131.欧州グリーン・ディールのグローバル・インパクト-蓮見 雄

eu

概要

「欧州グリーン・ディール」は、経済と社会を循環型に転換し、温室効果ガスの根本原因を絶つと同時に新たな経済発展を目指す成長戦略だが、資金と国民的合意形成という2つの制約があった。だが、復興基金が突破口となり、一連の政策の歯車が全体として動き出した。その影響はグローバルに広がっていくことが予想され、日本企業は対応を求められている。

1. 成長戦略の実現を阻んできたもの

2019年12月、フォン・デア・ライエン欧州委員長の下で打ち出された「欧州グリーン・ディール」1は、2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロとする(気候中立)という野心的目標を掲げたものとして注目された。しかし、より重要なことは、これが欧州連合(EU)経済の産業構造の転換を目指す成長戦略と位置づけられていることである。EU政策文書は、次のように指摘している。「経済成長を資源利用と切り離した(デカップリング)、現代的で、資源効率の高い、競争力のある経済を実現し、公正で豊かな社会へとEUを変革することを目的とした新たな成長戦略である」。
とはいえ、これは3度目の成長戦略である。2000年に打ち出され、2005年に改訂された「リスボン戦略」は「雇用、社会的結束、環境に配慮した持続可能な成長を可能とする知識基盤型経済」への変革を、その後の「欧州2020」は「賢く持続可能な包摂的成長」の実現を謳った。しかし、それらの成果は、EU経済の構造転換とはほど遠かったことは明らかである。

これまでの成長戦略が期待された成果を上げられなかったのには、主に2つ理由がある。第1に、統合のガバナンス(統治)の変化、つまり統合を進める上でのEUと加盟国の責任・権限の分担のあり方の変化である。1985年以来進められてきた「単一市場」の形成は、EUに委譲された権限に基づいてモノ・ヒト・サービス・資本の自由移動の障壁を除去し、競争条件を整備することであった。これは主に産業界と欧州委員会が合意すれば実現可能であり、もっぱらEUの規則・指令に基づいて進めることができた。

これに対して、一連の成長戦略が目指すものは、経済発展と社会的結束を両立した、持続可能な社会への転換であり、雇用政策や社会政策と深く関わる。ところが、こうした政策領域における主たる権限は国家にあり、EUは各国の政策を調整することができるにすぎない。成長戦略は、国民国家の内部におけるステイクホルダーの妥協に基づいて形成されてきたコーポラティズムとその社会政策(いわゆるヨーロッパ社会モデル)の根本的な見直しと関わるため、国民的合意形成を図りながら改革を進めなければならず、国家が主たる戦略の担い手となる。このため、共通目標達成のためのベンチマークや共同モニタリングによって自発的改革を促す調整的アプローチが、主なガバナンス方式とならざるをえなかった。

ユーロ危機の教訓から、加盟国経済の財政赤字、マクロ不均衡を予防しつつ構造改革を促すために、財政の「安定・成長協定(the Stability and Growth Pact)」と欧州2020に基づいて各国の財政政策をEUレベルで監視する手続き(ヨーロピアン・セメスター)が導入された。しかし、これは経済危機の再発予防には効果的であったとしても、経済の構造改革を促すには不十分であった。加えて、持続可能性と関連するエネルギー政策は長く国家権限で行われており、国家の自発的協力が必要だった。EUレベルでエネルギー政策が実施できるようになるのは、リスボン条約が批准された2009年以降のことである。しかも、再生可能エネルギーやエネルギーネットワークなどに限定されており、エネルギーミックスの選択は今でも国家権限である。このため、これまでの成長戦略は、柔軟だが、実現が難しかったのである。

第2に、成長戦略が十分な資金的裏付けを欠いていたことである。そもそも、EU財政は国民総所得(GNI)の約1%に過ぎず、しかも大半は共通農業政策と結束基金であった。したがって、加盟国の協力もさることながら、民間資本がEUの成長戦略をどのように評価し、どう動くかが決定的に重要になる。そもそもEUの市場統合は、EU経済構造改革の前提を作り出すことであった。つまり、単一市場によって創出された公正な競争条件(レベルプレイングフィールド)において、統合された金融市場の資金がEU経済の構造改革を促すと期待されていた。ところが、単一市場が形成され、ユーロが導入された後に実際に起こったのは、住宅バブル、消費バブルであり、EU経済の競争力強化にはつながらず、むしろユーロ危機を招いてしまった。

そこで、ユンカー前欧州委員長の下で打ち出されたのが、欧州戦略投資基金(European Fund for Strategic Investment:EFSI)である。これは、EU予算の一部を利用してEUがEFSIの債務保証を行い、さらに欧州投資銀行(European Investment Bank:EIB)の資金を組み合わせて、特に国境を越えるエネルギー、交通、デジタルのインフラなど、EUの戦略的プロジェクトに民間投資を誘致することを目指すものである。これは、投機に流れてしまった資金をEUレベルの公共投資へと誘う、官民協力に基づいた新たな投資プランの試みであった
2。とはいえ、野心的な成長戦略と比べれば、その効果は限られていた。

2. 欧州グリーン・ディールの何が新しいのか

欧州グリーン・ディールの背景として、しばしば次のような点が指摘される。
・2015年、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2度より十分低く抑えることを目標とする、気候変動対策の国際ルールを定めたパリ協定が成立した。
・2015年、国連が定めた17の持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)が公表された。
・2019年、欧州議会選挙で緑の党が議席を50から71へと伸ばしたことが示すように、多くのEU市民が気候変動を深刻な問題だと考えている。

確かに、政策文書にはこれらの影響が現れており、EUとして積極的に対応しようとする姿勢が随所に見られる。したがって、環境を重視する人々が欧州グリーン・ディールを歓迎したことは理解できる。

しかし、成長戦略という視点から見ると、欧州グリーン・ディールの新機軸は別のところにある。

第1に、「経済、産業、生産・消費、大規模インフラ、輸送、食糧・農業、建設、税制、社会的利益など、あらゆる分野でクリーンエネルギー供給のための政策を再考」し、デジタル単一市場の実現とともに、根本的な変換をもたらす一連の政策を設計しようとしている。その中核となるのが、線形(linear)システムから循環型(circular)システムへの転換である3。これまでの経済活動の特徴は[資源採取→生産→消費→廃棄]という線形システムであり、廃棄物は市場の外に出され、忘れさられてきたが、それが環境問題を引き起こし、経済活動に支障を来すようになった。例えて言うならば、これまでの市場は「動脈」だけで形成され、廃棄物を適切に処理する「静脈」を欠き、生態系を攪乱し、地球上の「生命」そのものの危機を招いた。これを変えるには、廃棄物を適切に管理し、再生資源市場を作り出し、[資源採取→生産→消費→廃棄→廃棄物管理→再資源化→生産…]という循環システムを構築し、「動脈」と「静脈」を効率よく結びつけなければならない。
第2に、この転換は「公正で包摂的」でなければならないことを強調し、その裏付けとして、「公正な移行基金」を含むメカニズム(Just Transition Mechanism)と「欧州社会権の柱(European Pillar of Social Rights)」の行動計画を提案している。循環型経済への転換は、化石燃料に依存してきた産業の衰退を招き、「ビジネスモデル、スキル、相対価格」などの「実質的な変化をもたらすので、政策が機能し、受け入れられるためには、積極的な市民参加と移行への信頼」が最も重要であり、「最大の挑戦に直面する地域、産業、労働者」に注意を払い、新たに生まれるグリーンビジネス分野での雇用への転換を段階的に進めなければ、国民的合意を得ることは困難だからである。
第3に、10年間で総額1兆ユーロの投資が必要であるとして、EUと国家の予算、EFSIを発展させたInvest EUによる民間資本の誘致に留まらず、タクソノミー(グリーン投資分類)を定め、民間資本の流れをグリーン投資へと変えるサステイナブル・ファイナンスを組み込もうとしている。

このように、欧州グリーン・ディールは、(1)循環型経済システムの転換に焦点を当て、(2)EUレベルでの社会政策に取り組む姿勢を鮮明にし、(3)資金の流れを根本的に変える方向性を示したという3つの点において、リスボン戦略や欧州2020とは異なっている。これまでの成長戦略においても、経済政策、社会政策、エネルギー環境政策が組み込まれていたものの、寄せ集めの感は否めず、社会政策は各国任せで、EUとしての取り組みは弱かった。これに対して、今回は循環型経済システムへの変革が政策の軸に置かれ、これまでの成長戦略の実現を阻んできた上述の2つの問題に対する新たな対応策が盛り込まれた。つまり、公正な移行基金の提案など、移行に伴う社会問題にEUとして取り組む姿勢を明確にし、成長戦略実現のための新たな資金調達の方向性を示したのである。

3. コロナ危機と「次世代EU」が欧州グリーン・ディール実現の突破口となる

しかしながら、その成否は、結局のところ、EUに対する市民と市場の信頼にかかっている。2019年末に欧州グリーン・ディールが打ち出された時点では、大口の拠出金国であったイギリスがEUを離脱し、予算規模を拡大するのは容易なことではなかった。加えて、純拠出国と受益国との対立もあり、各国でナショナリズムが台頭し、ポーランドやハンガリーはEU加盟の条件である法の支配を順守せず、EUの連帯は危機に瀕していた。
この時点での欧州グリーン・ディールに対する筆者の見立ては、その新機軸を評価しつつ、従来の成長戦略と共通する2つの問題を解決しなければ実現は難しいだろう、というものだった。

状況を根本的に変えたのは、新型コロナウイルス感染症の爆発的な拡大である。2020年4~6月のユーロ圏の実質GDPは前期比-12.1%、年率換算で40.3%減と過去最悪であった。こうした状況下において、独仏が共同で提案したのが復興基金である。これは、5,000億ユーロという規模もさることながら、資金を欧州委員会が金融市場から借り入れる債務共有化を含む前例のない提案であった。

2020年7月21日、欧州理事会は、「次世代EU(Next Generation EU)」という名の復興基金(7,500億ユーロ=約92兆円)を含む、2021~2027年のEU予算(1.824兆ユーロ=約223兆円)で合意した。これは、2014~2020年の予算の実に1.7倍近くである。これまで以上に財政をめぐる南北対立が露呈し、欧州理事会は5日間に及んだ。当初案の補助金5,000億ユーロは3,900億ユーロに減額され、融資に置き換えられたものの、基金全体の規模は維持され、また同プログラムの中核となる「復興・レジリエンス基金(Recovery and Resilience facility)」の補助金部分は当初案がほぼ維持され、融資枠も拡大されている。そして、次世代EUは「復興を通じて、対をなすグリーンとデジタルにおける転換を推し進める4」とされ、復興計画の中心に欧州グリーン・ディールが位置づけられている。

決定的に重要なのは、欧州委員会が債券を発行して市場から資金調達を行う債務共有化が、限定的ながら実現したことである。これは、EUの連帯を示すとともに、EUが新たな資金調達手段を手にしたことを意味している。翌7月22日付のロイターは、EUは「世界最大級の超国家発行体」になり、「ユーロ建て債権市場は地殻変動」を起こすかもしれない、と論評している5。つまり、復興基金の合意は、これまでの成長戦略を阻んできた2つの問題について、解決の突破口となる可能性を生み出したのである。

欧州グリーン・ディールが公表される以前から、エネルギー・気候変動政策には社会・経済システムを循環型に転換するための総合的な戦略が必要であることは強く意識されてきた。例えば、2018年の政策文書「みんなのクリーン・プラネット(A Clean Planet for all – A European strategic long-term vision for a prosperous, modern, competitive and climate neutral economy)」には、さまざまな政策の歯車をかみ合わせることによって、低炭素社会の実現に向かって進むイメージが描かれている(図1)。

図1 欧州グリーン・ディールの元になる、2050年までの長期戦略を示したクリーン・プラネット構想

出所:EC, ‘A Clean Planet for all – A European strategic long-term vision for a prosperous, modern, competitive and climate neutral economy’, COM(2018)773 finalの図を駐日欧州連合代表部が翻訳したものに筆者加筆https://www.eu.emb-japan.go.jp/files/000492981.pdf

だが、個々の政策の歯車を整えただけでは、全体は動かない。全ての歯車がスムーズに動いて、はじめて全体が動く。とりわけ困難なのが、これまでも成長戦略の実現を阻んできた国民的合意形成と資金的裏付けの確保の難しさであった。すでに述べたように、欧州グリーン・ディールは、EUとして社会政策に取り組み、新たな資金確保の方法を提案することによって、低炭素社会への移行を加速しようとしたのである(図1の赤く囲った部分)。しかし、Invest EUの仕組みで民間投資を誘致するとしても、確保が見込める資金には限界がある。そもそも、EUの連帯の亀裂が目立つ状況のままでは、市民の支持や市場の信頼を確保し、成長戦略を推し進めることは困難であった。

しかし、今回、次世代EUを含む大規模なEU予算で合意し、その予算の3分の1が気候変動対策に振り向けられ、限定的ながらEUの債務共有化が実現し、EUの連帯が保たれたことは、一連の政策の歯車が全体として動き出す弾みとなる。復興基金の返済については、

2021年プラスチックごみ税、2023年国境炭素税とデジタル税、さらに欧州域内排出量取引(EU-ETS)収入の一部、金融取引税など、新たな財源の導入が進められようとしている。実現には紆余曲折が予想されるとはいえ、それらが導入されれば、EUの財務基盤は根本的に強化されることになる。

もちろん、加盟国の役割は依然として大きい。この基金を利用する国は、2021~2023年の環境、デジタル、国民経済のレジリエンス強化の投資や構造改革案を策定し、審査を受けなければならない。コロナ禍で甚大な影響を被っているイタリアやスペインが、復興基金を利用して構造改革に成功すれば、それはEU全体としての成長を加速するだろう。とはいえ、「公正な移行基金」もさほど大きなものではなく、2050年までに新たに100万のグリーン雇用を生み出すという目標が達成され、雇用転換がスムーズに進むかどうかは未知数である。社会政策においては、依然として国家の役割が大きく、転換の痛みを緩和しながら国民的合意を形成していけるかどうかは、やはり加盟各国の政治にかかっている。

4. 動き出すサステイナブル・ファイナンス

欧州グリーン・ディールは、サステイナブル・ファイナンス実現に向けた動きを加速させるであろう。2020年6月18日、「持続可能な投資促進のための枠組の確立」に関する規則6が承認された。このEUタクソノミー規則は、(1)気候変動の緩和、気候変動への適応、水・海洋資源の持続可能な利用・保全、循環型経済への転換、汚染の防止・管理、生態系保護のうち1つ以上に貢献すること、(2)他の環境目的を著しく害さないこと、(3)最低限の社会保障措置(国際労働機関(ILO)の中核的労働協約等)、(4)欧州委員会が指定する技術的基準を満たすことという条件に基づいて経済活動を分類し、持続可能な金融商品の開発を促し、この要件を満たすグリーン事業への投資を促すことを目指すものである。

行動計画を示した図2を見ると、EUが何をしようとしているかがよくわかる。(1)タクソノミーを基礎として、(2)グリーンボンドの基準・ラベルを創設し、(3)Invest EUを利用して官民協力に基づくインフラ投資を行う。そして、(4)ESG(Environment, Social, Governance)投資を念頭に投資コンサルティングを行うことを求め、(5)サステイナビリティ・ベンチマークを開発し、(6)格付けにおいては、評価基準にサステイナビリティを組み込むことを求め、(7)投資家・アセットマネージャーにもESGを考慮した投資を義務化し、情報開示を強化し、(8)金融機関についても、プルーデンス(健全性要件)にタクソノミーに基づいたサステイナビリティ・リスクを組み込むことを求め、(9)気候関連情報等の非財務情報開示を強化し、(10)長期的な視点から持続可能な企業経営を行うコーポレートガバナンスを強化する。

これは、まさに資本の流れを変えるという野心的な構想である。タクソノミーについては、規制が細かく、自由な民間投資を妨げるのではないかなど懸念が指摘されており、例えば日本経済団体連合会(経団連)は「タクソノミーの拙速な国際標準化や国際金融規制への活用に反対」を表明している7。しかし、復興基金を契機としてEUが取り組みを強めることが予想され、また国際標準化機構(ISO)でも取り組みが始まっていることを考えれば、日本の企業もサステイナブル・ファイナンスへの適応は避けては通れない。

図2 サステイナブル・ファイナンス行動計画

出所:https://ec.europa.eu/clima/sites/clima/files/docs/pages/initiative_1_financial_sector_en.pdfの図に筆者加筆・修正

5. サーキュラー・エコノミーへの転換に伴うコスト

2020年3月には、「新しいサーキュラー・エコノミー(循環型経済)行動計画(A new Circular Economy Action Plan – For a cleaner and more competitive Europe)」が公表された8。すでに始まっているプラスチック規制をはじめ、転換の動きは加速するだろう。エコデザインの枠組の範囲が拡大され、バリューチェーン全体を通して廃棄物を抑制し、再利用率を高めなければならず、再利用を前提とした製品設計や生産プロセスへの転換、またそれに伴う職種転換や職業訓練も必要となる。留意すべきは「重要な原材料(Critical Raw materials)」の確保と再利用である。太陽光発電、風力タービン、電気自動車(EV)などの増加が見込まれるが、それらの製造に欠かせないレアアースや電極材のコバルトの供給不足という事態が生じるかもしれないからである9。

6. ユーロの国際的役割の強化

こうした変化は、ユーロの国際的役割の強化にもつながるかもしれない。2018年末にEUがユーロの国際的役割の強化を打ち出したにもかかわらず、2019年のユーロのシェアは国際通貨の各種指標の平均で19%と、歴史的に低い水準であった。とはいえ、ドルに次ぐ重要な通貨であることに変わりはない。グリーンボンドではユーロ建てが45%を占めていることを付け加えておこう10

興味深いのは、2018年以来、米国との関係悪化を背景に、中国とロシアがドル建て資産を大量に売却していることである。ロシア中央銀行によれば、2019年12月末時点のロシアの金を含む外貨準備の構成を見ると、ユーロ30.8%、ドル24.5%、金19.5%、人民元12.3%となっている。中露貿易では、ドル建て決済に代わってユーロ建て決済が広がっている11。多極化時代に適応し、ドルに代わるもう一つの選択肢としてユーロが利用され始めているのである。ユーロ建て資産の信頼が高まれば、「脱ドル」というほどではないにしても、ドル離れの動きが加速するかもしれない。

7. 欧州グリーン・ディールの影響の広がりと対策の必要性

欧州グリーン・ディールは、経済・社会のあり方を線形システムから循環型システムへと長期的に転換し、温室効果ガスの発生原因を元から絶つと同時に、新たな成長軌道を描こうとする野心的な試みである。だが、裏付けとなる資金、国民的合意形成という2つの点において従来の成長戦略と同様に限界があった。
しかし、復興基金は、欧州グリーン・ディールの政策の歯車が全体として動き出す弾みとなり、その影響は急速にグローバルに広がっていく可能性が高まっている。加えて、EUは「ヨーロッパだけでは実現できない」として国際協力を強めていく姿勢を示している。気候変動とエネルギーは、2019年に日EU経済連携協定(EPA)とともに成立した日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)の重要な協力課題であり、日本への働きかけも一層強まることが予想される。日本政府にとっても日本企業にとっても、欧州グリーン・ディールのグローバル・インパクトに備えることは喫緊の課題となっている。


1 EC, ‘The European Green Deal’, COM(2019)640 final.
2 >蓮見雄「EUの「選択と集中」と官民協力による投資プラン」http://yuken-jp.com/report/2015/02/23/eu-plan/2015年
3 2015年にEUは、循環型経済への転換を目指す行動計画を公表している(EC, ‘ Closing the loop – An EU action plan for the Circular Economy’, COM(2015)614 final)。さらに、2020年にはエネルギーシステム全体を循環型に転換するエネルギーシステム統合戦略を打ち出している(蓮見雄「ジオポリティックスからレジリエンスへ:次世代のエネルギー安全保障」『世界経済評論IMPACT』No.1835, 2020.08.03 
4 EC, ‘Europe’s moment: Repair and Prepare for the Next Generation’, COM(2020)456 final.
5 https://jp.reuters.com/article/eu-bond-covid-idJPKCN24N091 
6 Regulation(EU)2020/852.
7 https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/069.html 
8 EC, ‘A new Circular Economy Action Plan – For a cleaner and more competitive Europe’, COM(2020)98 final.
9 平沼光・松八重一代・中川恒彦・中島賢一「エネルギー転換による鉱物資源リスクとサーキュラー・エコノミー」東京財団政策研究所REVIEW, No.06, 2020.
10 https://www.ecb.europa.eu/pub/ire/html/ecb.ire202006~81495c263a.en.html#toc1 
11 蓮見雄「人民元、ユーロとロシア」2019年http://yuken-jp.com/report/2019/11/29/117/

[執筆者]蓮見 雄(立教大学経済学部教授)

(※この記事は、三菱UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに2020年7月12日付で掲載されたものです)

ISSN 2435-3205

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