
ロシアには幾つかの異なる顔がある。ビジネス制度においては新興国、消費市場としては先進国的特徴を備えた中進国、研究開発立地としての特徴は先進国的である。本稿では、このようなビジネス立地としてのロシアの多面性を確認し、同国とどのように向き合うべきかを考える。
1.はじめに
新興大国4カ国がBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)としてグルーピングされて久しい。しかし、当たり前のことであるが、BRICsの4カ国を十把ひとからげにするのは乱暴であるし、新興国市場戦略のヒントも見過ごされてしまう。せいぜい、成長著しい新興大国というのが共通点ではないだろうか。ロシア以外の3カ国は1990年代から徐々に経済的離陸を準備し、21世紀に入り成長を加速させたが、ロシアはミゼラブルな1990年代と実質的な経済破綻を経験した。2008年のリーマンショックの影響を最も受けたのもロシアであり、2009年は7.8%のマイナス成長を記録し、BRICsからの脱落の可能性を指摘する声も聞かれた。特に日本では、両国間に横たわる歴史的、政治的な負の遺産に加えてロシア地域との距離が離れていることもあって、BRICsの中でロシアの影が薄い印象も否めない。