Tag Archive for 経済

ロシアの現金主義-菅原信夫

ロシア国旗

概要

近年、ロシアではデビットカードが急速に普及している。だが、依然として現金需要が旺盛である。ロシア的なチップの存在、銀行振り込みと現金の組み合わせによる税金の負担軽減など、現金が経済の潤滑油として大きな役割を果たしているからである。 » Read more..

ロシア住宅ローン事情-成長のポテンシャルと課題-道上 真有

ロシア国旗

概要

ロシアでは、ルーブルの急落をきっかけに住宅ローンの返済遅延問題が発生した。2016年2月には、住宅ローン返済の見直しを求めて人々が銀行前に殺到し、一部に逮捕者が出るほどの事態となった。この背景には、貸し手と借り手の双方の金融リテラシーの低さがあり、この問題が改善できれば、ロシアの住宅市場の成長が期待できるだろう。
近年、ロシアでは住宅ローンが急成長してきた。だが、ルーブルの急落をきっかけに返済遅延問題が発生した。日本でも報道されたように、2016年2月には、多くの市民が住宅ローン返済の見直しを求めて銀行前に殺到し、一部に逮捕者が出るほどの事態となった。ここでは、特に外貨建て住宅ローンに焦点を当てて、ロシアの住宅ローンの現状と課題について考えてみよう。
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ルーブル投資は魅力的か?-安木新一郎

ロシア国旗

概要

ロシアの通貨ルーブルは下げ止まり始めており、金利の高いルーブルへの投資は魅力的になっている。だが、油価に左右される体質は変わらず、欧米の金利が上昇すれば資金流出の可能性もある。ウクライナ問題は続き、極東やクリミアの開発は財政赤字拡大につながる恐れもある。引き続きルーブル相場を左右するロシア国内外の情勢を慎重に見極めることが必要であろう。
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経済危機に耐える労働市場:ロシア的対処法-堀江 典生

russia

概要

ロシアは経済危機にもかかわらず、政治的に安定している。その理由として、一時帰休なども含めた雇用維持や非正規就労化、賃金未払いなどの賃金の弾力性、移民労働による労働市場の柔軟性が、失業率の上昇を伴わない経済危機に「耐える労働市場」を形成していることが指摘できる。しかし、労働争議が顕在化し始めており、経済危機が長引けば抜本的な対策が求められるようになるだろう。

ロシアへの経済制裁が実施されてから2年余り経過した。市場経済化初期の移行不況、1998年のロシア金融危機、2008年のリーマンショックを経て、ロシアにとって4度目の経済危機を迎えているが、共通しているのは原油価格の下落である。ソ連崩壊に伴う体制転換による経済危機は別として、1998年のロシア金融危機も2008年のリーマンショックも、世界的な経済危機の中で生じたものであったが、今回の経済危機にはウクライナ問題を巡る欧米および日本の経済制裁とロシアによる逆制裁という政治経済的要因も加わっており、原油価格の低迷とともに、経済回復を遅らせる原因となっている。原油価格が持ち直す兆しの見える今、ロシアの景気も底を突いたともいわれているが、2年余りたってもロシア経済に先行きが見えにくい状況であることに変わりはない。
ロシアの公式統計では、実質賃金は2015年に前年比で9.3%減少している。リーマンショックによる2009年の実質賃金の落ち込みが3.5%であったことからすれば、リーマンショックによる経済危機よりも深刻な実質賃金の落ち込みをロシアは経験しているといえる。政府も、2016年になってから最低賃金を2度も引き上げるなど、対策に躍起である1。インフレ、リーマンショックによる2009年の実質賃金の落ち込みを除けば、常に2014年まで実質賃金が上昇してきたことを考えると、ロシアの人々が、ますます消費を手控える傾向が続きそうである。
12016年1月の改定では5,964ルーブル(84米ドル)から6,204ルーブル(87米ドル)に引き上げられ、同年7月に7,500ルーブル(109米ドル)にさらに大幅に引き上げられる。

同じ資源国であり、新興国グループ「BRICS」の一員でもあるブラジルでは、インフレが高水準で進み、実質賃金が低下し、失業率は10%を超えている。また、汚職に絡み大統領が職務停止に追い込まれ、さまざまな業種においてストライキが各地で起きるなど、社会不安が高まっているとされる。一方、ロシアでは政権への支持は安定し、失業率の増加は抑えられ、目立った社会不安は表面化していない。ロシアの労働市場はどのようにこの危機に耐えているのか、探っていこう。
ロシアの失業率は、2016年3月時点で5.6%であり、欧州諸国の中でも比較的失業率は低位にあるといえる。企業の視点から見ても、労働需要はまだまだ旺盛である。ロシア科学アカデミー付属世界経済国際関係研究所(IMEMO)が実施している企業の雇用人員判断では、2015年第2四半期こそ雇用人員判断D.I.(「過剰」(回答社数構成比)-「不足」(回答社数構成比)によって表される)はプラス(過剰感が上回った状態)になったものの、リーマンショック時の悲観的判断から比べると、今も不足感が強い状態である(図1)。企業が雇用の見通しについて、経済停滞の中でも不足感が強いと近い将来を判断していることは、ロシアの労働市場にとって好材料である。
ただし、2015年から公共職業安定機関である国家雇用局の求人は伸び悩み傾向が続き、平素なら冬期に上昇し夏期に低下する傾向にある雇用充足率も高止まりしている。従って、失業すればなかなか仕事を見つけるのが難しくなってきていることも事実である。

図1 2000年以降のロシア企業の雇用人員判断D.I.

図1 2000年以降のロシア企業の雇用人員判断D.I.

出所:The Russian Economic Barometer(IMEMO)各号のデータを基に筆者作成

経済危機にあっても失業率が上昇しない。それは、過去にロシアが直面した経済危機においても共通した現象である。企業は、経済危機にあっても解雇という手段で事業を見直すことなく、現在の危機に対応している。解雇という手段を使わずに、ロシア企業はどのように人件費削減に対応しているのか、それを解き明かすためには、ロシアの労働市場にある三つの柔軟性に着目する必要がある。
ロシアで典型的に見られる労働市場の特徴は、失業の不安が高まっても、それが失業率の上昇には直接結び付かないところにある。オイルマネーが潤沢であったときのロシアの安定は、地方政府が企業に雇用維持の圧力をかける一方で、連邦政府の補助金で恣意的に雇用を維持してきたと論じる研究者もいる。こうした主張に反し、われわれが独自に2015年に実施した企業調査(北西地域と極東地域限定)では、ほぼ9割の企業が連邦政府だけでなく地方政府からも雇用維持の圧力を受けていないと答えている。政府の強い指導があるから企業が危機にあっても大量解雇に踏み切らないという論理は、簡単に通用しそうにない。
ロシアの労働市場は経済危機において「非標準的行動」を特徴とするといわれている。その「非標準的行動」とは、危機に対して人員削減よりも就労者の就労時間や賃金の調整で実施する雇用調整のことを指す。就労者の就労時間調整は、時短から一時帰休までさまざまであるが、会社都合での強制的な一時帰休は、給与支給がなされない場合がほとんどで、見せかけの雇用は維持されている状態である。2009年の不完全就労者数は雇用全体の30~35%に達していた。現在の経済危機においても、2013年第1四半期時短就労者と2016年第1四半期時短就労者を比較すると約27万人も増え(2016年第1四半期の時短就労者数117万6000人)、は賃金支給なしの一時帰休者も約27万5000人増加している(2016年第1四半期の一時帰休者数221万8000人)。
残念ながら、ロシア連邦国家統計庁のこれらのデータの企業での集計方法が毎月集計でなく四半期集計となり、2012年以前とそれ以降との比較ができないため、過去の経済危機との比較はできないが、就労者数が緩やかな増加傾向にあることは確かである。ロシアの従業員の行動様式は、職の確保を優先し、第2就労など非正規雇用で生計を補完しようとする。労働組合の関心も、賃金よりも職の確保にこそある。直感的には立場の弱い第2就労や非正規就労者の失業への不安は高いと想定されがちであるが、ロシアでは非正規雇用における失業の不安は少ないという。第2就労や非正規就労は、労働市場の変動を吸収する調整弁としての役割を持つ。
企業の従業員が賃金よりも職の確保を優先する状況で、企業が採用する短期的危機回避行動は、従業員への賃金未払いである。賃金未払い問題は、被雇用者に対する債務として企業側に蓄積されていくために危機に対応するやむを得ない問題の先送りであるにもかかわらず、ロシアでは伝統的に活用される雇用調整手段である。ソ連時代からの労働組合として支配的な立場にある「ロシア独立労働組合連盟」が伝統的に企業経営陣と近い関係にあり、賃金未払い問題の解決を求める統一的な戦線を従業員側が構築できないといった事情があるといわれている。リーマンショック時の賃金未払い額のピークは、2009年6月で87億8000万ルーブルであった。現在は、まだその半分程度(44億7000万ルーブル:2016年4月時点)であるとはいえ、2015年から再び賃金未払い額の増加の兆しが見えている(図2)。ただし、賃金債権者数は増えていないので、賃金未払い問題が深刻化しているわけではない。

図2 賃金未払い額の推移

図2 賃金未払い額の推移

出所:ロシア連邦国家統計庁ウェブサイトの資料を基に筆者作成

ロシアの労働市場において経済危機のあおりを受けているのが、外国人労働者である。ルーブルの下落によりロシアで就労するうまみが減少している。そもそも旧ソ連諸国からの外国人労働者は、ロシアの底辺労働市場を担っていたために、決して豊かな層ではない。そこにルーブルの下落とインフレの進行が相まって、外国人労働者たちの生活を圧迫している。そうした旧ソ連諸国からの外国人労働者の海外送金の減少は、海外送金に国内総生産(GDP)の多くを依存してきた旧ソ連諸国の経済をも圧迫している。2015年1月1日に施行された一連の新たな移民関連法の改正によって、法人と個人との下での就労に区別なく「労働パテント」を取得しなければならなくなったが、取得手続きの簡素化の側面はあったものの「労働パテント」取得に必要な諸費用がかさむようになった。また、ロシアで就労するためには、ロシア語、歴史、法律に関しての複合試験を受験し合格しなければならなくなった。
近年の地元住民と移民たちとの衝突などを原因とする移民排斥機運の高まりも影響し、政府は不法移民対策に力を入れ、160万人にも及ぶ移民たちがロシアへの入国禁止に処せられているという2。こうした状況下で、ロシアへの最大の労働力供給源であったウズベキスタン移民の数は、2014年3月から2015年3月までの1年間で約21万人も減少。第2の供給源であったタジキスタン移民も約7万人減少した。ある意味、ウズベク人とタジク人の帰国により同時期に約28万人分の雇用がロシアの労働市場に戻されたことになる3。外国人労働力もまた、経済危機においてロシアの労働市場に柔軟性を与える源泉となっている。


224news.com.ua(http://24news.com.ua/14860-rossiya-otpravlyaet-migrantov-domoj/:2016年6月16日取得)。

3一方、ウクライナ問題の影響で、ロシアでは同時期比較で約96万人ものウクライナからの移民が増加している。子どもたちを含む多くの難民が含まれるが故に、彼らの増加がそのままロシアの労働市場に影響を与えるわけではない。

のように、ロシアの労働市場の経済危機対応は、次の三つの柔軟性によるものであると考えられる。第1に、一時帰休や時短なども含め不完全就労化や非正規就労化が労働市場に柔軟性を与えている。第2に、賃金未払いなど賃金の弾力性が労働市場に柔軟性を与えている。第3に、移民労働者が労働市場に柔軟性を与えている。これらが、失業率の上昇を伴わない経済危機に「耐える労働市場」を形成しているということができるだろう。
ただし、この伝統的な「耐える労働市場」の仕組みが失業率の上昇を抑えるとしても、市民の不満に現政権も敏感にならざるを得ない。ロシアの公式統計では労働者の不満の発露としての労働争議件数(争議行為を伴う労働争議)は、2015年には5件しか記録されていない。ただし、幾つかの調査機関が報道などを頼りに勘定した2015年の争議行為を伴わない労働争議件数は最大で445件、ストライキ件数は最大165件であった。日常的にこうした争議が報道されている事実は、経済危機が長引けば、伝統的な「耐える労働市場」によらない抜本的対応がロシア政府に求められるようになることを表している。

[執筆者]堀江 典生(富山大学研究推進機構極東地域研究センター教授)

※この記事は、2016年9月6日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

ロスネフチの2015年-ロシア最大の石油会社の直近の動向、そして2016年の課題は?-篠原 建仁

ロシア国旗

概要

概要 ロシア最大の石油会社ロスネフチは、株式の約70%を政府が、約20%を英国BPが保有している。経済制裁下でも、BPはロスネフチの主力油田の権益を確保するなどその関係を堅持している。2015年のロスネフチを見ると、アジア向け輸出拡大、借入金残高の減少
、インドへの油田権益の譲渡など新たな動きがあり、日ロ関係を占う上でも今後も目が離せない。

1.ロスネフチとは?

「ロスネフチ」と言われても、日ロ関係あるいはエネルギー産業に詳しくない限り、すぐにぴんとくる読者は少ないのではないだろうか。ロシア政府が株式の約70%を保有する、ロシア最大の石油会社である。その概要を表1にまとめたが、その生産規模は巨大で、2014年の日本の石油とガスの総消費量のそれぞれ9割超および5割超に匹敵し1、世界最大の国営石油会社サウジアラムコ(サウジアラビア)の2015年石油生産量(日量950万バレル)の半分弱(43.3%)、世界最大の民間石油会社エクソンモービル(米国)の同年石油生産量(日量234万5000原油換算バレル)の2倍弱(175.5%)である。

表1 ロスネフチの概要

表1 ロスネフチの概要

(*) 石油の他に、ガス田から液体分として採取される原油の一種である、コンデンセートを含む
(**) 2015年通年のドル・円平均レート121.05円(三菱東京UFJ銀行公表値)を基に換算
(***) 2015年12月30日のドル・円仲値(三菱東京UFJ銀行公表値)=120.61円を基に換算(業績は2015年通年実績;同社年次報告書などを基に筆者作成)
ロスネフチのイーゴリ・セチン社長は、同じサンクトペテルブルク出身のプーチン大統領の腹心の一人といわれ、これまで大統領府副長官、エネルギー担当副首相を歴任し、2012年5月から現職にある2。

ロスネフチの主な特徴は以下である。
(1)英国の国際エネルギー企業BPが、20%弱の株式を保有する。
(2)石油・ガスのほとんどを、ロシア国内の陸上で生産しており、特に西シベリアの主力油田群は、同社の石油・ガス総生産量の60%超を占める。
(3)国境を接するエネルギー消費大国・中国との関係を深めている。中国へ長期にわたり石油を供給する代わりに、輸出代金を前払いで受け取る契約を、複数締結している。
(4)極東開発も重視し、サハリン島周辺での液化天然ガス(LNG)工場建設計画、日本海岸での石油精製・石油化学コンプレックスや造船コンプレックスの建設計画などを推進してきた。

上記(1)に関し、2014年に始まり今も継続する欧米諸国による対ロシア経済制裁下においても、BPはロスネフチとの関係を堅持している。2015年東シベリアで、BPは国際エネルギー企業として初めて、生産中のロスネフチの主力油田の権益20%を取得するなど、関係を強化しているように見える。
上記(2)に関し、日本も参加する極東の「サハリン1プロジェクト」は、ロスネフチが参加する数少ない、海上(オフショア)プロジェクトである。
上記(3)に関し、中国はロスネフチの石油を単に購入するのみならず、購入代金を前払いする形で、ロスネフチの資金調達を支援している。ただし、後述のように2015年、ロスネフチはインドとの関係強化にも乗り出した。
最後の(4)について、ロスネフチは、単にエネルギー企業というだけではなく、ロシア政府の意向を踏まえて極東の総合開発を行う、巨大な「地域開発公社」の役割を担ってきたともいえる

2.近年の動向

2013年まで、ロスネフチはセチン社長の強力なリーダーシップの下、それまでの石油・ガスの生産基盤だった西シベリアに加え、新たに東シベリア、北極海はオホーツク海を含むロシア大陸棚での石油・ガス開発、さらにはロシア国内の陸上部におけるタイトオイル・ガス3開発を実現しようとした。
低温や流氷といった厳しい気象条件下にあるロシア大陸棚や、タイトオイル・ガスに関し、必要な技術や経験が少ないロスネフチは、それらを有する欧米のエネルギー企業、例えばエクソンモービル、スタトイル(ノルウェー)などと相次いで提携した。
しかし、2014年2月に始まったウクライナ危機と翌3月のクリミア併合を引き金とした、欧米諸国による一連の対ロシア経済制裁は、国際金融市場におけるロスネフチのドルやユーロ調達を不可能にし、タイトオイル・ガスやロシア大陸棚開発に必要な資機材の調達を困難にした。これにより、ロスネフチとの提携を通じロシアに参入した欧米のエネルギー企業は、一部を除き4、ロスネフチとの共同事業を事実上凍結。外資との連携を前提に発展の絵を描いてきたロスネフチに、大きな誤算が生じた。
このような状況下、2016年3月に発表された2015年通年のロスネフチの業績などで、筆者が特に注目したのは、以下の諸点である。
(1) 石油生産量は、前年比で若干の減少(前年比▲1%)
(2) アジア向け石油輸出の大幅増加(前年比+18.5%)
(3) 借入金残高の大幅減少(前年比▲38.6%;約545億ドル)
(4) インド国営企業による東シベリア主力油田群の権益取得(正式発表は2016年3月)

上記(1)に関し、ロスネフチは、西シベリアの主力油田群の生産量減退を、新規油田の生産増などで補えなかった。今後3年にわたり、毎年1兆ルーブル(現時点の為替相場で換算すると約150億ドル)の投資をすることで、生産量維持を狙っている。同社は2016年の石油生産量を、前年比横ばいと予想している。
上記(2)は、プーチン大統領が2015年9月に国際会議の場で述べた、アジア向けエネルギー供給の重視と整合する。
上記(3)に関し、ロスネフチは、2012年のロシア大手石油会社TNK-BP買収資金などを、国内外の銀行からドルやユーロといった外貨建て借入で調達した。返済のピークが2014年および2015年に訪れる中、ロスネフチは2015年、複数の国際的なエネルギー商社や中国企業と相次いで長期の原油あるいは石油製品供給契約を締結し、前払いで得られた資金(154億ドル相当)を、既存債務の返済に充てた可能性がある5
上記(4)は、ロスネフチが東シベリアで有する最大の油ガス田ヴァンコールの権益を最終的に49%まで、同じ東シベリアのタース・ユリャフ油田の権益29.9%を、それぞれインドの複数の国営企業に譲渡するものである。特にヴァンコール油田は、2014年9月にプーチン大統領自ら、中国企業への権益譲渡を示唆していた。順調な経済発展を背景に、エネルギー需要が伸びつつあるインドによる同権益取得は、ロスネフチあるいはロシアが、これまでの中国重視姿勢を変化させたのではとの憶測を呼んだ。
  上記以外で日ロ関係の観点から特筆すべきことは、2015年11月に日本の民間団体の招きでセチン社長が来日し、東京で開催された国際会議において、日本政府や企業に、東シベリアや極東への投資を自ら呼び掛けたことである。
セチン社長が具体的に挙げた複数のプロジェクトには、サハリンから北海道へ電力を供給する「パワーブリッジプロジェクト」も含まれていた。電力事業を営んでいないロスネフチが、日本への電力供給を提案すること自体、驚きである。しかし2015年、先に挙げたLNG工場や石油化学プラントといった極東の主要プロジェクトの進捗が見られない中、少しでも極東でプロジェクトを実現しようとするセチン社長個人の想いあるいは焦りが、その背景にあったのかも知れない。
3 タイトオイルおよびタイトガスは、頁岩(けつがん:シェール)や砂岩などの高密度な岩盤層から採取される、非在来型の原油あるいは天然ガス。1980年代後半から米国で開発が進展した。
4 各種報道によれば、ロスネフチとスタトイルとの提携は現在も継続しており、2016年オホーツク海上の2鉱区で、試掘を行う模様。この2鉱区が、現行制裁(主な条件;大水深(500フィート≒150メートル以深)および北緯66度33分以北の北極圏内における石油関連プロジェクト、シェールオイルプロジェクト)に該当しないためと推測される。
5 ロスネフチのこのような前払い付き長期供給契約締結は、結果的に、同社の財務諸表にある長短債務(銀行借入など)を簿外債務、すなわち財務諸表へ掲載しない形へ転換しただけとの見方もある。

3.2016年の課題

2016年4月にスイスで開催された国際会議の場で、セチン社長は今後2年間、原油の供給過剰状態が続くとの見解を示した。換言すれば、今後2年間は原油価格の低迷を見込んでいることになる。このような状況下、ロスネフチは市場シェアを維持し、既存の長期供給契約を履行すべく、当面は国内主力油田における生産量維持に注力するであろう。アジア重視の観点から、2015年に比べさらに多くの石油を、アジアに向けることも考えられる。
また、プーチン大統領が重視するものの、インドによる東シベリア主力油田への参入以外、大きな成果が見られない極東開発を、改めて動かそうとする可能性がある。
2016年は5月6日にロシア・ソチで非公式の日ロ首脳会談が行われるなど、政治レベルで日ロ関係の動きが見込まれる。対ロシア制裁緩和あるいは解除のめどは立っていないが、ロスネフチはさまざまな場面で極東開発に関し、日本に秋波を送り続ける可能性はある。今後の日ロ関係を占う上で、ロスネフチそしてセチン社長の動向に、引き続き注目したい。

※本稿は、全て筆者個人の意見・見解であり、筆者の所属する国際石油開発帝石株式会社の見解などを示すものではない。

[執筆者]篠原 建仁(国際石油開発帝石株式会社 ユーラシア・中東事業本部 業務企画ユニット シニア・コーディネーター)

※この記事は、2016年5月19日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。

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