Archive for ロシア

ルーブル投資は魅力的か?-安木新一郎

ロシア国旗

概要

ロシアの通貨ルーブルは下げ止まり始めており、金利の高いルーブルへの投資は魅力的になっている。だが、油価に左右される体質は変わらず、欧米の金利が上昇すれば資金流出の可能性もある。ウクライナ問題は続き、極東やクリミアの開発は財政赤字拡大につながる恐れもある。引き続きルーブル相場を左右するロシア国内外の情勢を慎重に見極めることが必要であろう。
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ロシアの対中国電力輸出拡大に潜むリスクと日本-尾松 亮

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概要

近年、ロシアから中国への電力輸出量は著しく増え(年間30億キロワット時(kWh)超)、2015年には中国がフィンランドに続く第2位の輸出先となった。500キロボルト(kV)送電線の建設や25年長期輸出契約が輸出拡大の後押しとなったが、輸出価格を巡る対立も続いている。またロシアは、日本や韓国への電力輸出も検討している。先例としてロシア・中国電力貿易の促進要因と問題点を分析する。
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ロシアのビジネス教育-菅原信夫

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概要

ロシアでもビジネス教育が盛んだが、残念ながらそこで学んだ知識が役に立たないことも少なくない。ロシアのビジネス環境がテキストで習う米国などのモデルと異なっているためだと思われる。しかし「私塾」や第三セクターによる実践的なビジネス教育が始まり、この中から新しいロシアの青年実業家が育っていくかもしれない。

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サンクトペテルブルクにおける日系企業のビジネスの現状と今後の可能性-宮川 嵩浩

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概要

北のベネチアとも称されるロシア第2の都市、サンクトペテルブルク。この地には、日系企業を含む外資系企業が集まり、今や自動車産業の集積地かつ物流の拠点となっている。加えて、上下水道分野、小売・サービス業など、新たなビジネスの可能性が広がり始めており、モスクワと並ぶ注目の市場である。

ロシア北西部、フィンランド湾に面した場所に位置する、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク。都市別人口規模ではモスクワ、ロンドンに次ぎ欧州第3位の約523万人(2016年1月1日時点)。北緯は60度で、人口が100万人を超える都市としては世界で最も北に位置する。

街中には多くの運河が敷かれていることから、北のベネチアとも呼ばれる。エルミタージュ美術館をはじめ、18世紀に栄華を極めたロシア帝国時代の芸術や文化が至る所に残っており、夏の観光シーズンを中心に年間650万人の観光客が国内外から訪れる。サンクトペテルブルク=ロシア文化の首都、観光都市というイメージをお持ちの方も多いのではないだろうか。
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経済危機に耐える労働市場:ロシア的対処法-堀江 典生

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概要

ロシアは経済危機にもかかわらず、政治的に安定している。その理由として、一時帰休なども含めた雇用維持や非正規就労化、賃金未払いなどの賃金の弾力性、移民労働による労働市場の柔軟性が、失業率の上昇を伴わない経済危機に「耐える労働市場」を形成していることが指摘できる。しかし、労働争議が顕在化し始めており、経済危機が長引けば抜本的な対策が求められるようになるだろう。

ロシアへの経済制裁が実施されてから2年余り経過した。市場経済化初期の移行不況、1998年のロシア金融危機、2008年のリーマンショックを経て、ロシアにとって4度目の経済危機を迎えているが、共通しているのは原油価格の下落である。ソ連崩壊に伴う体制転換による経済危機は別として、1998年のロシア金融危機も2008年のリーマンショックも、世界的な経済危機の中で生じたものであったが、今回の経済危機にはウクライナ問題を巡る欧米および日本の経済制裁とロシアによる逆制裁という政治経済的要因も加わっており、原油価格の低迷とともに、経済回復を遅らせる原因となっている。原油価格が持ち直す兆しの見える今、ロシアの景気も底を突いたともいわれているが、2年余りたってもロシア経済に先行きが見えにくい状況であることに変わりはない。
ロシアの公式統計では、実質賃金は2015年に前年比で9.3%減少している。リーマンショックによる2009年の実質賃金の落ち込みが3.5%であったことからすれば、リーマンショックによる経済危機よりも深刻な実質賃金の落ち込みをロシアは経験しているといえる。政府も、2016年になってから最低賃金を2度も引き上げるなど、対策に躍起である1。インフレ、リーマンショックによる2009年の実質賃金の落ち込みを除けば、常に2014年まで実質賃金が上昇してきたことを考えると、ロシアの人々が、ますます消費を手控える傾向が続きそうである。
12016年1月の改定では5,964ルーブル(84米ドル)から6,204ルーブル(87米ドル)に引き上げられ、同年7月に7,500ルーブル(109米ドル)にさらに大幅に引き上げられる。

同じ資源国であり、新興国グループ「BRICS」の一員でもあるブラジルでは、インフレが高水準で進み、実質賃金が低下し、失業率は10%を超えている。また、汚職に絡み大統領が職務停止に追い込まれ、さまざまな業種においてストライキが各地で起きるなど、社会不安が高まっているとされる。一方、ロシアでは政権への支持は安定し、失業率の増加は抑えられ、目立った社会不安は表面化していない。ロシアの労働市場はどのようにこの危機に耐えているのか、探っていこう。
ロシアの失業率は、2016年3月時点で5.6%であり、欧州諸国の中でも比較的失業率は低位にあるといえる。企業の視点から見ても、労働需要はまだまだ旺盛である。ロシア科学アカデミー付属世界経済国際関係研究所(IMEMO)が実施している企業の雇用人員判断では、2015年第2四半期こそ雇用人員判断D.I.(「過剰」(回答社数構成比)-「不足」(回答社数構成比)によって表される)はプラス(過剰感が上回った状態)になったものの、リーマンショック時の悲観的判断から比べると、今も不足感が強い状態である(図1)。企業が雇用の見通しについて、経済停滞の中でも不足感が強いと近い将来を判断していることは、ロシアの労働市場にとって好材料である。
ただし、2015年から公共職業安定機関である国家雇用局の求人は伸び悩み傾向が続き、平素なら冬期に上昇し夏期に低下する傾向にある雇用充足率も高止まりしている。従って、失業すればなかなか仕事を見つけるのが難しくなってきていることも事実である。

図1 2000年以降のロシア企業の雇用人員判断D.I.

図1 2000年以降のロシア企業の雇用人員判断D.I.

出所:The Russian Economic Barometer(IMEMO)各号のデータを基に筆者作成

経済危機にあっても失業率が上昇しない。それは、過去にロシアが直面した経済危機においても共通した現象である。企業は、経済危機にあっても解雇という手段で事業を見直すことなく、現在の危機に対応している。解雇という手段を使わずに、ロシア企業はどのように人件費削減に対応しているのか、それを解き明かすためには、ロシアの労働市場にある三つの柔軟性に着目する必要がある。
ロシアで典型的に見られる労働市場の特徴は、失業の不安が高まっても、それが失業率の上昇には直接結び付かないところにある。オイルマネーが潤沢であったときのロシアの安定は、地方政府が企業に雇用維持の圧力をかける一方で、連邦政府の補助金で恣意的に雇用を維持してきたと論じる研究者もいる。こうした主張に反し、われわれが独自に2015年に実施した企業調査(北西地域と極東地域限定)では、ほぼ9割の企業が連邦政府だけでなく地方政府からも雇用維持の圧力を受けていないと答えている。政府の強い指導があるから企業が危機にあっても大量解雇に踏み切らないという論理は、簡単に通用しそうにない。
ロシアの労働市場は経済危機において「非標準的行動」を特徴とするといわれている。その「非標準的行動」とは、危機に対して人員削減よりも就労者の就労時間や賃金の調整で実施する雇用調整のことを指す。就労者の就労時間調整は、時短から一時帰休までさまざまであるが、会社都合での強制的な一時帰休は、給与支給がなされない場合がほとんどで、見せかけの雇用は維持されている状態である。2009年の不完全就労者数は雇用全体の30~35%に達していた。現在の経済危機においても、2013年第1四半期時短就労者と2016年第1四半期時短就労者を比較すると約27万人も増え(2016年第1四半期の時短就労者数117万6000人)、は賃金支給なしの一時帰休者も約27万5000人増加している(2016年第1四半期の一時帰休者数221万8000人)。
残念ながら、ロシア連邦国家統計庁のこれらのデータの企業での集計方法が毎月集計でなく四半期集計となり、2012年以前とそれ以降との比較ができないため、過去の経済危機との比較はできないが、就労者数が緩やかな増加傾向にあることは確かである。ロシアの従業員の行動様式は、職の確保を優先し、第2就労など非正規雇用で生計を補完しようとする。労働組合の関心も、賃金よりも職の確保にこそある。直感的には立場の弱い第2就労や非正規就労者の失業への不安は高いと想定されがちであるが、ロシアでは非正規雇用における失業の不安は少ないという。第2就労や非正規就労は、労働市場の変動を吸収する調整弁としての役割を持つ。
企業の従業員が賃金よりも職の確保を優先する状況で、企業が採用する短期的危機回避行動は、従業員への賃金未払いである。賃金未払い問題は、被雇用者に対する債務として企業側に蓄積されていくために危機に対応するやむを得ない問題の先送りであるにもかかわらず、ロシアでは伝統的に活用される雇用調整手段である。ソ連時代からの労働組合として支配的な立場にある「ロシア独立労働組合連盟」が伝統的に企業経営陣と近い関係にあり、賃金未払い問題の解決を求める統一的な戦線を従業員側が構築できないといった事情があるといわれている。リーマンショック時の賃金未払い額のピークは、2009年6月で87億8000万ルーブルであった。現在は、まだその半分程度(44億7000万ルーブル:2016年4月時点)であるとはいえ、2015年から再び賃金未払い額の増加の兆しが見えている(図2)。ただし、賃金債権者数は増えていないので、賃金未払い問題が深刻化しているわけではない。

図2 賃金未払い額の推移

図2 賃金未払い額の推移

出所:ロシア連邦国家統計庁ウェブサイトの資料を基に筆者作成

ロシアの労働市場において経済危機のあおりを受けているのが、外国人労働者である。ルーブルの下落によりロシアで就労するうまみが減少している。そもそも旧ソ連諸国からの外国人労働者は、ロシアの底辺労働市場を担っていたために、決して豊かな層ではない。そこにルーブルの下落とインフレの進行が相まって、外国人労働者たちの生活を圧迫している。そうした旧ソ連諸国からの外国人労働者の海外送金の減少は、海外送金に国内総生産(GDP)の多くを依存してきた旧ソ連諸国の経済をも圧迫している。2015年1月1日に施行された一連の新たな移民関連法の改正によって、法人と個人との下での就労に区別なく「労働パテント」を取得しなければならなくなったが、取得手続きの簡素化の側面はあったものの「労働パテント」取得に必要な諸費用がかさむようになった。また、ロシアで就労するためには、ロシア語、歴史、法律に関しての複合試験を受験し合格しなければならなくなった。
近年の地元住民と移民たちとの衝突などを原因とする移民排斥機運の高まりも影響し、政府は不法移民対策に力を入れ、160万人にも及ぶ移民たちがロシアへの入国禁止に処せられているという2。こうした状況下で、ロシアへの最大の労働力供給源であったウズベキスタン移民の数は、2014年3月から2015年3月までの1年間で約21万人も減少。第2の供給源であったタジキスタン移民も約7万人減少した。ある意味、ウズベク人とタジク人の帰国により同時期に約28万人分の雇用がロシアの労働市場に戻されたことになる3。外国人労働力もまた、経済危機においてロシアの労働市場に柔軟性を与える源泉となっている。


224news.com.ua(http://24news.com.ua/14860-rossiya-otpravlyaet-migrantov-domoj/:2016年6月16日取得)。

3一方、ウクライナ問題の影響で、ロシアでは同時期比較で約96万人ものウクライナからの移民が増加している。子どもたちを含む多くの難民が含まれるが故に、彼らの増加がそのままロシアの労働市場に影響を与えるわけではない。

のように、ロシアの労働市場の経済危機対応は、次の三つの柔軟性によるものであると考えられる。第1に、一時帰休や時短なども含め不完全就労化や非正規就労化が労働市場に柔軟性を与えている。第2に、賃金未払いなど賃金の弾力性が労働市場に柔軟性を与えている。第3に、移民労働者が労働市場に柔軟性を与えている。これらが、失業率の上昇を伴わない経済危機に「耐える労働市場」を形成しているということができるだろう。
ただし、この伝統的な「耐える労働市場」の仕組みが失業率の上昇を抑えるとしても、市民の不満に現政権も敏感にならざるを得ない。ロシアの公式統計では労働者の不満の発露としての労働争議件数(争議行為を伴う労働争議)は、2015年には5件しか記録されていない。ただし、幾つかの調査機関が報道などを頼りに勘定した2015年の争議行為を伴わない労働争議件数は最大で445件、ストライキ件数は最大165件であった。日常的にこうした争議が報道されている事実は、経済危機が長引けば、伝統的な「耐える労働市場」によらない抜本的対応がロシア政府に求められるようになることを表している。

[執筆者]堀江 典生(富山大学研究推進機構極東地域研究センター教授)

※この記事は、2016年9月6日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

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