委員会は、2018年12月に大手アパレルメーカーに対してオンライン販売の制限や販売地域の制限をしていたことを理由として4,000万ユーロの制裁金を、2019年7月にはある人気キャラクター商品に関する越境取引を制限していたことを理由としてソーシャル・コミュニケーション・ギフト商品の企画・販売などを手掛ける企業に対して620万ユーロの制裁金を、それぞれ科した。このように、競争者間のカルテル行為や、巨大プラットフォームの欧州における市場支配的地位の濫用行為のみならず、垂直的制限に対しても高額の制裁金が科されているのである。

垂直的制限は「原則違法」とされる競争者間のカルテルとは異なり、市場における競争を促進する場合も多く、どこまでが適法な行為として許されるのか、判断の難しい場合が多い。その意味で、コンプライアンスの観点から実務的に重要なのが「垂直的制限に係る一括適用免除規則」と呼ばれる規則7)である。これは、同規則が定める類型に該当する行為については、競争への影響を考慮することなく、EU競争法の適用を除外する(すなわち適法とする)ものである。このように、ある垂直的行為が一括適用免除に該当すれば、法適合性が容易に判断できるため、実務的には、検討している垂直的行為が一括適用免除の恩恵を受けられるかが重要な分水嶺となる。
現行の規則は2022年5月末に失効するため、現在、改訂に向けた動きが見られる。現在議論に上がっている主な条項としては、オンライン販売に係る制限の取り扱い、選択的流通制度に関する制限などであり、2020年中に一定の方針が示される可能性が高い。これに応じて、欧州における流通制度は再点検を迫られる可能性もあり、実務的には相当のインパクトが予測される。

4. 終わりに

以上、欧州委員会の競争法や同関連規制の今後の動きとして予期される内容を概説した。Vestager委員が引き続き競争総局のトップとして再任されたのみならず、同委員がデジタル政策担当のポジションも併任したことからすれば、今後もデジタルエコノミーやプラットフォーム、データといった、耳目を集める分野におけるEU競争法執行や規制の動きは続くだろう。もちろん、これらの動きをフォローすることも重要であることに疑いはない。しかし、実務的には、欧州に進出している日本企業としては、EUの重要な価値の一つである「欧州デジタル単一市場」に反する垂直的制限行為に対する近時の厳しい法執行や、これに関連する規則の改訂作業に対しても引き続き注意を払う必要があろう。

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1 本稿ではカルテル及びM&Aに関する企業結合規制は取り上げない。しかし、欧州委員会はこれらに関しても積極的な法執行を行っており、注意を払う必要がある。特に、企業結合におけるガン・ジャンピング(競争当局の承認前に統合を実行すること)に関して、欧州委員会は2019年に大手電気機器メーカーと医療機器関連企業の統合につき2,800万ユーロの制裁金を科すなど、近時制裁を強化していることには留意を要する。
2 2019年6月に公表された未来投資会議の「成長戦略実行計画」において「2020年の通常国会に法案(デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称))の提出を図る」との方針が示されている。
3 Regulation (EU) 2019/1150 of the European Parliament and of the Council of 20 June 2019 on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services
4 受動的販売とは「Passive sales」の和訳であり、売り手から勧誘していない買い手から引合いに応じることをいう。これと反対の概念が「Active sales」(能動的販売)であり、卸・小売がテリトリー外に積極的な売込みをすることをいう。EU競争法上、能動的販売の制限よりも、受動的販売の制限の方が厳しく判断される。オンライン販売は、消費者が卸先・流通業者などのウェブサイトにアクセスし、サイト上で商品を購入するものであるため、ウェブサイト構築及びオンライン販売は基本的に受動的販売に該当する、というのが欧州委員会の立場である。
5 選択的流通制度とは、サプライヤーが、特定の基準で選定された流通業者に対してのみ商品又は役務を販売する制度をいい、現在では実務上広く用いられている。
6 ジオブロッキングとは、オンラインにおける販売者が、国籍、居住地又は設立地を理由として、国境を越えたオンラインでの販売に関して何らかの制限(典型的には、取引の拒絶や、不公平な取引条件の設定)を課す行為をいう。
7 Regulation (EU)No.330/2010 on the application of Article 101(3) of the Treaty on the Functioning of the European Union to categories of vertical agreements and concerted practices

[執筆者]弁護士 小川聖史

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2019年12月24日付で掲載されたものです)

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205


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