125.金goldを買うのをやめたロシア中央銀行-安木新一郎

概要

サウジアラビアとの交渉が決裂し、油価が急落、ロシア・ルーブルは暴落した。ロシアは2020年の平均原油価格を42.40米ドル/バレルとして予算を組んでおり、ロシア経済は悪化、財政赤字が膨らむことが予想される。こうした中、ロシア連邦中央銀行は5年間続けてきた金買いを4月1日に停止した。今後ロシアは、金外貨準備の2割を占める金を売って米ドルを買わざるを得なくなる可能性もある。

急落する原油価格

まず、2020年第1四半期の国際原油価格の動向について見てみよう。国際原油価格の代表的指標である北海ブレント原油先物(LCOc1)は2019年12月末日の終値66.0米ドル/バレルだったのが、2020年3月末日の終値は24.93米ドル/バレルと3カ月で66.23%下落した(以下、統計より筆者計算)。1991年1月の湾岸戦争以降で最大の下げ幅である。
こうした国際原油価格の下落は、原油の需要供給両面の変化によるものだと考えられる。まず、新型コロナウイルスの感染拡大阻止に向けた移動制限やイベント中止などで経済が打撃を受け、原油需要が圧迫されている。次に、OPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」の協調減産を巡る協議決裂を受け、サウジアラビアに続きUAE(アラブ首長国連邦)も2020年3月11日に、産油量を4月から増やすと表明し、世界全体の原油供給はいっそう増加すると予想される。こうした需要の減少と供給の増加により、ウイルス感染拡大前の世界の1日当たり消費量の約4%に当たる日量400万バレルが供給過剰になると予測されている。さらに、世界的な株価の急落もまた原油価格の下落要因になっている(『ロイター通信』、2020年3月13日付)。
 2020年3月11日にサウジアラビアは、ロシアが協調減産を拒んだことから公示価格を大幅に引き下げ、サウジアラビア産軽質油および中質油のCIF(運賃・保険料込み)価格はロッテルダム市場で25~28米ドル/バレルと、ロシア・ウラル原油の30米ドル/バレルよりも安くした。サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは、4月に欧州で必要となる原油の追加分すべてを安値で供給すると売り込み、トタル(仏)、BP(英)、Eni(伊)、SOCAR(アゼルバイジャン国営石油会社)など欧州の石油会社はサウジアラビア産原油を購入したとされる(Reuters,13 March, 2020)。ロシアは欧州市場でサウジアラビアに敗北しつつある。

正常な市場におけるルーブルの急落

国際原油価格が下落する中、ロシア・ルーブルは対米ドルで急落し、ロシア連邦中央銀行(ロシア銀行)の公定レートを見ると、2020年初61.91ルーブル/米ドルだったのが、3月末には77.73ルーブル/米ドルと20.36%安くなった。ただし、ロシア外為市場が混乱してルーブルが暴落したのではなく、国際原油価格の下落に応じてその分だけ安くなったと考えられる。

2020年第1四半期の原油価格の下落率は66.23%で、一方ロシア・ルーブルは対米ドルで20.36%安くなったのであるから、油価が1%下がるとルーブル/米ドルは0.33%安くなったと言える。これに対して2018年末の北海ブレントの価格は53.8米ドル/バレルだったので、2019年1年間のブレントの上昇率は22.68%、一方、ロシア・ルーブルの対米ドル相場は2018年末が67.08ルーブル/米ドルだったので、ロシア・ルーブルは対米ドルで2019年1年間に8.36%高くなった。したがって、2019年1年間を見ると、油価が1%上がるとルーブル/米ドルは0.37%高くなっている。このように2019年と2020年第1四半期を比べると、油価とルーブル/米ドル(どちらも名目値)の関係に大きな変化はなく(油価が1%変化するとルーブル/米ドルは0.3~0.4%ほど変化する)、外為市場が混乱してルーブル/米ドルが急落したわけではないのである。

外国為替相場を監視する役目を担うロシア銀行は、2020年2月7日の定例会合で政策金利である1週間物入札レポ金利を25bp(ベーシスポイント)引き下げて6%とした(Reuters, 7 February, 2020)。2019年1年間のCPI(消費者物価指数)上昇率は3%と、目標値である4%にまったく届かず、2020年第1四半期のCPI上昇率も前年同期比2%前後と予想されることから、金利を下げて貨幣供給量を増やし物価を上げようとしたのである。

貨幣供給量が増えると外国為替相場はルーブル安に振れ、かつ油価が下がると、原油輸出によって得られるドル建ての収入が減る。とはいえ、ルーブル換算では減少額がいくぶん少なくなる。それゆえ、ロシアの石油産業にとってルーブル安は有利である。また、ルーブル安によって輸入物価は上がるため、ルーブル安はCPI全体を押し上げる要因になる。

しかしながら、特に2020年3月以降、油価が急落してしまい、輸出全体の半分近くを占める原油輸出によって得られる外貨が減ると民間最終消費支出も減るので、連邦政府・ロシア銀行が目標とする2020年のCPI年上昇率4%の達成は難しくなるものと考えられる。

金売りを迫られるロシア銀行

急激なルーブル安が生じても、ロシア銀行は金外貨準備を使ってドル売りルーブル買いをすることもなく、準備を温存し続けている。一方で、2020年3月30日にロシア銀行は、金の購入を4月1日から停止すると発表した(https://cbr.ru/press/pr/?file=30032020_180000if2020-03-30T17_43_49.htm)。ロシア銀行はこの5年間に400億ドル余りを使って金保有を積み上げてきた(Bloomberg, 30 March, 2020)。金価格が上昇し評価額が大きくなっていったこともあり、2020年2月末日時点で準備の占める金の割合は21%に達している。

ロシアは脱ドル化政策を進めており(蓮見雄[2019]「多極化時代において脱ドルを模索するロシア」『ロシア・ユーラシアの経済と社会』、1042、2019年7月)、中国と同じくロシアも米国債を売って金を買ってきたが(Reuters, 12 February, 2020)、油価下落によりドル資金が不足すれば、金売りドル買いをせざるを得なくなる。安全資産として金の価格が上がっているが、ロシア銀行による金売りが金価格の下落を招く可能性も出てきた。なお、2019年、ロシア、中国、トルコなどの中央銀行が金保有額を増やす一方、ドイツやオーストラリアは減らしている。

クロスカレンシー・ベーシススワップ目的の円建ての短期国債購入(日本の短期国債を買ってドルに交換すれば、同年限の米国債を買うよりも利益が大きくなる。日本の短期国債の購入は実質的にはドル買いを意味する)のようなデリバティブに比べるとはるかに単純だが、金もまた米ドル資金の仮の姿であり、ロシアの脱ドル化政策とは、原油価格の上昇という条件でのみ可能なものだったのかもしれない。

図 半期末および2020年2月の金外貨準備と金の占める割合。2014年6月~2020年2月(単位:百万米ドル)

出所:ロシア銀行ホームページ(Центральный банк Российской Федерации(http://www.minfin.ru))統計を基に筆者作成

[執筆者]安木 新一郎(函館大学商学部准教授)

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2020年4月20日付で掲載されたものです)

ユーラシア研究所レポート  ISSN 2435-3205

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