
概要
EUが打ち出したメタン戦略は、EU市場向けの石油・天然ガス輸出に頼ってきたロシアに適応を迫っている。しかし、メタンの漏出を抑制し、水素とともにその有効利用を図ることは、比較的低コストで実現可能であり、ロシアにとっても脱石油の良い機会となるかもしれない。
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概要
EUが打ち出したメタン戦略は、EU市場向けの石油・天然ガス輸出に頼ってきたロシアに適応を迫っている。しかし、メタンの漏出を抑制し、水素とともにその有効利用を図ることは、比較的低コストで実現可能であり、ロシアにとっても脱石油の良い機会となるかもしれない。
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要旨
リトアニアは旧ソ連から独立して以来、急速なキャッチアップを果たした注目の新興国であり、ビジネス環境への評価も高い。とはいえ、同国は賃金上昇や人口流出など多くの課題に直面している。しかし、これまで欧州連合(EU)の政策を積極的に受け入れ、一貫してビジネス環境の改善を続けてきている。また交通の要衝であるクライペダ経済特区の存在を考えれば、リトアニアは依然として魅力ある欧州のビジネス拠点候補地の一つといえる。
リトアニアの経済規模はポーランドの約10分の1にすぎないが、注目の新興国である。リトアニアは、世界経済フォーラムによる2015-2016年の競争力ランキングで36位、世界銀行による2016年のビジネス環境ランキングで20位と高い評価を得ている。2005~2014年には、労働生産性(1人当たりの実質生産額)が約35%上昇した。これは欧州で最も速いペースであり、10年余りの間に経済規模は倍増した。市場経済化への取り組みを始めたばかりの当時の1人当たり国内総生産(GDP)はEU平均の3分の1であったが、2013年にはその73%までキャッチアップしている(図1)。
図1 リトアニアの急速なキャッチアップ
出所:IMF, Republic of Lithuania, IMF Country Report, No. 15/139, May 2015, p.36を基に筆者作成(表記方法を一部修正)
2004年のEU加盟は、リトアニアの経済成長を刺激したものの、それは消費バブルと住宅バブルを伴っていた。投資と消費は、EU加盟前後の経済成長をけん引したが、世界金融危機の影響で2009年のGDPは対前年比14.7%減と急落した。しかし、2011~2014年の実質GDP成長率は年平均で4.1%と回復も急速であった。2013年以降は、賃金上昇や失業率の低下などによって個人消費が成長に寄与し、住宅価格も上昇の兆しを見せている。
2015年は1.6%成長にとどまったが、これは貿易の2割を占めるロシアの景気低迷で対ロシア輸出が4割減となったことが影響している。図2から明らかなように、リトアニアの貿易相手の大半はEU諸国であるとはいえ、依然としてロシアは重要な貿易相手国の一つである。このため、リトアニアの経済を占う上ではロシアの動向にも留意する必要がある。
図2 リトアニアの貿易地域構造(2014年)(単位:%)
出所:経済協力開発機構(OECD):OECD Economic Surveys Lithuania, March 2016, p.58を基に筆者作成
だが、欧州委員会によれば、リトアニアはアジア向けなど輸出先の多角化を進め、堅調な内需が続けば、2016年以降は3%前後の成長率に回復するとみられる。
リトアニアは、2009年の金融危機への対応に追われ財政赤字が拡大したが、通貨切り下げは行わず、通貨リタスのユーロペッグを維持し、専ら歳出削減によって均衡を回復し、2015年にはユーロを導入した。2015年の財政赤字は対GDP比0.9%、債務残高も43%弱と健全財政を維持している。
同時に、リトアニア経済は多くの課題を抱えている。特に問題とされているのが、賃金の高騰と人口流出である。
製造業はGDPの2割を占めるが、食品加工、化成肥料、プラスチック製品、石油精製などの原材料加工、あるいは繊維・衣料、木材・家具などの労働集約的なものが中心であり、厳しい国際競争にさらされている。リトアニアの3大企業といえば、石油精製ORLEM Lietuva、スーパーマーケットチェーンMaximaを所有するVilniaus prekyba、肥料や物流(KLASCO)のKoncernas ACHEMOS GRUPĖである。つまり、旧ソ連時代の資産を民営化した企業と市場経済化の中で急成長した商業企業である。こうした産業を支えてきたのは低賃金であった。2015年のリトアニアの労働コスト(1時間当たり、公的部門を除く)は6.8ユーロで、EU平均の25ユーロの3分の1にも満たない。
しかし、2000年初頭以来、労働コストは倍増しており、付加価値の高い経済を目指して産業構造の転換を図らなければ、コスト上昇とともに国際競争力を失う中進国の罠に陥りかねない。ところが、労働人口の高齢化と熟練労働者の不足から賃金が高騰しているにもかかわらず、効率改善に役立つ設備や機械への投資は伸び悩んでいる。リトアニアで生産される製品の7割近くは輸出されるが、石油製品、肥料、プラスチック製品、肉・魚加工品、穀物など主要輸出品の競争力は低下している。EU内における市場シェアも、ここ数年縮小を続けている。
従って、旧ソ連時代の遺制に依存する産業構造を脱し、国際競争力のある産業を育成しなければならない。そこで重要となるのが人的資本であるが、リトアニアは人口流出の危機にある。独立当時の人口は370万人であったが、毎年2万人以上の人口流出が続き、2015年には290万人を割り込んでしまった。特に、失業率の高い若者(20~29歳)の流出が目立っており、大きな懸念材料となっている。
このように国民経済という単位でリトアニアを見る限り、多くの課題が残されていることは否定し難い。しかし、欧州のビジネス拠点として考えた場合、リトアニアは依然として魅力ある投資対象である。例えば、リトアニアはヴィリニュス、カウナス、クライペダなど交通の要衝に経済特区を設け、創業から6年間の法人税免除、その後10年間は法人税率7.5%(通常の半分)、配当金・不動産税の免除などによって外国投資を誘致している。中でも注目すべきはクライペダである(図3)。
図3 リトアニアの主な経済特区と交通の要衝クライペダ
出所:Invest Lithuania: The Lithuanian Investment Promotion Agency.
この地域は同国のGDPの12%を占め、ヴィリニュス、カウナスに次ぐ第3の経済中心地であるのみならず、欧州市場向けのビジネス拠点としても有力な投資対象地域の一つとなっている。それは、この地はバルト海に面した不凍港があり、道路網、鉄道網、航空網を含めて欧州市場においても重要な交通の要衝であるからだ。また、クライペダ郡の2012年の付加価値構造を見てみると、25%が工業(建設業を除く)、43%が卸売業・小売業、運輸業、ホテル、フードサービスであり、その多くがバルト海沿岸部で生み出されている。
リトアニアは、これまでもEUの政策を積極的に受け入れ「ブリュッセルの優等生」として振る舞い、金融危機に際してもユーロペッグを維持し、財政を再建し、構造改革を進めてきた。高成長の半面、格差の拡大など成長のゆがみが生じていることも事実だが、リトアニア政府は、一貫してビジネス環境の改善に取り組んできており、今後もこの点は揺らがないだろう。従って、依然としてリトアニアは魅力ある欧州のビジネス拠点の一つといえる。最後に、単一市場が形成されているEU市場への投資を考える際には、先に指摘したクライペダのように、国という単位だけでなく、欧州市場の中の地域という視点から投資対象を検討することが、とりわけ重要になることを指摘しておきたい。
[執筆者]蓮見 雄(立正大学経済学部教授)
※この記事は、2016年6月9日三菱東京UFJ銀行グループが海外の日系企業の駐在員向けに発信しているウェブサイトMUFG BizBuddyに掲載されたものです。
ユーラシア研究所レポート ISSN 2435-3205
概要
アゼルバイジャンはBPなど外資との協力によって資源開発を促し経済発展を遂げたが、それは油価依存型構造をもたらした。油価下落によって石油基金は減少に転じ、ばらまき政策ができなくなる中、外資との協力強化と産業の近代化はアゼルバイジャンの喫緊の課題となっている。