Archive for EU

新世代の日本・EU間の経済連携協定(EPA)-中西優美子

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概要

2017年12月に日本と欧州連合(EU)は経済連携協定(EPA)の交渉を終了した。このEPAは、単に関税の引き下げや撤廃を規律するのではなく、知的財産、環境や労働者保護なども規定する、新世代の自由貿易協定(FTA)と位置付けられている。2018年4月に欧州委員会は、EU理事会に対しEPA締結に関する決定の提案を行った。日本・EUは早期発効を目指している。
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米IT大手に巨額の制裁金を命じた欧州委員会決定-植村 吉輝

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概要

2017年6月27日、欧州委員会(欧州委)は米IT大手企業(A社)に対し、欧州連合(EU)運営条約第102条違反を理由に約24億2000万ユーロの制裁金を科す決定を下した 。A社は検索エンジン市場での支配的地位を乱用し、自社の比較ショッピングサイトを競合他社に比べ不当に有利に扱い、自社サイトへのトラフィックを急増させる一方、競合他社サイトへのトラフィックを激減させた。
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EUカナダ包括的経済貿易協定に見るEUのFTAへの投資裁判所導入の際の問題点-東 史彦

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概要

州連合(EU)によるEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)の署名にベルギーのワロン地域が反対を表明し、成立が危ぶまれた。本稿では、この事例からEUの自由貿易協定(FTA)の問題点を確認。またCETAに規定された投資裁判所制度(ICS)の問題点を指摘し、日EU経済連携協定(日EU・EPA)への示唆を探る。

要旨

先般、欧州連合(EU)によるEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)の署名にベルギーのワロン地域が反対を表明し、成立が危ぶまれた。本稿では、このCETAの事例からEUの自由貿易協定(FTA)の問題点を確認し、日EU経済連携協定(日EU・EPA)への示唆を探る。具体的には、まずCETA交渉から批准までの経緯に見える問題点を確認し、次にCETAに規定された投資裁判所制度(ICS)の問題点を指摘し、最後に日EU・EPAにとっての示唆を探る。

 CETA締結の経緯

(1) CETAへのICSの導入
CETA交渉は2009年5月に開始され、同年6月には内容と一般的な方針について合意に至った。同年12月には、リスボン条約によりEU基本条約が改正され、新たにEU機能条約(TFEU)第207条に対外直接投資などがEUの排他的権限である共通通商政策として明示された。これにより、コミッション(欧州委員会)は、投資保護もEUの排他的権限との立場を取った。投資保護を含むCETAがEUの排他的権限事項の範囲内の協定であれば、EUが単独で締結することができる。しかし加盟国は、投資家対国家の紛争解決(ISDS)を含む多くの二国間投資協定を擁している中で、CETAの投資保護は加盟国の権限に関わるため、加盟国と共同で締結される(混合協定)必要があるとの立場を取った。

2014年に、コミッションは、CETAの投資保護およびISDSへの批判が高まってきたため、公開諮問を行った。諮問は主に、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉におけるISDSに関するものだったが、CETA交渉における進展状況も参照された。諮問の結果は、大半がISDSへの反対を示すものだった。そこで2015年末には、TTIP以降のISDSに代わるものとして、CETAの投資章が修正され、私的仲裁に代わる裁判所システムとして、ICSが導入された(CETA第8章F節)。

(2) CETA署名と暫定適用
2016年7月5日、コミッションは、CETA署名を理事会に提案した。このときコミッションは一部加盟国の要求を考慮し、CETAを混合協定として提案したが、理事会および欧州議会の可決の後、ICSを含む投資保護などを除いた一部は暫定適用されるとの条件を付けた(CETA第30.7条)。ここで「暫定適用」とは、CETA全体を仮適用するということではなく、CETAの一部の適用を先行して開始することを意味する。

しかし2017年10月14日には、ベルギー・ワロン地域議会がCETAを拒否し、理事会での署名が滞った。ベルギーでは、連邦政府の署名には連邦およびその構成体議会による権限委任が必要となっているが、ベルギー・ワロン地域議会は、ICSとそれによるEUの食品、健康、環境、社会基準の劣化などの懸念を主な理由に、連邦政府の署名に反対していた。しかし、これに対しコミッションがワロン地域の主張を盛り込み、共同解釈指針を修正した。ワロン地域議会もそれを受け入れ、同年10月27日、ベルギー全議会がCETAを承認することとなり、同月30日にEUおよびカナダによるCETAの署名が実現した。

2017年2月15日には、欧州議会がCETAに同意を与え、その結果、同年9月21日に、CETAは暫定的に適用が開始されている。

(3) CETAの全体適用の見通し
ICSなどの投資保護を含むCETA全体の適用には、ワロン地域を含む各加盟国議会による承認が必要である。その中で14の加盟国で国民投票の可能性があり、先行きは不透明である。また2017年9月6日には、ベルギーがEU司法裁判所にCETAのICSのEU法適合性について意見を要請していることも、不安定要素である。

現時点では、ラトビア、デンマーク、マルタ、スペイン、クロアチア、チェコ、ポルトガルが批准を済ませているという状況にある。

CETAの暫定適用の終了に関する理事会の声明によれば、加盟国が批准しない旨を通告した場合、CETAの暫定適用は全加盟国の批准を前提としているため、暫定適用も終了することとなる。
2 CETAのICSの問題点

(1) 当初のISDS
当初、CETAは、投資紛争解決国際センター(ICSID)の手続きを採用していた。すなわち、3人の独立の仲裁人が選任され、そのうち投資家および政府により1人ずつ、議長を務める残りの1人は両当事者の合意により選ばれる。合意に至らない場合は、指名された仲裁人または指名機関により指名される。上訴はない。

こうしたISDSの導入に対して、制度上の独立性、手続きの公正、および当事者の平等の問題などに関して批判が上がった。すなわち、ICSIDの仲裁制度には公的な司法機関に備わる手続き的保障がないというもの、ISDSは公正かつ透明でバランスの取れた手続きとしては不十分というもの、多国籍企業がその財力を使って私的な仲裁に不当な影響を与えるというもの、米国の多国籍企業がカナダ子会社を通じてEU加盟国を訴えるといったものなどである。

(2) ICSへの変更
そこでCETAには、常設の裁判所としてICSを設けることとなった。ICSは、15人の裁判官により構成され、そのうち5人ずつがEU・カナダから、それ以外の5人はその他の国から、CETA合同委員会により、候補者名簿から指名される。裁判官は、高度の専門性および独立性を有する者に資格が認められる。事案は構成員からEU、カナダ、第三国により1人ずつ無作為に選ばれた3人の裁判官のパネルにより審理される。選任手続きは、裁判所所長が輪番制でパネルメンバーを指名する。また、ICSは上訴審の手続きを設けた。上訴の審理は、無作為に選ばれた3人で行われる。上訴審は、第1審の判断を、法律の解釈および適用の誤り、ならびに国内法の評価を含む事実の評価の明らかな誤りに基づいて、変更および破棄できる(CETA第8章F節)。

ISDSからICSへの変更の意義は、仲裁人選定の際の当事者の自律性がなくなり、国が指名し無作為に選ばれる裁判官による審理のため独立性が担保されることや、第三国裁判官が裁判所長としてパネルを選定し、第三国裁判官がパネルの議長を務めることによって、投資家の影響が排除されることなどが挙げられる。しかし批判も絶えず、それには、裁判所倫理規範がICS裁判官の他事案兼務を禁止していないこと、影響を受ける第三者の立場が守られないこと、そして特に、ICSはEU法およびEU司法裁判所の権限と両立しないのではないか、といったものがある。

(3) CETAのICSの合憲性に関するフランス憲法院の判断
中でも、具体的な論点の一つとして、次の問題が提起されている。
CETAの投資章の規定によれば、一方当事者の投資家は他方当事者が義務違反を行ったという申し立てをICSに行うことができ(CETA第8.18条)、一方当事者の事業者とは、その当事者の法により組織され、その当事者の自然人または法人により直接または間接に所有または支配されるものをいう(CETA第 8.1条)。

これらの規定によれば、EU加盟国を相手取り、ICSに申し立てを行えるのはカナダの投資家であり、カナダの投資家であることの判断は、カナダの自然人または法人により直接または間接に所有または支配されている必要があるということを意味する。この点が「…加盟国の法律に基づいて設立され、かつ定款上の本店、管理の中心、または主たる営業所を連合内に有する会社は、…加盟国の国民たる自然人と同じ待遇を受ける」として、EU内に定款上の本店を連合内に有する会社、管理の中心を連合内に有する会社、または主たる営業所を連合内に有する会社を区別していない、TFEU第54条に違反する可能性があるとの指摘がある。

類似の問題は、実際に、2017年7月31日のCETAの合憲性に関するフランス憲法院の判断(Cour Constitutionnelle, Décision n° 2017-749 DC du 31 juillet 2017)において扱われた。フランス憲法院は、フランスとカナダの投資家の異なる扱いは、フランス憲法上の平等原則には反しないと判断した。その根拠として、第一に、フランスの投資家がカナダで、カナダの投資家がフランスで保護されるという、相互互恵的な枠組みが創設されていること、第二に、カナダによるフランスへの投資を呼び込むことができることが挙げられている(第35~39段)。

(4) CETAのICSのEU法適合性に関するEU司法裁判所の意見
しかしさらに、2017年9月6日に、ワロン地域を抱えるベルギーは、CETAのICSがEU法に適合するかについて、EU司法裁判所に意見を要請した。ベルギーは、ICSが、EU司法裁判所によるEU法の排他的権限に適合するか、EU法の平等原則、実効性の要件、および裁判を受ける権利と適合するかといった問題や、裁判所・上訴審の裁判官の報酬・指名・解任の条件、国際仲裁における利益相反に関する国際法曹協会のガイドラインおよび裁判所・上訴審の裁判官の行動規範、ならびに裁判所・上訴審の裁判官の投資紛争に関する外部の専門職活動との関係で、ICSは独立・公平の裁判所で裁判を受ける権利と適合するのか、といった論点について問題を提起している。こうした点についてEU司法裁判所がどのように判断するか、引き続き注視する必要がある。

また、2017年9月19日、EU司法裁判所のアヴォカ・ジェネラル氏(EU司法裁判所による判断の前段階で法的拘束力のない意見を発出する任務を負う)は、EU域内の二国間投資協定におけるISDSは、EU法に反しないとの意見を示した(Advocate General Opinion Case C-284/16, EU:C:2017:699)。EU域内の二国間投資協定におけるISDSについてEU司法裁判所がアヴォカ・ジェネラル氏の意見を採用したとしても、CETAのように、EUと第三国との間のISDSおよびICSのEU法との適合性については、異なる判断が下される可能性が残る。

3 日EU・EPAにとっての示唆
以上のCETAの考察から明らかとなるEUのFTAへのICS導入の際の問題点は、次の点である。

まず、ICSを含むEUのFTAは混合協定としてその全体適用には加盟国による批准が必要となるため、一加盟国でも批准を拒否した場合、全体適用が不可能となるのみならず、暫定適用も終了となる点である。また、CETAに規定されたICSは、EU司法裁判所の判断によっては、EU法に適合しないと判断される可能性が残っている点である。

投資章は日EU・EPAにおいても導入される予定であり、ISDSについては日EU間で協議が続けられている状況だが、CETA締結に際して生じているものと同様の問題を避けるためには、投資保護およびISDSまたはICSについては、可能であれば、別個の協定を締結するなどの方策も検討が必要かと考えられる。EUシンガポール自由貿易協定(EUSFTA)の締結権限に関するアヴォカ・ジェネラル氏の意見においては、EUSFTAの権限の種類に基づいて別々の協定を締結するという選択肢が、政治的な決断に基づくものとして提示されている(Advocate General Opinion in Opinion procedure 2/15, EU:C:2016:992, para. 567)。

p class=”auth”> [執筆者][執筆者]東 史彦(長崎大学多文化社会学部准教授)

※この記事は、2017年12月7日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

EU・ユーロ圏のシャドーバンキング・システム-石田 周

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概要

金融危機の原因の一つとしてシャドーバンキングの存在が指摘されて久しいが、その解明は道半ばである。ユーロ危機後の欧州においても、依然としてその存在は大きく、今後も注視していく必要がある。欧州システミックリスク委員会が2016年に公表した報告書では「主体」と「活動」の両面から、EUとユーロ圏のシャドーバンキング・システムについて検討している。本リポートでは、その一端を紹介する。

1. EU・ユーロ圏のシャドーバンキング・システム

サブプライムローン危機の発生以降、すでに10年近くが経過しようとしている。この間、危機の原因となった「シャドーバンキング・システム(shadow banking system:以下SBS)」の解明が進められてきた。総じて、SBSの研究は米国を主な対象として行われてきた。しかし、欧州においても、危機が去った現在でもSBSは相当な規模に達している。

金融安定理事会(FSB)の代表的な定義によると、広義のSBSとは「規制された銀行制度外部の主体および活動が関わる信用仲介」である(FSB[2011])。この定義に基づき、2016年に公表された欧州システミックリスク委員会(ESRB)の報告書では「主体」と「活動」の両面から、欧州連合(EU)・ユーロ圏のSBSについて検討している。本リポートでは、ESRBの報告書を参考に、最近のEU・ユーロ圏のSBSの現状を確認する。

2. 「主体ベース(entity-based)」で見たEU・ユーロ圏のSBS

SBSを統計的に把握する手段の一つは、その構成主体の資産総額を計測することである。表1はEUおよびユーロ圏の金融部門の資産総額とその内訳を示している。

表1:EUとユーロ圏の金融部門の資産総額とその内訳(2015年第4四半期)

表1:EUとユーロ圏の金融部門の資産総額とその内訳(2015年第4四半期)

* 金融ビークル会社(FVCs)についてのデータはユーロ圏についてのみ
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金融部門は「通貨金融機関」「保険会社・年金基金」そして「投資ファンド・その他金融機関」から構成されるが、この最後の部分が「広義のシャドーバンキング・システム(SBS)」に該当する。2015年第4四半期の広義のSBSの規模は、EUでは37兆ユーロ(EU金融部門の36%)、ユーロ圏では28兆ユーロに達した。これらの規模は2004年の規模のおよそ3倍に当たる。さらに、2012~2015年にEUの銀行の総資産が5%減少したのに対し、SBSは22%増加した。このように、世界金融危機・ユーロ危機後も、EUのSBSは規制された銀行制度と比べて急速に拡大しているのである。

EU・ユーロ圏の統計では、広義のSBSに関わる主体は「投資ファンド」と「その他金融機関」から構成される。投資ファンドは「MMF」と「非MMF」に区分される。これに対し、その他の金融機関は「金融ビークル会社」1「非証券化特別目的事業体」2、そして「残りのその他金融機関」に区分される。「残りのその他金融機関」はその他金融機関から金融ビークル会社と非証券化特別目的事業体を除いた残余であり、ユーロ圏の2015年第4四半期時点における資産額は10兆8000億ユーロ(広義のSBSの39%)である。
ここには「貸金業者(FCLs)」3と「証券およびデリバティブ・ディーラー(SDDs)」4などが含まれる。これらの機関は「信用仲介」「満期転換」「流動性転換」そして「レバレッジ」に従事するが、そのレベルがそれぞれ異なっている(表2)。

表2:SBSにおける機関の特徴

表2:SBSにおける機関の特徴

注:MMFのうち、CVAV(constant net asset value)はファンドに組み入れられた資産を時価評価しないのに対し、VNAV(variable net asset value)は資産価値を時価評価する。
出所:ESRB[2016b]p.12より筆者作成

1 金融ビークル会社:証券化を通して非流動資産(通常、ローン)を市場取引できる証券へと転換する機関。
2 非証券化特別目的事業体:親会社や多国籍グループの代わりに、資金調達やグループ間取引に従事する機関。
3 貸金業者(FCLs):家計と非金融企業(NFCs)に対するアセット・ファイナンスに特化した金融企業。金融リース、ファクタリング、住宅ローン貸し付け、そして消費者金融会社などが含まれる。
4 証券およびデリバティブ・ディーラー(SDDs):自己勘定で証券に投資することにより、第三者に投資サービスを提供することを認可された投資銀行。

3. 「活動ベース(activity-based)」で見たEU・ユーロ圏のSBS

前節で扱った「主体ベース」の分析のみでは、複数の主体を横断するリスク、すなわち、伝染(コンテージョン)やプロシクリカリティーに関連するリスクを把握することは難しい。これらのリスクを把握するためには「活動」の面からもEU・ユーロ圏のSBSを捉える必要がある。表3で示されるように、程度の差はあるが、SBSに関わるそれぞれの主体が証券金融取引とデリバティブ取引5に関わっているだけでなく、さまざまな形で銀行システムと結び付いている。従って、SBSを「活動」別に見る場合、証券金融取引、デリバティブ、そして銀行システムとの相互連関などが検討の対象となる。ここでは、規模を比較的把握しやすい証券金融取引の現状を中心に検討したい。

表3:シャドーバンキング・システムにおける「活動」と各主体の関与度

表3:シャドーバンキング・システムにおける「活動」と各主体の関与度

注:表2と同じ。
出所:ESRB[2016b]p.12より筆者作成

証券金融取引とは担保付借入(secured borrowing)であり、市場参加者間の相互連関性を高めるものである。証券金融取引にはリパーチェス・アグリーメント(レポ取引)や証券貸付などが含まれる。

レポ取引とは、取引の第一段階での証券売却と、第二段階での同等の証券の将来の買い戻しを組み合わせた取引である。レポ市場は非常に短期の市場(取引の約30%が1週間未満、約60%が1カ月未満)であり、市況が悪化すると急速に干上がる傾向がある。EUのレポ市場の規模は危機以前には6兆5000億ユーロを超えていたが、危機時には5兆ユーロ以下にまで縮小した。しかし、2010年前後に規模を回復し、その後は5兆~6兆ユーロ程度を推移している。

これに対し証券貸付は、ある取引者(貸し手)が担保に対して証券を貸し、合意された将来の日または借り手に要求されたときに、同様の証券を返却することを借り手が約束する取引である。証券貸付の大部分を占めるオープン満期の取引は、金融危機時に返済を迫られる可能性があるため、取り付けリスクが大きい。貸し付けられる証券は政府債、社債、そして、株式の三つに分類される。EUの証券貸付は、いずれも2007年にピークを迎えたが、2008年の市場の悪化により大きく下落し、2015年末でも危機以前の半分程度の水準にある。例えば、最も規模の大きい政府債貸付市場は、2007年には5,000億ユーロを超えていたが、2009年以降2,700億~3,000億ユーロ程度を推移している。
5 デリバティブはヘッジ目的だけでなく、エクスポージャーにレバレッジをかけるため、または、信用リスクを移転するためにも利用される。レバレッジは、資産市場の価格変動を景気順応的(プロシクリカル)に増幅させる可能性を持つ。また、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などの信用デリバティブは、プロテクションの売買を通じて信用仲介の増加を促すとともに、市場参加者の相互連関を高める。

4. 終わりに

本リポートでは「主体」と「活動」の両面からEU・ユーロ圏のSBSの現状を見てきた。「主体」から見た場合、SBSを構成する主体の資産規模は危機後も増加を続けてきた。ただし、SBSの40%近くを占める「残りのOFIs」の詳細は統計上ほとんど把握できていない。また「活動」、特に証券金融取引から見た場合、証券貸付市場は危機以前と比べてほぼ半減したが、2015年末時点のレポ市場は危機以前のそれと近い水準にある。このように、EU・ユーロ圏のSBSは、依然としてEU・ユーロ圏の金融市場に対して大きな影響力を持っている。EU・ユーロ圏のSBSに関して、統計データの整備がさらに進められると同時に、個別の「主体」や「活動」に関する詳細な分析が求められている。

参考文献
European Systemic Risk Board (ESRB) [2016a], “Assessing shadow banking – non-bank financial intermediation in Europe”, Occasional Papers, (10), July.
European Systemic Risk Board (ESRB) [2016b], “EU Shadow Banking Monitor”, July.
Financial Stability Board (FSB) [2011], “Shadow Banking: Scoping the Issues”, April.

[執筆者]石田 周(神奈川大学経済学部講師)

※この記事は、2017年5月7日付けで三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

なぜ人の自由移動がEU危機につながるのか?-安藤研一

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概要

人の自由移動はEUの基本理念の一つだが、ブリュッセルやパリのテロや移民・難民問題はそれを揺るがし、EU危機の一因となっている。市場統合によって国際労働力移動が活発化したにもかかわらず、EUや加盟国の政策はそれに追いついていない。結果として、国際労働力移動を経済成長に活用できず、むしろ格差を固定化させ社会不安を醸成している。あらためて社会的ヨーロッパについて考えてみる時が来ているのかもしれない。
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